第12話 「五」篇-1
私はずっと覚えている、私の名前は黒崎五葉だ、と。
でも、みんな私を『五』と呼んだ。
名前というわけでもなく、ただのコードネームだった。
私の実の両親は黒崎姓で、名前までは知らない。彼らは義父・鈴木浩平のグループに所属していた小物だった。
私が二歳の年に、両親がグループを抜け出そうとしたことで、義父に裏切り者とみなされ、その場で殺された。
本来なら私も殺されるはずだったが、その日、私の泣き声が陰ながら警察の目を逸らす結果となり、運よく生き残った。
義父は私を「幸運の星」だと言って、残してくれた。
このチームでは、ただ飯を食う者はいなかった。全員が仕事をしなければならない。
私の仕事は、義父のために遺体を解体することだった。
初めて遺体を解体した時、私は吐き気を催し、騒ぎ立て、長い間悪夢にうなされた。夢で泣きながらママやパパを呼んだ。
そのうち、何度も解体するうちに慣れてしまい、叫んだところでママやパパは来ないこと、むしろ義父に反乱の疑いをかけられることも知った。
ある日、私の仕事が突然変わった。
義父は私に遺体解体をさせず、一人の少年に食事を届けさせた。
私が食事を届けると、少年は泣いていた。
私は言った。泣かないで、私の義父がお父さんと電話しているのを聞いたよ、六百万円を義父に払えば、お父さんが迎えに来るって。
少年は喜び、食事を食べた。
私は仕事を終え、寝ようとした。
すると、誰かに揺り起こされた。
「『五』、仕事だ」
少年は死んでいた。
後で知ったのだが、私の義父のやっていたことは「誘拐」だった。
誘拐にもいくつか種類があるが、彼がやっていたのは最も悪質なやり方で、相手が身代金を払っても、殺して遺体をバラバラにするのだ。
私はこっそりと少年を埋葬した。
彼はもう死んでいる、私がナイフで斬りつけても、もう痛くはないのだとわかっていた。
でも、私はできなかった。
私が彼を騙したのだ、ひどく申し訳ないと思った。
せめてもの罪滅ぼしに、彼のお父さんが彼を無事に家に連れ帰れるよう、私は彼をそのままにしておいた。
私が戻ると、義父が私を呼び止めた。
彼が尋ねた。「片付けたか?」
私は言った。「ええ」
それが、私の義父への初めての嘘だった。
義父は言っていた。嘘をついた者は、誰であろうと殺す、と。
だが、その瞬間、私はそれほど怖くなかった。
どうせ、私を家に連れ帰ってくれる人などいないのだから、と心の中で思った。
しかし、義父は私の嘘に気づかなかった。
彼は言った。「新しく来た子が何も食べないみたいだ。様子を見てきてくれ」
私は屋根裏部屋に向かった。
そこには一人の少女がいた。
彼女は自分の名前を紗耶だ、と言った。
紗耶は、前の少年よりも少し明るかった。
彼女は言った。「パパがお金払って助けに来てくれるわ」
「その時に帰れるのよね」
「そうだよね?」
私は黙り込んだ。
長い沈黙の後、私は言った。「うん」
彼女は喜んだ。
「うちにおいでよ?新しいバービー人形買ったんだ。」
「他の子たち、みんな私と遊んでくれないの。私がお姫様気質だって言うんだもん。ちっ、こっちだってあんな子たちとは遊びたくないし。」
「その服、すごく汚れてるね?家政婦さんが洗濯してくれないの?うちに来たら私がおめかししてあげるよ。私のバービー人形、全部私が着せ替えしてるんだから。」
私と紗耶は三日間ずっと一緒だった。屋根裏部屋はひどく寒くて、二人で抱き合って寝た。
これは物心ついてから、ほんのわずかしかない温かい記憶だった。
でも温かさはいつだって長く続かない。夕暮れ時、義父が叔父さんたちと話している声が聞こえた。
「今夜九時、身代金を受け取りに行くぞ」
私はもう手順を知っていた。紗耶が家に帰ることはない。身代金が渡された瞬間、彼女は始末されるのだ。
私は何も言わずに屋根裏に戻った。おにぎり二つとキムチ一皿を持って、紗耶と一緒に食べた。
「海見たことある?」
「私もないけど、パパが夏休みに連れてってくれるって。一緒に行かない? 海はすっごく綺麗だって聞いたわ」
私は紗耶の話を聞き、声を出さなかった。
夕日が血のように沈んでいくまで。
暗くなった。
私は紗耶に言った。「服を脱ぎなさい」
紗耶が驚いた顔で、動かない。
私は言った。「もし帰りたいなら、今、私の言うことに一つ一つ従いなさい」
彼女は事の重大さに気づいたようで、自分の小さなドレスを脱ぎ捨てた。
私も自分の服を脱ぎ、彼女に渡した。
「これを着て」
彼女は少し理解して、唇を震わせた。
「『五』……」
「階段を降りて、お腹を押さえて。誰かに聞かれたら、話さないで、東側の坂を走って」
「その坂を越えたら、東に走って。そこが公道よ」
紗耶が震え始めた。
彼女はすべてを理解していた。
私は紗耶の服に着替えた。
紗耶が私の手を引いた。「『五』、ダメだよ……」
「あいつは私の義父だ! 私を殺したりしない!」
私は言った。
私は嘘をついた。
裏切った仲間には、義父はもっと残酷な仕打ちをする。
しかし、紗耶は信じた。
彼女は深呼吸をし、お腹を押さえて、走り出した。
私は屋根裏の下の階に、嘲笑うような声が聞こえるのを感じた。
「『五』か、また腹壊したのか?」
「見てみろよ、まるで逃げるみたいに走ってるぜ」
心臓がドクドクと鳴っていた。
怖かった。階下から突然銃声が響かないかと。
しかし、銃声はなかった。
嘲笑い声はすぐに収まり、彼らはトランプを始めた。
紗耶は逃げられた。
私は夕日が完全に沈むのを見届け、暗闇が私を飲み込むのを感じた。すると、不思議なことに安心感が湧いてきた。
下の階の連中がトランプに飽き、私のことが話題に上がった。
「『五』、まだ戻ってこないぞ」
一人のおじさんが様子を見に行って戻り、言った。
「坂の向こうには誰もいなかった」
しばしの沈黙。
義父の声がした。「屋根裏を見に行け」
階段を上る足音が聞こえた。
彼らが上がってくる。
私は静かに待っていた。
その時、死が具現化したような気がした。私は解体した人々の姿や、あの少年の幻影を見た。
私は少年に向かって言った。「ごめんなさい」
しかし、少年の姿は忽然と消えた。
階下から突然、銃声が響いた。
「警察だ!」
誰かが叫んだ。
一人のおじさんが飛び込んできた。彼らはこの時、人質を取る必要があることを知っていた。
だが、ドアが開いた瞬間、私の骨専用ナイフが彼の体に突き刺さった。
彼は信じられないものを見るような目をし、やがて表情が虚無に変わった。
私は走り出した。
屋根裏の下はすでにパトカーに包囲され、義父たちも車に退いた。
銃声が四方から響き、私は構わずひたすら走った。
山間の低い茂みが私の姿を隠した。
遠くから警察官が私――紗耶の服を着た私――を見た。
彼らは私に発砲しなかった。
私は山野を駆け抜け、月明かりを目指して走り、最後には急流の川に飛び込んだ。
ずっと後になって、私は知ることになった。その日が四月十八日であり、義父のグループが一網打尽にされた日だったのだと。
私を除いて、全員が死刑判決を受けたのだ。




