不穏
翌々日、朝8時。
僕は今いつも通り学校に行くため、電車に乗っている。
学校に行く際、ぬいぐるみ2匹は留守番させている。
「おはよー」
「おっはー」
絶え間ない挨拶。ここ3日間くらい色んなことがあったせいで、平和を感じる。
「青凪、おはー」
影山が隣の席にきて、挨拶してくる。
「あ、うん」
「いつも通りテンション低いなー」
「そういえばさー」
峰城が割って、話しかけてくる。
「最近、校内の監視強くなってね?」
「そういう時期だからなー」
担任の印西先生が、なんでもないことのように言った。
ふと、廊下を見る。
見慣れない黒いカメラが、天井に増えている。
「...あれ、前からあったっけ」
「そう、それなんだよ」
何か嫌な予感を感じつつ、朝のHRを終える。
1限目は理科室なので教室を出ようとしたその瞬間。
誰かと肩がぶつかる。
「......失礼」
見たことのない生徒。
でも——
すれ違いざま、
耳元で小さく囁かれた。
「——記録通り、か」
まさか——
もう、見られているのか?
時刻はすぎ、昼休みの時間。
グラウンド。影。
ドーパミン中毒の自分で散々考えた結果、自身の能力である「空気圧縮」の精度をあげたいと感じ、自主練のために来たのだ。
空気を、圧縮する。
——ボンッ、と鈍い音。
「......違う」
風が広がるだけ。うまくいかない。
「...音って、空気の振動だよな」
じゃあ——
空気を止めればいい。
そう思って、周囲の空気を押さえつける。
——重い。
「......動きづらい」
ただの鈍い音が鳴るだけだ。
「...いや」
止めるんじゃない。
“揺れなければいい”
足を踏み出す。
——無音。
「......え?」
自分の足音が、しない。
風も、ない。
ただ——
''消えてる''
じゃあ次は...
空気を一点に集める。
肌に触れる。圧の塊。
踏み込む。
——跳ぶ。
「っ!?」
予想以上に、高く跳ねた。
着地が、一瞬遅れる。
「......あぶな」
「......なんか、違う」
軽くなった、んじゃない。
——削れてる気がする。
内側から、少しづつ。
「...これが」
「能力使ってるってことか」
* * * * * *
放課後、もう1回能力を試したいと思ったため、グラウンドにやってきた。
今はテスト期間なので放課後になっても人は全然いない。
さっき練習した場所にやってくると
「見つけた」
「え...?」
背後。
振り返るより先に——
「君、外部の人間だよね」
さっき、肩がぶつかった男。
「僕ら、外部からの潜入を阻止する命令でね」
「個人的な感情はないけど、こっちもお金かけてるんでね」
——来る。
そう思った瞬間。
拳が、視界を埋めた。
「っ——!」
反射で腕をクロスする。
空気を叩き込む。
——ドンッ
衝撃が、骨まで響く。
「......ぐっ」
押し切られる。
足が、地面を削る。
「へえ、防ぐんだ」
男の声が、近い。
「でも——」
次の一撃。
——踏み込む音が、聞こえない。
「......え?」
男の目が、ズレる。
その一瞬。
僕は横に滑る。
「っ!」
手を押し出して、空気を叩きつける。
「......素人、じゃないな」
「誰に教わったん?」
「教えません」
お互いの拳がぶつかる。
「俺は一応Bランクなんだけどな」
踏み込みが、重い。
床が、わずかに沈む。
「......っ」
横に滑って回避する。
音は消せる。
でも——
削れていく。
内側から。
さっき、確実に当てたはずなのに。
呼吸が乱れてない。
「......嘘だろ」
踏み込む。
空気を、拳に圧縮する。
——叩き込む。
バンッ
「遅い」
「ぐっ...」
男は一旦止まり、
「慣れてないな、その使い方」
「同い年のはずなんだが、能力の発現が遅かったのか?」
「.........」
何も言い返せない。
片手を、前に出す。
空気を一点に集める。
細く。
伸ばす。
——散る。
「っ、違う」
「何ぶつぶつ言ってんだ?」
もう一度。
圧を、逃がさない。
指先に、張力。
「......っ」
引ける。
身体が、前に弾かれる。
「っ——!」
そのまま、踏み込む。
「......器用なことするなよ」
男が、正面から来る。
右手で、空気を引く。
——ズレる。
「っ——」
男の体が、わずか右に流れる。
今だ。
左手に、圧を集める。
——膨れる。
「......いける」
叩きつける。
——爆ぜる。
衝撃が、弾ける。
男の体が浮く。
「っ!?」
砂が舞う。
視界が揺れる。
「......っ、なるほどな」
砂煙の中。
立ってる。
「......は?」
ダメージは入ってる。
でも——
倒れてない。
息が荒い。
「......っ」
軽い。
違う。
——削れてる。
「悪くないな、でも足りない」
「これ......無理だ」
地面を蹴る。
——無音。
ロープのようにして引く。
身体が、跳ぶ。
「っ、待て!」
振り返らずに、目一杯走る。
「とりあえず...赤月さんに」
震える手で、スマホを開く。
『助けてください』
一瞬で既読がついた。
『今どこ?』
『学校の近くです』
『おけ、すぐいくね』
『まってて』
「......やっぱり、必要だ」
僕には——赤月天華さんが。
「っ、待て」
男が距離を詰めた、その瞬間。
——止まる。
「......は?」
空気が変わる。
「遅れてごめんよ」
振り返ると、そこには天使がいた。
天使の輪と羽をつけて。




