作戦
21時を回っただろうか。
僕は赤月さんに呼ばれ、カピちゃんとかめまを連れて拠点にやってきた。
「来たね」
「1日ぶりだね、そらくん」
そらくんか。異性にそう呼ばれたのは初めてだ。
「ん?このぬいぐるみって」
そう言って赤月さんは、カピちゃんとかめまに触れようとする。
「触れるな天使神力」
「ばぶ〜」
こいつも赤月さんの能力知ってるのか。
やはり、英知にいたことがあるのか。
「......へえ」
赤月さんの手がぴたりと止まった。
さっきまでの軽い雰囲気が、ほんの一瞬だけ消える。
「その反応——英知産だね」
「.....やはり知っているのか」
「まあね」
「言っておくが、俺は和歌山県産のみかんじゃないぞ」
何言ってるんだこのカピバラは。
赤月さんはしゃがみこんで、目線を合わせる。
「君たち、どの区画?」
「言う義理はない」
「ばぶ」
「強気だね」
くすっと笑う。でも——その目は笑っていない。
「でも安心して。別に捕まえたりしないよ」
「.....信用できる根拠は?」
「ばぶ?」
「ないよ」
即答だった。
「ただ——」
少しだけ、間をおいて、
「私もあなたたちと同じ側」
空気が、静かに落ちる。
カピちゃんとかめまが、わずかに身構えたのがわかった。
「......コードは?」
「もう捨てた」
「——名前で呼んで」
一瞬の沈黙。
「......赤月」
「ばぶ.....あかつきー」
「うん、それでいい」
少しだけ、柔らかく言った。
——ゴホッ
「それで」
少し咳をした後、赤月さんは立ち上がってこっちを見る。
「これ、かなり当たりだよ」
「当たり...?」
「うん。普通、外に出てこれる個体なんてほぼいないし」
「しかも——」
カピちゃんの頭を軽く指で叩く。
「英知の記憶、持ってるでしょ」
「......なんでわかる」
「顔に書いてある」
いや、書いてないだろ。
「断片的に、だけどな」
「それで十分」
赤月さんは即答する。
「英知の内部情報なんて、それだけで価値あるから」
「......使う気か」
「もちろん」
あっさり言った。
「ただし」
少しだけ、視線を細める。
「無理矢理じゃないよ。協力してくれるなら、だけど」
「......」
「ばぶ......」
かめまが、カピちゃんの袖をぎゅっと掴む。
少しだけ迷ってから——
「......条件がある」
「いいよ、聞いてあげる」
「英知、潰したいんだろ」
「うん」
「なら——中にいるやつらも、助けろ」
赤月さんの表情が、一瞬だけ止まる。
「......できる範囲でね」
——全部は、無理だから。
それが、限界だった。
「......それでいい」
「よし、決まり」
赤月さんは手を叩く。
「じゃあ改めて——作戦会議しよっか」
向かい合った椅子に座り、麦茶を飲みながら
部屋のモニターがいくつか起動する。
地図。建物。見たことのない構造。
「いきなり本部は無理だから」
「まずはここかな」
指さしたのは、小さな施設。
「データ保管用の支部、セキュリティは本部より甘いけど——」
「中身は濃いよ」
ごくり、と喉が鳴った。
「ここ、こわい」
かめまが指を指してそう言う。
「一瞬だけど、子供が写ってるね」
「......それで、僕は何すればいいんですか」
空気を若干壊すかもしれないが、正直それが1番気になっていた。
戦える気は、全くしない。
すると——
「前に出なくていいよ」
あっさり言われた。
「え?」
「君の能力さ」
「空気、圧縮できるでしょ?」
「......はい」
「じゃあ逆に——動かさないこともできるよね」
「......?」
「音、消せるんじゃない?」
一瞬、意味がわからなかった。
「空気の振動、抑えればいい」
「足音も、声も、全部ね」
「.......」
そんな発想、なかった。
「君の役割は——''気配を消すこと''」
「潜入向きだ」
初めて。
初めて、自分の能力に意味がある気がした。
今まで、何度も言われてきた。
「その能力、意味あるの?って」
——でも、今は違う、のかもしれない。
「じゃあ——」
赤月さんは軽く、笑う。
「最初の一個、潰そっか」
その言い方は、
まるで——
ゲームを始めるみたいに、軽かった。
読んでいただきありがとうございます。そろそろバトル回が欲しいかもですが、もうちょっとお待ちください。。。




