同じ側
調布駅から歩いて20分。
能力研究施設「英知」。
その話をするために、僕は赤月さんの自宅兼拠点に来ていた。
「ファイちゃん、いる〜?」
ファイちゃん?きょうだいでもいるのだろうか。
ていうか、僕一応男の子なのだが、こんな勝手に上がり込んで良いのだろうか。
赤月さんの拠点の中は少し散らかっており、PCや大きめのモニターが散見される。
なんか本当にラボ、って感じだな。
そうやって拠点の雰囲気に浸っていると、何やら鳴き声が。
にゃあ——
どこか、熱を帯びたような鳴き声。
「あーいたいた」
近づいた瞬間、熱気が頬に触れた。
「あんまり触らないほうがいいよ、やけどするから」
「え?」
「その子はね、私が英知にいた頃から一緒にいた猫ちゃんなの」
「名前はファイヤーキャットね」
「すごい安直な名前ですね」
炎の猫って。
あ、だからファイちゃんって呼んでいたのか。
あれでも、おかしくないか...?
「え?でも火を吐いたり体が熱い猫なんて聞いたことないんですけど...」
一瞬だけ、赤月さんの表情が曇った。
「まあ、普通はね」
「この子は私と同じように能力を覚醒させるためにDNAを入れさせられた」
「——え?つまり...」
「そう」
「人間以外も、実験対象」
ファイちゃんが、小さく鳴いた。
——まるで、肯定するみたいに。
「少し話すぎたかな」
「いや、教えてくれてありがとうございます」
「今回のこと、多分この子も力になってくれると思うから仲良くなってね」
仲良くなる。。。動物ちょっと苦手なんだよなぁ。
「.......私のためにも」
少し、含みのある言い方をした。
——ゴホン
咳をして、一伯整えてから
「まず、英知のことについて軽く説明しようか」
「大体知ってますけどね、ニュース番組でもよくやってますし」
「じゃあ話早いね」
赤月さんは、少しだけ視線を落とした。
「英知ってさ」
「助ける場所だと思われてるでしょ?」
「そうですね」
「でも違うよ」
「あそこは——」
「価値を決める場所」
「使えるか、使えないか、それだけで」
「人として扱われるか、決まる」
ファイちゃんの背中を、そっと撫でる。
「この子もね」
「''失敗作''だった」
にゃあ、と小さく鳴く。
「......私も」
一瞬だけ——
水色の瞳が、揺れた。
「価値がないならさ」
「壊されても仕方ないって、思ってた」
「上にいくための材料でしかない」
......何も言えなかった。
さっきまでの軽い空気が、嘘みたいに消えていた。
「君みたいな子はね」
「一番最初に、切り捨てられる側」
「...........」
「ごめん、ちょっと言いすぎたね」
「大丈夫です」
赤月さんはスピーカーから音楽をかけると
「それで赤月さん、具体的には何するんですか?」
「そうだね、まずは情報」
「英知の闇を暴きたい」
「今まで色んな人がカメラ向けたりとか、都市伝説的な話をしている人がいるけど」
「そもそもそういう話をSNSにあげてる時点で抹消されてる」
え、こわ...
「普通に怖すぎですね」
「とりあえず内部に潜って、写真撮れたらいいなって思ってる」
「なるほど.....」
でも、1つだけ疑問がある。
「でも、それってあなた1人だけでできるのでは.....」
「天使神力ってある意味無敵のような能力ですよね」
「赤月さん、もしかして災害級のランク受けてたりしますか?」
「それはね」
少しだけ、間が空いた。
「万能じゃないから」
「.......え?」
「たしかに強いよ」
「大抵の能力は上書きできるし、防御も攻撃も、ほとんど通らない」
そこまで言って——
カップを持つ手が、わずかに止まった。
「でもね」
「使えば使うほど、削れるんだよね」
「......削れる?」
「寿命、とかね、そういうの」
——軽く言った。
まるで、大したことじゃないみたいに。
「それに」
「ずっと全開で動けるほど、器用でもないし」
「英知には、もう私より強い能力者や人外がいるかもしれない」
「私が逃げ出したの、だいぶ前だし」
「1人で全部やるの、正直めんどくさい」
くすっと笑う。
「だから」
「外から動ける人が必要なんだよね」
「君みたいな」
「時間、あんまりないし」
——また、咳が出た。
「なるほど......」
赤月さんの力、どれだけ強いんだ。
「それで、明日どうしよっか」
ニカっと笑う。
——さっきの話が、嘘みたいに軽い。
これで、僕も同じ側になってしまった。
読んでいただきありがとうございます。かなり説明的なお話になってしまったかもしれません。




