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放課後になり、教室の窓から差し込む夕日が、

机の上を赤く染めていた。


影山と峰城が帰っていく声を聞きながら、僕は一人でノートを閉じる。

今日はやけに落ち着かない。

白澄晴気。

あの男が、学校の中にいる。

それだけで、僕の日常が少しだけ消えた気がした。


ポケットのスマホが震える。


『今日も来れる?』


赤月さんからのメッセージ。

僕は短く打ち込む。


『今から向かいます』


送信した瞬間、

窓ガラスに自分の顔が映る。


……その後ろに。


白い制服の袖が、一瞬だけ見えた。


「……っ」


振り返る。

やっぱり、誰もいない。


とりあえず、赤月さんがいる拠点に行こう。




赤月さんは、施設図面をモニターに写したまま、天井を見上げていた。


「......やっぱ、前より動き早いなぁ」


政府印のある書類。

英知の区画図。

そして——


古いDNA配列データ。


彼女はモニターを操作しながら、

ひたすらページを探していく。


数字。

記号。

被験体番号。

見慣れない専門用語。


「……どこ」


ページをめくる手が少しだけ早くなる。


「……あっ」


「あったあああ!!!」

思わず、大きな声が漏れた。


モニターの中央に、ひとつのデータが表示される。


『ANGEL-01・被験体適合率:99.8%』


赤月さんの目が、細くなる。


「……これが、私の」


乾いた笑いが、ぽつりと漏れる。


「……いや、笑えないって」


視線が、データの下部へ滑る。


「だから、私を狙ってる人がいるのか」


小さく呟きながら、

次のページを開く。


そこには、

別の名前が表示されていた。


『副次適合候補:青凪——』


「……え?」


心臓が、ひとつ大きく跳ねる。


その瞬間。


ドアが開く。


「来ましたよー」


僕の声。


赤月さんは反射的にモニター画面を切り替え、

資料を伏せた。


「そらくん、早いね」


いつもの笑顔。


でも、その瞳だけが

ほんの少し揺れていた。


「......何か見てましたか...?」


「んー?ちょっと古いデータ」


「まさか、大人のビデオとかそういう系の」


「ちっがうよー!!!」


食い気味に否定された。

勢いが強すぎて、逆にちょっと怪しい。


「え、じゃあなんなんですか」


「企業秘密〜」


そう言って、

人差し指を唇に当てる。


「……」


いつもの調子。

いつもの笑い方。

でも。


さっきの瞳の揺れが、

頭から離れない。


「……そっか」


納得したふりをして、

僕はソファに腰掛けた。


赤月さんはすぐにモニターの画面を切り替える。

英知の施設図。

政府印のある書類。

いくつものファイルが並んでいる。


「それより、こっち見て」


彼女の声が、少しだけ真面目になる。


「英知の資金の流れ、少し見えてきた」


「資金……?」


「うん」


指先がモニターをなぞる。


「英知って、表向きは民間機関なんだけど」


「実際は、政府の特別予算が流れてる」


画面には、

見慣れない公的書類。


『特殊能力災害対策費:第三区画、第四区画増設予算』


「……これって」


「政府も、知ってるってこと」


部屋の空気が、

少しだけ冷えた気がした。


「……じゃあ」


「うん」


赤月さんが、

いつもの笑顔を少しだけ消す。


「思ってるより、ずっと上と繋がってる」


僕の喉が、小さく鳴る。


「だから」


彼女はゆっくりとこちらを見る。


「証拠を集めて、一気に暴く」

「次は、第二区画」


その言葉で、

物語がまた一歩進む感じがした。


「第三区画は、ぬいぐるみのことしか情報が見えなかったけど」

赤月さんが腕を組みながら、少し考え込む。


「途中で補正システムが動いちゃったからなぁ」

そらくんの能力使ってたから検知しちゃったのかなぁ、と呟く。


「話ずれたけど、データ、記録、政府との繋がり」


「第二区画は、多分全部ある」


「ぬいぐるみたちも役に立つだろうから」


「土曜日に持ってきてね」


「.......はい」

僕は小さく頷いた。




* * * * * *




その頃。学校から少し離れた路地裏。

そこに小さく佇む建物。2話で青凪空斗と赤月天華が訪れたカフェである。


ここで、一人の少女がスマホの画面を見つめていた。

そこには、たった一行のメッセージ。


『観測対象:青凪空斗』


少女の緑色の瞳が、わずかに揺れる。


「......やっぱり」

小さく呟く。


「あなたも、見つかったんだ」


その白い髪を、指先で少しだけいじる。

窓ガラスに映る自分を見て、少女は小さく息を吐いた。


「……遅かったかな」


テーブルの上には、冷めかけたコーヒー。

ほとんど口をつけていない。

スマホ画面には、もう一つの通知が浮かんでいた。


『回収期限:未定』


少女の表情が、一瞬だけ曇る。


「……また、始まるんだ」


カップを持ち上げる。


黒い液面に、

自分の顔が揺れて映る。


「今度こそ」


「間に合わないと」

彼女は静かに席を立とうとした。その時。


「……また来てくれたんだね」

背後から、

やわらかな声。


振り向くと、

カウンターの奥で店長である天動雅微(てんどう みやび)が微笑んでいた。


少女から見れば、年齢のわからない男。

穏やかな目。

でも、その視線はどこか冷たい。


「最近、あの子来てないね」


少女の指先が、ぴくりと止まる。


「あの子?」


店員はコーヒーカップを拭きながら、

何気ない口調で続ける。


「黒髪の男の子と、金髪の天使ちゃん」

「いつも窓際だったから、覚えてるよ」


少女の瞳が揺れる。


「……見てたんですか」

「見える場所にいたからね」


店員は笑う。


「観測って、そういうものでしょ?」

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