表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

第三区画〜Part Two〜

「......ここ、''消されたやつら''の場所だ」


「消された...?」


「存在ごと、なかったことにされたやつら」


「記録からも、名前からも」


「全部、消すんだ」


「......その残りカスが、ここ」


ぞくり、と背筋が冷える。


「ばぶ......いや」

かめまが、小さく震えた。


ファイヤーキャットも低く(うね)る。

「......にゃあ」


「......行くよ」

赤月さんは迷わず、前に進んだ。



* * * * * *



扉を開ける。

黒い部屋。

光は、ほとんどない。

床に沿って、細い白いラインが伸びているだけ。


一歩、踏み込む。

——音が、消える。


いや、違うな。


“音という概念がない”


そんな感覚。


「......っ」

息を吸う。

その音すら、自分の中で閉じている。


少し進み、目が慣れてくる。

部屋の中が、少しづつ見えてきた。


棚だ。無数に並んでいる。

その中に——


''箱''

黒い箱。白いラベル。


一つ近づく。

そこには——


『観測対象:——』


途中で、文字が途切れている。

ノイズだ。

名前が、読めない。


「......なんだこれ」

「......消されてるんだよ」


カピちゃんが、静かに言う。


「名前だけじゃない」

「存在そのものが、な」


隣の箱。

ラベルだけない。

中身が、ない。


いや——

''あったはずなのに、ない''


そんな違和感。


さらに奥。

何かが、転がっている。


近づく。


それは——


ぬいぐるみ。


くまに似ている。


でも、


片目が外れて、

縫い目が歪んでいる。


「……」


「おい」

小さな声。


「……おい」


動いた。


「……え?」


ぬいぐるみが、こちらを見た。


「……なんで、俺だけ——」


ノイズ。

声が、途切れる。


「……いやだ」

「……消えるの、いやだ」


——ブツッ


動きが、止まる。


「……っ」

言葉が、出ない。


「……これが、“捨て場”だ」


カピちゃんの声が、重く落ちる。


「失敗作じゃない」


「……邪魔になったやつらなんだ」


おもちゃを捨てる、ということ自体を百パーセント否定するつもりはない。

でもそれを改造して自我が芽生えてしまうのって...

ぬいぐるみ本体の感情やどう扱われていたか、それが関係しているのだろうか。


そんなことを考えていたそのとき。


——ピッ


どこかで、音が鳴る。


『認識エラー』

『補正、開始』


——ブツッ


視界が、一瞬だけ暗転した。


「……っ!?」


頭の奥で、何かが弾ける。

耳鳴り。

白いノイズ。


世界の輪郭が、ぐにゃりと歪む。


「そらくん!」


赤月さんの声が聞こえる。


——でも、どこから?


右?

左?

前?


位置が、掴めない。


「……っ、赤月さん!」


振り向く。

誰もいない。

さっきまで、そこにいたはずなのに。


「……いやだ」


かめまが、小さく震える。


「ばぶ……ばぶ……」


カピちゃんも、珍しく声を荒げた。


「目を合わせるな!床のラインだけ見ろ!」


「え——」


その瞬間。


視界の端に、人影が見えた。

白衣。黒い手袋。

——ママ!?


「……っ!」


瞬きをすると——

消えた。


「……幻覚?」


「違う」


今度は、すぐ後ろからした。

赤月さんが、僕の肩を掴んだ。


「施設側の補正システム」

「認識をズラしてる」


「見えてるもの全部、信じないで」


床が、わずかに揺れる。

いや、違う。


揺れているのは——自分の感覚だ。


その時。

ファイヤーキャットが低く唸った。


「にゃあ……!」


部屋の奥。

棚のさらに奥に、赤いランプが点滅し始める。


『侵入者検知』

『監視レベル上昇』

『対象:S』


AIの自動音声。


「うっわなつかしい警報音........やばい」

赤月さんの声が、初めて少しだけ鋭くなる。


「もっと先まで見たかったけどここまでだね」

「一旦引くよ」


「でも......」


まだ、何も掴めていない。

そう言いかけた瞬間。

カピちゃんが叫ぶ。


「十分だ!」

「ここに長くいたら、記憶ごともってかれるぞ!」


顔が真っ青になる。


「そらくん!」

赤月さんが、手を伸ばす。


「走って!」


そう言われ、地面を蹴る。

——無音。

咄嗟に空気を抑え込む。


足音が消え、呼吸音も薄くなる。

廊下へ飛び出す。


白と黒の境界線が、妙に歪んで見えた。




さっきまで『3』だったはずの扉には——


『2』


と書かれていた。


「……は?」


思わず足が止まる。


心臓の音だけが、やけに大きく響いていた。


「ちょ、止まらないで!」

赤月さんに腕を引かれる。


警報音が施設全体に響く。

赤いランプ。

白い廊下。

黒い影。

全部が、現実感を失っていく。


「待て!」


出口が見えた、その時。

前方から、警備員らしき男が二人と、警備用のロボット。

黒い防護服。無機質なバイザー。

明らかに、普通の警備員じゃないな。


「あんた、施設長が言ってた天使の番号個体だな!?」


赤月さんの目が、細くなる。


「——その呼び方、やめてって言ったでしょぉ!」


そう言った瞬間。


——ドンッ!!


背中から、白い羽が大きく広がった。

爆風。

廊下を風が一気に駆け抜ける。


警備員二人とロボットの体が、壁際まで吹き飛ぶ。


「「うわっ——!!」」


気づいた時には、僕の体は赤月さんに抱えられていた。


「つかまってて」


その声と同時に、視界が一気に流れる。


ふいに、横目に何かが映った。

ひらり、と。白い破片。ラベル。

床の上を、風に煽られて滑っていく。


反射的に、手を伸ばす。

掴んだ。

......はずだった。


「っ——」


風圧で、端が破れる。

紙片の半分が、宙に舞った。

手元に残ったのは、破れたラベルの破片だけ。


そこには——


『観測対象:青凪——』

そこで文字が途切れていた。


「......青凪」


思わず、声に出る。

自分の名前......?


いや——

ママの?

胸の奥が、ざわつく。


赤月さんが横目に、低く呟く。


「......持ってて」

「それ、多分かなり重要」


そのまま、夜の外気へ飛び出した。

冷たい風が、肺を刺す。


でも——

手の中の紙片だけが、妙に熱く感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ