44頁 見たくも無い現実(リアル)
男子トイレから出てきた佑馬そっくりの金髪男が、俺のいる休憩エリアへと真っ直ぐ向かってくる。
俺は金髪男の存在を無視するかのようにベンチに座ったままじっと遠くを見つめつつ、時々りさちん先生が入った女子トイレの入り口をチラチラとチェックする。
ヤバい……。
なんで佑馬がここに居るんだよっ!
視界の隅に映る金髪の佑馬らしき男は、さなから格闘ゲームに出てくるキャラの2Pカラーみたいだった。
だが佑馬(?)は、内心焦りまくっている俺に全く気づく様子もなく、どんどんこちらへと近づいてくる。
落ち着け……。大丈夫なはずだ。
外出前に病室のスタンドミラーで見た自分の姿は、以前の俺の面影なんて少しも感じられないほど全くの別人だっただろ?
だから、たとえあの金髪男が佑馬本人だとしても、そう簡単にはバレないはず。
……はずだけど、もしかしたら佑馬だったら俺のちょっとした動きのクセとか仕草とか、あるいは話し方のイントネーションだけで、俺の正体を見破るかも知れない。
現に俺自身がこっちに向かってくる金髪ツンツン男の身長や体型や顔つき、そして独特の歩き方を一目見ただけで「あれは佑馬だ」とほぼ断定してしまっている。
不安要因はまだある。
このまま佑馬のそっくりさんが隣の椅子にでも座られたら厄介な事になる。
りさちん先生がトイレから戻ってきて、ついうっかり俺の名前を「瑠伊くん」だとか「るーちゃん」なんて呼んだりしたら、たとえ正体がバレなくても絶対に注目されるだろうし……。
「ねぇねぇ、君1人?」
「うぉっ! やっべー! めっちゃかわいいー!」
「今ヒマ? 俺らと遊びに行かない? カラオケとか行こうよ」
金髪の佑馬に気を取られている間に、およそ浅草寺の境内には似つかわしくない下品なチャラ男2人組に囲まれてしまっていた。
「君ってちっちゃいよねー、もしかして小学生なの?」
「おいおい、マジで小学生なの? ウホッ! 最近の子はオシャレだねー」
「どこから来たの? 観光?」
さ、最悪だ……。
こういう手合いはスルーするのが一番良いのだろうけど、りさちん先生を待っている以上、下手にここから離れるわけにもいかないし。
俺はそっと佑馬を見る。
佑馬は少し離れた場所にある大木を囲う柵に腰かけていた。
「どうよ? 今からオレッちの車で君が好きそうなラブホテルに連れってってあげるよ?」
「あ! もしかして家出少女ってヤツ? 俺ん家来る? 好きなだけ泊めたげるよ」
う、うぜぇ……。このロリコンどもめ!
困ったな。
男だったの頃のように適当に言ってあしらってやりたいとこだけど、近くには佑馬がいるからな……。
昔のように虚勢張って大見得なんて切ってしまうと、俺の正体なんてすぐにバレてしまうかも知れない。
いや、それ以前に問題がある。
いかにこいつらが馬鹿で間抜けなチャラ男達といえど、曲がりなりにも大人の男だ。
今までのようなガキ共相手と違って、下手に刺激すると冗談抜きで何しでかしてくるか分かったもんじゃない。
それに少しすれば、りさちん先生がトイレから出てくるはずだ。
とにかく今は穏便に時間を稼いで、りさちん先生が出てくるのを待つ方がいい。
「あ、あの、お手洗いに行ったお母さんを待ってるだけだから……」
りさちん先生ごめん。勝手に母さんになってもらうことにしたよ。
でもこれで俺に保護者がいると分かると、脳細胞が1つしかなさそうなこいつらでも、すぐに諦めてどこかに散るはず……。
てか今すぐ散れ! 素粒子レベルまで砕け散れ!
「じゃあさじゃあさ、キミのお母さんも一緒にダブルデートしようぜ」
はぁ?
「うひひひっ! クリスマス・イヴに親子丼かぁ! くぅーたまんねぇ! ねぇねぇキミのお母さんってホテルとか大好きそうだよね?」
「うんうん、君みたいな子を産むのだから絶対美人だって」
最低だこいつら……。
マジで頭のネジ緩んでるんじゃねーのか!?
脳みそにキン○マ詰まらせてんじゃねーよ、カス!
「いや、だから、その、あ、あの……困りますっ」
ち、ち、ちくしょう!
こんな下衆なチャラ男相手に何で女の子を演じる羽目になるんだよっ!
本当に最低だ……。
だけどいつもの調子で振舞うと、横にいる佑馬に正体がバレる可能性があるし……。
俺は横目で金髪の佑馬らしき男をチラッと確認した。
佑馬のやつ、こっちに身体を向けて座ってるくせに、ちっとも俺を助けようとはしないな。おそらくあの様子じゃ完全にスルー決め込むつもりだろう。
佑馬らしいといえばらしいけど。
だけど、この状況は冗談抜きでヤバいな。
もういっそのこと佑馬のとこに駆け寄って助けてって話しかけるか?
いやいやいや、そんな事したらこの場は切り抜けられてもこの先もっとややこしくなりそうだ。名前とか連絡先とか電話番号とか聞かれたらどうすんだよ?
でも待てよ……?
隣の金髪がただの佑馬そっくりさんで、全くの他人だったら問題ない、よな?
……いやいや、たとえ佑馬に激似のただのそっくりさんだろうが、こんな姿になってあいつに頼るのはなんか嫌だ。
やはりここはもう少し時間を稼ぐだけでいい。
うん。これ以上の面倒事はもう御免だ。
「『困ります』だって! 声も超かわいいー♪ もう一回言ってよ!」
「ね―その声ってさ、もしかして俺らに媚びてんの? 誘惑してんの?」
誰がてめーらなんか誘惑するか!
馬鹿には聞こえない言葉で『死ねっ!』って言ってんだよ!
つかこいつら、どんな思考回路してんだよ……。
こんな最低なポジティブシンキング野郎は初めてだ、ちくしょうがっ!
だいたい、この声は地声だ地声!
てか、俺の声ってそんな変に聞こえるのか……?
「あの、だから、やめてくださいっ……。お願いします……」
ホントお願いします。
社会の為にも東京の治安の為にも今すぐ人生やめてください。
「そんなに怖がらなくていいからさ~オレっち達と遊びにいこうよ~! ね、アイスクリーム食べない? 奢るよ?」
馬鹿か?
こんな寒空の下でブルブル震えてる女の子相手にアイスなんか食わせようとすんな!
「お前馬鹿か? こんな寒いのにアイスとかねーよ! ねーねー、それよりホテルで俺のウィンナー食べない? あったかいよ~?」
「お前最低だな! てめーのはウィンナーじゃなくてピーナッツだろ! 俺のBIGなウィンナーの方が美味しいよ? ヨーグルトもおまけしてあげるしさ」
どこのセクハラおやぢだよ……。
男に下ネタ言われながら口説かれるなんて吐き気がしてくる。
つかこいつら本気で口説く気あんのか?
あーもう! こいつら東京湾に沈めてぇよ。
もういっそのこと、こいつら道連れにしてこの辺一帯深海に沈まないかな? もちろん俺がヘリか何かで避難した後でだけど。
「キミのお母さん遅いね、ウンコしてるの?」
「もう寒いしさ~、お母さんなんかほっといて俺らと遊びに行こうよ~!」
「キミの名前そろそろ教えてよ! 何て言うの? ウメ? トラ? マツ?」
なんなんだよこいつら……。馬鹿にしてん……あっ! おい馬鹿、やめろ!
こ、こっちくんなっ!
チャラ男2人が下品な笑みをこぼしながらどんどん俺へと詰め寄って来る。
「うわぁ、この娘すっげぇいい匂いがするぅ。あぁ~もうこのままお持ち帰りしたいな~」
「いやっ……! だっ、誰かっ!」
文字通り目と鼻の先まで迫るチャラ男2人に圧され、俺は恐怖で思わず小さな悲鳴をあげた。
佑馬に助けを求めようと横を見ると、さっきまでそこにいたはずの佑馬の姿が見えない。
視線をさらに横にずらしてみると、少し離れた場所で金髪の佑馬と、佑馬の両親が一緒に何か話しているのが見えた。
あれは佑馬のおじさんとおばさんだ……。
という事はやっぱりあの金髪は佑馬本人だったのかよ。
一瞬よそ見をした瞬間、俺はチャラ男達に手首をガシッと握られると、強引に椅子から引っ張り上げられて立たされた……。
「なっ!?」
む、無茶苦茶だこいつら。
ナンパってここまで強引にしてくるものなのか!?
こ、怖いよっ……。
「ね~ぇ~! 遊びに行こ~よ~!」
気味の悪い甘えた声でそう言いながら、チャラ男2人は俺の手首を片方ずつ掴むと、グイグイと強引に引っ張りはじめた。
「ちょっ! は、離してっ! だ、誰かっ!」
大声で誰かに助けを呼ぼうとしたけど、恐怖でうまく大声が出なかった。
り、りさちん先生!? まだ出てこないの!?
このままじゃヤバいよっ!
「やっべぇ……マジ可愛い。反則だろ? なんか俺ドキドキしてきた」
「くんかくんか……、この匂いたまんねぇ! 小中学生でこの匂いってもう犯罪だよな」
「おいてめぇら! 女の子相手に何やってんだ!!」
「ンだとコラァ! ……あ」
突然後ろから重低音の野太い声が聞こえた。
それまで調子に乗っていたチャラ男達は俺の背後にいる何かを見ると、一瞬で化物でも見たかのような表情へと変化し、すぐさま俺の手を解き放す。
そして逃走の時間稼ぎに思いっきり俺を突き倒すと、一目散に走って逃げて行った……。
「痛っっった……」
「大丈夫かい?」
チャラ男に突き倒された俺は、思いっきり尻もちをついて痛みをこらえる。
そこにスーツ姿の岩のような大男が俺の正面へと回り込むと、これまた大きな手を俺に差し伸べた。
俺はその手を掴むと、大男は俺を軽々と引っ張りあげる。
この人の手、すげぇゴツゴツしてるな……。
よく分かんないけど柔道部とかラグビー部って感じだ。
「あ、ありがとうございます……」
「大丈夫か? とにかく無事でなりよりだ。保護者の方は一緒じゃないのか?」
「その、お手洗いに……あ、やっと出て来たみたい」
そう言って俺がトイレの方を指さすと、トイレから出てきたスーツ姿のりさちん先生がまっすぐこちらへ向かってきた。
「おまたせー。……ってこの方はどなたかしら? それにさっき男の大声が聞こえたけど……」
「お、遅いよ先生! 大変だったんだから!」
「ああ、その大声はたぶん俺です。お騒がせして申し訳ありません」
スーツ姿の岩のような大男が、その大きな身体をりさちん先生に向けて、ぺこりとお辞儀をした。
「い、いえいえ……。る、るーちゃん、いったい何があったの?」
「あったも何も、りさちん先生がトイレに行ってる間にさ……」
俺は先生を待っている間にチャラ男に絡まれていたところをこの大男が助けてくれたと説明した。
「そ、そうだったのね、ごめんごめん、待たせてごめんね。怖かった?」
「う、うん……」
俺はりさちん先生の腕にしがみつく。
「すいません、この子を助けていただきありがとうございました。後日お礼にお伺いしたいと思いますので、もしよろしければ連絡先を教えていただけませんでしょうか?」
りさちん先生は大男に丁寧にお辞儀をした。
「いえ、お気遣いは無用です。人として当たり前の事をしただけですので。それに申し訳ありませんが人を探している途中でして……」
「人探し……? 迷子でしょうか?」
「いえいえ、そんな可愛いものではありません。実は冴えない中年男を探してまして……。その、頼まれた仕事をほっぽりだして面白半分に都内中を逃げ回ってるのですよ」
「あらあら、それは大変そうですねー」
「ええ、そういう訳ですので俺はこれにて失礼します。それではお気をつけて!」
「あ、ありがとうございました」
大男は速足で去って行った……。
走り去っていく大男が見えなくなると、りさちん先生は俺の肩にぽんと手をかけた。
「ごめんね、嫌な思いさせちゃったよね。でもまさかお寺の境内でそんな事してくる輩がいるなんて想定外だわ……」
「いいよ。別に先生が悪いわけじゃないしさ……」
「うん……」
今の熊みたいな男って典型的な体育会系って感じだったよな。地声もやたら大きかったし。
そんな事を考えていると、先生は俺の頭に手を乗せてベレー帽ごしによしよしと頭を撫でた。
「るーちゃん、今日久しぶりに外を歩いてどうだった? 疲れた?」
「疲れた……かな。精神的に。やたらジロジロ見られるしさ、ナンパ……というか、むしろ誘拐寸前だったし。この姿になってからもう最低だよ」
「そっかそっか。でもね、るーちゃんが退院して普通に生活を始めても、またいつ今日みたいな事が起きるか分からないから、これからは危ない目に遭わないようもっと注意しないとだめだよ?」
「う、うん……。だけどさ先生、こういうのがこれから先ずっーと続くとか思うと、なんだかすごく気が重いよ」
「まぁ、るーちゃんほど可愛い子だったら注目されるのはもう仕方ないわよ。こればっかりは少しずつ慣れていくしかないんじゃないかな? むしろ『あたしの美貌をみんなに見せつけてやる!』ってぐらいの気持ちで行かなきゃ!」
「す、すごいポジティブだよね、先生って」
「当然よ! るーちゃんは自信が無い医者やタクシードライバーに命あずけられる?」
それはやだな……。
手術中に「こ、これでいいのかな?」とか小声でブツブツ不安そうに言いながら手術する医師なんかいたら嫌すぎる。
「な、なるほど……」
「だからるーちゃんもね、自信もって胸張ってればいいのよ」
自信か……。
見得ならずっと張ってきたけど、自信とはやっぱり根本的に違う気がする。
それにさ、先生が言った美貌ってのはちょっと違うよな。
俺、どちらかと言うとロリ属性ぽい見た目だし、ドヤ顔で「エッヘン!」って胸張って見せびらかしても、やっぱり何というか、子どもが背伸びしている風にしか見えない気がするし。
だけど今日みたいな衆人環視のような異常な日々が、これからの日常になるなんてさ、本当参りそうだ。
こんなの本当に慣れるのかな?
はぁ、せめてもう少し身長が欲しいなぁ……。
◇ ◇ ◇
浅草寺を出て近くの喫茶店に入る。
テーブルの上には注文した焼きたての甘いホットケーキと、熱そうで苦そうなブラックコーヒー。
ホットケーキは俺が注文したやつで、ブラックコーヒーはりさちん先生が頼んだものだ。
俺は落ち着いた雰囲気の店内でホットケーキを食べながら、やっと人心地つた感じだ。
「るーちゃん、もういくつか寄り道したい場所があるのだけど付き合ってくれないかな?」
「いいけどさ、どこ行くの? 渋谷とか?」
「あー、渋谷も悪くないけどね、せっかく浅草に来たのだからやっぱりスカイツリーがいいかなって」
「う、うん。別にといいけどさ、今日、クリスマスイブだしカップルばっかりだと思うよ?」
りさちん先生が俺の一言に「あっ……」という顔になった。
「今のナシ。中止ね! 中止!」
先生、今更何気にしてるんだよ?
クリスマスなんてスーパーの特売日と一緒じゃなかったのかよ?
「ほ、他にどこかカップルが居ない観光地は……」
りさちん先生はいきなりスマホを取り出すと、黙々と都内の観光スポットを調べ始めた。
しばらくして検索し終えると、先生はスマホの画面を俺に見せて「ここはどう?」って聞く。だけど俺が「そこもカップルいっぱい居そうだよね」と言うと、りさちん先生はまた別の候補地を検索して、そしてまた俺にスマホを見せる。
けどやっぱり俺が「そこもカップル多そう」と言うと、先生はまた別の候補地を検索しはじめて……。
そんな無限ループがしばらく続いた……。
りさちん先生のブラックコーヒーのおかわりが3杯目になった頃、ようやく先生はクリスマス・イヴに自分の理想とする居場所がどこにもない事を悟ったようだった。
「無い……。無いわるーちゃん! 勝ち組の独身だけしか集まらない理想郷がさ!」
「あ、あのさ、どうしてそこまでカップルの居ない場所にこだわるの?」
「どうしてって、独身拗らせるとね、デートスポットに行きづらくなるのは当然でしょ?」
「はぁ?」
「ほら、わたくしったら結婚指輪してないでしょ?」
「う、うん」
「いい年した大の大人の女がさ、クリスマス・イヴに結婚指輪せずにデートスポットとか嫌じゃない?」
「いや、全然……。ていうかそんな発想すらなかったけど」
「はぁ……、わっかいなぁー」
前から思ってたけど、先生って結婚願望の塊みたいな人だよな……。
「あのねるーちゃん、医者の仕事していて一番辛いときって何か分かる?」
「ど、どうしたのいきなり」
「いいから答えなさい!」
「な、なんだよ……。んーと、患者さんが治療の甲斐も無く死んだとき?」
「ああ、そういう重いのは別ね。そんなの辛くて当たり前だから。そうじゃなくてね、わたくし個人の事で、特に何もない平和な日限定」
「へ、平和な日のりさちん先生? 何その変な縛りは……。なんだろう? 仕事の時間が不規則だーとか、残業代でないーとか、職場でのセクハラがひどいーとか?」
「ぶっぶー! ハズレ」
「わかんないよっ! 中学生相手に先生の仕事の話とかされてもさっぱりだって! ……それで正解は何なの?」
「正解はね、『瑠伊くんのお母さんみたいに、わたくしと年が近い既婚の女性が子連れで来るとき』よ」
「はぁ?」
「子連れの女を見ると、なんかもうそれだけで女として負けた気がするんだから」
お、重い……。
「でもね? わたくしは1人でも多くの人を救うために、自らの意志で甘く尊い青春時代を犠牲にしてきたのよ? それでね、こうして実際にるーちゃんの命を救う事ができたのは、わたくしにとっては何よりの誇りなんだから」
「う、うん……」
「だからね、わたくしは子連れの親子を見るとものすっご~く嫉妬するけど、でも後悔なんて絶対にしてないから。と、とにかく、上手く言えないけど、るーちゃんはわたくしが人生賭けて、一生懸命頑張って救ってあげた命なんだから、るーちゃんにはちょっと嫌な目に遭ったぐらいで挫けて欲しくないのよ」
なんか無理やり独身コンプレックス話から俺の人生の話になったな。
しかも恩着せがましくて狡い言い方だし。
よし……。
「じゃあ先生もさ、現実に挫けないでスカイツリーに行かなきゃ! 本当はずっと行きたかったのでしょ? スカイツリー」
「ず、ずっと!? や、まぁね、わたくしもほら、一応女の子だし、デートの練習ぐらいしておかないと。……って、あ、あ、あーのーねー! わたくしはるーちゃんがいつかデートする日の事を心配して、わざわざリハーサルに付き合ってあげてるだけだからね!」
どこのツンデレだよ。
だんだん先生が壊れて行ってるような気がする……。
「ふぅん……。俺はこの先誰ともデートなんかする気なんて全くないから別にどうでもいいんだけどさ、先生、本当は怖いんでしょ?」
「な、何がよ?」
「カップルがうじゃうじゃいるかもしれない場所に行くのが」
「こ、怖くなんかないから! るーちゃんと一緒だったら平気なんだから!」
「ふーん、本当にぃ?」
「本当よ!?」
あははは……、必死だな先生。
なんか俺、男に戻ってデートしてるみたいだ。
りさちん先生、母さんと同じぐらいの歳って言ってたけど、外見はりさちん先生の方が断然若いよな。先生頑張れば普通にモテると思うんだけどなぁ。
だけどさ、先生……。
クリスマス・イヴ当日にデートの練習するなんて言う人、俺、見たことないんだけど。
………
……
…
喫茶店でだらだらと時間を潰して、そのままぶらりと歩いてスカイツリーに向かった。だが流石はクリスマス・イヴ。その混雑ぶりは浅草寺とは比較にならない程だった。
りさちん先生は「わー。入場券がいるんだー。いい勉強になったねー、るーちゃん」と、魂の抜けたような声でつぶやく。
俺はスカイツリーに着いてからも周りからずっとジロジロ見られた気がした。特に男からの視線がやたら気になる。
ある一組のカップルの男があまりにも俺を見つめてくるものだから、女の方が嫉妬したのか喧嘩になりそうになってた。
それにしても、不思議と見られているって分かるもんなんだな……。
ともあれ、やはりクリスマス・イヴのスカイツリーは大混雑で、展望台の当日券なんてものはとても買えそうにもなく、買えたとしても数時間待ちの有様。
結局、スカイツリーではリア充カップルのデートシーンを嫌になるほど見せつけられただけだった。
りさちん先生はバカップルとすれ違う度に「てめぇらの魂、真っ黒に浄化してやろうか?」と意味の分からない言葉をブツブツと吐き続けながら逃げるようにタクシーに乗り込むと、医療研究センターに真っ直ぐ帰るよう運転手に伝えるのであった。




