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月桂樹の唄  作者: 松山 京平
転変編
39/73

39頁 奇怪なプロローグ

 翌朝、朝日の見えない地下4階の病室。

 ベッドで浅い眠りについていると、ニコニコしながらりさちん先生がやってきた。


「やぁやぁ瑠伊くんおはよう! どうかな調子は?」

「ん……ぁ? あーそか、なんか寒くないから変だと思ったらここ病院だっけ」


 布団が暖かくて心地いい。


「おーい? 調子はどうかなーって聞いてるんですけどー?」


 脳天にりさちん先生のアニメチック・ボイスが響く。


「んー……、頭がちょっと締め付けられる感じ……」

「そかそか。それはたぶん収縮の影響かもしれないねー。 ……ところで瑠伊くん」

「なにー? 母さん」

「その髪どうしちゃったの?」


 ああこれか。また伸びてやがる。面倒だな……。

 寝たまま腕を動かして髪に触れてみると、髪の長さは肩にかかるほどのセミロングだった。

 今回は寝ている時間が前よりも短かったせいか、昨日よりは伸びていない感じがする。


「寝ると髪がものすごい伸びるんだよ」

「それって、具体的にはいつぐらいから?」

「修学旅行から帰ってきてから? でもその前から髪伸びるの早くなったなぁって感じだったし……うーん、むにゃむにゃ……」

「ふむふむ」

一昨日(おととい)は腰ぐらいまで伸びた」


 俺はジェスチャーで腰のあたりを指して「この辺まで伸びた」という感じで示した。


「へぇーすごいんだねぇ。そかそか。じゃあとりあえずそのばっちぃ枕は回収して分析しないとだねぇー」


 枕?


 朝早くから先生がしつこく質問してきたせいで、目が覚めてしまった……。

 俺はベッドから上半身をゆっくり起こすと、後ろを振り返って枕を見る。

 枕はりさちん先生が言うように、ゲロみたいな汚物とねっとりした液体が付着して汚れていた。


「少し出血もしてるみたいだねー。大丈夫? 目まいとかフラフラするとか無い?」

「平気……」

「頭皮がヒリヒリして痛いとか、ズキズキするとかは?」

「平気……」

「意識は大丈夫? 貧血になってない? わたくしが誰か分かる?」

「何言ってんだよ母さん」

「おやおや? 意識の方は少々錯乱(さくらん)の気あり、と……。でもさすがに『母さん』は無いよねー。せめてお姉さんがよかったなぁ」



 ……。



 …………え?




 ………………あ゛!




「わぁーーーーーー!!! ちょちょっ!! タイム! 今のは無し! 無しだからっ!」

「慌てふためく瑠伊くんの仕草、すっごい可愛い~」

「ちょっ! バカっ! 見るなっ!!」

「髪が汚れてなかったら完璧だったのにねー」

「勘弁してよ、もう!」

「はいはい、ったくしょうがないなぁ瑠伊くんは。中学生にもなって本当に照れ屋さんなんだから……。仕方がない。わたくしの事、特別に母さんって呼んでもいいからね?」

「な、な、な、何言ってんだよ!? 意味わかんねーよ!」


 あああ……何やってんだよ俺は!

 学校の先生に「お母さん」て言ってしまうテンプレ男子みたいな事をやらかしちまうなんてよ!


 ニヤニヤと笑いながら俺を小馬鹿にしたような目で見下ろすりさちん先生。

 ちくしょう、りさちん先生め……。

 俺をからかって楽しんやがるな? そういう目をしてやがるぜ。

 あっ……。だからその目で俺を見るなって! 見降ろすなって! あーもう!


 恥ずかしくなった俺は布団の中に潜り込んだ。

 こうすれば俺の存在はこの世界から消え失せて、外界との繋がりは遮断されるのだ。

 たとえ外の世界が核戦争で消滅しても、こうして布団の中に潜ってしまえばもはや俺には関係ない。

 だが、ヴァルハラの扉を開けて元の世界に完全に帰還するには、もう少し魔力の貯蓄に励まないといけないのが辛いところだ。

 魔力が枯渇しきった現実世界(リアルワールド)で魔力を貯めるのはとても辛い事なのだ……。

 よって魔力が溜まるまで、もうしばらくの布団の中で眠りにつかなくてはならないのだ。


 そうだ。このままニートになってしまおう。

 俺はもう2度と布団から出てこないからな!

 ごはんの時間になっても食卓に出て行ってやらないし、出された料理だって完食せずに残してやる。

 そして深夜になったらゴキブリみたいにこっそり出てきて、食堂の隅でサランラップされて残された冷えたごはんを喰い散らかしてやるんだ……。


「あーもしもし? もしもーし? 瑠伊くん瑠伊くん?」


 ふん。生意気にもさっきからしつこく俺を呼んでやがるな。

 俺はニートになったんだ。もう返事なんかしてやるもんか!


「返事が無い……。ただのしかばねになるようだ(・・・・・)


 ちょっ!? 先生突然何ボソっとおっかない事言い出すんだよ!? それシャレになってないから!


「ん゛―… こほん! あ~あ~あ~~。 よしっ!」


 りさちん先生のわざとらしい咳払いが聞こえた。

 今度は何するつもりなんだよ!?


「るーちゃん♪」

「うわぁぁあああああーーーっ!! おいやめろ! 止めてください。その呼び方だけはっ!!!」

「あっはははははははははははははははははは!!」


 よほど面白かったのか、りさちん先生は1人で大爆笑。

 なんか体中から鳥肌が立った。


 ちくしょう……。やっぱりこの人、完全に俺を殺す気だ。

 俺に恥をたっぷりとかかせて、『これ以上の恥には耐えられぬ!』と俺にハラキリさせるつもりだ。BANZAI!


「あっはははは! ごめんなさいごめんなさい、お母さまに失礼でしたねー」

「いいよ、母さんは頭の中に幸せ回路積んでるからさ……。でもひどいよ。そこまで笑わなくてもいいだろ!」

「あー。うんうん、そうだねー。ごめんねー。でも瑠伊くんがおもしろ可愛いかったからしょうがないんだよ? あー久しぶりに笑ったなぁ」

「なんだよ、それ……」



………

……



「出血が気になるから、先に頭皮の確認しておくねー」

「う、うん」


 何だかんだで落ち着きを取り戻した後、朝食も食べずにいきなり頭部の検査が始まった。

 りさちん先生は俺に近づくと汚れた髪をかき分けながら頭を入念に調べ始める。

 白衣の上からでもわかる残念な胸が無防備に接触してちょっと気になる……。


 目視で調べただけだと、特にこれといった異常が見つからなかったようなので、りさちん先生はハンディタイプのマイクロスコープを持ち出し来て、今度は頭皮を細胞レベルで綿密に診察し始めた。

 なんか「今なら育毛相談無料体験中!」みたいなテレビのCMみたいだ感じだ。



「うーん……不思議だねぇ。出血した痕跡がこれっぽっちも見つからないよ? いったいどこから出血したんだろうねー?」

「さぁ?」

「湿疹とか傷口ぽいのも全然見つからないし、むしろ頭皮までキラキラしててお手本みたいな綺麗さだしさ、本当羨ましいなぁ」


 頭皮がキラキラって……。

 その言い方だと毛根が死滅した人みたいじゃないか。


「そんな事言われても……。あ、でも昔、身体中から血とか泥みたいなのが出たときもさ、シャワーで洗い流したら肌が綺麗になった気がしたかなぁ?」

「へぇー。瑠伊くんの身体って謎だらけだねぇ」



………

……



 頭部を入念に調べ終わった後、先生は検査と称して俺の(ほほ)や首筋などにもマイクロスコープを当てて、俺の肌がどれだけ綺麗なのかを解説してくれた。


 まぁ、解説と言っても、病気の話というよりも婚期を逃した女の愚痴まじりの美容話だった。

 要は、りさちん先生は俺の肌を隅々まで見たかっただけらしい。

 ノートPCにはマイクロスコープが撮影した俺の皮膚の拡大画像が映っている。

 その画像を見るたびに、りさちん先生は「うわっ、なにこれ綺麗すぎでしょ?」とか「シミはどこにあんだよ!? シミはよぉ!」とか「くっそう、これが若さかよ! 眩し過ぎだろ!?」「太ももの皮剥ぎ取って培養してやろうか……」などと、だんだん怨嗟が混じった呟きが増えていって怖かった……。



………

……



「じゃあそろそろ食事にして、それからお風呂にしようか」

「お風呂?」

「うん、その汚れた髪のままだと気持ち悪いでしょ?」

「まぁ、そうだけど……朝から?」

「うん。とにかくそのままじゃ検査にも支障でるだろうし、しっかり洗わないとねぇ」

「う、うん」

「よし、じゃあちょっと色々準備してくるからねー」


 りさちん先生は、汚れた枕とマイクロスコープ一式をカートに乗せて病室から出て行った。そして10分ぐらいしてから、りさちん先生は山のような朝食をカートに乗せて運んできた。



「あのさ……これが朝食? 多くない?」

「瑠伊くんは小さいし細い身体してるんだから、もっと食べなきゃだめなんだよ?」

「えー」

「文句言わない! ちゃんと食べておかないとダメなんだよ? 貧血になると後々大変なんだから。あ、おかわりが欲しかったら好きなだけ言っていいからね」

「い、いらないって……」

「まぁまぁまぁまぁ、そんな遠慮しないでいいんだよ?」

「いや、だからいら……」

「食え」


 朝食というより、もはやちょっとした拷問だった。

 ただでさえ歯が何本か抜けて食べにくいってのに、こんなに量が多いととてもじゃないけど全部食べ切れない。だけどそんなのお構いなしで、俺はりさちん先生に無理やり朝食を食べさせられた……。

 それはまるで、強引に食べさせられてブクブクと太らされるカモのようだった。



………

……



 食後、腹を膨らませてベッドに転がる俺の横で、りさちん先生が付きっ切りで側にいた。


「あのさ先生」

「どうかした?」

「ここって他に人はいないの? 1人だとすごい怖いんだけどさ」

「あ、もしかしてわたくし1人だけだから不安に思った?」

「う、うん」

「そかそか。まぁ一応ここは研究施設だからね、普通の病院とはちょっと事情が違うんだ」

「なんかさ、ここって妙にセキュリティ厳重そうだしさ、人体実験とかやってるの?」

「人体実験かぁ……いいねぇ! 瑠伊くんが『いいよ』って言ってくれるなら是非やってみたいんだけどなぁ。妊娠したらどうなるのか、とかさ」

「ちょっ! 怖い事言わないでよ」

「あははっ、瑠伊くんにはまだ早い話か」


 りさちん先生は手遅れっぽいけど……。特に性格が。


「この施設はね、原因不明の病気ばかり扱うから、伝染病の可能性も考慮して患者に接っする人数も極力少なくしてるんだ。いわゆる閉鎖病棟ってやつ?」

「ふぅん……」

「ふぅん……って。わたくしこれでも命がけなのよ? 一通りの感染予防対策してるとはいえ、瑠伊くんの病気が空気感染したら、わたくし男になるか、死ぬか、あるいは精神がおかしくなったりするかもしれないんだよ?」

「つまり、俺の病気って誰かに移るものなの?」

「それはたぶん無いとは思うけど……可能性がゼロとは言いけれないわ。これまで性転換症で死んだ人達からはそれっぽいウィルスやバクテリア、寄生虫といったようなのは今のところ見つかってないし、死んだ人達のまわりの人達がおかしくなったとか、そういった、異常事態が起きたという話もないから……」

「なるほどなるほど、わからん」

「あはは、まぁ原因はわかっ……」

「わか?」

「あ、ああ、わたくしには分からないって言おうとしただけ」

「ふぅん」


 りさちん先生の言葉はそこで途切れた。


「でもさ先生、仮にもし俺の病気が誰かに移るんだったらさ、先生はもうオシマイじゃん。それどころか父さんも母さんも、クラスのみんなも、もしかしたら……」


 もしかしたら、みんな男女の性別が入れ替わってちょっと楽しいことに……いやいやいや、そうなる前にみんな身体が収縮して死ぬ事になるのかな?


「まぁ今は瑠伊くんが生き残る事を最優先で考えないとね。あ、そろそろいい時間だし、お風呂にしようか?」

「えっ? もう?」

「うん。食後30分以上は休憩したし頃合いよ? じゃ早速案内するからこのままベッドでじっとしてるんだよ?」

「はっ? えっ? ちょっ!」


 りさちん先生はいきなりスーパーマーケットの買い物カートを押し進めるみたいに、俺が寝ているベッドごと病室から運び出した。


「ね、ねぇ? ど、どこいくの!?」

「今言ったでしょ? お風呂」

「あ、歩けるって!」

「まぁまぁまぁ、じっとしてなー」



 人気の無い病院ぽい廊下をベッドに乗せられたままどこかへ連れていかれる俺。

 なんだかドラマでよく見る重症の患者が手術室に運ばれるみたいな感じだ。いや、どちかと言うとわけも分からず出荷される家畜といったところか……。


 運ばれる途中、昨日検査の途中に見かけた『浴室』と書かれた部屋をすんなりと通り過ぎた。


「あの先生? 浴室通り過ぎたよ?」

「あー、あそこは違うんだよ、瑠伊くん」

「何が違うんだろう……」

「場所が違うのだよ、ワトソンくん」


 場所ってなんだよ……。

 てかその台詞はおっさんみたいだぜ? りさちん先生。


 豪華でキラキラした(まばゆ)い噴水があるロビーをまっすぐ横切ると、また病院のような殺風景な廊下が続く。

 しばらく進むと、また浴室と書かれた2つの木製の扉の前に到着した。


「はい到着。瑠伊君、1人でお風呂行けるよね?」

「う、うん」

「中に着替えもタオルもサニタリーも全部揃ってあるから、好きに使っていいからね」

「う、うん……」


 さに? なんだろう……まぁいいや、入るか。

 俺は『男湯』と書かれた方の扉を開けようとした。


「ちょい待ち! 瑠伊くんはこっち(・・・)ね」


 りさちん先生は俺の肩に腕を回すと、もう片方の手で『女湯』と書かれた方の扉を開けた。


「マジで?」

「マジよ」


 お……おんなゆ? 俺が?

 俺は言葉を失い呆然となった。

 だが、りさちん先生は俺の肩を強めに押して、さっさと入るように(うなが)した。


「はぁ……」

「何ため息ついてるの? もしかして1人じゃお風呂に入れないのかなー? あ、一緒に入ってあげようか?」

「で、できるって!」


 俺は仕方なく脱衣所へと入った。

 脱衣所の壁や床や天井は、女湯らしく全面やわらかな赤とピンクの中間のような色調だった。狭い更衣室の割には所々に観葉植物が上品に置かれいた。

 そして点在する照明はどれもいやらしいぐらいのパステルピンクの光を放っていて、すごくエロい雰囲気がする。


 なんなんだよ……このエロい空間はさ。これ女湯じゃねーだろ。

 妙な空間の雰囲気に当てられたのか、何故かドキドキしてきた。

 これって……いわゆるラブホってやつなのか?


 俺は恐る恐るパジャマを脱ぎ、下着を脱ぎ、そしておむつを外す。

 全裸になった俺は、すぐさま下腹部を確認した。


 俺のエレファントはまだ残っていた。

 だけどそれ(・・)は昨日よりも更に小さくなっていて、もはやエレファントなんて偉そうに表現できるシロモノじゃなく、股間に一口サイズの『たXXこの里』が1個くっついているみたいな感じだった。


 情けない姿になったもんだ……。

 さすがにこいつを見せびらかして男だと言い張るのには無理がある。

 まぁ、それ以前にこのいやらしい胸とか体型でアウトなんだけど。


 そういえば手術でコレを切り取るみたいな事言ってたっけ? 

 ということは、お○○こ切ってお○○こ作るって事なのか?

 てかいったいどうやるんだ?

 グリグリとほじくり回して『穴』を作るのか? 


 怖い……。

 正直どうなるか想像もできないし、そんな事考えるだけで死にたくなってくる。


「ん?」


 甘い匂いが鼻を付いた。

 なんだか凄くいい匂いがしてきたと思ったら、それは俺が脱いだパジャマから漏れ出た例の体臭だった。


「やばいな……。検査の時は必死で気にもしなかったけど、これ、前よりもさらに匂いがキツくなってないか? 気のせいかな? もう完全に(メス)の匂いだ……」


 とにかく俺は、全裸で浴室へと向かった。


「りさちん先生って変わってるよなぁ」


 ふと口に出てしまった。

 実際つかみ所がないっていうか、出来るビジネスウーマンみたいな見た目なのに、性格とか声とかしゃべり方とかのギャップがすごいし。

 それにBBAに片足突っ込んでる感じなのに、なんか妙に子供っぽいところあるし……。

 でも子供っぽいと言えば、さすがにうちの母さんよりマシか。


 考え事をしながら浴室へ入ると、突然、浴室のあちらこちからプシューーという音ともに霧が噴出して、あっという間に視界が遮られた。


「ちょっ!? な、なんだよっ これ!?」


 俺は何が何だか分からず、その場でへたりこんだ。


《あーごめんごめん、言い忘れてた。それ、ただのミストシャワーだから》

「み、みすとしゃわー?」


 どこかにスピーカーでもあるのだろうか、りさちん先生の声が浴室に反響する。


《その辺に椅子あると思うから、それに座ってちょっとの間じっと我慢してて》

「おいこらっふざけんな! 俺はコンビニの肉まんじゃねーぞ! ってか熱いって!」

《そりゃ熱めにしてるんだもの。はいあと2分ぐらいねー》


 あああああ……なんなんだよ!

 なんか身体中がむずむずして(かゆ)い……。

 熱で皮膚がビリビリしやがる!


 俺は熱さから逃れるために、床にうつ伏せで寝転がった。

 熱は高い場所へと移動するからな、こうして姿勢を低くしていたら少しはマシだろう。


 ブシューーーー!


「うわぁぁああ!」

《あれ!? おっかしいなぁ?》

「霧がっ!? 床からも霧が出てくるなんて聞いてないぞ!?」

《あっははははは、ごめんごめん! ちょっとボタンが気になっちゃって、てへっ!》


 ち、ちくしょう!「てへっ☆」じゃねーよ! 完全に遊ばれてる……。

 これじゃまるっきりモルモット扱いじゃないか! 狂ってやがる。

 でもやっぱりここって実験施設なんだな。普通の風呂だと思って完全に油断してたな。


《あっ……やばい、切るスイッチどれだっけ? これかなー》


 ブシューーーー!


「ちょっ! おまっ! なにやってんだよっ! なんか薬品くさい匂いがっ!」


 一瞬パニックになったけど、薬品の匂いはよくある市販の入浴剤みたいな香りだった。ちなみに甘いバラの香り。


《ん!? 間違ったかな……? ……あ、これか》


 スピーカーを通じてスイッチを押し込む音が聞こえると、ミストシャワーはピタリと止まった……。



………

……



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……し、死ぬかと思った」


 床にうつ伏せ状態のまま、息を整えて落ち着こうとする俺。

 全身まるで玉ねぎの皮を剥かれてツルツルになったかような感覚がする。あるいはもしも俺が自動車だったら、隅々までワックスをかけられてピカピカになったような、とにかくそんな感じだ。


《おつかれさま瑠伊くん。もう何もしないから、あとは髪をしっかり洗って、お風呂に浸かってゆっくりしてていいからねー》


 ち、ちくしょう……! 好き放題オモチャにしやがって!

 まあいい。今回の事はいつか復讐してやるとして、とりあえず髪でも洗うか。


 そう思って立ち上がろうとしたとき、俺の身体中にぬるぬるした感触が纏わりついた。


 髪の毛……。


 濡れた俺の肢体に、腰まで伸びた髪が纏わりついていた。


「な、なんだよこれ……」


 わずか数分ミストシャワーを浴びている間に、こんなに伸びたってのか!?

 もう無茶苦茶だ。ここまできたら背中に羽が生えてもおかしくない気がしてきた。



 ともあれ俺は、浴室の隅にある洗い場の椅子に腰かけると早速長く伸びた髪を洗い始めた。

 目の前には鏡もあるが、浴室中が曇っていてぴったりと近づかないと見れたものじゃかった。


「ちくしょう……。髪が長いと洗うのがめちゃくちゃ面倒だなこれ」


 洗いながら俺は、修学旅行で見た高村の……洋子ちゃんの長い髪を思い出していた。

 洋子ちゃんの髪は今の俺ほど長くはないけど、あれってきっと毎日洗うのに苦労してたんだよな……。


 髪についた泡をシャワーで流すと、ぬるりとした、とろみのある感触が身体を伝って流れ落ちていった……。

 スライムのような奇妙な感触だったので、何だろうと思ってふと床を見下ろすと、そこには灰汁のような茶色い泡がゆっくりと排水溝へと流されていくのが見えた。


 あ、今のって……。


 以前、俺が家の風呂場で身体を洗っていたとき、俺の股間のカノン砲がセミの抜け殻みたいになって流れ落ちたのを思い出した。


 そうだ。今のはあの時の垢と同じ感じだった。

 でもあの時は確か、俺のカノン砲の形がそっくりそのままセミの抜け殻みたいになってから流れていったんだよな。

 今の茶色い泡はもう形が崩れた後なのかな……。


 はぁ……。


 またため息が出た。

 次は身体のどこが小さくなるんだよ……。頭か? 目か?


 てか変だよな……。

 そもそもあの身体収縮現象は家の風呂でしか起こらないと思ってた。

 ほら、修学旅行の風呂とかでも何事もなかっただろ?



「……えっ?」



 いやちょっと待てよ。そ、そんな馬鹿な……。

 何で、ここであの時みたいに垢が出るんだよ? ていうか、あの量の垢はやばかった気がする。


 焦った俺は、自分の身体を見下ろそうとした。

 しかしその瞬間、また俺の口の中で歯がぬるりと抜けた感覚がした。

 だが俺は、それ以上に動揺してしまった……。



「無くなってる…………?」





『これ以上の恥には耐えられぬ!』

『BANZAI』


今回、かなりマニアックなネタを使ってしまったので、今回特別にこの場を借りて元ネタの解説(?)を書くことにしました。

(活動報告で書いてももよかったのですが、向こうは時間が経過したら埋もれてしまうので……)


さて、これは知る人ぞ知る『HARAKIRI』という、大昔のゲームが元ネタとなっています。

どういうゲームかといいますと、信長の野望のような他国に攻め込んで全国統一を目指すゲームなのですが、これがまた色々とおかしい。


「日本について勘違いした外国人が作った」という設定で作られたらしいのですが、どこからツッコめばよいのやら……。

一言で言うと『信長の野望・ニンジャスレイヤー』のような感じです。


これ以上はあえて詳しくは書きません。

とにかく気になった方は各自でプレイ動画を探してください。


(自分は偶然ニコニコ動画のプレイ動画で知ったのですけど、笑い死にそうになりました)



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