12頁 ~柱穴~
女子が柱をくぐる瞬間に現われるという伝説の『仏様』を鑑賞しようと、俺と佑馬は《ベストポジション》に必死に張り付いていた。
だが今や、俺達の崇高な計画は、狡猾な女子達に見破られる寸前だ。
ここにいれば健康になれると豪語したり、気分が悪くなったと辛そうにしたり、とにかく行き当たりばったりで誤魔化し続けたものの、高村や今井達の鋭い尋問により、もはやこれ以上デタラメを並べ立てるのは限界に来ていた。
俺達のベストポジションは今まさに落城しようとしている……。
「ねね、さっきからこの2人ってすっごい怪しいよね? 今井ちゃん」
「そうですね、やはりその場所は健康に良くないと思いますよ、宮川君」
違う、違うんだ今井!
ベストポジションにいると健康になれるってのは本当だ。
だがそれにはクリアすべき条件というものがある。
それは四つん這いになって柱くぐりをする女子のエロ尻!
そう、健全な男子がより健康になるには、お前ら女子があられもなく突き出すエロい尻がどうしても必要なんだ!!
その魅惑的な尻を視姦すれば、俺の中で永眠寸前だった『男気』パラメーターが覚醒してマイナスの値から一気にプラスへと上昇し、やがて男気が限界突破してバーストすると、俺の身体中に男性ホルモンがドバドバと循環しまくるはずだ。
そして明日にでもなれば、細く柔く軟弱になってしまった俺の身体は、再び奇跡の超変化をひき起こし、数日のうちに俺の体は鋼鉄の筋肉で覆われた完全無欠のダンディズム溢れる男の中の男へと進化するはずなんだ。
「宮川君、だいじょうぶ? 立てる?」
不自然な体勢で座り込む俺達に、北条は心配そうに近づいてきた。
「無理……」
「俺はもうたってる」
おい佑馬、なんだよその卑猥なジョークは? 自慢か? 自慢なのか?
俺のリトル・ジョニーはもうピクリとも反応しねぇってのに……。
「あっ……」
ほら見ろ。お前のいやらしい言い方のせいで、北条にまで気付かれたじゃねーか!
あーあ、北条が顔を真っ赤にしてドン引きしてるじゃねーか! 超ドン引きだぞ!?
ちくしょう! まったくどうしてくれるんだよ!?
一生に一度の尻チャンスがお前の一言で台無しになったじゃねーか!
お前俺に「邪魔されたくないから他人のフリしてくれ」とか格好つけた事言っておいて、当のお前は俺の将来がかかった大切なお楽しみタイムの邪魔すんのかよ? 俺はただ純粋な心で北条の尻を見たかっただけなのに、涙が出てきそうだ……。
それにしても、こういうのを運命のいたずらって呼ぶのだろうか? まるで天に見放された気分だ。このむごい仕打ち……神や仏は俺に対してあまりにも残酷だ。とても人間のやる事とは思えねぇ!
……はっ! 思わず脳内が錯乱してしまった。
と、とにかくだ。
佑馬はただのドスケベ煩悩に従い、猿のように本能のままに生きているんだろうが、俺にとってこのエロ尻……いや『仏様』鑑賞会には、俺の身体異常とこれから先の人生の全てがかかっているんだ。その辺にいる盛りのついた童貞臭いただの中学生とはレベルが違うのだよ、レベルが。
だからそこにいる女子達も、善良なボランティアだと思って俺のためにさっさと尻をエロく突き出してながら穴をくぐってくれよ! 俺のロックでシングな明るい未来のために、是非とも俺の目の前でパンツを丸出しにしてくれ!
「はぁ……。宮川君に佐田君、貴方達って本当最低ね、まったく呆れるわ。このまま放置すれば将来の日本社会に悪影響を及ぼしそうね。そうだわ。将来の禍根を残さないためにも、今すぐお巡りさんに来てもらいましょうか?」
不自然な中腰状態の俺達に、高村はスマホを片手にゴミを見るような目で見ている。
高村だけではない。隣にいる今井も、佑馬のグループのモブっぽい女子達も、皆一様に腐った目で俺達を見下している……。もう駄目だ。これ完全にバレてるよね。
「こ、断る。誤解だっ! みんな勘違いしてるだけだ! 俺は体調が悪くてたたな……、立てないんだ!」
「北条ちゃん、先に宮川が穴にくぐりたいんだってさ。悪いけど柱くぐり変わってあげてくれない?」
「えっ? えっ?」
北条は戸惑いつつも俺達からそっと離れた。
「オラッ、ち○○おっ立ててないでさっさとくぐれや! この変態どもがっ!」
罵声と共に繰り出された藤倉のローキックが、俺と佑馬の足にヒットした。
「ありがとうございますっ!」
オーマイブッダ! 藤倉怖い。
もうバレたどころじゃないよなこの状況。もうすぐ死刑執行じゃねーか! 目の前の柱が断頭台に見えてきた。
ていうか佑馬、おまえ変態呼ばわりされて喜んでテカテカしてんじゃねーよ!
北条は現状をいまいち理解してない様子で、高村に半ば強引に引っ張られて柱から離れた。
ああ、最後の切り札の北条が隔離されてしまった……。
もはや『仏様』鑑賞作戦は完全に失敗だ。残念ながらここから戦局を覆す事は不可能だ。これ以上足掻いても、北条のむちむちお尻はもう鑑賞できないだろう……。GAMEOVERだ。
「おい。さっさとくぐれやチビ助」
ちくしょう藤倉め……。
いつかそんな偉そうな口が叩けなくなるぐらいドM女に調教して、俺に惚れさせてやるからなっ!
「し、しょうがないな……。じゃ、じゃあ俺が柱くぐるからさ、誰か手荷物持ってもらっていい?」
「はぁ? そんなもんその辺に捨ててさっさと穴くぐれや! 変態が!」
ひ、ひどい……。
「わ、わたし持つよ?」
「まったく……仕方がないわね」
「持ってあげますよ、宮川君」
心が折れる寸前だったが、意外な事に俺のグループの女子3人が同時に名乗り出てくれた。てっきりゴミ虫みたいな扱いをされると思ったのにおまえら優しすぎるだろ。
それにしても、そのラノベを読み飛ばしたような態度の変わり様は何なの? もしかしてもういつの間にかハーレムルート突入してるの? 訳が分からないよ。
「じゃ、じゃあ誰でもいいや、これ持っててくれないかな」
ともあれ、3人が鞄を持ってくれると言うので、俺はほとんど空っぽに近い鞄を3人がいる方にふわりと優しく投げ渡した。
ぼすん。
だが、俺が投げた鞄は無残にも地面へと墜落してしまった……。
なんだよおまえら、その「受け取ろうか? どうしようか?」といった中途半端すぎる微妙な反応はさ。
誰か1人ぐらいは俺の鞄をしっかりキャッチしてくれると思ったのに。
「おいィ? ちゃんとキャッチしてくれよ」
地面に落ちた俺の鞄を北条が慌てて拾うと、ほこりを振り払うように俺の鞄を優しく撫でた。
「ご、ごめんね、びっくりしちゃって……。」
「すいません。お二人が受け取ると思って咄嗟に遠慮してしまいました」
「な、なんで私が貴方の鞄なんかに触らないといけないのよ?」
おい最後の高村。一番必死に身体を乗りだしておいてその言い草は無いだろ。キャッチし損ねた言いわけにもなってねーぞ!
「じゃあ北条お願い。ちょっとだけ鞄持っててくれないかな?」
「うん」
俺はブレザーを脱いで北条に渡すと、北条は俺のブレザーと鞄を大事そうに持ってくれた。隣にいた高村が俺のブレザーを物欲しげに見つめていたように見えたのが気になった。
シャツとサスペンダー姿の俺。この時、俺はある事に気付いてしまった。
サスペンダーだとシャツをズボンの中にシャツを入れるのでウェストラインを隠すことができない。当然俺のボディラインは自然と衆目に晒されることになる。
不味いな……。俺の身体の不自然さがバレちまうんじゃね?
身体中から嫌な汗が噴き出たが俺は冷静を装う。
とにかくこういう時は手品師が使う心理トリックと同じで、堂々としていたほうがいい。隠そうと思うほど逆に気付かれる。
俺は普通に柱の前で四つん這いになって柱くぐりに挑戦しようとした。
だが、さっきまで俺と佑馬が死守しようとしていたベストポジションには、いつの間にか藤倉達が占拠しており、俺がくぐる様子をスマホで撮影しはじめていた。
佑馬はというと、俺が藤倉に責められている間に遠くへと避難していた。
「おいこらちょっと待てや! お前らなんだよその携帯は?」
「ああ、気にしないでいいから。あたし、ここにいるとすっごい健康になれるから。……あ。宮川がモタモタしてるから一般の人がやって来たじゃない」
藤倉の言う通り、家族連れの一般客らしき人達が柱くぐりのところまで来ていた。
「な? さっさとくぐって養豚場へ行け、豚野郎が!」
再びドSモードの藤倉。この性格の切り替わり、たまんねぇな。
藤倉の一言に取り巻きの女子2人がクスクスと笑っていやがる。
ぐ、ぐぬぬぬぬ……。こんな屈辱は初めてだ。お前ら女子のクスクス笑い、年頃の男子には結構傷つくんだぜ?
正直こんな柱くぐり、強制でもないので今すぐにでもやめちまいたいぐらいだが、ここまできて今さら後戻りなんて俺的に許されない。
それにこのタイミングで「止める」なんて口に出してみろ? そんなの全然ロックじゃねぇだろ? 男らしくもない。
だから俺はくぐるぜ! 世界には嫌なやつの股をくぐって大出世したやつだっているんだ。こんなのワケねーんだよ! 撮りたきゃ撮ればいい。尻の穴の奥までくっきりと見せつけてやる! バッチコイだ! F○○K Meだちくしょう!
そんな事よりも、こんなくだらねぇ柱くぐりなんてとっとと終わらせて、クラスの女子全員の尻を並べて片っ端からファ○クする計画でも考えようぜ? な?
俺は堂々と四つん這いになると、ウナギのようににゅるりと柱に身体をねじ込む。
これまたいとも簡単に俺の上半身が柱の穴に入った。まぁ俺は元々小柄だからな、こんなの余裕だ。
だが、足で床を蹴りだして前へ進もうとしたとき、俺の身体のどこかが引っ掛かって進めなくなった。
あれっ……?
あ、これは俺の尻か!? 尻が引っ掛かってやがるんだな?
俺は体勢を変えて、下半身が縦になるように腰を90度ねじった。
すると、柱にくり抜かれた穴は縦長なので、尻を縦に傾けた途端、俺の尻は穴に引っ掛かることなくスムーズに前に進むことができた。
なんだ、簡単じゃないか。
誰の助けを受けることなく、俺はいとも簡単に柱から抜け出して普通に立ち上がる。
後ろから小声でヒソヒソと腐った話しているモブ女達の話が聞こえてきたが、そんなもんは無視して、俺は北条達がいるところへ戻ろうと目を合わせた。
すると女子達は一斉に俺から視線を逸らすと、何故か気まずそうな様子で顔を赤らめていた。そして何故か、平沢と原田までもが変な感じに見えた気がした。
「み、宮川君、シャツが出てるよ」
平沢がそっと俺に教えてくれた。
俺は見おろして確認すると、腰の素肌がちらりと露出するのを確認した。そしてトランクスの一部もばっちりと露出していた事に気付く。
ああ、女子のおかしな様子はこれが原因か。男の下着なんて何の色気も無いだろ、と思いながら俺はシャツをズボンの中へと突っ込んで服装を整えた。
「宮川ってさー、男のくせにすっごいスタイルいいよね、もしかして着痩せするタイプ?」
穴をくぐり終えた俺に藤倉がずけずけと言った。
……お前まだいたのかよ。外で雑草でも食んでろよ。まあいい。特別に答えてやる。
「着痩せというかさ、俺、なかなか体重増えない体質なんだよな。だから最近は筋力つけて体重増やそうと秘密特訓してたんだけど全然体重が増えなくて、それどころか逆に最近痩せてきたんだよなぁ」
「へぇ、だからサスペンダーなんかしてるんだ」
「そうそう、ベルトも合わなくなってきて」
「あー、デブも言うよねー、その台詞」
ひ、ひどい……。
藤倉はドSなだけじゃなくデブにも容赦がなかった。まるでデブは生きてる価値がないと断言するような言い方だ。
「はい宮川君、ブレザーと荷物」
「ああ、ありがとう北条」
北条は俺の鞄とブレザーを丁寧に渡してくれた。俺はすぐさま体型を隠すようにブレザーを着こむ。
あれれっ?
なんだろう……。このブレザーってなんか女特有のすごい甘い匂いがする。
しかもこの匂いは北条の匂いとは全然違う感じだ。なんかもうずっと嗅いでいたいほどいい匂いがする。このまま嗅ぎ続けると涎をたらしてマタタビに夢中になる猫みたいな気分なりそうだ。
「なぁ北条、俺が柱くぐっている間に俺のブレザー誰かに渡したりした?」
「えっ? 普通に持ってただけだよ? どうして?」
「いや、大した事じゃないんだけどさ、なんか重くなった気がしたからさ」
「うーん……。本当に何もしてないよ?」
「そっか。悪かった、ただの気のせいか」
いきなり吹っかけ北条の様子を見たけど、思った以上に素の反応だった。何か細工でもされたかと思ったけど気にしすぎだったかな。
ついでにブレザーが重くなったというのは嘘だ。重さなんて何も変わって無い。
「ではそろそろ外で写真を撮りに行きませんか? ここも混んできましたし、グループ課題の写真まだ撮ってないですよね?」
「そ、そうだったね。僕、折りたたみの三脚持ってきたよ」
「あ、駄目ですよ平沢君。境内の中では写真撮影は出来ますが三脚は使用禁止です」
「あ……。そうだったね、どうしよう……」
流石は今井。細かいとこまでしっかりしてるよな。
俺なんかよりよっぽどグループリーダーの資質があるんじゃないのか?
おっと、そんな事より三脚なしで6人の写真撮るんだったな。よし、そういうのは俺に任せろ。
「佑馬、悪いけどさ、後で俺達のグループの写真とってくれないかな?」
「あ、いいなそれ。俺達も写真撮ろうか!」
「賛成~」「いいよー」「どこで撮るの?」
佑馬達のグループから了承の声があがる。
「じゃあ瑠伊、そっちが撮ったら俺達のグループも写真頼むわ」
「了解」
「今井、写真の話つけてきたぞ、とりあえず外でようか」
「さすがですね、宮川君」
「うんうん!」
「ま、まぁ、貴方は一応リーダーなのだから、それぐらいして当然よね」
「本当だよね! 宮川君って出来る男って感じで超かっこいいよね? すごいなーあこがれちゃうなー」
「宮川、お前さ……。もしかしなくても馬鹿だろ?」
みんなが俺を褒めたたえるから、どさくさに紛れて自分で自分を褒めていると、まさかの原田からのツッコミを喰らった。原田のツッコミなんて、レアリティでいえばスペシャルレアだぜ? 現金回収機に100万円ぐらい注ぎ込まないとゲットできないぐらいの希少価値があるはずだ。たぶん。
「いやぁ、照れるなぁ」
「褒めてねーから!」
その後、俺達2グループおよそ12人は外に出て、大仏殿をバックにお互いのグループの写真を交互に撮ったり、男同士や女同士で写真を撮りあったり後、そのまま俺達は大所帯でベラベラと喋りながら東大寺を後にした。
■人物紹介■(2016年5月25日追記)
藤倉 あゆみ
初登場:6頁
市立夕凪台中学3年6組。囲碁将棋部。学業成績は上。
身長:157cm 体重:53kg
誕生日:5月22日
眼鏡をかけた囲碁将棋部の副部長。顔もスタイルもかなり良く、出るとこが出て引っ込むところが引っ込み、足の長さも理想的なバランスの良い理想的な体型をしている。
喋らなければ賢そうに見えるが、その実体は超がつくほどのドS気質。
かつて瑠偉は生意気な藤倉に将棋勝負を持ち掛けるが、大ハンデをもらった上にすべての駒を奪われるという屈辱的な敗北を喫した。
佑馬がずっと想いを寄せていた女子で、この修学旅行で告白しようとしているが……。




