第6話「素材を護れ! 不器用騎士の精密機動(マニュアル)特訓」
「……よし、今日のターゲットは『紅蓮蜥蜴』だ。奴らの鱗は魔法の耐性装備として高値で取引される。目標は10匹。絶対に、鱗を傷つけるなよ」
要塞都市から南へ半日の距離にある、岩肌が露出した乾燥地帯。
岩陰に隠れたレオンは、前衛に出ているアリアに向かって念を押した。
「わ、わかっている! 前回の失敗は繰り返さないぞ!」
アリアは特注の魔剣を構えながら、緊張した面持ちで頷いた。
前方からは、赤い宝石のような鱗を持つ、体長2メートルほどの凶悪なトカゲが3匹、舌をチロチロと出しながら迫ってきている。
前回の討伐では、魔剣の推進力に振り回され、魔物を素材ごとミンチにして大赤字を出してしまった。
今日こそは汚名を返上し、天引きされた給料を少しでも取り戻さなければならない。
「ふぅぅ……っ」
アリアは深く息を吐き、魔剣に魔力を流し込む。
『シュウゥゥ……』
刀身の回路が青く光り、峰から細い魔力の炎が吹き出した。
前回のように全力で魔力を注ぐのではなく、出力をごくわずかに絞っているのだ。
「いくぞっ!」
アリアが踏み込み、紅蓮蜥蜴の首元を狙って剣を薙ぐ。
しかし――。
ガキンッ!!
「なっ!?」
出力が足りず、剣の刃は硬い紅蓮蜥蜴の鱗に弾かれてしまった。
反動で体勢を崩すアリアに対し、紅蓮蜥蜴が鋭い爪を振り下ろす。
「くっ……!」
アリアは咄嗟に盾代わりに剣を構えて防ぐが、ジリジリと後退させられていく。
「馬鹿かお前は。出力を絞りすぎて、ただの重い鉄の棒になっているぞ」
後方の岩陰から、レオンの呆れたような声が飛んできた。
「だ、だって出力を上げたら、また勢い余ってバラバラにしてしまうではないか!」
「0か100しかないのか、お前の脳筋は。……いいか、よく聞け」
レオンは腰のポーチから黄色い液体の入った小瓶を取り出し、指先で弄びながら言った。
「その剣の排熱構造は、お前の魔力の『流れる量』だけでなく『流すタイミング』にも反応する。振りかぶる時は魔力を切り、刃が対象に触れる直前の『数ミリ』で爆発的に魔力を流し込め」
「直前の、数ミリ……!?」
「そうだ。そうすれば、初速は自分の腕力で制御しつつ、インパクトの瞬間だけ推進力を上乗せできる。切断面も最小限で済むはずだ」
言うは易しだが、実戦のコンマ数秒の中で魔力のオンオフを切り替えるなど、並の騎士には不可能な神業である。
しかし、アリアの無駄に高い身体能力とセンスなら、あるいは可能かもしれない。レオンはそう計算していた。
「タイミングは俺が作ってやる」
レオンは手元の黄色い小瓶を、紅蓮蜥蜴たちの足元へ向けて放り投げた。
パリンッ!
「錬成――『閃光の泥』」
小瓶が割れた瞬間、中身の液体が周囲の土砂と反応し、強烈な目眩ましの光と共に粘着性の高い泥へと変化した。
「ギャァァッ!?」
突然の閃光に視界を奪われ、さらに足元を泥に取られて動きが止まる紅蓮蜥蜴たち。
「今だ、アリア!」
「応っ!!」
アリアは再び踏み込み、剣を上段から振り下ろす。
今度は魔力を流さず、自身の膂力だけで剣を振る。
(直前の、数ミリ……っ!!)
刃が紅蓮蜥蜴の首元にある赤い鱗に触れる、その瞬間。
アリアはせき止めていた魔力を、一気に剣へと解放した。
『ドギュォォォォンッ!!』
峰から爆発的な魔力の炎が噴出し、凄まじい衝撃と共に剣が加速する。
ズバァンッ!!
抵抗など一切感じなかった。
綺麗な一閃が紅蓮蜥蜴の首を刎ね飛ばし、胴体は傷一つない無傷の状態でドサリと地面に倒れ伏した。
「……や、やった! やったぞレオン殿! 鱗に傷一つつけていない!」
「まだ2匹残っているぞ。気を抜くな」
「任せろ! 感覚は掴んだぞ!!」
コツを掴んだアリアの動きは、もはや別次元だった。
レオンの的確な足止め支援に合わせて、自身の腕力と魔力ブーストを完璧に使い分け、残りの2匹も「素材を全く傷つけない」見事な一撃で仕留めてみせた。
◆
「……見事な切断面だ。これなら最高ランクの査定が出るぞ」
戦闘終了後。
倒れた紅蓮蜥蜴の鱗をナイフで剥ぎ取りながら、レオンは珍しく満足げに頷いた。
「えへへ……そうだろう、そうだろう! 私もやればできるのだ!」
鼻高々に胸を反らせるアリア。
「よし、本日の討伐報酬と素材の売却益で……おおよそ金貨15枚。お前の剣の素材費の天引き分に当ててやる。これで残りの借金は金貨15枚だ」
「よーし! この調子でガンガン借金を返して、レオン殿のスローライフとやらにも貢献するぞ!」
「……スローライフは俺一人の目標だがな」
無愛想に返しつつも、レオンは手帳の『南部の優良物件・購入資金』の項目に、しっかりと今日の利益を書き込んだ。
(……この分なら、予定より数ヶ月早くあの家を買えるかもしれないな)
頭の中で、静かな農村でロッキングチェアに揺られる自分の姿を想像し、レオンの口角がほんの数ミリだけ上がる。
「ん? レオン殿、今笑ったか?」
「気のせいだ。ほら、日が暮れる前に次の群れを探すぞ。お前の借金返済のペースを上げるためにな」
「おーっ!」
荒野に響くアリアの元気な声と共に、戦闘錬金術師と不器用騎士の連携は、少しずつ、しかし確実に本物の「バディ」へと近づきつつあった。
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