第5話「魔剣の初陣、そして想定外の殲滅力」
「本日のターゲットは『鋼殻の蟷螂』の群れだ。外骨格は鋼鉄並みの硬度を誇る。普通の剣なら弾かれるか、刃こぼれして終わりだ」
要塞都市の北東に広がる荒野。
切り立った岩山に囲まれた乾いた大地で、レオンは双眼鏡を覗き込みながら淡々と告げた。
視線の先には、身の丈3メートルを超える巨大なカマキリの魔物が数匹、カシャカシャと不気味な音を立てて徘徊している。
「ふふふ……任せておけ。今の私なら、あんなもの紙切れと同義だ!」
レオンの隣で、アリアは真新しい長剣を抜き放ち、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
深夜にレオンが錬成した、特注の魔剣である。
「慢心するな。言っておくが、今回は俺の支援は最小限にする。俺の錬成陣の展開より先に、お前がその剣で奴らの装甲をブチ抜けるかどうかのテストだからな」
「了解した! いざ、尋常に勝負っ!!」
アリアは地面を強く蹴り出し、凄まじい速度で鋼殻の蟷螂の群れへ突っ込んでいった。
それに気づいた魔物たちが、ギチギチと威嚇音を鳴らしながら巨大な鎌を振り上げる。
「いくぞ……っ!」
アリアは剣を上段に構え、自身の有り余る魔力を刀身に流し込んだ。
いつもなら、この時点で市販の剣は『ピキッ』と嫌な音を立てて限界を迎える。
しかし――。
『シュゴォォォォォォッ!!』
「なっ!?」
刀身の中心に刻まれた青い回路(魔力回路)が発光したかと思うと、剣の峰(背の部分)から、青白い魔力の炎がバーナーのように勢いよく噴き出したのだ。
レオンが組み込んだ『排熱構造』。
それは、過剰な魔力を外部へ逃がすだけでなく、その逃がした魔力を直接『推進力』へと変換する凶悪な機構だった。
「うおおおおおっ!?」
魔力の噴射によって、アリアの腕ごと剣が強制的に加速される。
本人の膂力に、ロケットのような推進力が上乗せされた超高速の一撃。
ズバァァァァァァァァァンッ!!!
重い破砕音と共に、先頭にいた鋼殻の蟷螂が、自慢の硬い外骨格ごと綺麗な断面で両断された。
「お、おおおおっ!? すごい、すごいぞレオン殿! 全く抵抗を感じなかった!」
興奮して振り返るアリア。
しかし、噴射による強制加速の勢いは止まらず、彼女の体はコマのように回転し、そのまま残りの魔物たちへ竜巻のように突っ込んでいく。
「ちょっ、うわああああああっ!?」
『シュゴォォォォッ!』『ズバァァァンッ!』『ギシャァァァッ!?』
荒野に青白い閃光が乱舞し、巨大なカマキリの魔物たちが次々とミンチにされていく。
もはや剣術など関係ない。ただの超高出力の草刈り機である。
◆
「……やりすぎだ、馬鹿野郎」
数分後。
静まり返った荒野で、レオンは深々とため息をついていた。
「す、すまない……! 剣が勝手に引っ張っていくような感覚で、制御できなくて……」
目を回して座り込むアリアの周囲には、原型を留めないほど細切れにされた鋼殻の蟷螂の残骸が散らばっていた。
レオンは手帳を取り出し、無表情のまま被害状況をメモする。
「お前の殲滅力が想定以上だったのは評価する。俺が高価な触媒を使う手間が省けるからな。……だが」
レオンは、ズタズタにされた魔物の外殻を指差した。
「あの外殻は、防具の素材として高く売れるはずだった。だがここまで細切れにされたら、二束三文のクズ素材だ。本日の売却益、マイナス金貨5枚」
「ひぃっ!?」
「素材を綺麗に残して倒す。それができないなら、また給料から天引きだ。……さあ、次の群れを探すぞ。感覚を掴むまでひたすら特訓だ」
「お、鬼ぃーーっ!」
涙目で抗議するアリアだったが、手の中にある特注の魔剣は、まるで主人の魔力を味わうように嬉しそうに青く明滅していた。
(……まあ、悪くない結果だ。これで俺が前線で戦う必要はほぼ無くなる)
悲鳴を上げるアリアを引っ張りながら、レオンの頭の中はすでに、今夜読む予定の『南部の優良物件カタログ・最新号』のことでいっぱいだった。
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