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最前線の戦闘錬金術師は、静かなスローライフを所望する〜無愛想な工房主と不屈の女騎士のバディ戦記〜  作者: Yushi


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第4話「給料天引きと、深夜の武器錬成」

「……で、これが今回の赤字分の請求書だ」


要塞都市にあるレオンの工房。

時刻は深夜に差し掛かろうとしていた。


作業机の上に置かれた羊皮紙には、本日の討伐依頼で消費した触媒代と、アリアの折れた長剣の修繕費がずらりと書き連ねられている。


「うっ……す、すまない……。まさか一回の戦闘でこれほどの額になるとは……」


向かいの椅子(昨日壊したため、レオンが錬金術で木材から即席で作った硬い椅子)に座るアリアは、請求書の額面を見てシュンと肩を落とした。

その姿は、飼い主に怒られた大型犬そのものである。


「お前の実家の予算と騎士団の給料から、毎月きっちり天引きさせてもらうからな」


レオンは無表情のままそう告げると、机の上に置かれた『ボロボロになったアリアの長剣』を手に取った。

刃は欠け、刀身には無数のヒビが入っている。


「……それにしても、酷い有様だ。鉄をいくら鍛えようが、お前の異常な魔力出力と膂力には耐えきれないらしい」


「私自身も悩んでいるのだ。無意識のうちに魔力が武器に流れてしまい、いつも内側から自壊してしまう……。力をセーブすれば、今度は魔物の装甲を抜けなくなるしな」


「水道管に無理やり濁流を流し込んでいるようなものだからな。市販の武器じゃ、すぐに破裂するに決まっている」


レオンはため息をつき、手帳を取り出して何やら計算を始めた。


(……このまま市販の武器を使わせ続ければ、いずれ戦闘中に武器が完全に砕け散り、あいつは死ぬ。あいつが死ねば、俺の『経費全額負担』という夢の契約も打ち切りだ。それどころか、後味の悪さでスローライフに支障が出る)


それは、徹底した合理主義者であるレオンにとって、最も避けるべき事態だった。


「アリア。お前はそこのソファーで寝ていろ」


「え? だ、だが……」


「いいから寝ろ。明日も早朝から依頼を入れている。囮役が寝不足で倒れられては困るんだ」


強引にアリアをソファーに追いやると、レオンは工房の奥にある錬成炉の火を入れた。


◆


(……チッ。まさか、果樹園の頭金にするつもりだった秘蔵の素材を使うハメになるとはな)


深夜の工房に、錬成炉の赤々とした光と、金属を叩く高い音が響く。

ソファーから聞こえるアリアの規則正しい寝息をBGMに、レオンは作業台に向かっていた。


彼の手元にあるのは、魔力伝導率に優れた希少金属『ミスリル』のスクラップと、かつて討伐した『飛竜(ワイバーン)の骨髄』だ。どちらも売ればそれなりの金になる代物である。


「お前の魔力出力を抑えられないなら、逆に『全て逃がす』構造にしてやればいい」


レオンは無愛想な顔のまま、しかしその瞳には錬金術師としての職人魂をギラつかせていた。


ミスリルを溶かし、飛竜の骨髄を触媒にして刀身を再構築していく。

ただ硬いだけの剣ではない。アリアが込めた過剰な魔力を、刃の表面から「推進力(ブースト)」として外部へ強制排出する特殊な回路を、錬金術でミリ単位で刻み込んでいく。


「……どうせ作るなら、俺の指示通りに完璧な囮(ヘイト)をこなせる最強の武器にしてやる」


そう毒づきながらも、彼の作業は朝チュンを告げる鳥の声が聞こえるまで、一切の妥協なく続けられた。


◆


「……ん、んん……。ハッ!? 私としたことが、こんな無防備に寝落ちてしまうとは……!」


翌朝。

飛び起きたアリアの顔面に、布に包まれた細長い物体が飛んできた。


「わっ!?」


「起きるのが遅い。さっさと準備しろ」


目の下にくまを作ったレオンが、コーヒーをすすりながら立っていた。


「レオン殿、これは……?」


「お前の新しい剣だ」


アリアが慌てて布を解くと、中から銀色に鈍く光る長剣が現れた。

見た目はシンプルだが、刀身の中心にはかすかに青いライン(魔力回路)が走っており、持った瞬間に手に吸い付くような完璧な重心(バランス)だった。


「こ、これは……!? 信じられないほど軽いのに、芯に恐ろしいほどの密度を感じる……!」


「お前の過剰な魔力を、刃の推進力に変換する排熱構造(エキゾースト)を組み込んである。それならお前が全力で振り回しても、自壊することはない」


「私のために、これを徹夜で……? レオン殿……!」


アリアの瞳が、感動のあまりウルウルと潤み始める。

無愛想で金にしか興味がないと思っていた男が、自分のために最高の専用武器を打ってくれたのだ。乙女心に響かないわけがない。


「ありがとう……! 私、この剣と共に、貴殿の背中を全力で守るぞ!!」


「勘違いするな。お前にこれ以上市販の武器を壊されると、俺の赤字が増えるから作っただけだ」


レオンは冷たく言い放つと、作業机から一枚の羊皮紙を取り出し、アリアの胸に押し付けた。


「ちなみにその剣の素材費と深夜の特急制作費で、金貨30枚だ。今月のお前の給料から、きっちり天引きさせてもらうからな」


「えっ……? き、金貨30……!? ひ、ひぃぃっ!?」


感動の涙から一転、絶望の悲鳴を上げるアリア。


「ほら、行くぞ。新しい剣の減価償却のために、今日は死ぬ気で魔物を狩ってもらう」


「お、鬼ぃーーっ!!」


泣き叫ぶ女騎士を引きずりながら、無愛想な戦闘錬金術師は今日も戦場へと出勤していくのだった。

本日もお読みいただき、ありがとうございます!


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