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シーン5:【終焉(フィナーレ)。『粉砕(ブレイク)』の咆哮】

「さようなら、古代の遺物ガラクタ!!」


踏み抜いた右足から伝わる大地(星)の反発力を、腰の捻りへ。

腰の捻りを、背中と肩の筋肉へ。

そして、すべてを、極限圧縮された右腕の超質量へと乗せて。


私は、一切の迷いなく、巨人の顔面へと右ストレートを叩き込んだ。


粉砕ブレイク』――ッッ!!!!


巨人の顔面に私の拳が触れた瞬間。

王城の地下から、すべての『音』が消え去った。

鼓膜が破れるような轟音すらも、圧倒的なエネルギーの衝突によって物理的にかき消されたのだ。


無音の世界の中、私の拳を中心に、空間に巨大な亀裂が走る。

三十メートルの巨人の装甲が、パラパラと砂のように崩れ落ちるのではない。

頭部から胸、胴体、そして足先へと、触れた端から『空間ごと』消滅していくのだ。


そして、私の一撃は巨人を完全に消し飛ばし、そのまま背後で明滅する『黒い太陽(炉心)』の中心コアへと直撃した。


ピキッ……。


無音の空間に、小さな、だが絶対的な『終わり』を告げるガラスの割れる音が響いた。


次の瞬間。


カッッッッッッ!!!!


視界のすべてを奪うほどの、純白の閃光。

黒い太陽が、内側に圧縮されていた星の魔力を支えきれなくなり、凄まじい衝撃波と共に大爆発を起こした。


「伏せろォォォッ!!」

ゼノヴァルが展開した多重の重力防壁が、私と仲間たち、そして(ついでに)後方で這いつくばっていたアルフレッドたちを衝撃から守る。


王城の地下から天へ向けて噴き上がっていた漆黒の光の柱が、純白の光の粒子へと変異し、一気に天空へと拡散していく。

王都の空を覆っていた絶望の渦が、まるで洗い流されるように霧散し、青く澄み切った『地上の空』が顔を覗かせた。


暴走していた星の魔力は、破壊的な熱波ではなく、温かな光の雨となって王都全体に降り注ぐ。

それは奇しくも、暴徒によって放たれた下層街の炎を鎮め、傷ついた人々の痛みを和らげる『癒しの雨』となった。


ズズン……。

完全に魔力を失った炉心の残骸が、ただの巨大な石の塊となって床に崩れ落ちる。


「……ふぅ」


私は、熱を帯びて赤く変色した右腕を軽く振り、深く息を吐き出した。

コートの右袖は完全に吹き飛び、インナーもボロボロだが、それ以外に致命傷はない。


「……ハッ。やりおった。本当に、純粋なエネルギー体を物理で粉砕しおったわ……!」


ゼノヴァルが防壁を解除し、信じられないものを見るような、しかしどこか誇らしげな目で私を見つめる。


「当然よ。私の拳から逃げられるものなんて、この世界には存在しないわ」


私は右腕の熱を魔力で冷却しながら、くるりと振り返った。


上空ではリシェラが「信じられない、信じられない!」と頭を抱えて飛び回り、ガルムたち黒狼軍団は、私の一撃の余波に恐れおののきながらも、深い敬意を持ってその場にひれ伏している。


そして。


「あ……あ……」


後方。

融解した石畳の上で、アルフレッドが完全に腰を抜かし、這いつくばっていた。

彼の目は虚ろで、口からは涎が垂れ、まるで神話の破壊神を直接見てしまった人間のように、ガタガタと全身を震わせている。


「アルフレッド」


私がヒールの音を響かせて歩み寄ると、彼は「ヒッ!」と悲鳴を上げて後ずさろうとしたが、足に力が入らずにもがくことしかできない。


「よ、許して……許してくれ、クローディア……! 私が、私が愚かだった……! 君のような……君のような絶対的な存在に、私は逆らおうとして……!」


「……勘違いしないで」


私はアルフレッドを見下ろし、氷のように冷たく、そしてどこまでも傲慢に言い放った。


「私は、あなたたちを助けたわけじゃないわ。私が愛する『世界あそびば』を、無能なネズミどもに壊されるのが我慢ならなかっただけ。……あなたたちの泥舟おうこくは沈まなかったけれど、それは私が『まだ沈める価値もない』と判断したからよ」


アルフレッドの目から、ポロポロと絶望と屈辱の涙がこぼれ落ちる。

自分が王国の頂点に立つ者だという自負も、私を支配下に置けるという傲慢さも、今の一撃ですべて完全に粉砕されたのだ。

彼に残されたのは、自分がいかにちっぽけで無力な存在であるかという、永遠に消えない『恐怖』だけ。


「さあ、ゼノヴァル、リシェラ。ガルムたちも」


私は彼に背を向け、仲間たちへと声をかける。


「お掃除は終わったわ。少し運動したらお腹が空いちゃった。……王都のメインストリートにある、私のお気に入りのカフェ、まだ焼け残ってるといいのだけれど」


「……この大惨事の後に、茶をしばく気か。貴様という奴は……」

ゼノヴァルが呆れたようにため息をつきながらも、その赤い瞳には微かな笑みが浮かんでいる。


「きゅいっ!」

モッチが私の胸元から飛び出し、誇らしげに胸を張った。


私たちは、王国の頂点に立つ者たちを絶望の底に置き去りにしたまま、光の雨が降り注ぐ王都の地上へと向かって、堂々たる足取りで歩き出した。


世界を救ったなどという、安い英雄譚はいらない。

これは、己の力だけを信じ、すべての理不尽を『物理』で叩き潰す、一人の悪役令嬢の痛快な反逆劇。


「さあ、次はどこで暴れようかしら!」


私の高らかな笑い声が、崩壊を免れた王城の地下に、いつまでも響き渡っていた。

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