シーン4:【限界突破の魔力圧縮(オーバー・コンプレッション)】
ゼノヴァルの『空間断裂』によって、巨人と黒い太陽(炉心)を繋ぐ魔力の供給線が完全に切断された。
猶予は、長くて一秒。いや、コンマ数秒の世界だ。
巨人の身体を構成していた超高熱のマグマが、瞬時に急速冷却され、ただの脆い黒岩へと変質していく。
その一瞬の静寂の中、私は右足を深く踏み込み、腰を沈めた。
(足りない……!)
ただの全力のストレートでは、この巨人の岩盤を砕けても、その後ろに控える三十メートル級の『黒い太陽(本体)』まで貫通しきれない。
圧倒的な質量を、さらに上回る『超質量』で圧殺するしかない。
私は体内の魔力の制御弁を、物理的に完全に破壊した。
全身の血管が青白く発光し、特級の魔力コーティングを施された肌が、限界を超えた熱で悲鳴を上げる。
だが、まだだ。まだ足りない。
「吸い込めッ!!」
私は自らの右腕を『核』に見立て、空間に充満している炉心の暴走魔力――私を焼き殺そうとしていた漆黒のフレアすらも、強引に右腕の渦へと巻き込み始めた。
「なっ……!? 馬鹿、やめなさいクローディア! 外部の暴走魔力を直接取り込むなんて、あんたの肉体が内側から弾け飛ぶわよ!!」
上空から、リシェラが顔面を蒼白にして絶叫する。
「黙って見てなさい! 私の身体の限界は、私が決めるのよ!!」
バチバチバチバチッ!!!!
周囲の空間が、私の右腕を中心にぐにゃりと歪む。
青白い私の魔力と、漆黒の炉心の魔力が、右腕の中で反発し合いながらも、暴力的な圧縮によって無理やり一つのエネルギー体へと融合させられていく。
耐えきれなくなった特注インナーの右袖が、一瞬にして塵となって消え去った。
右腕の筋肉が断裂し、骨が軋む音が、私の耳膜を直接打つ。
(痛い……痛い痛い痛い痛いッ!!)
だが、その激痛が、私の脳内に極上のアドレナリンを分泌させる。
生と死の境界線で踊る、このヒリヒリとするような感覚。これこそが、私が求めていた至高の『遊び(たたかい)』だ。
「きゅ、きゅいぃぃぃっ!」
その時、コートの懐に隠れていたモッチが、私の胸元からひょっこりと顔を出した。
モッチは涙目で私の右腕を見つめると、自身のぷるぷるの身体から、純白でひんやりとした『妖精の魔力』を一滴、私の胸元にポトリと落としてくれた。
スゥッ……。
その一滴が波紋のように私の全身に広がり、暴走寸前だった右腕の魔力回路を、ほんの僅かに、だが完璧に冷却・安定させた。
「……ふふっ。最高のサポートね、私の可愛い非常食」
私はモッチに微笑みかけ、再び前を向く。
右腕に宿ったのは、星を砕き、次元を穿つほどの、限界突破の超質量。
もはや光すらも逃げ出せないほどの、どす黒く輝く『極限圧縮』の輝き。
「おい、狂人! 準備はできたか! 空間の断裂が……もう持たんぞ!!」
ゼノヴァルが、両手から血を流しながら絶叫する。
切断された魔力の主脈が、再び繋がろうと蠢き始めていた。
「十分よ!!」
私は、完全に岩と化した三十メートルの巨人の顔面――その奥で禍々しく光る、黒い太陽の『核』を真っ直ぐに見据えた。
泥舟のネズミども。
よく見ておきなさい。
これが、あなたたちが恐れ、見捨て、そして今、助けを求めている『怪物』の、本当の姿よ。
「限界突破・魔力極限圧縮――ッ!!」
私の右足が、王城の地下の分厚い岩盤を、一番下まで完全に踏み抜いた。




