シーン2:【古代兵器の自己防衛機構(ガーディアン)顕現】
ゴォォォォォォォォォォンッ……!!
漆黒の魔力とマグマで構成された三十メートルの巨人が、顔の十字の亀裂から、鼓膜を破るような異音(咆哮)を放った。
ただ叫んだだけで、王城の地下を支える太い石柱が次々とへし折れ、天井から巨大な瓦礫の雨が降り注ぐ。
「……ッ、物理的な質量を持った防衛機構!? クローディア、気をつけて! アレは純粋な魔力の塊じゃない、周囲の岩盤を取り込んで装甲化しているわ! 近接格闘に特化した形態よ!」
頭上で魔力障壁を展開しながら、リシェラが叫ぶ。
「インファイト特化?」
私は、その言葉を聞いて。
唇をペロリと舐め、ゾクゾクと泡立つような歓喜の笑みをこぼした。
「最高じゃない!!」
ズズンッ!!
巨人が、その巨大な足で一歩を踏み出した。
それだけで局地的な地震が発生し、熱波と共に瓦礫が吹き飛ぶ。
そして、私を見下ろす巨人は、城の塔よりも太い右腕を高く振り上げ、私の脳天に向かって真っ直ぐに叩き下ろしてきた。
「潰れろ、なんて言ってるのかしらね?」
私は迫り来る巨大な拳の影から、一歩も引かない。
避けることなど、私の辞書にはない。
右の拳を腰だめに構え、体内の魔力を限界まで練り上げる。
「潰れるのは、アンタの顔よ!」
私は大地を蹴り砕き、巨人の拳に向かって、下から突き上げるような渾身の右アッパーを放った。
『魔力圧縮・昇天撃』。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
私の一撃と、三十メートルの巨人の拳が、真っ向から激突する。
信じられない光景だっただろう。
人間の小娘の華奢な拳が、数十トンもの質量と熱量を持つ巨人の一撃を、空中で『ピタリ』と受け止めたのだ。
「ギ、ギギィィィ……ッ!?」
巨人が、信じられないというように十字の光を明滅させる。
「どうしたの? 三十メートルもあるくせに、随分と軽い拳ね!」
私はアッパーで巨人の拳を弾き上げると、そのまま空中に跳躍し、弾かれた巨人の太い腕の上に着地した。
「ッ! 馬鹿な、あの熱量の上を走る気か!」
後方でゼノヴァルが驚愕の声を上げる。
「モッチ、熱くないわね!?」
「きゅいっ!」
懐でモッチが元気よく応えるのを確認し、私は巨人の腕の上を猛然と駆け上がる。
足元から伝わる超高熱のマグマも、私の特級魔力コーティングの前では、少し熱めの岩盤浴程度の温度にしかならない。
「オラオラオラァッ!!」
巨人が私を振り落とそうと左腕を薙ぎ払ってくるが、私はそれを紙一重で跳躍して躱し、空中で身体を捻って巨人の左腕に強烈な踵落としを叩き込む。
バキィィィィンッ!!
巨人の左腕の装甲(岩盤)が砕け散り、中のマグマが血のように噴き出す。
「まだまだァッ!」
私は巨人の肩まで到達すると、その顔面――十字の光が明滅するコアに向かって、弾丸のような速度で拳の雨を降らせた。
ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!
「あはははははっ! 硬い! 良いサンドバッグね! 私の拳を何発受けても壊れないなんて、感動しちゃうわ!」
私は狂ったように笑いながら、魔力を乗せた連撃を叩き込み続ける。
一発一発が、城門を容易く粉砕するほどの威力。
その圧倒的な暴力の嵐を前に、防衛機構であるはずの巨人が、完全に防戦一方となり、顔面から崩れ落ちそうに後退っていく。
『な……なんだ、あれは……。人間の、力なのか……?』
後方で、這いつくばりながらその光景を見ていたアルフレッドが、絶望と畏怖の入り交じった声で呟くのが聞こえた。
「おい、狂人! 楽しむのは勝手だが、遊びが過ぎるぞ!」
ゼノヴァルの声が響く。
彼の言う通りだった。
「ギォォォォォォォッ!!」
私の連撃で顔面を半分以上吹き飛ばされた巨人が、背後にある黒い太陽(炉心)から直接、莫大な魔力供給を受けた。
すると、粉砕されたはずの岩盤とマグマが、まるで逆回しの映像のように一瞬で再構築され、完全に無傷の状態へと戻ってしまったのだ。
「……あら」
私は巨人の肩からバックステップで飛び退き、床へと着地する。
「自己再生能力……しかも、炉心から無限に魔力を吸い上げているわね。これじゃあ、いくら私が殴ってもキリがないじゃない」
私は少しだけ息を弾ませながら、呆れたように肩をすくめた。
何度壊しても一瞬で元通りになるおもちゃなんて、最初は楽しくても、すぐに作業になってしまってつまらない。
「だから言っただろう、単細胞め。アレは炉心と繋がっている限り、無尽蔵のエネルギーで再生し続ける。……根本を断たねば、貴様の体力が先に尽きるぞ」
ゼノヴァルが私の横にフワリと降り立ち、漆黒の翼を広げながら冷たく言い放つ。
「分かってるわよ。……でも、どうやってあの太い魔力の『供給管』を断ち切るの?」
私が尋ねると、上空からリシェラがドヤ顔で舞い降りてきた。
「ふふんっ。そこは、第一級魔導研究員であるこの私と、そこの魔王の出番ってわけね。あんたはただの筋肉ダルマなんだから、大人しく私たちのサポートを受けなさい!」




