シーン1:【太陽を殴り飛ばす女、常識外れの初撃】
ゴォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!
霊廟の奥で膨張を続ける『黒い太陽(アポカリプスの炉心)』が、怒り狂った獣のような咆哮を上げた。
臨界点に達しつつある古代の魔力炉は、周囲の空間そのものを歪ませ、超高密度の魔力を『熱』に変換して無差別に撒き散らしている。
黒く淀んだ炎の波が、石畳をドロドロのマグマに変えながら、私の眼前に迫り来る。
常人なら触れる前に灰と化し、一流の魔導師が展開した何重もの結界ですら、数秒で融解してしまうほどの絶対的な熱量。
「……ッ、あっつい! クローディア、まともに食らったら炭の塊になっちゃうわよ!」
上空で魔力波の解析を行っているリシェラが、焦燥に駆られた声で叫ぶ。
「炭の塊? 私がそんな無様な姿になるわけないじゃない! 私の肌は、王都の最高級エステでも真似できない『特級の魔力コーティング』で守られているのよ!」
私は迫り来る漆黒の魔力フレアに対し、一切の回避行動を取らない。
ただ真っ直ぐに、最速の直線距離で、黒い太陽の懐へと突撃する。
「無茶苦茶な理屈だ! ……ええい、少しは我に頼ることを覚えろ、狂人!」
私の真横に並走する魔王ゼノヴァルが、呆れたように叫びながら右手を前方に突き出した。
「『重力回廊』!!」
ゼノヴァルの腕から放たれた目に見えない重力の波が、私と炉心を隔てる空間の『法則』を強引に捻じ曲げた。
迫り来る漆黒のフレアが、私の身体の数メートル手前で、まるで目に見えない円筒形のトンネルに弾かれるように上下左右へと逸れていく。
「……ふふっ、流石ね! 快適なトンネルをありがとう、ゼノヴァル!」
私は重力の回廊の中を、弾丸のような速度で駆け抜ける。
熱は完全に遮断されているわけではない。肺を焼くような空気が私の喉を刺すが、コートの懐にいるモッチを魔力で保護しつつ、私自身の体表を覆う魔力装甲をさらに分厚くしていく。
「ただの魔力の暴走……つまり、エネルギーの塊ってことでしょう?」
私は黒い太陽の眼前にまで肉薄し、右の拳を限界まで後ろに引き絞った。
「だったら……『物理的な質量』として、真っ向から殴り飛ばせるはずよ!!」
「なっ……!? 馬鹿な、純粋なエネルギー体を物理で殴るなど、原理的に不可能……!」
後方でリシェラが絶叫する。
「私の前で『不可能』なんて言葉を使うなァァァッ!!」
私は、己の体内の全魔力を右腕の筋肉と骨格に圧縮・融合させ、右拳に星を砕くほどの絶対的な質量を宿らせた。
魔法を編むのではない。
魔法というエネルギーを、純粋な『暴力』として使う。
「粉砕ォォォォォォォォッ!!!!」
私の右ストレートが、膨張する黒い太陽の表面――本来なら形など存在しないはずの純粋な魔力の壁に、真っ直ぐに叩き込まれた。
ギィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!!
世界が軋むような、おぞましい金属音が王城の地下に響き渡った。
私の拳が、炉心の絶対的なエネルギーと真っ向から衝突し、空間そのものがヒビ割れるような火花を散らす。
「……オラァァァッ!!」
私はさらに踏み込み、腰の回転と魔力爆発の推進力を拳の先に上乗せする。
パリィィィィィィィィィンッ!!!!
あり得ない音がした。
形のないはずの魔力の暴走体に、まるで分厚いガラスが砕けるような、巨大な『亀裂』が走ったのだ。
「……信じられん。本当に、エネルギーの奔流を『物理』で殴り割ったというのか……!」
ゼノヴァルが、赤い瞳を限界まで見開いて私の背中を見つめている。
「ひび割れたわよ、古代のポンコツ! さあ、中身を見せなさい!」
私が亀裂の入った炉心に向かって追撃を放とうとした、その瞬間。
ドクンッ……!!
黒い太陽が、激しい痛みに耐えかねた生き物のように、ひときわ大きく脈打った。
そして、表面の亀裂から噴き出した魔力が、ただ四散するのではなく、明確な『意志』を持って形を成し始めた。
「……クローディア、下がれ! 炉心の自己防衛機構が起動したぞ!」
ゼノヴァルが鋭く警告を発する。
「あら?」
私は拳を引き、軽くバックステップを踏んで距離を取る。
ひび割れた黒い太陽から溢れ出した魔力が、周囲の瓦礫や融解した石畳を取り込み、瞬く間に一つの巨大な姿を形成していく。
それは、身長三十メートルにも及ぶ、漆黒の魔力とマグマで構成された『光と炎の巨人』だった。
顔には目も鼻もなく、ただ十字の光の亀裂が走っているのみ。両腕は城の塔柱のように太く、全身から世界を焼き尽くすほどの熱量を放っている。
「……防衛機構ね。中身を守るための番犬ってところかしら」
私は首を左右にコキコキと鳴らし、にこりと笑った。
「良いじゃない。サンドバッグには、やっぱり『殴りがいのある形』をしていてもらわなきゃね!」




