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シーン2:【水鏡に映る喜劇、燃え上がる王都のパノラマ】

「……これが、数日前まで栄華を誇っていた大国、ルーヴェル王都の姿か」


温泉の縁に腰掛けたゼノヴァルが、水鏡に映る光景を見下ろして低く呟く。

映像には音声はない。だが、揺らめく炎と崩れ落ちる建造物、そして逃げ惑う人々の姿からは、絶望的な悲鳴が今にも聞こえてきそうだった。


私はインナーを脱いで新しいものに着替える手間を惜しみ、そのまま足だけを温泉に浸して、水鏡を覗き込む。


「ふふっ……見事な燃えっぷりね。私が計算していたタイムリミットより、半日は早いかしら。随分と張り切って自滅の道を早歩きしたようね」


水鏡の視点は、王都の上空から全体を俯瞰するような形で動いている。

まず映し出されたのは、王都の南側に広がる『下層街』。

かつては活気に満ちた市場が立ち並んでいた場所だが、今は完全に暴徒と化した民衆たちによって占拠されている。

彼らは手に手に松明や農具を持ち、穀物を隠し持っていると噂される貴族の商館を次々と打ち壊し、火を放っていた。


「食糧暴動……ね。人間というのは、腹が減れば簡単に理性という薄皮を剥ぎ捨てる」

ゼノヴァルが冷ややかに分析する。


「ええ。私が裏で市場への供給量を微調整していたからこそ、あそこの『治安』は保たれていたのよ。でも、馬鹿な貴族どもが自分たちの懐を肥やすために倉庫を封鎖したから、こうなるのは必然だわ」


次に水鏡の視点が移動したのは、王都の治安を維持するはずの『近衛兵団の兵舎』だ。

しかし、そこでも信じられない光景が繰り広げられていた。

銀の鎧を着た近衛兵たちが、なんと自分たちと同じ王国の紋章を掲げる『前線防衛部隊』の兵士たちと、剣を交えて殺し合っているのだ。


「あらら。横領の件で、ついに内乱に発展したのね」


私はクスクスと笑う。


「前線の兵士たちは、国境で魔獣や隣国の脅威に命を懸けているのに、給金も物資も届かない。一方で、安全な王都にいる近衛兵たちは、横領した金で贅沢をしている。……そりゃあ、怒り狂って王都へなだれ込んでくるわよね。私が補填していた『隠し資金』が途絶えた途端、これだもの」


「……貴様、本当に一人でこの国の根幹を支えていたのだな。この惨状を見る限り、あの王国の構造は『クローディア=エルヴァンシア』という一本の細い糸で無理やり縫い合わされていたに過ぎん」


ゼノヴァルの言葉に、私は肩をすくめる。


「糸じゃないわ。私は分厚い『鉄板』よ。……でも、その鉄板を自分たちで『邪魔だ』と言って奈落へ蹴り落としたのだから、自業自得という言葉すら生ぬるいわ」


リシェラが水鏡の視点を、さらに王都の中心――『王城』へとズームさせる。

王城の周囲を覆っていた、青白い『大結界』。

外敵の侵入を完全に防ぐはずのその絶対防壁は、まるで寿命を迎えた魔導球のように、チカチカと明滅を繰り返し、所々に巨大な『穴』が開き始めていた。


「結界の魔力供給が不安定になっているわ。もう数時間もすれば、完全に消滅するわよ」

リシェラが深刻な顔で言う。


「そうね。結界が消えれば、王都の外周に集まってきている野生の魔物たちが、血の匂いと混乱に釣られて一斉になだれ込んでくるわ。……まさに地獄絵図クライマックスね」


私は、自分が大切に育ててきた(といっても、裏から支配するためだが)庭が、見事に焼け野原になっていく様を、極上のティータイムのような気分で鑑賞する。

悲しみはない。怒りもない。

あるのは、ただ純粋な『嘲笑』だけだ。


「さて、リシェラ。肝心の『主役たち』の様子を見せてちょうだい。あの馬鹿な元婚約者と、私を陥れた豚(侯爵)は、今どこで震えているのかしら?」


「性格悪いわねぇ、あんた……」

リシェラが呆れながらも、指先で水鏡の映像を操作する。


映像は、王城の最上階。

つい数日前、私が豪奢なドレスを切り裂き、奈落へ落とされた、あの『白亜の大広間』のバルコニーへと切り替わった。


そこに映し出されたのは、金糸の髪を振り乱し、顔を土気色に染めた王太子、アルフレッドの姿だった。

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