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だいぶ間があいてしまいました。
Side:Luna
下準備は昨夜のうちに粗方整っていた。
神というのは、こちらが駒として扱うならこれ以上ないものだ。
勿論それなりの制約もあるが、それでもクリューベルを計画に加えたことで一気に事態は終結へと進んだだろう。
眠りから覚めた私は上機嫌にヒヴィを揺り起こし、彼に悲鳴を上げさせた。
「ごめんってヒヴィ。つい気持ちが逸ったと言うか、ね?」
「別に我は気にしていないし怒ってもいないぞ…」
「じゃあもうちょっとこっちに来てよ。周りに変な目で見られてるし」
私とヒヴィの間に開いた距離はゆうに三メートルほどはあるだろう。
起き抜けに至近距離の女(私である)を見たヒヴィは盛大な悲鳴を上げてそのまま勢いあまりベッドから転げ落ちたのだ。
その事を根に持っているのか久しぶりの異性との急接近(物理)に過去のトラウマが刺激されたのか、こんなに距離をとられている。
私の言葉に少々拗ねた様子の彼は、それでもきちんと近づいてきてくれた。
「段々ルナは我に遠慮がなくなってきている…」
「まあそれなりに一緒に過ごしているとどうしてもね。
それに君だって遠慮がなくなってきているだろう?
私からしたら嬉しいことだけど、君が嫌なら気を付けよう」
「そ、そういう訳ではないぞ?」
うーん、こういうところ、ちょっとシルヴァと近いな。
何て言うか、純粋だ。
「ありがとう」
「うむ。………ところで、寝起きにいきなり戦場に行こう、と言ってきた理由を聞きたいのだが」
あ、そう言えば特に説明もなしに朝食を詰めこんで最前線まで連れてきちゃったんだっけ。
「実は戦争を終わらせようと思ってね。
雲雀がいると色々煩く言われそうなことをやらかすつもりだから、君がいる午前のうちに勝負をつけようと思ったのさ」
「………今日か?」
ヒヴィは複雑そうな顔をした。
これでようやく仕事も減るのに、嬉しくないんだろうか。
「そうも簡単に言い切られると我らのこれまでが何だか虚しくなる…」
「あ、そういうことね」
それについては仕方がない。
この世界に住んでいるからなのかもしれないけど、根本的に魔族も人族も勝敗をつけることでこの戦争を終わらせようとしているから。
その点私の策は言ってしまえば裏技的なものだ。
ただ帰還条件を満たすためだけに考えたもので、その方法を用いて戦いを終わらせた後にこの世界がどんな道筋を辿っていくかだとか、そういうことは一切考えていない。
まあヒヴィとは親しくなったから、そこまで酷いことになるような方法をとることはないけど。
「勿論、実行する前に我に説明をしてくれるのだろう?」
「うん、それは流石にね」
私の返事にヒヴィは嬉しそうに微笑んだ。
「ヒバリが、ルナは自分勝手に動くから用心しろと言っていた」
………うん、あいつは後で殴る。
戦場は相変わらずの騒がしさである。
両陣営が色んなところでぶつかり合って……まったくややこしくなるじゃないか。
ちょっと私達と聖女以外下がっててくれないかな。
「ヒヴィ、準備は大丈夫かい?色々理解は追い付いてる?」
「頭痛がするが……頑張るぞ」
ヒヴィは疲れた顔で私の隣に立っている。
ちなみにここは最前線。
もう少ししたらセイとシルヴァもここへ来るはずだ。獲物を連れて。
私達の首をとろうと果敢にも向かってくる命知らずな輩はその名の通り消し炭にしてやった。
だっていちいち相手するのも面倒だし…
ほんと、早く本命が来てくれないかな。
とか思っていたらやって来た。
当然のようにシルヴァの転移魔法陣の中からセイに抱かれてやって来たのには、流石の私も不愉快な気持ちになる。
顔に出ていたのか殺気に出ていたのかはわからないけれど、私の様子にヒヴィは心配そうにそっと手を握りしめ、シルヴァは申し訳なさそうにしながらも少し嬉しそうな顔をしている。
シルヴァには後で色々と言っておかなければならなさそうだ。
「よくぞ参ったな、汚れた聖女よ」
「至高神から信託が下ったのです。
今日この場ですべての決着が着くと。
これも我が国への神のお導きでしょう」
残念。私からの伝言だよ、それ。
昨日の夜のうちに私は色々と神に指示を出した。
聖女が言っているのがそのうちの1つだ。
簡単に言うと今日のこの時間にここ集合!それで勝敗を決めてしまえ!という内容を、神っぽく伝えてもらっただけである。
クリューベル曰く、夢に出てくるのはこの世界の神としての役割のようなものだから過剰な干渉にはならないらしい。
あっちの世界で神が教主の身体にのりうつって何かするのと一緒のくくりなんだろう。
ちなみに聖女だけに伝えて揉み消されても後々また作戦の練り直しが面倒なため、この戦争に関わっている人族側の主要人物、人族の貴族、平民のうちからランダムに百人くらいこれを夢の中で伝えてもらった。
おかげで少なくとも人族の方としてはこの場で勇者アンド聖女が魔王と戦うというのが共通認識としてある。
直前に向かってきたのは武勲を立てたいとか忠誠心とか、そういうのがある人間なんじゃないかな。
魔族の方はヒヴィからトップ同士でドンパチするから入ってくるなと厳命が下っているため問題ない。
ちなみに朝早くからヒヴィを連れ出したのは計画の説明も勿論だけど、この命令をさせるためでもあった。
「ふっ、それはどうだかな」
聖女の言葉を鼻で笑って、ヒヴィは私の方を見た。
うん、計画通りだね。取り敢えず速攻を決めさせてもらおう。
「【喋るな聖女】」
実際のところ聖女の命令ってさ、口が利けなかったら意味がないよね?
そういう使役の術式は全部弱点が同じだ。
以前それを打ち破った経験のある私に、以前の相手より格下の塵屑風情が勝てるはずがないんだ。
そりゃあ使役されたのがセイとシルヴァだったから、下準備は色々と大変だったけど。
「………!」
弱い魔力しか持たない聖女に私の術が破られるはずもなく、彼女の口が開いてもそこから音はこぼれない。
――ただまあ、前に何かしら命令をしてあったんだろう。
セイは聖女を安全な場所におろし(私の目の前にいる時点で安全も何もないのだが)、剣を抜いてこちらへ迫ってきた。
まあそれだって予想通りだ。
「シルヴァ、頼んだよ」
「ん。任せて」
単純な速さではセイよりシルヴァの方が上だ。
彼より早く私に近づきセイの剣を受け止めたシルヴァは、嬉しそうに獣の耳を揺らした。
途端に人族側に動揺が走る。
まあそうだよね。冷静に考えて獣人はこの世界で魔族扱いだろう。
聖女も驚いた顔でシルヴァを見ているから、彼女はそういう命令を二人にしなかったってことだ。
その辺りからして詰めが甘い。
魔術で以て隷属させたのなら、その使役についてのどんな情報も聞き漏らしてはいけない。
“聖国”の魔術師などはその点抜かりなかった。
私のそれまでの人生、それに関わる物事のすべてを私に語らせ、その中の有益な情報をすべて書き記したのだから。
まあ聖女の驚きに関して言えば、シルヴァの姿だけでなく制限に逆らったことも含まれているんだろうけど。
「は、……んだよ、何でお前は自由に動けてんだダンボール!殺すぞ!」
シルヴァと戦った(フリだったけど)時から分かっていたことだったが、身体は操られても思考、言葉に関してはその範疇ではないらしい。
勿論言葉に関しては術者が命じればどうとでもなっただろうが。
「ごめんねセイ。シルヴァについては二人っきりになったときに術を解いておいたんだ。
その後もスパイとしてそっちで操られているフリをしてもらっていたんだよ」
「るな……月、ちゃんと俺達のことわかってるの!?」
減点だ。私の名前をここでそう呼ぶべきではない。
まあ色々気が抜けたんだろうし、この世界の人間には発音できないからいいけど。
斬撃を繰り出しつつ感極まるセイに、私は微笑みを返しておいた。
「勿論だよセイ。そもそも最初から一欠片だって忘れてはいないとも。
だというのに君達はすぐに私を疑って……悲しかったな」
「そ、それは……」
「まあそれを利用させてもらったのだからいいけれど。
さて、それじゃあ君の方も術を解くから、大人しくしていてね。物理的に」
今回は私もシルヴァに加わってセイを抑え込む係だ。
流石に私とシルヴァの二人がかりではセイも上手いこと反撃はできない。
それにセイは物理特化で魔術に弱いしね。
二人の重ね技で魔術をかければ、案外簡単に行動不能に陥った。
この場合は支配に対するセイの抵抗も味方になってるんだろうけど。
元々聖女がしていた命令もそんなに強いものじゃなかったんじゃないだろうか。
精々が私を守ってとか、そういう感じだろう。
こうして物事の端々から感じる聖女の未熟さに笑ってしまうと共に憎くなる。
どこまでもあの女は役不足だ。
そしてそんな存在が私達を煩わせたことが許しがたい。
「ヒヴィ、いいかい?」
「無論。【新たな鎖をここに創り出せ。この大地と結ばれし誓約が果たされるまで】」
私がシルヴァにしたように、(私はこっちの魔術を無詠唱とか省略とかできないから丸々詠唱したけどヒヴィは省略詠唱だ)硬直したセイの身体をいくつもの鎖が束になって覆う。
ヒヴィの説明によるとその鎖が聖女の妄執――言ってしまえばセイ達を操るための制限の魔術とかが形になったものらしい。
ヒヴィの唱えた魔術でその鎖は壊れて空気に溶け無効化。
最後に残った一本の鎖は召喚術の大本、つまり術者の提示した条件をクリアしたら元の世界に帰還できるっていう内容の術が具現化したものだから壊さないでそのままにする。
繊細な術ではあるけれどあまり魔力を使わないそれを無事に終え、ヒヴィは私を安心させるように一度頷いた。
まだ私とシルヴァの術がかかっていて動けないセイをゆっくりと解放する。
「セイ……動けるかい?」
完全に拘束を解いた瞬間に、彼はその場にペタンと座り込んだ。
気が抜けたんだと思う。
周囲からの攻撃を警戒してくれているシルヴァに内心感謝しながら傍によれば、セイは泣く一歩手前といった表情で私を見上げた。
結構、無理させたんだと思う。セイはネガティブだから、色々思うこともあったはずだ。
「セイ。セイルート」
私も他人の事は言えない。例え聖女が近くにいても、本当の名前を言ってしまうんだから。
さっきの会話でシルヴァの名前だって口に出してしまった。
勿論私が傍にいるのだから、あんな女にそうやすやすと彼等の名前を紡がせたりはしないけれど。
「…………っ」
セイは一瞬、本当に泣きそうに顔を歪めて、でもそれを隠すように私の手をとって自分の顔に押し付けた。
ちょっとだけ湿ってる。普段なら絶対に外で泣いたりしないのに。
「ほら、立ってよ。シルヴァがうずうずしているし、周りも戸惑っている」
「酷い……感動の再会だよ?俺がどんな思いで今までいたと思ってんの?」
「それこそ私の台詞だ。一言だけ言っておこうか。
今の君達は聖女臭くてかなわない。正直なところあまり近づきたくないな。
一体君達は人族の国で何をしていたんだい?…………乱交?」
香水くさいし女の体液と男の体液が混ざったような臭いもするし……
獣人が身体の一部になっているだけあって私は鼻もいいのだ。
大抵ききすぎるから五十パーセントくらい機能をダウンさせているけど、それでも臭う。
「くさ、……ら、んこう?………って、何それ、違う、誤解だ絶対!!いきなり何言いだすの!?」
流石に驚いたらしいセイは素早く立ち上がって私の両肩を掴み強く揺さぶった。
話を聞いていたのだろう、シルヴァもカッと目を見開いてこちらに迫ってきている。瞳孔は完全に開ききっていた。
「ルナ、本当に誤解!俺達はそんな事してない!
臭いはあの聖女と従軍していた兵士!聖女の部屋で毎晩一日おきに聖女と兵士がしていただけで、俺達は日中無理矢理聖女に付き合わされていて部屋にいさせられてたから臭いがついただけ!!本当!!」
うん、まあそうだろうとは予想してたけど。
ただ臭いのは本当だからあんまり風上に立たないでほしい……
「ハァ!?そんなことになってたなら教えろこの馬鹿犬!
お前が何もしないからこんなこと月に疑われてんだぞ!!」
「何にも気づかない阿呆に言われたくない。
お前はいつも平気そうな顔で聖女の寝台に並んで座っていたが、俺はいつも吐き気を堪えてた。
鈍感なお前と違って俺は色々と敏感で繊細だから、聖女と一緒にいるのは耐え難かった」
「どこが繊細だ、どこが。聖女の対応俺に押し付けてボケッとしてただけだろうが!
これだからオコチャマって困るよね、大人が必死こいて色々頑張ってるときに暢気にしてて」
「ふん、あの場で何も察しないのが大人か?笑える冗談」
「………わかった、わかったから喧嘩しない」
最終的には私を放って睨みあいを始めた二人の肩を軽く叩く。
それだけで黙るんだから、最初から喧嘩なんか始めなければいいのに。
……っていうか、やけに顔がゆるんでるな。そんなに喧嘩したかったんだろうか。
「取り敢えず戻ったら早急にお風呂に入ってね。
さて、後は戦争を終わらせるだけか……はい、君達はここで待機ね。捕虜扱いってことで」
丁度二人とも近くにいるし、亜空間にポイしておこう。
シルヴァの腕ならあそこから抜け出すのに五分もかからないだろうから、一応足止め要員に式神十体かな。
これで五分から十分はこっちに出てこられないはず。
「と、いうわけで勇者は私に負けた。聖女、君はどうするのかな?」
厭味ったらしくにっこり笑った私の隣にヒヴィが並ぶ。
ごめんね、三人で騒いじゃって。恐らく戦争の終結は目前なのに近寄りがたかっただろう。
「我が魔国の勝利だ。人族の兵士よ、誰か我こそはと名乗り出る者はいないのか?今ならば我が相手をしてやろう」
勇者が消えた今、人族の兵士は揃いも揃って魔族のただの兵にすら太刀打ちできない木偶の坊だ。
勿論その中にはそれなりに能力を持った人間もいるんだろうけど、魔族の身体能力や魔力とは比べることすらできない。
クリューベルがそれなりに見込みがある、と言っていた人間(夢の中で紹介されたのだ。ついでにこいつらだけは殺さないでと懇願された)の顔もちらちら人垣のなかにいたが、これから先のことに不安や心配を抱く表情ばかりで聖女や勇者が倒されたことへの不満や怒りは見られない。人望がないな、聖女。
「………ふん、誰も何もない、と」
ヒヴィはにやりと笑って(まさに魔王って感じの笑い方だった)座り込んで動けない聖女を蹴りつけた。
わーお。悪役ぅ。まあ私も混ぜてって思うだけだから嫌悪とか皆無だけど。
しかも人族側も何も言わないし。たぶんマトモなやつはこれまでの事からむしろ清々したって感じで、聖女の悪役仲間は何か言ったら自分も聖女のようになると思って聖女を見捨てているんだろう。
「この女は魔族の仇。本来ならば顔を焼き決して死なぬよう術を施し拷問にかけるが……そうだな、まあ我は許そう。それほどこの女に興味を向ける価値もない。
それに人族の国を支配するのも面倒だ。矮小な存在をわざわざ飼うなど……考えられんな」
そう言いつつ頭を足でぐりぐりするヒヴィは魔王の鑑だ。
「でもヒヴィ、それじゃあつまらないよ。
それに人族は狡猾だ。またいつ勝手な理由をつけて攻めてくるかわかったものじゃない」
「ふっ、それも一理あるな。では我が妃よ、そなたならどうする?」
「んふふっ、決まっているだろう?」
私はセイ達を収納した亜空間とは違う空間を開き、槍を取り出した。
私が作った、ただの槍よりは丈夫だけど硬くはない槍である。
「人族の王宮ってどのあたり?」
「ここから北の方角だ。距離にして60キロはあるか……」
北ね。あ、発見。千里眼の魔術ってこういうとき便利だよね。
丁度人族の王は謁見の間のような室内で豚のように肥えた身体を椅子に預けて動く様子はない。狙いやすい的だ。
「よっ、と」
私は彼めがけて槍を放った。投擲である。
魔術でもいいんだけど、それだと距離がありすぎてここにいる人間達に伝わりにくいからね。
その点私が北の上空に投げた槍はそのまま太陽の光を反射して(分かりやすいように綺麗に輝く銀のボディをしているのだ)、そのまま流れ星のように空を流れた。
無事北の方角に飛んだ槍を千里眼で追えば、きちんと国王の身体にヒットする。
まあオーバーキル気味にその周辺十メートル圏内を巻き込んでのちっちゃい隕石なみの衝撃が城を襲ったんだけど、それは仕方がない。
ちなみに槍も衝撃で粉砕している。あれくらいの硬さが空中で砕けず、かつ目標物に当たって粉々になるちょうどよさなんだよね。
あれより強度が落ちたら敵に当たる前に槍が壊れるし、かと言って剣を作るときみたいに全力をそそいで作ると周囲の被害が甚大になる。あと私が槍を回収しないといけなくなる。
その点から言ってあの槍は最適だ。亜空間にはいつでも投げられるように百本以上が収納されている。
まあそんなに槍投げする機会もないんだけど。
「これで人族の王は死んだ」
私の言葉に人族はザワついた。
何人かが城と連絡をとるためにだろう、人垣から抜ける。
それを遮ることはせずに、私は最後の大仕事にとりかかった。
「さて、それじゃあここで大地を分けようか。
そもそも互いに干渉できる距離にいるから駄目なのさ。
こんなに種族の力がかけ離れてしまっては、共存なんてそもそも不可能だ」
「一理ある。我も人族にはうんざりだ。我が臣民らもそうであろう?」
振り返って言うヒヴィに魔族の民は歓声で応えた。
一応重役とかにはこの戦争の終着点について説明済みだ。
皆異論はなく、むしろ大喜びだった。
「【国境線で割れろ】」
グラリと地面がかなりの幅で揺れた。
そのまま地響きがうなり大地に亀裂が走る。
そこから私達の目の前でぱっくりと地面が裂けた。
クリューベルによると、この世界は平面らしい。
そんな馬鹿なと思うが異世界だから仕方がない。異世界マジックだ。
そして海とかそういうものはなく、水は各地に点在する湖から供給されているのだそうだ。
つまり大陸は私達が立っているこれひとつだけ。
なので私は簡単に二分割してみた。人族の大陸と魔族の大陸を作ってみたのだ。
地層の大分下の方ではもちろん地面は繋がってるけど、そこは今いる場所から何千、何万キロも下方だ。
「【聖女以外の人族に分類される存在はみんなあっち。
特例で魔族と愛し合ってたりハーフがいたらこっち】」
「………本当に不思議な詠唱をするのだな、ルナは」
隣でヒヴィが興味深げな顔をしていたが知らん顔をしておいた。
どうせ変な呪文だ。でも中二病よりよっぽどいいと思う。
「【あと結界。私と私が触れているもの、ヒヴィ以外は通行禁止ね】」
半分になった大地のあちら側には人族、こちら側には魔族と私。
亀裂だけだともしかしたら侵入者が出ちゃうかもしれないから、一応厳重に結界もね。
むやみに相手側が見えたらそれはそれで問題を呼びそうだし、反対側の大陸が見えないように結界は白く着色した。
「………さて、じゃあヒヴィ、私はちょっと聖女と向こうに行ってくるから」
「我も着いて行くか?」
「いいよ、後の処理とかあるだろう?
それにもうすぐ私の恋人達が閉じ込めた先から出てきそうだ。
たぶん私がいなかったら大暴れするから、魔王城に閉じ込めておいて」
ヒヴィは嫌そうな顔をした。
本気で私に着いて来たそうな目でこっちを見ている。
「大丈夫、一応説得役も用意してあるから」
言葉と一緒に式神を出した。幼女バージョンだ。
二人とも少々ロリコンの気でもあるのか、案外熟女バージョンとかそのままバージョンより比較的穏便に相手をしてくれる。
ちなみに一番嫌そうな顔をするのはそのままバージョンだ。コレジャナイ感がすごいらしい。
『君には取り敢えずセイ達が魔族に襲われないように、周囲に私の知り合いだって伝えて欲しいんだよ』
「あ、あとお風呂も入れてあげて」
これは割と本気で。
ルナが二人!?とかざわついてるヒヴィと周囲への説明は勝手に式神に一任し、私は依然として声が出せないままでいる聖女を引きずって結界をくぐりぬけた。




