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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
嘘に漂う雲の白
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13

Side:Luna




結果として私達の作戦は上手くいった部分もあり上手くいかなかった部分もあった。

上手い事騙し通した(はずだ、たぶん)おかげでシルヴァ達に何かあった様子はなく、シルヴァは依然として魔術がかかったままだと疑われていない(ヒヴィが魔術で探ってくれた。私の術だとこの世界に馴染みがないので目立ってしまうのだ)。

しかし上手く騙し過ぎてしまったのか、相手側は思っていたよりも慎重なのか、翌日である今日、セイ達が戦場に出る気配は全くと言って無かった。

こうなってしまうとこちらとしては相手が出てくるのを待つしかなく(昨日あんなに立場が上っぽい発言したのに自分からいくなんて無理だ)、私は魔王城で暇を持て余していた。

ヒヴィか雲雀が戦場に立つなら私も戦っただろうけど、魔国の兵士達は魔王様は勇者と聖女の相手を、と言って聞かないらしい。

まあ国王が最前線で戦っても、士気はあがるけど兵士としては同時に微妙な心境なんだろう。

それにこの世界の人間ってひ弱だし。確かに魔王が出るまでもない相手だ。


そういうわけで、簡単にまとめると私とヒヴィ(今は午前中である)は戦時中だというのに城でごろごろしていた。


「退屈ではないか?」


「うん?」


かけられた声に私は顔を上げて転がっているベッドからヒヴィの方を見つめる。

私は単純にごろごろしているがヒヴィは国王らしく書類に目を通しながらごろごろしているのだ。


「いや、私はこういう風に何もせずにいるのは得意だし好きだよ。

ヒヴィは逆に目障りじゃないかい?仕事をしているのに暢気にしているやつが目の前にいて」


私だったら手伝えよと言いたくなる状況だ。

とは言っても異世界の人間でこの国と直接の関与がない私相手であっても大切な書類を見るべきではないため、ある意味手伝いもできない状況なのだが。

その辺りを分かっているんだろう、ヒヴィは涼しい顔で気にならないと言ってくれた。


「それにこれももう終わるところなのだ。

後は特に予定もないからルナも城内を歩き回れるが、どこか行きたい場所はあるだろうか?」


「うーん、ちょっとこの国って言うか世界に興味はあるけど……」


一応私は異世界の人間でありどこの誰とも知れない存在だ。

だから基本的に魔国ではヒヴィか雲雀と一緒でない限り出歩いたりしないようにしている。

色々難癖つけられるのも面倒だしね。


「興味があるなら色々と案内するぞ?」


「ふふっ、大騒ぎになりそうだからやめておくよ。

それにどちらかと言えばこの世界より――そうだな、君達に興味がある」


「達……?」


「君と雲雀。どうして雲雀がここに夢トリップすることになったのかとか、どんな風に君達が仲良くなったのかとか、ちょっと気になるんだよね」


ちょっとどころではない、実際はかなり、だ。

雲雀は結構好き嫌いが激しい性格だし、私と陽に起こった事件のこともありこういった魔術的な――そして異世界が関わるような話は嫌悪の対象になっていてもおかしくない。

なのにどうしてここまで友好的な関係が築けているのか、私からしたら興味深い話だ。


「そんなものか?我としてはそこまで興味を引くような話ではないと思うが」


「それは君が当事者だからさ。差し支えなければ話して聞かせてよ。

勿論、君がいいと思うところまでで構わないからさ」


私の言葉にヒヴィは考えるように少しの間唸って、持っていた書類に何かを書き記してからテーブルに置いた。

立ち上がって私の方まで移動してベッドに腰掛ける。どうやら話してくれるらしい。

沈み込んだマットの動きに合わせて寝返りをうってヒヴィの方に身体をよせれば一瞬警戒されたがすぐに身体の力は抜けた。

一緒に過ごしてこれで四日目になるが、そう簡単に女性恐怖症が治るわけではないらしい。


「それほど面白味のある話ではないと思うが……そうだな、そもそもの始まりは我が四十五回目の離婚をしたことだ」


「そ、そうなんだ……」


そんなのが始まりってどうなんだろう。

と言うかどれだけ離婚しているんだ。


「……誤解の無いように言っておくが、全て我の望んだ婚姻ではないし、向こうが勝手に来て勝手に帰って行ったのだ」


「あはは、わかってるさ。それで?」


私の返しがあまりにも軽かったからだろう、ヒヴィは少々疑うような顔をしつつも続きを口にする。


「その辺りで我も嫌気がさした。

勿論前々から面倒だと感じてはいたのだが……我は王であるし、妻を持ち子をなすのは務めだ。

しかし始まった戦争も終わらず書類仕事は増えるばかりだし、妻になりたがる女はどれも同じようなものばかりだし……老臣達が我のことを心配してくれる気持ちもわかってはいたのだが…」


「堪忍袋の緒が切れた……いや、ちょっと違うか。

なんかまあ限界になって自棄になったような感じがするね」


「その通りなのだ。我はその日一日中部屋に閉じこもり、もう女はうんざりだ、仕事もしたくないと訴えた」


「…………」


何ともいいにくい。

ヒヴィなりに本当に限界だったんだろうけど、ちょっとそれは…

私の表情から色々と察したのかヒヴィも目を逸らしている。


「我も流石に今では反省しているぞ。

それで、その、そのまま不貞寝をしてな……丁度それが至高神とまみえることのできる日だったのだ」


なんという偶然。

ヒヴィとしてはそんな意図はなかったらしいが、彼の深層心理が神からの助言を求めそれに神が応じたらしい。


「至高神は我に、ならば助力をしようと言ったのだ。

うってつけの者がいる。相手にとってもこれはまたとない機会となり、一石二鳥なのだと」


「雲雀にとっても……?雲雀は異世界に来たかったってこと?」


そんなこと思いもしなかった。

雲雀は陽の補佐をするのが生きがいのような男だ。

大抵陽に付き従っているし(付き従っている、と言うか二人でつるんでいると言った方が正しいかもしれない)、彼自身家の事もあるだろうし、例え夢の中限定と言えどそんなことを望むだなんて私からしたら考えられない。

ただヒヴィはその言葉の真意を知っているのか、意味深に微笑んでそうなのだ、と頷いた。


「そのまま夢の中で至高神を交えて、我とヒバリは色々な話をした。

お互いの事、周囲の状況、考えていること………そういった話し合いの中で我はヒバリのことを信頼できる者だと思ったし、ヒバリになら身体を貸したいと思えたのだ」


「ふーん。何だか……結局重要なところは秘密なんだね」


そこは男同士の秘密というものなんだろうか。

雲雀が何で異世界に来たがったのかとか、聞いてみたかったけどこの様子じゃ教えてはくれなさそうだ。

ヒヴィもそれは秘密なのだ、と可愛らしく唇の前で指を立てている。


「だが気になるのならヒバリ本人に聞いてみてはいいのではないか?

ヒバリもルナになら………いや、もしかしたら言ってくれないかもしれない」


「きっと教えてくれないよ。あいつ、私にばかり意地悪をするからね」


「しかしルナはそんなヒバリも嫌いではないのだろう?」


うっ………

少し前にヒヴィに言ったことがこんな風に返って来るとは。

今度は私が目を背ける番だった。
















「それじゃあ寝るか。いいか、ちゃんと神サマに会いたいって思いながら寝ろよ?」


「わかってるさ。じゃあ君とはまた明日の午後にね」


夜になり色々と口煩く注意をしてくる雲雀に生返事を返せば布団が顔にまでかぶせられた。

まったく雑な男め。しかも異世界に来たかった理由を聞いても結局教えてくれなかったし。

さて、この世界の神はきちんと私の求めるまま、夢の中に現れてくれるだろうか。


まあ現れなかったら仕方ないから人族は絶滅させるしかないよね。


そんなことを思っている間に私は眠っていたらしい。

自分の寝つきの良さに感心するばかりだ。

一応神に会うのに緊張感は皆無。基本的にレア度が低いよね。

普段からちょくちょく神に会ってるから仕方ないけど。

それに神がこんな――オドオド系だったらこちらもやる気が下がる。


【す、すみませんすみませんすみません……】


「えっと、君がこの世界の神でいいのかな?」


【はいっ!その通りです!】


なんだこれ……私がよく会ってる神となんか違う。

地球の神もこういう感じではないっぽいし。


【あ、それは僕がまだまだ世界を管理するものとしてひよっこだからです!

月さんが関わっていらっしゃる方々は位も力も強いので…】


ふむ、ひよっこでも心は読める、と。

けど口調が気になるな。神の言葉って話す相手の心にある人の口調になるはずなのに。


【それも僕がまだ未熟者だからなんです……

おかげで今回月さん達にもご迷惑をおかけしまして】


「迷惑ねぇ……」


【あの、どうか……どうか殲滅だけは勘弁してください!

そんなことされると僕まで消滅しちゃいそうなんです、こうやって無意味な戦争が起きてるのも僕のせいではあるんですけど、できれば穏便に……!!】


言葉の勢いのまま、神はその場に土下座した。

うわ、神に土下座されるってなんか嫌な気分だ。

わけもなくこっちが悪者っぽく映りそう。ほんとやめてほしい。


【すみませんすみません】


「……わかったから、絶滅はなしの方向でいけばいいんだろう?

じゃあ代わりになりそうな案を考えてよ」


私が言えば神は表情を輝かせた。

それにしても感情表現が激しい神だ。


【ありがとうございます!

では戦争終結のために、人族の聖女と神殿上層部、高位貴族を皆殺しにするのはどうでしょう?】


何だか一気に頭痛がした。

これ、人類絶滅と内容はあまり変わらないんじゃ……?

そりゃぁ規模とかは段違いだろうけどさ、邪魔なのを消しとこうって意図がミエミエだ。

それにそんな笑顔で仮にも神が言う事じゃないだろう、たぶん。


【いや、でもそれが一番簡単かなって…】


「そうだろうけどね」


ただその場合、私はなるべく一人で動かないといけない。

たくさんの人間を殺すところを雲雀は勿論、セイとシルヴァに見せたいわけがないし(ヒヴィはまあ……人族は敵というスタンスなので問題ないかなと思っている)。

雲雀にバレないようにするのは簡単だけど(だって午前中に行動すればいいのだから)、問題はセイ達だ。

二人は人族の国にいるんだし、まず間違いなく目撃される。

じゃあ二人とも魔術を解いた状態で魔国にいてもらって、前の世界に帰る直前とかに急いでやるか……?

あぁ、考えただけでも面倒だ。

まあどれだけ面倒でも聖女にだけは絶対に復讐するけど。


【それに人族の国も、そこまですべての人間が腐っているわけではないんですよ。

聖女の方はそりゃあ僕も嫌になるくらい穢れきってますし、軍の大将や国王も大概ですけど、中には見込みがある人間もいるんです。

だからそういう人達が人族のトップに立ってくれればこの世界ももう少し安定するし、僕も世界平和に集中できるんですけど……】


「つまり私に、戦争だけでなく人族の国の方もどうにかしろと?」


なんとも他人任せな世界だ。

それにしても世界平和に集中、ねぇ。

神って自分が管理する世界には干渉できないんじゃなかったっけ。


【それはその……お願いするしかない状況なんですが…

あと流石に僕も干渉はしませんよ?

ただ世界の気候を整えたり、天変地異を少なくしたりとかで戦争が起こりそうな要因をなるべく少なくするんです。

ある程度のそういう操作は僕達にも許されているので】


ただ神が言うにやりすぎると厳重注意ものらしい。

あまり世界を神の力で繁栄させすぎてもいけないし、逆に衰退させてもいけないものらしい。


「そういうものなんだ。

ところで参考に聞きたいんだけど、魔国の方は人族の国がどうなっても特に問題はないみたいだけど、人族の国はどうなの?

輸出入とかの関わりは殆どないってヒヴィも雲雀も言ってたけど」


【あ、それは本当に問題ないです。

たまに人族が魔国に侵入して魔国の森でしか採れない希少な薬草とかを乱獲してたりするくらいです】


それってちょっと後々人族が困るのでは?


【不法侵入は悪い事ですから。

それに人族の方で薬草が足りていないとか、そういうことはありませんし】


「単純に希少価値が高くてよく売れるから乱獲してるってことかい?」


【はい、そうです。なので月さんが考えている作戦を決行しても問題は全くと言っていいほどありませんよ】


にっこり微笑まれてつい黙る。

これだから神の相手は嫌だ。

ひよっこと言いつつしっかりこちらの考えを読んでいる。

結局どこまでも相手が格上なのだと見せつけられているようで不愉快だ。

この神は間違いなく私と相対したその瞬間から、私がうっすらと考えていたまだ明確な形を持たない戦争終結への手段を察していたに違いない。


【お、怒らないで下さい……

月さんの力はまだまだ弱い僕じゃ下手したら消されちゃうくらいのものなんですから】


「え」


私って神を消すことができたのか。つまり神殺しの力?


【ひぃいぃぃぃぃっ止めてください!】


「いや、そんな面倒な事しないから」


ただちょっと自分の力について考えていただけだ。

そもそもが前の世界の神から与えられた力なのに、同じ存在を消せるってどういうことだ。


【それは僕がまだまだ新米だからですよ。

この世界も出来たてほやほやだし、僕もひとつの世界を任せられるようになってちょっとしか経ってないんです。

月さんの力はすごいですからね。この世界くらいならたぶん滅ぼせます。

世界を滅ぼされるとそこを管理している存在も消える仕組みなので、結果的に僕も滅んじゃうんですよ】


「へぇー。じゃあさ、私がここにくる前にいた世界は?

このクリューベルよりも格上とかそういう感じ?」


【ひっ……!!な、ななななんでこの世界の名前を……!?】


「え?普通に教えてもらったけど」


【ひぃぃぃぃいぃぃぃぃ!!】


叫んだ神はそのまま地面(言い忘れていたがここは私が普段……と言っていいのかわからないが神と精神体で会うときのような真っ白な空間だ。なので地面という概念はあまりないのだが形式上地面と言っておく)に蹲った。

世界の名前を知っているというのは不味い事なんだろうか。

私にとって、ではなく神にとって。


【世界の名前は管理する存在の名前と同じなんですよ!

だから世界の名前を把握されたら僕達は基本的にその相手に逆らえません!

お願いですから僕の事消さないで下さい、あちらの方にもどうか僕の悪口とか言わないで下さい、消されちゃいます…】


「あちらの方って前の世界の神のこと?」


【そうですよ……そこの世界と貴女が形式上地球と呼んでいる世界を管理する存在は僕なんかじゃ太刀打ちできないくらい、そりゃあもう上位も上位、雲の上の存在なんです…】


へぇ、あれが。

それにしても地球ってやっぱり世界の名前じゃなかったのか。

まあそれもそうだよね、目の前の神が言っていることが正しいなら地球に住む人類全員が神を好きにできるようなもんだし。

それに世界単位だったらそれこそ地球だけじゃなくそれをとりまく銀河系までが神の管理領域のはずだ。

そう考えると確かに私の生まれた世界の名前が地球、というのは考えにくい。

うーん、じゃあ神的に世界の名前は、っていうのはタブーなんだな。

前の世界に戻ったらあっちの神本人に聞いてみようと思ったけどやめておこう。

それにしても目の前の神(もうクリューベルって呼んでいいだろうか、神神めんどくさくなってきた)改めクリューベルはよほど前の世界の神を恐れているのか、すごい動揺っぷりである。

そもそもそういう神の重要機密(?)とか軽々しく喋っていいのだろうか?

私の頭に色んな世界の重要な情報が入っちゃってる気がする。まあ結構どうでもいいけど。


【どうでもいいならお願いですから、お願いですからあちらに便宜を……】


「うーん」


ちょっと考えて、私は微笑んだ。

その考えをすべて読んでいるのだろう神はサァっと顔色を悪くしている。


「君が色々と役立ってくれたら、君の悪口とかをあっちの神には言わないよ。

私の目標はひとつだ。……明日で戦争を終わらせる。

だから色々とよろしくね、クリューベル?」


それにしても前の世界の神は何を考えているんだろう。

召喚されて、下手をしたら頭に血がのぼってこの世界をぶち壊すかもしれない私に最終兵器にもなりえる世界の名前を教えるなんて。

そりゃあ雲雀がいるから私が世界を滅ぼさない確立の方が高かっただろうけど……それだって確定事項ではなかったはずだ。

雲雀が私に、そして私が雲雀に気付かなかったら意味がないのだから。


「心配性。……陽みたいなことするな、陽じゃない癖に」


心配して別の世界の崩壊すら許容するとか、神ってやっぱりどうかしてる。







Side:雲雀



寝転がってすぐに寝息をたてはじめた月を見つめため息を吐く。

寝つきのよさはいつまでたっても変わらないらしい。

実際こいつは変わらないところばかりだ。

艶のある黒髪も、独特な雰囲気を放つたたずまいも、あの頃のまま。

おまけに俺の嘘にこれっぽっちも気が付かないし、暢気に恋人とやらの心配ばかりしている。


「あぁでも、違うところもあるか……」


閉じられている瞼の下の紫。

あの頃は陽と同じ、漆黒だったはずの瞳。

それが時に不安を帯びて俺を見ることがある。

あの頃はそんなことは無かった。

こいつは何も考えずに笑って俺を見ていた。


「俺が何をしたって変わらない癖に…」


例え、俺がお前を恐れても。


俺がお前を拒絶しても。


俺がお前を憎んでいても。


俺がお前を――――


「何したって、お前はどうせ異世界に戻るんだろうが……バーカ」


今日は俺も神に会ってみようか。

きっとお前がいなくなるのはもうすぐだから。




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