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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
嘘に漂う雲の白
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12

Side:Luna



全速力で雲雀とセイ、そして聖女がいる方向へと向かう。

ついでにごめんねと謝罪してからシルヴァをそちらに投げ飛ばした。

分からないように上手く受身をとってくれたんだろう、かなり勢いよく地面に衝突しバウンドまでした彼だが、大きな傷は負っていない。

まあそうするように私が指示したんだけど。


元々私がシルヴァと戦ったのは聖女に私が二人のことを覚えていない、あるいは魔王である雲雀に完全に洗脳されてしまっていると信じ込ませるためだ。

その相手は聖女だけでなく人族側の兵士達や、セイも含まれる。

だからこそ二人きりでシルヴァと戦ったし(雲雀は聖女とセイをひきつける役割だ)、ある程度離れてからはわざとらしく見えないように気をつけながら土の柱で向こうからの視線を遮った。

更にシルヴァを人族側にもぐりこませるにあたって不信感を抱かれることがないように、身体にわかりやすい傷をつけることも雲雀の計画のうちである。

傍から見れば重症にも思える傷は、実際のところシルヴァの皮膚を傷つけるだけにとどめたかすり傷。

まあそれなりに出血していないと怪しまれるかもと思ったから血は流させてもらったけどね。


さて、それなりに上手いこと登場できたように思うけど、この後上手く聖女は退いてくれるだろうか。

あんまり長居されるのは困る。今すぐにでも殺したくなってしまうから。

雲雀の前でそんなところを見せるつもりはないのに、我慢がきかなくなったらそれは間違いなく聖女のせいだろう。

それにあんまり、悲しんでいるセイのことを見たくないのだ。

さっきのセイとシルヴァの呼びかけだって結構堪えた。

やっぱり好きな相手だし、悲しませたくないから表情が動いてしまいそうだったのだ。

雲雀が見えないようにフォローしてくれたからボロは出さなかったけど、その点でも早いとこ立ち去ってもらわないと困る。

この後の計画についてはシルヴァに簡単に話したからたぶん彼も協力してはくれるだろうけど……


「―――苦戦しているのか、ルナ?」


「まさか。そんなはずがないよ」


剣を交わす雲雀とセイの間に割り込むように着地した私はそう告げた。

それだけで雲雀は私がきちんとシルヴァにかかった魔術を解くことができたのを察しただろう。

唇にいかにも悪役らしい不敵な笑みを刷いて、ならばいい、と魔王口調で呟いた。


「シル!おい、何してんだよ!」


「シル様!!」


反対に表情を歪めたのは向こうだ。

セイは怒鳴りながらも心配げに、聖女は声だけは悲痛さをまとってそれぞれシルヴァが吹き飛ばされた場所(受身を取りつつ自分で位置調整したようなので自分から吹き飛んだ、とも言うかもしれない。何にしろその位置取りは私達にとって最高だ。さすがシルヴァ、私の元弟子である)へと後退する。


「君はどう?怪我はないんだろうね?」


「俺を誰だと思っている」


「とか言って……所々傷が目立つよ」


思うにセイ、本気を出したんだろう。

それにさっきから口調が荒い感じがするし、余裕がないみたいだ。

その状況をつくっているのは間違いなく私だけど。


「治してくれる相手がいるのなら問題にならないだろう」


「まあ、君の傷はどんなものでも私が治すけれど」


だからって触ってくるんじゃない、雲雀め。

わかりやすい魔王妃に対する態度の演技だってわかってるけど、セイはともかくシルヴァの視線が痛いんだよ。

シルヴァもそういう顔しないでくれないかな。それ、間違っても操られている恋人にする目じゃないからね…?


「さて、どうしようか。そこの転がっている彼にしたように金髪の勇者と聖女もこのまま倒す?

私と君で相手にするなら余裕だろう。聖女に戦闘能力はないみたいだし、二人がかりならそこの金髪君も問題ないはずだ」


………あのさシルヴァ、私が話題に出しただけでそういう顔はしないでよ。

何で馬鹿にされた話の最中に嬉しそうに瞳を輝かすんだ。

聖女とセイにバレるだろう。最悪セイにはいいけど、聖女にバレるのは絶対に勘弁だからね?


「ルナ………!まだわかんないの?俺達のこと見て、何も思い出さない?」


セイの漆黒の瞳が希うような色を帯びている。

心が痛むけど、さすがにここで全てを台無しにするわけにはいかないんだ。

だからごめんねセイ。もう少しだけ我慢して。


「ふふっ、そこの銀髪の彼も同じようなことを言っていたな。

でも―――正直、理解に苦しむね。君達が言う、思い出すとか洗脳されてるだとかいう言葉、不愉快だよ」


口にできることからして、ある意味これは私の本音でもあった。

私がそんなに簡単に敵の手に堕ちて、挙句セイ達のことを忘れると彼は本気で信じているのだろうか。

そう仕向けている私が言うことではないだろうが、それは少々癪だ。

私にとってセイもシルヴァも、そう容易く忘れて捨てられるような存在では決してないと言うのに。


私がセイ達のことを忘れていると信じこんでいるセイはこの台詞に愕然とした様子だったけど、シルヴァはわからない程度に申し訳なさそうに眉を下げた。

彼もさっきまで私が洗脳されているか操られていると信じきった様子だったし、思うところがあったんだろう。

それに微笑みを返してシルヴァにだけ分かるように気にするなと伝えつつ、私は言葉を続けた。


「ヒバリ、もう飽きちゃった。城に帰ろう」


「もう?確かにお前にとっては退屈しのぎにもならないものだろうが……目の前の人間達は敵国の頭と言っても過言ではない存在だぞ?」


「これが?ふぅん……でもこんなところで終わりにしてしまうのもつまらなくないかい?

もっと楽しみたいじゃないか。わたし、楽しみは後にとっておく派なんだ」


だから静まれ、私の狂気。

聖女を殺すのはまだ早い。

ここにはセイ達も、雲雀だっているのだから。

例え不出来でも、彼らの前でだけは人間のふりを続けるべきだろう?


「ルナ……」


「いけませんわシル様!」


傷をおして立ち上がろうとする(というフリをしている)シルヴァに聖女が寄り添った。

意外だ。そこは身が滅びるまで戦えとか、そういう命令をすると思っていたのだけど。

案外聖女は二人の力の希少性をきちんと理解しているのだろうか。

それとも――惚れられちゃったのかな?

だとしたらちょっと気にくわない。

彩花の時もそうだけど、セイ達にその気がないのにベタベタしないといけない状態を見ているのって嫌なんだよね。私もさすがに嫉妬する。

セイ達が望んで、っていうのだったら案外簡単に(とは言っても落ち込むし色々思うところはあるけど)仕方ないなって思えるのに。


「ふん……今ここで皆殺しにするのは容易いが、確かにルナの言う通り面白味に欠けるな」


「だろう?」


さて、シルヴァが引き続き上手くやってくれることを祈ろう。

最悪人族全部を滅ぼせばいいんだから私の勝ちはある種保障されているんだけど。


「ね?今日は見逃してあげるよ、勇者サマ達」


視線を流せばセイは表情を強張らせ、聖女は判断に迷うように視線を巡らせた。

そしてそれに隠れてシルヴァは小さく私に頷いてみせる。


「また明日戦おう?明日は二人で来てね。

強い人は結構好きだから。それに―――」


なんだか自分で言っていて変な気分だ。

それに次は二人で向かってこいなんて、煌炎達にも同じような事言ったっけなぁ……

微妙な気持ちはわきに置きつつ、私は用意していた言葉を意味深に呟いた。


「それに君達、何だか不思議な感じがするし」


「………ルナ。戻るぞ」


言葉が終わると同時に雲雀が少しの焦りを見せつつ私の肩を抱き寄せた。

それに首を傾げて彼を見上げる。

赤い目に映るのは焦燥。それが伝わったのかルナ、とセイの声が響く。

その声からも隠すように雲雀の腕は私を囲み、更にマントで全身がすっぽりと隠された。


「今日のところはこれで終いだ。我が妃は疲れているらしい」


「待てっお前……!」


「セイル様いけません、今は……」


魔力が動く気配がして、あまり馴染のない術の発動が感じ取れた。

どうやら雲雀があの三人を転移させたらしい。

しばらくたってもこちらに戻ってくる気配はないようで、私ははぁ、と我ながら疲れのこもったため息を吐いた。


「つっかれた………」


「どう考えても俺の方がその言葉に相応しい努力をしたと思うが?」


「私だって疲れたんだよ、何しろ解呪が……」


「解呪?」


「………あー、シルヴァ結構抵抗してきてさ、それに君達の方も気にしながらやったし。

それより君、ちゃんとお芝居上手にできるんだね。感心したよ」


「何を誤魔化した?」


「別に」


危ない危ない。うっかり解呪でかなり負担がかかったことを言いそうになってしまった。

雲雀ってこれで案外心配とかしてくれるし、たぶん陽が気を付けててくれ、とか何とか言ってくれたんだと思うけどたまに過保護なんだよね。

今は流石に陽の目もないし大丈夫だとは思うけど、どっちにしろ本当の事を言ったら自分かヒヴィがやるからって役目を代わってくれそうだから内緒にしておいた方がいい。

別に二人に解呪を任せても問題はないけど……やっぱり囚われのお姫様を救うのは王子様の役目だし、私が二人を助けたいって思うしね。


「と言うか演技が上手いなって思ったのは本当さ。

セイも聖女も騙されてくれたみたいだし、作戦は今のところ順調だね」


今日予定していたものは全てクリアしている。

シルヴァにかかっている魔術を解くこと、彼をその状態のまま人族側に送り込むこと。

そして聖女にセイ達に関する記憶をなくしている(と聖女とセイは思っている)私がかすかに記憶の片鱗のようなものを彼らに感じ取っていると思わせること。


先程までの私と雲雀の演技で、恐らく聖女は(セイもだけど)私がセイ達に関する記憶を思い出すかもしれないという可能性を見出した。

不思議な感じがする、という私の発言、そしてそれに動揺を見せ撤退しようとした(演技だけど)雲雀。

これらによって聖女は僅かな希望を持ったのだ。

私が記憶を取り戻せばそのままセイ達を人質にして戦争の駒にすることができるのでは、と。

だからこそこうして雲雀が強制的な転移を行っても再びこの場に現れることがない。

それよりも先に作戦を練る事と、シルヴァの治療に専念しなければならないからだ。

私が記憶を思い出し(忘れてないけど)、そして私を利用するにはシルヴァとセイ、二人の存在が必要不可欠。

従って今日私に勝てなかったためにシルヴァが使い捨てられる危険性をこれで上手く回避することができるし、私がこの世界の神に色々と話を聞く明後日の夜まで取り敢えずの時間稼ぎが可能になる。


「わざとらしくて呆れるな……

それにお前より俺の方がよっぽど嘘も演技も上手いに決まってるだろうが」


「どういうこと?」


色々と考えることが多い策略から一度頭を切り替えて私は首を傾げた。

雲雀ってそんなに日常的に演技したりしているのだろうか。あと嘘。

結構自分に自由に生きてるように見えるけど。


「お前はどうせわからないから気にするだけ無駄だ」


「失礼だな、私は君ほど素直な人間を知らないよ?」


すぐ陽のことで私に何か言って来るし、私のこと馬鹿にしてくるし、いっつもふらふらしてるし。


「だからお前は馬鹿なんだ。ブス」


「ほんっと失礼だな……あ、そう言えばひとつだけ変更点」


「何だ?」


雲雀は雲雀で切り替えが早い。

こういうところは高校の頃から助かっていた。


「シルヴァにセイの解呪をしてもらうのは無しになったんだ。

私が今度セイの解呪もするから、また上手い事聖女から引き離さないと……」


「あの金髪の……?大丈夫かお前」


「うん?セイは大丈夫だよ。セイよりシルヴァの方が危険だからね」


シルヴァってヤンデレだし。

その点セイは確かにネガティブではあるけど、頭の回転もはやくて立ち回りも上手い。

シルヴァよりも案外簡単にこちらの思惑を察してくれるのではないだろうか。

まあそれが計画実行よりも前になってしまうと困るから、こうして用意周到に彼を騙しているんだけど。

やっぱりシルヴァが先で正解だな、と自分で自分を褒めている間、何故か雲雀は胡散臭そうな顔でこっちを見ていた。

雲雀は怪我させられたし、危険なヤツだとでも思ってるのかな?


「それよりこれからどうする?

聖女達は今日のところはこれ以上手を出してこないだろうけど」


「そうだな。俺達も戻ってもいいだろ。残りはヒヴィルースの配下に任せる」


「じゃあ帰って一眠りしようかな……」


戦ったから眠くなってしまった。身体的にも精神的にも、自分でかけた呪い的にも。

この世界に来てから私は結構人を殺している。

だからそんなに術式で意識が眠りに引きずられることはないけど、逆に箍が外れやすくなっている感覚があった。

少しの我慢もしにくいって言うか、午前中それなりに戦って人を殺めたのにこうしてシルヴァと少し戦ったくらいで破壊衝動が蠢く感覚があるのだ。

まあそれも仕方ないのかもしれない。実際私の箍は一回外れてしまっているのだから。

他ならぬ召喚を受けたあの瞬間に。それで言ったら今我慢できているのが奇跡のような状態。

本当に雲雀がこっちにいてくれてよかったと思う。


「コックがまたケーキを作って待ってるらしいが」


「起きたら食べるから取っておいてね。絶対に残しておくように」


「食い意地が張ってるな、相変わらず」


「甘いものは別腹なんだよ。よく言うだろう?ところで雲雀はどうするんだい?」


やっぱり魔王としての仕事とかあるんだろうか。

と言うかトリップしているとは言え、冷静に考えて夢の中で戦って仕事して魔王するって大変だな…


「軽く仕事を片付ければ残りは自由だ。

お前先に昼寝してろ。仕事が終わったら俺も横になる」


「随分余裕なんだね。君が優秀なのか仕事があまりないのか……判断に悩む」


「両方だな。ヒヴィルースと半々でやる決まりになっている」


「二人いると便利なものだね。じゃあ昼寝したらおやつの時間か」


「その前にシャワーは浴びろよ。土埃だらけの布団は御免だからな」


「わかってるよ、君はお母さんか何かなのかい?」


変なところだけ世話焼きって言うか何て言うか。

まあ言われなかったらそのまま布団まで直行していただろうから、ある意味雲雀の発言は正当なものなのだが。

それを見透かしているのかいないのか、雲雀はどうだか、と馬鹿にするような調子で呟いて転移の術を発動させた。




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