11
Side:Luna
荒野を縦横無尽に駆け、跳ね、飛ぶ。
周囲に何もない、というのは私のような強大な力を持つものにとって便利な場所だ。
ただ今はそれが少し面倒な状況を呼んでいる。
「ルナっ、思い出して!」
合わさる刃はすぐにそらされ、放つ魔力は殆どが防御にまわる。
薄墨の瞳は絶望を漂わせながらも決して希望を失ってはいない。……のだが、少々潤んでいてそれが涙の粒に変わるまであとどれ程の時間があるだろうか。
「君の口はどうしたら塞げるのかな」
割と本気で私はそう思っていた。
シルヴァの表情がまた歪む。
それでも私の魔力が次々とつくりだす土の柱を避ける姿は流石と言うべきだろうか。
ただ思考を殆ど私に自分を思い出させることへと向けているため、少々単純な動きになってしまっている。
「がっ……!」
避けた先の位置へ先回りしていた私の拳は何の抵抗もなく彼の頬におさまった。
衝撃と共にシルヴァの身体は柱へと衝突し、余波で柱そのものが崩れ去る。
無駄に壊してしまったかな。
ただそれほど問題のない程度だし、結果的に彼は土埃にまみれ全身に細かな傷を負った。
計画に支障はない。
傷を負ったとしてそれはシルヴァにとって然程のダメージとは言えず、彼はすぐに起き上がった。
――さて、シルヴァにあの女が命じたのは戦え、だったか。
「ルナ、お願いだから俺を――」
「シルヴァ」
余裕さえあれば絶え間なく開いていた口が、私のただ一言でピタリと閉じるのは少しだけ気分がよかった。
まあかと言って聖女の命令を遂行しようとする彼の足も腕も止まってはいないのだが。
「ふふっ、酷い顔をしているよ?」
「ル、ナ……?」
俺のこと、わかる?
そう言う彼は呆然としている。
いや、相変わらず身体は違うんだけどね。
「勿論だよ、シルヴァ。
私の可愛い元弟子であり、大切な銀の狼。
私が君のことを忘れるはずがないだろう?」
彼の瞳に宿る希望の光が強くなった気がした。
それについ笑ってしまう。
単純な子だ。結局のところ彼は私が関わることに関して、あまり謀の類いを上手く運ぶことができない。
それは身体の半分に獣を宿す獣人の性か、あるいは――自惚れでなければ私への感情故か。
どちらにしろ今はそれが、彼自身の首を締めることになる。
「だから、ね?」
ことりと首を傾げ、そのまま肉薄する。
彼の剣を私のそれで払い飛ばし、特製の魔術で編み上げた槍をそのまま彼の胸へとおさめた。
とん、とあまりに軽すぎる衝撃。
けれど既に掴んだ。
シルヴァの喉から乾いた空気の塊が漏れる。
槍先はシルヴァの身体を貫通して勢いそのままに大地へと突き刺さった。
これでもう、シルヴァは動けない。
「私は今、雲雀の……そしてヒヴィの味方なんだ。
彼に傷ひとつつけたくない。
でもそれには、君とセイの存在が邪魔になる…」
だからこうしてひとりずつ、余計な手出しを受ける前に無力化しておかないとね。
はくはくとシルヴァの唇は動くけれど、それが音を放つことはなかった。
どうやら上手くいったようだ。
やっぱり私が、一番強い。
まあそれは聖女の命令が殺せ、ではなく戦え、というものだったことも大きいのだろう。
咄嗟の事だったから彼女は判断を誤った。
シルヴァには私を害する気持ちが皆無なため、そんな命令では本気の私といい勝負すら出来ないだろう。
あとはシルヴァ自身強い魔力があって、彼が意図してなのかそうでないのかは分からないが身の裡の束縛に抗っているのも要因か。
何にしろ私にとっては好都合。
正直なところ最悪の場合にはお互いに少しでは済まされない量の血を流すことも覚悟していたが……それは必要なかったようだ。
「【腐り落ちる鎖。剥がれ落ちる鋼。溶けだす棘。
すべては無へと還り、君は君のまま、時は巻き戻る。
けれど私が新たな鎖を形作ろう。
この大地へと誓約されしユメが果たされるまで】」
ブォン、と私ごとシルヴァを包み込む魔法陣を展開した。
余波を生じないよう、そしてそれによりこれが気づかれることのないよう周囲を厳重に結界で囲う。
魔法陣から何十本もの鎖が現れ、シルヴァの身体を拘束した。
それから逃れようと彼の魔力が結界内で蠢く。
「【動くなシルヴァ】
………私もこれでキツいんだ」
息があがる。汗なんて久しぶりにかいたな。
魔力の質が違う、とでも言うべきか。
私の力ではこの世界の魔術はそれほど上手くは扱えないらしい。
とは言っても術自体が発動しないわけではない、というのは目の前の光景からわかっている。
今や鎖はシルヴァの身体を覆いつくした。
なんともまぁ、笑ってしまうほどの妄執だ。
そしてそれが、端からホロホロと腐り剥がれ溶けていく。
最後に残ったのはただ一本の、彼の胸へと伸びるそれのみ。
それは腐ることはなく、ふわりとその場から消え去った。
今度は身体までも呆然として動かないシルヴァにまた笑って、私はもうひとつの魔術も解いた。
シルヴァの身体を拘束するためだけに編み上げた、彼の身体を決して傷つけない槍が光の粒になって霧散する。
「……………ルナ?」
「シルヴァ。ごめんね、悲しくさせてしまったかい?」
彼の半身を起き上がらせ抱き締める。
戦いの最中にほつれてしまった長い髪を纏める紫のリボンをほどいて銀髪に指を通すように撫でれば、シルヴァの身体の硬直もゆるゆるとほどけた。
たぶん色々安心したんだろう。
彼の心配事の大部分は私に対することであり、従って私が紛らわしい真似をしなければ彼の精神的ダメージももう少し少なく済んだ、という事実には目を瞑っておく。
だってそれも作戦だし。
「君にかかった制限の魔術は解いておいたよ。
これで今後君があの女の命令に苦しむことはない」
あぁ、つかれた。
私の言葉に安堵したシルヴァは一気に身体の力を抜いたようだが、力が抜けたのは私も同じだ。
ぐったりとシルヴァの胸によりかかり、彼は彼でそれを支えることができず結局二人で地面に寝転んだ。
まあ私はシルヴァの胸に、だけど。
それなりに重さがかかっているだろうに、敢えてなのかどうかはわからないがシルヴァが起き上がる様子はない。
ただ少し慌てた様子で頬に手が添えられた。
「ルナ?大丈夫?」
「すまないね、もう少しこのままで。
こっちの世界の魔術は随分と体力を消耗するらしい」
たぶん色々と合わないんだろう。
魔力の質もそうだけど、私の身体は色々な種族が――言ってしまえばこの世界には存在しない種族が混ざりあってできている。
あちらの世界だからこそ私のようなものが存在することが出来たのだ、本来ならこの世界で私のような存在はあり得ない。
そういうのも、たぶん関係している。
だから獣人であるシルヴァがこの世界の魔術を使おうとしても、恐らく同じ様な事になるだろう。
それに思い当たって私はため息を吐いた。
どうやら計画のうちのひとつは取り止めだ。
雲雀にも話して計画を変更しなければ。
「ルナ…」
ぎゅう、と抱き締められて、疲れた顔にも笑みが浮かぶ。
「シルヴァ、泣かなかったかい?」
「ん。泣いてない。でも今、嬉しくて泣きそう」
「それは嫌だな。せっかくまたこうやって触れあうことができたんだ、どうせなら笑っておくれ」
疲労のたまる身体を少し起こしてシルヴァの表情を覗きこめば、彼は私の望みの通りに笑ってくれた。
身体が引かれて再び彼の胸元へと戻される。
つむじにくちづけられた感触がして、私も笑った。
「ルナ、ルナ……よかった。魔王に操られたり、酷いことされてたらどうしようって心配した」
「私こそ心配だったよ、君達の事が。
君達二人揃って異世界召喚なんかされてしまうんだから、私は危うく世界を滅ぼすところだった。
まあそうする前に君達を追いかけてきたのだけど」
「追いかけて……?
じゃあルナは自分で来た?召喚じゃない?」
あぁそうか、二人の方が先に召喚されたのだから(私は最初の一回目を拒んだ訳だし)その辺りは全然わからないんだっけ。
「いいや、雲雀……魔王に召喚されて」
「…………魔王」
グン、と周囲の温度が下がった気がした。
おどろおどろしい殺気が充満して、シルヴァの魔力が刺々しく波打つ。
あぁ、何だか暴走していそうな予感。
「……シルヴァ、魔王に怪我をさせたら駄目だよ。怒るからね?」
「何故」
狂気さえ感じる視線が私を貫いた。
私が洗脳を受けているんじゃないかとか、そういうのを疑う眼差しだ。ちょっとショックである。
「言っておくけど、洗脳されていないし操られていないし記憶を無くしたりもしていないよ。
魔王は私の親友なんだ。だから、ダメ。
詳しいことは後々説明するから、私と魔王の計画を聞いてくれないかい?」
「…………」
これはまだ疑ってるな。
「私が好きなのはシルヴァとセイだ。
大切なのは陽と君達と地球に残してきた人達。
特別なのはジョーカー率いる闇ギルドメンバーと総代のとこの正規ギルドメンバーと各国の上層部数人と……全部言わせる気じゃないだろうね?」
「…………でも、」
「シルヴァ。私の故郷には疑わしきは罰せよという言葉があってね。
君がそんなに私を疑うなら、今ここで私の心臓を剣で刺してしばらく戦闘不能にしてから聖女のところへ行くといい。
今の君なら聖女に操られないからあの女をどうこうするのも簡単だ。
そうなればセイにかかっている方の魔術も自然と解ける。
帰還方法の戦争終結については――」
「絶対しない!」
「………じゃあ、私のことを信じてくれるんだね?」
じとりと見つめればシルヴァは慌てて何度も頷いた。
まったく疑り深い子だ。しかもこういう事ばかり。
「そもそも……私が最初に君達を全く知らない相手のように振る舞った、つまり身も心も魔王のものであるかのように振る舞ったのも計画のうちだ」
あれは大変だった。言葉の端々、些細な行動にまで気を付けなければ、私の身体にかかった偽りを禁じる、という命令に引っ掛かってしまうのだから。
そもそもどうしてこんな面倒なことになったかと言えば、昨日の雲雀との話まで遡る。
***
「敵を欺くならまずは味方からだ」
「………それで?」
私は我ながら興味なさげにケーキをつついた。
雲雀の分をもらったし、シェフに言えばおかわりはもっと出てくると言う。
「聞いてきたのはそっちの癖に、いい態度だな?」
「前口上が長そうだったからね。で、続きは?」
「月、お前しばらく恋人とやらのことを忘れたフリをしろ」
「…………」
なんともまあ、難しそうな計画を。
その一言だけで私はある程度計画の内容を把握した。
だけどそれ、私にはそれなりに難しい内容だし、ただでさえ今の状況に怒っていそうなセイ達を更に怒らせる作戦だ。
ただその分効果もすごいものになるだろう。
まず間違いなく敵――聖女のことを欺ける。
聖女の私に対する知識は少ない。
情報源が少しの映像とセイ達の話だけだからだ。
それに二人は私のことを多くは語らないだろうから(心まで聖女に支配されていたらあれだけど)、言ってしまえば聖女は私という存在について殆ど何も知らないと言っていい。
だから私が雲雀――魔王に操られたフリをすれば、かなりの可能性で信じるだろう。
更にセイ達をも騙すことでその可能性が飛躍的に上がる。
二人は今、異世界召喚に加え敵国に私が召喚されていて魔王妃となっているという事実にかなり動揺しているはずだ。
その動揺につけ込めば、たぶん今なら騙し通せる。
二人が心も支配されていたとして、それはそれで私への感情、関心が薄くなっているはずだから騙すこと自体は可能なはずだ。
「敵味方含めてお前が俺に洗脳されていると思い込ませる。
そのまま勇者を分断、片方ずつ支配の魔術を解く」
「聖女の目の届かない方から、か。
そのまま人族の国に潜り込ませて内部から?」
「そうだな。今のところ終戦の手段は決まっていない。
こっちが戦力差でそのまま押しきってもいいが……領土も国民も増えて、その国民が魔族に対していい感情を持っていないんだ、ヒヴィルースも統治に頭を悩ませる事になるだろう」
その場合は人族を滅ぼしちゃえばいいんじゃないかな。
そう心の中で思ったが、しまっておいた。
一応雲雀の前では昔の私でいたいし(色々とやらかしていて今更だが)、それは最終手段だ。
ヒヴィの時に一応そういう方法も可能だってことを話しておけばいいだろう。
「………俺の計画外の行動はするなよ。
ちゃんと俺に話してから色々動け」
あれ、もしかしたらな暗躍計画、察されてる?
視線をそらせば口のなかにまたケーキを突っ込まれた。
どこから出したんだよ、と思ったけどどうやら気を利かせたシェフがおかわりを持ってきてくれたらしい。
ケーキがホールで雲雀のそばに置いてあった。
「………」
悔しいけど美味しいから怒る気にもならない。
そのままモグモグ咀嚼しつつ雲雀を睨めば、疲れたようなため息を吐かれた。
「お前はいつも俺の計画を潰そうとするな」
「潰してはないだろ。
ただ私なりによかれと思って動いているだけだ。
君の計画は君にとって負担が大きかったり、君ばかりが悪役にまわったりと偏りすぎなんだよ」
これは昔からそうだ。
だから私なりにその負担を減らそうと動いてたんだけど、風紀委員会に入る頃にはそれが逆転、いつのまにか雲雀が単独で動いて私の計画を潰そうとしてくるようになった。
とは言っても本当に潰してくる訳じゃない。
もたらされる結果は同じもの。
ただそれまでの過程が私の思い描いていたものとは違うものになるのだ。
それをしていたのは私も同じだから、文句を言ってもお前に言われたくないの一言で済まされるんだけど。
「お前に言われたくない」
ほら、今だって。
「……ともかく、単独行動は控えろよ。
ヒヴィルースにも言っておくからな」
「はいはい」
雲雀はまるきりこちらを信用していない顔で見た。
ちなみに今の私の返事はヒヴィにも言っておく、という件に対しての了解なので、単独行動をとっても私がペナルティに苦しむことはない。
雲雀の疑いはある意味正当なものだったりする。
「まあ、何はともあれ二人にかかっている魔術を解かないとね。
私が思うに……たぶん最初はシルヴァからが望ましい」
「……お前、今日の夕飯はデザート抜きな」
「何でさ!?」
***
と、いうわけなのである。
雲雀との計画を粗方シルヴァに説明した私は起き上がって彼に手を伸ばした。
迷わずそれを掴んだシルヴァをゆっくり起こし、彼の足の上に座って銀髪に手を伸ばす。
「何か質問はあるかい?」
ゆっくりとシルヴァの髪を編みながら首を傾げた。
向こうには雲雀とセイを置いてきている。
あの二人はまだ戦っているはずだから、いくら久しぶりの逢瀬だとしてゆっくりはしていられない。
だからシルヴァの髪を縛り終えればまた私達は表向きには敵同士だ。
「どうして俺から先に?」
「………」
その目が期待に輝いているのは……うん、何となく理由の予想はつくけど。
でも別にシルヴァを優先したのはそういう理由じゃないんだよね。
「君は魔力が高いから、元々魔術相手に耐性があるだろう?
その分セイより解きやすいと思ったんだ」
後はシルヴァの支配を解いて敵陣に戻してしまえば、夜シルヴァとセイが二人きりになったとき聖女にバレずにセイの方の解呪もできるかな、と思った。
まあそれはこの世界の魔術は私達にとって負担が大きいと分かった時点で私の中で却下されている。
そんな予定があったことをシルヴァに言えば、まず間違いなく私に無理はさせられないと勝手に実行しそうなので彼に話すこともしない。
「後は君達の性格上、セイの方が聖女と接触を図って彼女の信用を得ようとする役になるだろう?
だからセイと聖女を最初に引き離すのは難しいと思ったんだよね」
その点シルヴァは聖女に対してそれなりの距離を置きそうだったので、まさにうってつけ。
「あと君、必死になるとちょっと迂闊なところがあるから。
さっきだって自分の名前を言ってしまいそうだったろう?」
あれには胆が冷えた。
彼等が聖女に対して偽りの(とは言ってもあまりに単純すぎる偽名に笑いそうになったが)名前を名乗っているのは私も予想していたし、聖女の発言から分かっていたのだ。
だと言うのにシルヴァときたら私に自分達のことを思い出させるのに必死で、さっきは危うく自分の名前を言うところだったし。
あそこでシルヴァが本名を名乗れば全てが水の泡だ。
二人を縛る支配はより強固なものとなり、私が解呪するのも難しくなる。
だから少し乱暴だとは思ったけれど魔術攻撃に伴う轟音で掻き消した。
そういうところも可愛らしいけど、もう少し注意が必要。
だからセイよりもシルヴァの解呪を優先させたのだ。
「ごめんなさい……」
おっと、つい説教染みた感じになってしまった。
しおしおと項垂れるシルヴァにほんの少しの罪悪感。
「いいよ、結果的に大丈夫だったんだから。
さて、最後にこの後のことについて話しておこうか」
みつあみももう少しで完成だし。
「この後君には聖女のところに戻ってもらいたい。
まだどうやって決着をつけるかは決められないと言ったね。
それが決まったら必ず連絡する。
君に協力を頼まないといけないだろうし」
「わかった。あの女に、俺が魔術にかかったままだって思わせておけばいい?」
「そうだ。それと、セイにも」
「セイルートに?
……ルナは命令を警戒してる?」
その通りだと頷いた。
今日のうちにセイを聖女から引き離し、解呪を行うのは恐らく不可能。
戦っている雲雀の状態も気になるところだから、今日のところはシルヴァの解呪だけで魔王城に戻りたいのが本音だ。
本心では本当のことを言ってセイを安心させてあげたい。
でもセイの解呪ができない今、もし聖女から隠していることはないか、など秘密に関する自白を命じる言葉が向けられればセイには為す術がない。
「セイの解呪は次に彼と戦う時だ。
それに明後日の夜に私の方で、こちらの世界の神に会う予定だから帰還条件についていい案が思い浮かぶかもしれない。
だからシルヴァ、それまでセイのこと…」
続く言葉を告げるのは少しだけ躊躇われた。
同じく私の大切な存在であり、私を想ってくれる人達。
そんな彼らに互いのことを頼むと、そう告げるのは許されることだろうか。
けれどこういったことだけは察しがよく、そして頭の回る彼は得意気な顔で胸を張った。
「任せて。セイルート、一昨日もルナがいないって泣きそうだったから俺が慰めてやった。
セイルートの世話をしながらあの女の目を欺くぐらい、俺には簡単」
「泣きそう……セイが?」
「そう。いつも偉そうなわりに情けない男」
ふふん、と褒めて欲しそうな顔全開のシルヴァだけれど、私としては彼にセイが弱みを見せた、それが驚きだった。
取り敢えず条件反射のように彼の髪を撫でながら(既に髪は結び終わっている)半ば無意識に呟く。
「なんだ、やっぱり仲良しなんじゃないか」
あまりにもライバル然とした感じでお互いのことを語るから私なりに気を遣っていたのに、もうこれ親友レベルなんじゃないだろうか。
私の苦悩は一体。まあいいことなんだけど。
そして彼等はこんなにも仲がいいくせに、私がそういうことを言うと怒るのである。
今だってこうして、シルヴァはブワリと耳と尻尾の毛を逆立てた。
「全然、仲良しじゃ、ない!!」
男の友情ってよくわからない。




