第84話 女王討伐
翌朝。
シオンたちは再び新鉱脈の管理事務所を訪れていた。
「本当に一日で準備したのか?」
昨日も対応した職員が、三人の武器を見ながら尋ねる。
「ああ」
シオンが《ネクロロード・オリハルコンロッド》を見せる。
「鍛冶ギルドに協力してもらった」
「協力というか、作ったのはロッテだけどね」
リュナが隣を見る。
「はい!」
ロッテは《金剛砕》を手にしていた。
「クイーンを倒すための武器です!」
「それもオリハルコンなのか?」
「そうです。リュナさんの《金月華》も、シオンさんのロッドもですよ」
職員は三人の武器を順番に見る。
「昨日持ち帰ったばかりの鉱石が、もう武器になってるのか……」
「急いだ方がいいですから」
ロッテの表情は真剣だった。
「私たちが帰ってからも、アイアンモールは鉱石を食べてるはずです」
「そうだな」
職員が頷く。
「討伐については正式に許可が出ている。クイーンだけじゃなく、周囲のアイアンモールも可能な限り減らしてくれ」
「分かった」
「それと、無理はするなよ」
「ああ」
三人は管理事務所を出て、新鉱脈へ向かった。
すでに何度も通った道だ。
横穴へ入り、昨日作成した簡単な地図を確認しながら奥へ進む。
途中で何体かのアイアンモールが現れたが、三人は足を止めない。
「《サンダーボルト》!」
雷撃が一体を撃ち抜く。
リュナが別の一体へ踏み込み、《金月華》を抜いた。
一閃。
「……おお」
シオンが思わず声を漏らした。
《蒼銀華》でも通常のアイアンモールなら十分に斬ることができた。
だが《金月華》は違う。
硬い甲殻を斬ったという手応えすら感じさせず、そのまま刃が通り抜けていた。
リュナ自身も刀身を見る。
「すごく斬れる」
「でしょう!」
作った本人のロッテが嬉しそうに答える。
そのロッテへ別のアイアンモールが突進してきた。
「今度は私です!」
盾で突進を受け流す。
体勢を崩したアイアンモールへ《金剛砕》を振り下ろした。
ドンッ!
硬い甲殻が砕ける。
「おお!」
「どうです!」
「普通のアイアンモール相手だと強すぎないか?」
「強くて困ることはありません!」
「それもそうか」
倒した魔物をシオンが《ストレージ》へ収納する。
三人はそのまま奥へ進んだ。
やがて昨日の大空洞へ続く通路へ到着する。
リュナが耳を動かした。
「いるよ」
「クイーン?」
「うん。大きい気配が一つ。それと、アイアンモールがたくさん」
「昨日とあまり変わってないか」
「少し減ってると思う。でも、まだ多いよ」
「なら先に周りを片付けよう」
「はい」
三人は大空洞へ進んだ。
昨日と同じ場所。
壁には青みを帯びたオリハルコンが露出し、何体ものアイアンモールが鉱石を齧っている。
その奥には巨大なクイーンがいた。
シオンたちに気づいたアイアンモールが一斉に顔を上げる。
「ギィッ!」
「ギギィッ!」
次々とこちらへ向かってくる。
「俺が減らす!」
シオンが新しいロッドを構えた。
魔力を流すと、以前よりも滑らかにロッドを通っていく。
「《ソードジャッジメント》!」
空洞の上部に無数の光剣が現れた。
降り注いだ光剣が、こちらへ向かってくるアイアンモールを次々と貫いていく。
「やっぱり使いやすいな」
魔法そのものが別物になったわけではない。
だが魔力を通しやすくなったことで、以前より扱いやすくなっている。
「残りは任せて!」
リュナが走る。
《金月華》が淡い金色の軌跡を描いた。
一体目を斬り、続けて二体目。
さらに身を翻して三体目を仕留める。
硬い甲殻が次々と斬り裂かれた。
「こっちも行きます!」
ロッテは盾を前へ出して突進を受け止め、そのまま押し返した。
「《震撃》!」
《金剛砕》が振り下ろされる。
甲殻が砕け、衝撃が内部まで突き抜けた。
一撃だった。
「やっぱり違いますね!」
「ロッテ!」
リュナの声が飛ぶ。
大空洞の奥からクイーンが突進してきていた。
「はい!」
ロッテが盾を構える。
「《不動》!」
巨大な前脚が盾へ叩きつけられた。
轟音が響き、ロッテの足元に亀裂が走る。
それでもロッテは正面から受け止める。
「昨日と同じです!」
ロッテが盾で前脚を押し返す。
「だったら――今日はこっちが違います!」
「行くよ!」
リュナがクイーンの側面へ回り込んだ。
昨日、《蒼銀華》を弾いた甲殻。
そこへ《金月華》を振り抜く。
昨日のような甲高い音はしなかった。
刃が甲殻へ食い込み、そのまま斬り裂いた。
「ギィィィィッ!」
クイーンが激しく身体を揺らす。
甲殻に深い傷が刻まれ、その隙間から体液が流れ出した。
「斬れた!」
「やりました!」
ロッテが声を上げる。
「《金月華》、成功です!」
「喜ぶのは後!」
「あっ、はい!」
クイーンが怒り狂ったように前脚を振るった。
リュナは素早く後退し、それをかわす。
「次は私です!」
入れ替わるようにロッテが踏み込んだ。
狙うのは、リュナが斬り裂いた場所とは反対側。
「昨日は砕けませんでしたけど――」
《金剛砕》を振り上げる。
「今日は砕きます!」
「《震撃》!」
《金剛砕》がクイーンの甲殻へ直撃する。
重い衝撃音が大空洞に響いた。
直後、硬い甲殻に亀裂が走る。
「もう一発!」
ロッテが再び《金剛砕》を振るった。
亀裂の入った場所へ叩き込む。
甲殻が砕け散った。
「ギィィィィィッ!」
クイーンが大きく仰け反る。
「砕けました!」
「よし!」
シオンがロッドを構える。
甲殻が失われた部分なら、硬い外殻に邪魔されない。
「《サンダーボルト》!」
青白い雷撃が露出した部分へ直撃する。
クイーンの巨体が大きく痙攣した。
「ギッ……!」
明らかに昨日より効いている。
「もう一発!」
シオンは続けて魔力を流す。
「《サンダーボルト》!」
二発目の雷撃が同じ場所へ突き刺さった。
クイーンが後退する。
リュナがすぐに動いた。
「《影縫い》!」
クイーンの足元の影を縫い止める。
完全に動きを止められるほどではないが、一瞬だけ巨体の動きが鈍った。
「今!」
「はい!」
ロッテが再び前へ出る。
「《震撃》!」
《金剛砕》が別の甲殻へ叩き込まれた。
亀裂が走る。
「リュナさん!」
「分かってる!」
リュナが踏み込み、亀裂へ《金月華》を差し込むように斬り上げた。
甲殻が大きく裂ける。
クイーンが暴れ、前脚を振り回した。
二人はすぐに距離を取る。
「昨日とは全然違うな」
シオンが呟く。
攻撃が通る。
それだけで戦い方そのものが変わっていた。
昨日は何度攻撃しても浅い傷しか与えられなかった甲殻を、《金月華》は斬り裂き、《金剛砕》は砕いている。
「シオン、来るよ!」
「ああ!」
クイーンがシオンへ突進してくる。
シオンは進行方向から外れた場所にある影を見る。
「《影跳び》!」
一瞬で影へ移動する。
クイーンがシオンのいた場所を通り過ぎた。
「《ウィークネス》!」
防御力を低下させる魔法がクイーンを包む。
「リュナ!」
「うん!」
リュナが低く構える。
「《瞬影乱舞》!」
一気に加速した。
《金月華》が閃く。
一撃。
二撃。
三撃。
三方向から放たれた高速の斬撃がクイーンの甲殻へ食い込む。
昨日は浅い傷を残すだけだった《瞬影乱舞》が、今は硬い甲殻を深く斬り裂いていた。
リュナが駆け抜けた直後、大きな甲殻の一部が地面へ落ちる。
「ロッテ!」
「はい!」
リュナと入れ替わるようにロッテが前へ出る。
左手には盾。
右手には《金剛砕》。
「これで――!」
露出した部分へ狙いを定める。
「《震撃》!」
強烈な一撃が叩き込まれた。
クイーンの巨体が沈む。
「ギ……ギィィッ!」
動きが明らかに鈍った。
「シオンさん!」
「ああ!」
シオンは《ネクロロード・オリハルコンロッド》を構えた。
甲殻は何か所も破壊されている。
なら、さらに内部へ攻撃を通す。
「《ホーリージャベリン》!」
光の槍が生まれる。
ロッドを通して魔力を注ぎ込み、クイーンへ放った。
光の槍が砕かれた甲殻の隙間へ突き刺さる。
「ギィィィィッ!」
クイーンが身体を震わせた。
それでも、まだ倒れない。
「硬いだけじゃなくて、しぶといな」
「もう一回いける?」
リュナが尋ねる。
「もちろん」
シオンがロッドを向ける。
その横へリュナが並んだ。
「じゃあ私も」
「私も行きます!」
ロッテも反対側へ回る。
クイーンが身体を起こした。
「行くぞ!」
「うん!」
「はい!」
最初にロッテが動いた。
クイーンの前脚を盾で受け流し、懐へ入る。
「《震撃》!」
《金剛砕》が側面の甲殻を打ち砕く。
そこへリュナが駆け込んだ。
「《瞬影乱舞》!」
三連の斬撃が、砕けた甲殻の周囲をさらに斬り裂く。
リュナが駆け抜けた直後、シオンがロッドを向けた。
「《ホーリージャベリン》!」
光の槍が一直線に飛ぶ。
ロッテが砕き、リュナが斬り開いた場所へ深々と突き刺さった。
クイーンの動きが止まる。
巨体がゆっくりと傾き、そのまま地面へ倒れた。
大空洞が大きく揺れる。
三人は構えたまま様子を見る。
だが、クイーンが再び動くことはなかった。
「……倒した?」
リュナが《金月華》を構えたまま尋ねる。
シオンはクイーンの様子を確認する。
「ああ。倒した」
「やりました!」
ロッテが《金剛砕》を持ち上げる。
「ちゃんと砕けました!」
「名前通りだったね」
「はい!」
リュナも《金月華》を見る。
クイーンの甲殻を何度も斬った刀身には、刃こぼれ一つない。
「こっちも大丈夫」
「よかったです!」
その時だった。
リュナが突然目を瞬く。
「あれ?」
「どうした?」
「レベルが上がった」
「クイーンの経験値か」
「うん。でも……」
リュナが自分の状態を確認する。
そして、驚いたようにシオンを見る。
「シオン」
「ん?」
「《月影獣》、レベル50になった」
「おお!」
「ついにですか!」
ロッテも嬉しそうにリュナを見る。
「うん。ちょうど50」
「じゃあ、次の職に転職できるな」
「そうだね」
リュナは少し嬉しそうに笑った。
「どんな職があるかな」
「戻ったら調べよう」
「うん」
リュナは《金月華》を鞘へ戻した。
シオンも自分のロッドを見る。
ロッテが作った三つの武器は、すべてクイーン相手に十分な性能を発揮した。
周囲を見ると、まだ何体かのアイアンモールが残っている。
クイーンが倒れたからといって、それらまで消えるわけではない。
「残りも片付けるか」
「うん」
「鉱石をこれ以上食べられたくないですからね!」
三人は残ったアイアンモールの討伐を始めた。
クイーンがいなければ、通常個体は三人の敵ではない。
しばらくして、大空洞にいたアイアンモールをすべて倒した。
シオンが順番に《ストレージ》へ収納していく。
最後に残ったのは、巨大なクイーンの死体だった。
「これも持って帰る?」
リュナが尋ねる。
「もちろん」
シオンがクイーンへ触れる。
巨大な死体が《ストレージ》へ収納された。
「ギルドも調べたいだろうしな」
「甲殻も素材になるかもしれませんね」
ロッテが言う。
「これだけ硬いなら、何かに使えそうです」
「それも帰ってからだな」
シオンは大空洞を見回した。
壁にはまだオリハルコンが残っている。
かなり食われた跡はあるが、すべて失われたわけではない。
「とりあえず、鉱脈は守れたな」
「うん」
「早く報告しましょう!」
三人は大空洞を後にした。
帰り道でも遭遇したアイアンモールを倒しながら進み、未調査だった横穴を抜ける。
管理事務所へ戻ると、昨日の職員がすぐに立ち上がった。
「どうだった?」
ロッテが《金剛砕》を持ち上げる。
「倒しました!」
「クイーンを?」
「ああ」
シオンが答える。
「死体も丸ごと持ち帰ってる」
「本当か!」
職員の表情が一気に明るくなる。
「すぐに冒険者ギルドと鍛冶ギルドへ知らせる!」
「まだアイアンモールは残ってると思うぞ」
「ああ、それは分かっている。だがクイーンを倒したなら、これ以上増え続ける心配はなくなるんだろ?」
「《鑑定》の内容が正しいならな」
「十分だ。残った個体は順番に駆除していけばいい」
職員は奥にいた別の職員へ声をかけ、すぐに報告を回し始めた。
「シオンさん」
ロッテが嬉しそうに《金剛砕》を見る。
「これで鍛冶ギルドにも報告できますね」
「ああ」
「ギルド長、実戦で通用したら改めて話すって言ってたよね」
リュナが言う。
「言ってました!」
「その前に冒険者ギルドだな」
シオンが言う。
「クイーンの死体も出さないといけないし、リュナもレベル50になったから転職について聞きたい」
「そうだった」
リュナが頷く。
「じゃあ、まずエマさんのところだね」
「ああ」
「クイーンの甲殻も見てもらいましょう!」
三人は管理事務所を出た。
シオンの《ストレージ》には、巨大なアイアンモールクイーンが丸ごと収められている。
リュナは《月影獣》のレベル50に到達した。
ロッテが作ったオリハルコンの武器も、実戦で十分な性能を証明した。
「行こう」
「うん」
「はい!」
三人は冒険者ギルドへ向かった。




