↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/85

第82話 オリハルコン加工

「これは、オリハルコンだ」


 年配の職人が告げると、工房が静まり返った。


 ロッテは目の前の青みを帯びた鉱石を見る。


「……これが?」


「ああ」


「オリハルコン?」


 リュナがシオンを見る。


「そんなにすごいの?」


「俺も名前くらいしか知らない」


 ロッテは違った。


「すごいですよ!」


 勢いよく振り返る。


「ミスリルよりも希少で、強度も魔力伝導率も高い金属です! 私も実物を見るのは初めてですけど!」


「詳しいね」


「鍛冶師ですから!」


 年配の職人は削り出した鉱石を手に取った。


「俺も加工された物なら見たことがある。だが、原石を見るのは久しぶりだ」


「そんなに珍しいんですか?」


「珍しいどころじゃない。市場に出ること自体がほとんどない」


 そこへ、受付の男が一人の男を連れて戻ってきた。


「ギルド長、こっちです」


 五十代ほどの大柄な男だった。


 太い腕には古い火傷の痕がいくつも残っている。


「オリハルコンが出たってのは本当か?」


「これだ」


 年配の職人が岩塊を渡す。


 ギルド長は受け取ると、露出した鉱石をじっと見る。


「調べたのか?」


「ああ。何度か確認した。間違いない」


「他のも?」


「同じだ。採掘場所が違う物も全部な」


 ギルド長は並べられた岩塊を見る。


「どこで見つけた?」


「新鉱脈です」


 ロッテが答えた。


「昨日見つかった未調査の横穴か?」


「はい。入口だけじゃなくて、奥にもありました」


「どの程度だ?」


「正確には分かりません。でも何か所も露出してました。奥にあった大きな空洞の壁にもかなりありましたよ」


 ギルド長の目つきが変わる。


「大きな空洞?」


「そこにアイアンモールがたくさんいました」


「何?」


「それと、アイアンモールクイーンも」


「クイーン?」


 シオンが説明する。


「《鑑定》した。アイアンモールを産んで群れを作る女王個体だ。普通のやつよりずっと大きくて、鉱石に含まれる金属と魔力を大量に摂取するらしい」


 ギルド長と年配の職人が顔を見合わせた。


「待て」


 年配の職人がロッテを見る。


「さっき、大空洞にもオリハルコンがあったと言ったな?」


「はい」


「アイアンモールは?」


「鉱石を食べてました」


「……まずいぞ」


 ギルド長が低い声で言った。


「どうしたんです?」


「アイアンモールが何を食っていたか、もう答えが出ただろう」


 ロッテが並んだ岩塊を見る。


「あっ……」


 シオンも気づいた。


「オリハルコンを食ってるのか?」


「可能性は高い」


 ギルド長が頷く。


「普通のアイアンモールだけでも厄介だ。それが大量にいて、さらにクイーンまでいるんだろ?」


「ああ」


「クイーンが大量の金属と魔力を必要とするなら、オリハルコンなんて格好の餌だ」


 年配の職人が苦い顔をする。


「しかもクイーンが子を増やす。増えたアイアンモールがまた鉱石を食う」


「放っておいたらどうなるんです?」


 リュナが尋ねる。


「鉱脈の規模次第だが、食われ続けるのは間違いない」


 ギルド長が岩塊を置いた。


「すぐに鉱山側へ知らせる。採掘どころじゃない。まずアイアンモールをどうにかしないと、せっかく見つかったオリハルコンが消えていく」


「でも、クイーンはかなり硬かったぞ」


 シオンが言う。


「俺たちも一度戦ったけど、倒さずに戻ってきた」


「お前らでも?」


 受付の男が驚く。


「攻撃を避けたり受けたりするのは問題なかったよ」


 リュナが《蒼銀華》へ手を添える。


「でも、これでもほとんど斬れなかった」


「ミスリルの刀でか?」


「うん。傷はつくけど、甲殻を斬り裂くところまではいかなかった」


 ロッテも自分の戦鎚を示す。


「私の《震撃》なら中には効いてました。でも甲殻は割れませんでした」


「俺の魔法も効くには効いた。でも、かなり耐性が高い」


 ギルド長は三人の装備を順番に見る。


 昨日、ロッテが上級鍛冶師として認められる際に確認されたミスリル装備だ。


「それだけの装備で突破できない甲殻か……」


「倒せないとは思ってない」


 シオンは言った。


「ただ、今のまま無理に戦う必要はないと思って戻ってきた」


「正しい判断だ」


 ギルド長は即答した。


「討伐するにしても、準備できるなら準備してから行くべきだ」


 そこで年配の職人が手元のオリハルコンを見る。


「だったら、こいつを使えばいい」


「え?」


 ロッテが振り返った。


「オリハルコンだ。ミスリルを遥かに上回る素材なら、クイーンの甲殻を突破できるかもしれん」


「でも、これは鉱山の物ですよね?」


「そうだ。勝手には使えん」


 ギルド長が答える。


「だが、オリハルコンを守るためにクイーンを倒すんだ。鉱山側が拒否するとは思えない」


 ギルド長は受付の男へ向く。


「鉱山の管理責任者を呼んでくれ。冒険者ギルドにも連絡だ」


「分かりました」


 男が工房を出ていく。


 話が一気に大きくなってきた。


 ロッテは目の前のオリハルコンを見つめている。


「これで武器を……」


「作れるの?」


 リュナが尋ねる。


「……分かりません」


「分からない?」


「オリハルコンなんて扱ったことないですから」


 ロッテは正直に答えた。


「《ミスリル加工》は持ってます。でも、それでオリハルコンまで加工できるとは思えません」


 年配の職人が頷く。


「その通りだ。ミスリルとオリハルコンじゃ扱い方が違う」


「じゃあ、鍛冶ギルドで加工できる人は?」


 シオンが尋ねる。


 誰もすぐには答えなかった。


 やがてギルド長が口を開く。


「いない」


「一人も?」


「ああ」


「でも、さっき加工された物を見たことがあるって」


 リュナが年配の職人を見る。


「昔の話だ。俺が見たのも、別の土地から持ち込まれた品だ」


 ギルド長も続ける。


「オリハルコンそのものが滅多に出ない。加工方法を知っていたとしても、実際に扱った経験がある職人なんてほとんどいない」


「せっかくあるのに加工できないんですか……」


 ロッテが残念そうに鉱石を見る。


「現状ではな」


 その時、工房の扉が開いた。


 受付の男が戻ってくる。


「鉱山側と連絡が取れました。責任者がこちらへ来るそうです。冒険者ギルドにも伝えています」


「分かった」


 それほど待たず、鉱山の管理責任者が鍛冶ギルドへやってきた。


 昨日の調査結果とオリハルコンの鑑定結果が改めて説明される。


「本当にオリハルコンなのか?」


「間違いない」


 ギルド長が答える。


「しかもアイアンモールどもが鉱脈を食っている可能性が高い」


「クイーンまでいるんだったな」


「ああ。放っておけばさらに増える」


 管理責任者は難しい顔で考え込む。


「クイーンを倒せば止まるのか?」


「少なくとも新しく増え続けることはなくなるはずだ」


 シオンが答える。


「残ったアイアンモールは別に倒す必要があるけどな」


「それなら、まずクイーンか」


 管理責任者が三人を見る。


「討伐を頼めるか?」


「武器の問題が解決するなら」


「今のミスリルでは厳しいんだったな」


「ああ」


 ギルド長がオリハルコンを指差した。


「だから、こいつを使わせたい」


 管理責任者が驚く。


「採ったばかりのオリハルコンを?」


「何のために守るんだ? 食われるのを眺めてるくらいなら、一部を使ってクイーンを倒した方がいい」


「それはそうだが……」


「クイーンを放置して鉱脈ごと食われたら全部なくなるぞ」


 その言葉で、管理責任者の迷いが消えた。


「分かった」


 シオンたちを見る。


「今回採掘したオリハルコンのうち、討伐に必要な分を使って構わない」


「本当にいいんですか?」


 ロッテが確認する。


「ああ。その代わり、頼みたい」


 管理責任者は三人へ頭を下げた。


「オリハルコンで装備を整えて、アイアンモールクイーンを倒してくれ。このままじゃ、せっかく見つかった貴重な鉱脈が食われてしまう」


「俺はいいぞ」


「私も」


「もちろんです!」


 三人の返事は早かった。


 しかし、ギルド長が腕を組む。


「問題はさっき話した通りだ」


「加工できないんだったな」


「そうだ」


 使っていい。


 素材も目の前にある。


 だが、それを武器にする方法がない。


「……どうしましょう」


 ロッテがオリハルコンを見つめる。


 しばらく考えたあと、ふとシオンへ顔を向けた。


「シオンさん」


「ん?」


「一つ試してもらっていいですか?」


「何を?」


「《正解選択》です」


 シオンは目を瞬いた。


「《正解選択》?」


「はい」


 ロッテがオリハルコンを指差す。


「オリハルコンを加工するにはどうすればいいか、《正解選択》に聞いてもらえませんか?」


「なるほど」


 シオンはすぐに納得した。


 これまで《正解選択》は、普通なら見つけられない選択肢を何度も示してきた。


 それなら、オリハルコンについて何か分かる可能性もある。


「やってみる」


 シオンは目の前のオリハルコンを見る。


 そして意識を集中させた。


「《正解選択》。ロッテがオリハルコンを加工する方法はあるか?」


 一瞬、何も起こらなかった。


 だが次の瞬間、シオンの視界に文字が浮かぶ。


【条件を確認】


【《鍛造の才》――取得済み】

【《金属鑑定》――取得済み】

【《ミスリル加工》――取得済み】

【上位金属加工に必要な技量――達成】

【オリハルコンとの接触――達成】


【条件を満たしました】


【隠しスキル《オリハルコン加工》が解放されました】


【取得対象――ロッテ】


【正解】


「……あった」


「本当ですか!?」


「ああ」


 シオンは表示された内容をそのまま伝える。


「隠しスキル、《オリハルコン加工》」


 ロッテの目が大きく開く。


「私が取得できるんですか?」


「ロッテだけみたいだ」


「私だけ……」


 ロッテは自分の手を見る。


 これまで覚えてきた《鍛造の才》、《金属鑑定》、《ミスリル加工》。


 そして、自分で作り続けてきた武器と防具。


 それらすべてが条件になっていた。


「取得します」


 ロッテは迷わなかった。


 必要なスキルポイントが表示される。


 これまで取得してきたスキルよりも高い。


 それでも、ロッテには十分なスキルポイントが残っていた。


「《オリハルコン加工》、取得!」


 ロッテが宣言する。


【《オリハルコン加工》を取得しました】


 表示を確認したロッテは、ゆっくりと目の前の鉱石へ手を伸ばした。


「……分かります」


「何が?」


 リュナが尋ねる。


「さっきまで、どう扱えばいいのか全然分からなかったのに……今なら分かります」


 ロッテの表情が変わる。


 驚きではない。


 鍛冶師として、新しい素材を前にした真剣な顔だった。


「加工できます」


 ロッテはオリハルコンを手に取った。


「私が、三人の武器を作ります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。