第80話 未調査区域
翌朝。
シオンたちは冒険者ギルドから発行された依頼書を持って、新鉱脈の管理事務所を訪れた。
「未調査区域の調査ですね。話は聞いています」
受付の男は依頼書を確認すると、三人へ返した。
「昨日発見された横穴への立ち入りを許可します。魔物については必要に応じて討伐してください。それと、未知の鉱石についても調査をお願いします」
「採掘してもいいんですよね?」
ロッテが確認する。
「ああ。昨日は採掘禁止区域だったから手を付けなかったそうだな」
「はい」
「助かった。何の鉱石か分からない以上、まず状態を確認したい。今回は調査に必要な範囲で採掘して構わない」
「どれくらい採ってきたらいいですか?」
「一か所だけじゃなく、できれば何か所かから採ってくれ。周囲の岩も一緒にな。鉱脈がどの程度広がっているのか分かるようなら、それも確認してほしい」
「分かりました!」
「持ち帰れる量で構わないぞ」
「それなら大丈夫です」
ロッテがシオンを見る。
受付の男もつられてシオンを見る。
「何かあるのか?」
「シオンさんが全部持てますから」
「全部?」
「《ストレージ》があるので」
「ああ、昨日ギルドから連絡に書いてあった妙な収納スキルか」
「妙って……」
「いや、便利すぎるだろ。荷車も人手も必要ないんだからな」
確かに鉱山側からすれば便利だろう。
「ただし、好きなだけ掘っていいという意味じゃないぞ。今回はあくまで調査だ」
「分かってます」
「なら頼む」
三人は管理事務所を出ると、新鉱脈へ向かった。
昨日通った坑道を進み、魔物が出現する区域へ入る。
途中で数体のロックハウンドと遭遇したが、足を止めるほどではなかった。
シオンの《サンダーボルト》が一体を撃ち抜き、リュナが二体目を斬り倒す。
残った一体がロッテへ飛びかかった。
「遅いです!」
ロッテが盾で受け止め、そのまま《シールドバッシュ》で岩壁へ叩きつける。
倒れたロックハウンドをシオンが《ストレージ》へ収納した。
「昨日より少ないね」
「この辺はかなり倒したからな」
「奥は分かりませんけどね」
三人はさらに進む。
昨日確認した道なので迷うこともない。
やがて自然洞窟へ入り、しばらく進むと目的の場所が見えてきた。
「あそこです」
ロッテが指差す。
岩壁に開いた大きな横穴。
その入口にはギルドの調査印がない。
昨日はここで引き返したが、今日は正式な許可を得ている。
「まず鉱石ですね」
ロッテは横穴の入口近くへ向かった。
「これです」
岩壁の一部に、青みを帯びた鉱石が露出している。
昨日見たものと同じだ。
ロッテが手を触れ、《金属鑑定》を使う。
【名称不明】
【高濃度の魔力を含む鉱石】
【詳細不明】
「やっぱり変わりませんね」
「昨日と同じか」
「はい。これだけじゃ何なのか分かりません」
ロッテは持ってきた採掘道具を取り出した。
露出している鉱石だけを削るのではなく、周囲の岩ごと慎重に切り出していく。
何度か槌を振るうと、拳より大きな岩塊が外れた。
青みを帯びた鉱石が岩の中に走っている。
「これくらいなら調べられるかな?」
「もう少し採っておきたいです。場所によって違うかもしれませんから」
「じゃあ俺が持つ」
「お願いします」
シオンは採掘された岩塊を《ストレージ》へ入れた。
ロッテは少し離れた場所からも採取する。
二つ、三つと岩塊を確保したところで手を止めた。
「入口だけならこれくらいでいいと思います」
「奥にもあったら?」
「場所を記録して、少しずつ採りましょう」
「分かった」
三人は横穴の奥へ入った。
中はアイアンモールが掘ったと思われる跡がいたるところに残っている。
壁も天井も不規則で、自然にできた洞窟とは明らかに違った。
「結構広いな」
「アイアンモールなら、このくらい掘れそうですね」
ロッテが壁の傷を確認する。
リュナは周囲へ意識を向けていた。
「前にいるよ」
「何体?」
「四……いや、五かな」
「行こう」
三人が進むと、前方から岩を削る音が聞こえてきた。
やがて五体のアイアンモールが姿を現す。
こちらに気づいた一体が突進してきた。
「《ウィークネス》」
シオンの魔法がアイアンモールを包む。
硬い甲殻の防御力が落ちたところへ、リュナが踏み込んだ。
一閃。
《蒼銀華》が甲殻の隙間を斬り裂く。
別の一体へロッテが向かう。
「《震撃》!」
戦鎚が甲殻を叩く。
硬い外殻を通して衝撃が内部へ伝わり、アイアンモールの動きが止まった。
「《ライトニング》!」
青白い雷撃が残る三体をまとめて襲う。
狭い横穴に雷鳴が響いた。
倒れた魔物を確認し、シオンが《ストレージ》へ収納していく。
「やっぱりいるな」
「昨日より奥ですからね」
ロッテは一体がいた場所へ近づいた。
「シオンさん、これ見てください」
「ん?」
地面に小さな石の欠片が落ちている。
ただの岩ではない。
青みを帯びていた。
「さっきの鉱石?」
「たぶん」
ロッテが拾い上げ、《金属鑑定》を使う。
【名称不明】
【高濃度の魔力を含む鉱石】
【詳細不明】
「同じです」
「ここにも鉱脈があるのか?」
「それなら壁に……」
ロッテが周囲を調べる。
だが、近くの壁には同じ鉱石が見当たらない。
「ないですね」
「じゃあ、あいつらが持ってきた?」
リュナが倒されたアイアンモールを見る。
「その可能性はありそうです」
ロッテは鉱石の欠片を持ち上げた。
「アイアンモールは鉱石を食べますから」
「どこかで食って、ここまで来たとか?」
「それもありますけど……」
ロッテが地面を見る。
そこにはアイアンモールが何度も通ったと思われる跡が残っている。
さらに奥へ向かっていた。
「行ってみましょう」
三人は進行方向を記録しながら奥へ進んだ。
横穴は一本ではなかった。
途中で細い穴がいくつも枝分かれしている。
「これ、全部調べるの大変そうだな」
「地図を作りながら進んだ方がいいですね」
ロッテが簡単に道を書き留める。
「右は?」
シオンが尋ねる。
リュナが少し耳を動かした。
「何も感じない。左はいる」
「じゃあ左から確認するか」
「うん」
左の穴へ入る。
しばらくすると、再びアイアンモールが現れた。
今度は八体。
だが数が増えたところで、三人にとって大きな違いはない。
「《ソードジャッジメント》!」
頭上に光の剣が現れ、アイアンモールへ降り注ぐ。
硬い甲殻を貫かれ、数体がその場で倒れた。
攻撃を逃れた個体へリュナが駆ける。
《蒼銀華》が閃き、次々と仕留めていく。
最後の一体はロッテへ突進した。
「《不動》!」
盾を構えたロッテが正面から受け止める。
激しい音が響く。
しかし、ロッテはほとんど動かない。
「《シールドバッシュ》!」
逆にアイアンモールが弾き飛ばされる。
そこへ戦鎚が振り下ろされた。
「終わりです!」
すべて倒したところで、リュナが奥を見る。
「まだいるよ」
「近い?」
「さっきより遠い。でも……多い」
「どれくらい?」
「分からない。重なってる」
シオンとロッテが顔を見合わせた。
「やっぱり奥に集まってるのか」
「そうみたいですね」
倒したアイアンモールを収納し、さらに進む。
途中の壁に、再び青みを帯びた鉱石が見つかった。
「あった!」
ロッテが駆け寄る。
入口で見つけたものより露出している範囲が広い。
「ここからも採ります」
ロッテが周囲の岩ごと切り出す。
一つ目。
二つ目。
さらに少し場所を変えて三つ目。
すべてシオンが《ストレージ》へ収納した。
「まだ続いてるみたいです」
ロッテが壁を確認する。
「奥まで?」
「分かりません。でも表面に出てる部分だけじゃないですね」
「じゃあ鉱脈ってこと?」
リュナが尋ねる。
「その可能性は高いと思います」
ロッテは場所を地図へ記録した。
「もっと奥にもあるかもしれません」
三人は調査を続ける。
進むにつれ、アイアンモールが残した痕跡は増えていった。
壁の掘削跡。
地面に残る無数の足跡。
食い散らかされた鉱石の欠片。
「ずいぶん食べてるな」
シオンが足元を見る。
「鉱石が目的なら、ここに集まってる理由も分かりますね」
「でも、それだけかな?」
リュナが立ち止まった。
「どうした?」
「静かに」
三人が足を止める。
リュナが目を閉じ、《気配察知》へ集中した。
「……いる」
「またアイアンモール?」
「たぶん。でも今までとは数が違う」
「どのくらい?」
「数えられない」
リュナが奥を指差す。
「あっちにたくさんいる」
シオンも前を見る。
通路はまだ続いている。
その先から、微かに岩を削る音が聞こえていた。
一つではない。
いくつもの音が重なっている。
「行ってみるか?」
「調査依頼ですからね」
「危なかったら戻ればいいしね」
三人は警戒しながら先へ進んだ。
やがて通路の先が大きく開けてくる。
「広い場所に出るみたいだな」
「待って」
リュナが再び足を止めた。
「どうした?」
「さっき感じてた気配、この先に集まってる」
「何体くらい?」
「だから数えられないって。それに……」
リュナが眉を寄せる。
「一つだけ、変なのがいる」
「変?」
「うん。ほかの気配より、ずっと大きい」
シオンはロッドを握り直した。
ロッテも盾を構える。
通路の先から、硬いものが岩を削る音が響いてきた。
シオンは二人を見る。
「確認だけしてみよう」
「はい」
「うん」
三人は足音を抑えながら、広い空間へ続く通路を進んだ。




