↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/85

第8話 仲間として

 冒険者ギルドへ戻ると、セリスが受付台の向こうから二人を見つけた。


「あっ、シオンさん! お戻りになったんですね」


「すみません、さっきは急に出ていって」


「いえ。何かあったのかと心配していたんですけど……大丈夫ですか?」


「はい!」


 シオンは元気よく答えた。


 隣のリュナは、少しだけ緊張した顔で受付台を見つめている。


 先ほどの男たちは、まだギルドの奥にいた。


 こちらを見ているかどうかはわからない。


 それでもリュナは、周囲の声が気になってしまう。


「それで、今日は薬草の納品でしたね」


「あ、その前に一つお願いします!」


「はい。何でしょう?」


 シオンは一度、リュナを見た。


 リュナが小さくうなずく。


 それを確かめてから、シオンは受付台へ向き直った。


「パーティ登録をお願いします!」


 いつもより、少し大きな声だった。


 近くにいた冒険者が何人か、こちらを振り向く。


 シオンは構わず続けた。


「リュナは奴隷なんかじゃなくて、俺の仲間として!」


「……っ!」


 リュナの耳が、ぴんと立った。


 ギルドの中が、一瞬だけ静かになる。


 シオンは、リュナの隣から動かなかった。


 誰かに言い返すためではない。


 自分たちがどういう関係なのか、はっきり伝えたかっただけだ。


 セリスは二人を交互に見て、それからにっこり笑った。


「はい! お二人のパーティ登録ですね!」


 いつもと変わらない明るい声だった。


「よかったです、シオンさん。今朝、仲間探しの相談を受けたばかりでしたから」


「こんなに早く見つかるとは思ってませんでした!」


「ふふっ。それでは、お二人ともギルドカードをお願いします」


 シオンはカードを取り出した。


 リュナも腰の小さな袋から、自分のカードを出す。


「リュナさんも、すでに冒険者登録はお済みなんですね」


「……はい」


「では、こちらで確認しますね」


 セリスが二枚のカードを受付台の奥へ運ぶ。


 シオンはその間に、隣を見た。


「リュナ?」


「……何よ」


「どうかした?」


「……あんた、声が大きいのよ」


「えっ。そうだった?」


「そうよ。ギルド中に聞こえてたわ」


「ちゃんと伝わったなら、よかった!」


「…………」


 リュナは何か言い返そうとして、やめた。


 その代わり、シオンの服の裾を小さくつまむ。


「……ありがと」


「ん?」


「……なんでもない」


 シオンは首をかしげた。


 けれど、リュナの尻尾がゆっくり揺れているのを見て、なんとなく嬉しくなった。


     ◇


「お待たせしました!」


 セリスが二枚のカードを持って戻ってきた。


「お二人のパーティ登録が完了しました。今後は、パーティで依頼を受けられますよ」


「おおっ!」


 シオンは受け取ったカードを眺めた。


 見た目は、先ほどまでとほとんど変わらない。


 けれど、これでリュナと正式な仲間になったのだ。


「パーティで依頼を受けた場合、報酬の分け方はお二人で決めてくださいね。後から揉めないよう、出発前に相談しておくと安心です」


「わかりました!」


「……はい」


 リュナもうなずく。


 セリスは続けて、受付台の上に置かれた袋へ目を向けた。


「それでは、薬草の納品も済ませましょうか」


「あっ、そうだった!」


 シオンはストレージから薬草を五株取り出した。


 セリスは手早く葉と茎を確認する。


「はい。五株とも問題ありません。依頼達成です!」


「やった!」


 初めて受けた依頼を、無事に終えられた。


 シオンは思わず拳を握った。


「最後の一株は、リュナが見つけてくれたんですよ」


「そうなんですね!」


「匂いだけで、どこにあるかわかったんです!」


「……そんなに言わなくていいでしょ」


 リュナが小声で抗議する。


 セリスは微笑みながら報酬を用意した。


「お二人で協力されたんですね。こちらが依頼の報酬です」


 シオンは受け取った銅貨を、リュナにも見せた。


「これ、あとで分けような」


「……私、最後の一株を見つけただけよ」


「でも、見つけてくれたのはリュナだろ?」


「……もう。わかったわよ」


 リュナは小さく息をついた。


 セリスはそんな二人を、嬉しそうに見守っていた。


     ◇


 薬草の納品を終えたシオンは、今度は買い取り窓口へ向かった。


「ボアも売ってきます!」


「……三体もあるのよね」


「うん。昨日の一体と合わせたら、結構な数だな」


 リュナは、シオンの何気ない言葉に足を止めた。


「……昨日の一体?」


「あれ? リュナと別れたあとに売ったやつ。覚えてない?」


「……ああ。そういうこと」


 リュナはほっとしたように息を吐いた。


 シオンは不思議そうに首をかしげながら、買い取り窓口へ進む。


 昨日と同じ、がっしりした体格の男が座っていた。


「おう、昨日の兄ちゃんか。今日は何を持ってきた?」


「ボアを三体です!」


「三体?」


 男が眉を上げる。


「……まさか、またあの収納スキルか?」


「はい。でも、あまり大きな声では……」


「おっと、そうだったな」


 男は声を落とし、奥の作業場を指さした。


「こっちで出してくれ。確認して買い取る」


 シオンとリュナは、男について奥へ入った。


 シオンがボアを一体ずつ取り出すと、男は目を丸くした。


「……こりゃまた、きれいに仕留めたな」


「そうですか?」


「氷魔法か。傷んでる部分も少ねえ」


 男は三体を順に確認し、買い取り額を告げた。


 シオンは代金を受け取り、リュナと一緒に窓口を離れた。


「よし! これでしばらく宿代には困らなさそうだ!」


「……そうね」


「リュナは、今どこに泊まってるんだ?」


 リュナの足が、わずかに止まった。


「……決まった宿はないわよ」


「そうなの?」


「空いてるところを探したり……まあ、いろいろ」


 リュナは詳しく話そうとしなかった。


 シオンは少し考えてから、ぱっと顔を上げた。


「じゃあ、俺が泊まってる宿に行かない?」


「……え?」


「『小鳥の止まり木』っていう宿なんだけど、ご飯もついてて、いいところなんだ!」


「……あんたが泊まってる宿?」


「うん。空き部屋があれば、リュナも泊まれるだろ?」


 リュナはシオンの顔を見上げた。


 また、何でもないことのように誘ってくる。


「……まあ、空いてるなら」


「よし! 行ってみよう!」


 シオンは嬉しそうに歩き出した。


 リュナも、その隣についていった。


     ◇


 『小鳥の止まり木』へ着いたころには、通りを行き交う人の影が少しずつ長くなっていた。


 シオンが扉を開けると、宿の主人が顔を上げた。


「おや、シオンさん。お帰りなさい」


「ただいま戻りました!」


 主人はシオンの隣にいるリュナを見て、少しだけ目を細めた。


「……お連れさんかい?」


「はい! 今日から一緒にパーティを組むことになった、リュナです!」


「……どうも」


 リュナが小さく頭を下げる。


「そうかい。で、今日はどうするんだい?」


「俺はもう一泊お願いします。それと、リュナの分も一部屋空いてますか?」


 主人は壁に掛かった鍵を見た。


「ああ、部屋は空いてるよ」


「よかった! じゃあ、二人分お願いします!」


「夕食と朝食付きでいいね?」


「はい!」


 主人はうなずき、代金を告げた。


「シオンさんは銅貨八枚。そちらのお嬢さんは、銅貨十二枚だよ」


「……え?」


 シオンは、銅貨を取り出しかけた手を止めた。


「ちょっと待ってください。俺は八枚ですよね?」


「ああ」


「リュナは十二枚?」


「そうだよ」


「……なんでリュナだけ高いんですか?」


 主人は、当然のことを説明するように答えた。


「獣人のお客さんは、毛が抜け落ちるだろう? 部屋の掃除に手間がかかるんだよ。だから、うちではそういう料金にしてるんだ」


「…………」


 シオンは言葉を失った。


 リュナのほうを見る。


 彼女は驚いていなかった。


 ただ、少しだけ耳を伏せている。


「……別に、いいわよ」


 リュナが小さく言った。


「そういう宿、珍しくないから」


「でも……」


「泊めてもらえるだけ、いいほうよ」


 その言葉に、シオンは何も返せなかった。


 ギルドで聞いた話を、思い出す。


 同じ店に入るなと言われること。


 仕事を断られること。


 人間の隣にいるだけで、奴隷だと決めつけられること。


 今度は、同じ宿に泊まるのに、リュナだけ料金が高い。


 シオンは、受付台の上に置いた銅貨を見つめた。


「……掃除に手間がかかるから、ですか」


「そういう決まりなんだ。悪いね」


 主人は申し訳なさそうに肩をすくめた。


 リュナはシオンの袖を、そっと引いた。


「……シオン。私は大丈夫だから」


 シオンは、その手を見た。


 そして、もう一度、主人へ向き直った。


「……わかりました。まずは、二人分払います」


 シオンは銅貨を数え、受付台へ置いた。


 主人は代金を受け取り、二つの鍵を差し出した。


「はいよ。部屋は二階だ。夕食はいつもどおり、下の食堂でね」


「ありがとうございます」


 シオンは鍵を受け取り、一つをリュナへ渡した。


「はい、リュナ」


「……うん」


 二人は階段へ向かった。


 シオンは、隣を歩くリュナの耳をちらりと見た。


 昨日は、初めて見た猫耳が珍しくて、つい目を奪われた。


 今日、その耳を理由にリュナが何を言われるのか、少しだけ知った。


 それでも、シオンにとってリュナは変わらない。


 森で一緒に戦い、薬草を見つけてくれた。


 そして、今日から同じパーティになった仲間だ。


「……リュナ」


「何?」


「夕食、楽しみだな」


 リュナは意外そうにシオンを見た。


 それから、ほんの少し笑った。


「……そうね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。