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第69話 砂王の宝物庫

 金色の扉がゆっくりと開いていく。


 最初に見えたのは、暗闇だった。


 シオンの《ライト》が扉の向こうへ届く。


 そして。


「……おお」


 思わず声が漏れた。


「すご……」


 リュナも目を見開く。


「これは……」


 ロッテまで言葉を失っていた。


 広い部屋だった。


 だが、三人が驚いたのは広さではない。


 部屋の中には、至るところに金色の輝きがあった。


 積み上げられた金貨。


 大きな器いっぱいに入った色とりどりの宝石。


 金で作られた杯や皿。


 壁際には豪華な装飾品が並び、中央付近には宝石を散りばめた王冠まで置かれている。


「本当に宝物庫だった……」


 シオンはゆっくり中へ入った。


 足元にまで金貨が転がっている。


「これ、全部本物?」


 リュナが金貨を一枚拾う。


「《鑑定》してみる」


 シオンが金貨を見る。


【古代金貨】


【かつて砂漠に存在した王国で使用されていた金貨】


【現在は貨幣として流通していない】


「金貨ではあるけど、今の金貨とは違うみたいだな」


「じゃあ使えないの?」


「貨幣としては使えないみたい」


「でも金ですよね?」


 ロッテが一枚受け取り、確認する。


「はい。ちゃんと金です」


「なら価値はあるか」


「それどころか、古いものなら金そのものより価値が高いかもしれませんよ」


「なるほど」


 シオンは周囲を見回した。


「……これ全部だと、いくらになるんだ?」


「分かりません」


「私に聞かないでよ」


 二人とも即答だった。


 そもそも、量が多すぎる。


 金貨だけでも何枚あるのか分からない。


 さらに宝石や装飾品まである。


「ギルドに持って帰って聞くしかないか」


「そうだね」


 三人はさらに奥へ進んだ。


「シオン、これ見て」


 リュナが一本の剣を見つけた。


「すごくない?」


「おお」


 豪華な剣だった。


 鞘も柄も金色で、赤や青の宝石がいくつも埋め込まれている。


「強そうだな」


「そうですか?」


 ロッテが妙な顔をした。


「何?」


「ちょっと見せてください」


 リュナから剣を受け取る。


 鞘から抜いた。


 刀身まで黄金色だった。


「……やっぱり」


「何が?」


「これ、武器として使わない方がいいですよ」


「なんで?」


「柔らかいです」


「え?」


 シオンも《鑑定》する。


【砂王の宝剣】


【かつて砂漠の王が儀式に使用した宝剣】


【刀身には大量の金が使用され、複数の宝石で装飾されている】


【美術品として非常に高い価値を持つ】


【武器としての性能は低い】


「本当に弱い」


「だから言ったじゃないですか」


「こんなに豪華なのに?」


「儀式用だったんでしょうね」


 ロッテが宝剣を鞘へ戻す。


「《蒼銀華》の方がずっと強いですよ」


「じゃあいらない」


 リュナの興味が一瞬で消えた。


「いや、売ったら高いだろ」


「だったら持って帰ろう」


「切り替え早いな」


 シオンは《砂王の宝剣》を《ストレージ》へ収納した。


 続いて金貨。


 宝石。


 王冠。


 金の杯。


 装飾品。


 持ち帰れそうなものを次々と収納していく。


「シオンの《ストレージ》がなかったら大変だったね」


「普通なら宝剣一本でも邪魔になりそうだな」


「何回も往復することになりますよ」


「その間に誰かに見つかったら嫌だな」


 だからこそ、誰も到達していない宝物庫を一度に持ち帰れる《ストレージ》は便利だった。


「ん?」


 部屋の奥まで来たところで、シオンが足を止めた。


 金銀財宝とは少し離れた場所に、石造りの台がある。


 その上に一冊の本が置かれていた。


「本?」


 リュナも近づいてくる。


「こんなところに?」


「かなり古そうですね」


 分厚い本だった。


 表紙には見たことのない文字と、いくつもの魔法陣らしき模様が描かれている。


 シオンは手を伸ばす前に《鑑定》した。


【合成魔術の魔導書】


「……合成魔術?」


「何それ?」


「ちょっと待って」


 さらに詳しく確認する。


【合成魔術の魔導書】


【複数の魔法を組み合わせ、新たな魔法を生み出す技術を習得できる魔導書】


【使用すると《合成魔術》を習得する】


「えっ」


 シオンは表示を二度見した。


「どうしたの?」


「これ、すごいかもしれない」


「何が書いてあるんです?」


「複数の魔法を組み合わせて、新しい魔法を作れるらしい」


「新しい魔法?」


 リュナが首を傾げる。


「例えば……」


 シオンは自分が使える魔法を思い浮かべる。


「《ファイヤー》と《ウインド》を組み合わせるとか?」


「それでどうなるの?」


「分からない」


「分からないんだ」


「まだ覚えてないからな」


 シオンは魔導書を見る。


 これまで魔法は、スキルポイントを使って習得してきた。


 だが《合成魔術》を覚えれば、今持っている魔法から新しい魔法を作れる可能性がある。


「シオンさんが使った方がいいですね」


 ロッテが言った。


「いいのか?」


「私もリュナさんも魔法を使いませんから」


「私はいらないよ」


「じゃあ、もらう」


 シオンが魔導書を手に取る。


【《合成魔術の魔導書》を使用しますか?】


【はい】


 選択する。


 魔導書が淡く光った。


 光がシオンの身体へ吸い込まれていく。


 同時に、手の中にあった魔導書が崩れるように消えた。


【《合成魔術》を習得しました】


「おお……」


「覚えた?」


「ああ」


「何か作れる?」


「ちょっと試して――」


「ここで?」


 リュナが宝物庫を見回した。


「やめた方がよくない?」


「……そうだな」


 シオンは《エクスプロージョン》を思い出して、すぐに諦めた。


「街に戻ってから試す」


「その方がいいよ」


 三人は再び宝物庫を調べ始める。


 すると今度は、ロッテが別の石台を見つけた。


「シオンさん、こっちにも何かあります」


 そこには三つの小箱が並んでいた。


 一つ目を開く。


 中に入っていたのは、赤い石が嵌め込まれた腕輪だった。


「《鑑定》」


【剛力の腕輪】


【装備者の筋力を上昇させる魔道具】


「筋力が上がる腕輪だって」


「へえ」


 二つ目。


 青緑色の石がついた首飾り。


【疾風の首飾り】


【装備者の敏捷を上昇させる魔道具】


「こっちは敏捷」


 そして三つ目。


 青い宝石を使った指輪だった。


【魔力の指輪】


【装備者の魔力を上昇させる魔道具】


「最後は魔力だ」


 三人が顔を見合わせる。


「ちょうど三つですね」


「しかも能力が全部違う」


 リュナが三つの魔道具を見る。


「どうする?」


「普通に考えたら――」


 シオンは《魔力の指輪》を見る。


「俺が魔力かな」


「それがいいと思う」


 魔法を多用するシオンなら、魔力上昇の恩恵は大きい。


「じゃあ敏捷はリュナさんですね」


「私?」


「リュナさんの戦い方なら一番合うと思います」


「確かに」


 リュナが《疾風の首飾り》を手に取る。


 残ったのは《剛力の腕輪》。


「じゃあ私はこれですね」


 ロッテが腕輪を手にする。


「ただでさえ力強いのに、さらに上げるのか」


「いいじゃないですか。戦鎚ももっと強く振れますよ」


「ロッテの《震撃》、さらに痛そうだな……」


「敵に使うんですから問題ありません」


「それもそうか」


 それぞれが魔道具を装備する。


 シオンは《魔力の指輪》を指にはめた。


 わずかに身体の内側が変化したような感覚がある。


「ちゃんと効果あるな」


 リュナも首飾りをつけ、軽く身体を動かす。


「うん。少し速くなってる気がする」


 ロッテは腕輪を見たあと、戦鎚を片手で持ち上げた。


「いいですね」


「ロッテの場合、見た目じゃ分からないな」


「試します?」


「何を?」


「シオンさんで」


「なんで俺なんだよ」


 ロッテが笑った。


 残っていた財宝も確認し、シオンが《ストレージ》へ収納していく。


 最後に部屋を一周する。


「これで全部かな」


「たぶん」


「すごい量になりましたね」


「ああ」


 シオンは何もなくなった宝物庫を見る。


 金銀財宝だけでも、どれほどの価値になるのか分からない。


 さらに《合成魔術》と三つの魔道具まで手に入った。


「攻略してよかったな」


「まだ帰るまでが攻略だよ」


「分かってるって」


 リュナに言われ、シオンは笑う。


「じゃあ戻るか」


 三人は宝物庫を出た。


 ファラオガーディアンと戦った広間を抜け、落とし穴から降りてきた場所まで戻る。


 そこで三人は揃って上を見た。


 遥か上に、落ちてきた穴がある。


「……さて」


 リュナが言った。


「どうやって戻るの?」


「それなんだよな」


「シオンさん、《正解選択》に聞きます?」


「その前に少し探してみよう」


 三人で周囲を調べる。


 するとロッテが、壁の一部を指差した。


「これ、何でしょう?」


 壁から小さな石が突き出している。


「押せそうだな」


「罠じゃないよ」


 リュナが確認する。


「じゃあ押してみるか」


 シオンが石へ手を当てた。


 ぐっと押し込む。


 ゴゴゴゴゴ……。


「お?」


 すぐ横の壁が動き始めた。


 壁の一部が奥へ引っ込み、その向こうから石造りの階段が現れる。


 階段は上へ向かって続いていた。


「ちゃんと帰れるようになってたんだ」


 リュナがほっとする。


「これも地図に書いておかないとな」


 シオンは紙を取り出した。


【落とし穴から降りた場所の壁に帰還用の仕掛けあり】


【石の突起を押すと階段が出現】


 そこまで書いてから、地図をしまう。


「これなら次に来る人は落ちても戻れるな」


「その前に、落とし穴へわざと落ちてもらわないといけませんけどね」


「地図を信じてもらうしかないな」


「『罠を解除せず落ちてください』って書いてある地図か……」


 リュナが苦笑する。


「怪しいよね」


「俺たちが実際に戻れば証明になるだろ」


「それもそうだね」


 三人は帰還用の階段へ足をかけた。


 長年攻略されることのなかった《砂王の墳墓》。


 その完全な攻略ルートを記した地図を持って、シオンたちは地上を目指して階段を登り始めた。

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