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第68話 第三階層

 シオンたちは大きな石扉の前までやって来た。


 これまで歩いてきた迷路の通路とは違い、扉には細かな彫刻が施されている。


 中央には王冠を被った人物。


 その周囲には跪く人々や、剣と盾を持った兵士たちの姿が刻まれていた。


「いかにも何かありそうだな」


「うん」


 リュナが石扉を見上げる。


「罠は?」


「ちょっと待って」


 扉の周囲や床を調べていく。


 しばらくして、リュナは首を横に振った。


「分かる範囲ではないよ」


「じゃあ開けてみるか」


「待ってください」


 ロッテが言った。


「その前に、ここがどこなのか記録しておきませんか?」


「あ、そうだった」


 シオンは《ストレージ》から紙と筆記具を取り出した。


 落とし穴から続く通路を書き足し、その先に大きな石扉があることを記録する。


「でも、ここって二階なのかな?」


 リュナが尋ねる。


「落とし穴でかなり下まで落ちたよな」


「はい。二階の中で少し下がっただけとは思えませんでした」


「じゃあ三階?」


「可能性はあるね」


 ギルドからもらった地図には、二階までしか記されていない。


 三階という記載そのものがなかった。


「中を見れば何か分かるかもしれないな」


 シオンは紙をしまった。


「開けよう」


「うん」


「はい」


 三人で扉に手をかける。


「せーの」


 力を込めると、重い石扉がゆっくり動き始めた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 隙間が広がる。


 その向こうへ《ライト》の光が届いた。


「広い……」


 リュナが呟く。


 三人が中へ入る。


 そこは巨大な広間だった。


 天井は高く、太い石柱が左右に並んでいる。


 壁一面には色の残った壁画が描かれ、砂漠を進む大勢の兵士や、玉座に座る王らしき人物の姿が見える。


 これまでの迷路とは明らかに造りが違っていた。


「やっぱり、ここから別の階層っぽいな」


「三階でいいんじゃない?」


「そうしましょうか」


 シオンはもう一度紙を取り出し、


【第三階層】


 と書き加えた。


「仮だけどな」


「帰ってからギルドにも確認してもらえばいいよ」


「ああ」


 三人は広間の奥を見る。


 正面には、さらに大きな扉があった。


「まだ扉があるのか」


「こっちは何でしょう?」


「王様の墓とか?」


 ロッテの言葉に、リュナが少し嫌そうな顔をする。


「アンデッド出てきそう」


「その時はシオンさんの出番ですね」


「《ホーリージャベリン》があるからな」


 三人は警戒しながら広間を進む。


 だが、魔物は現れない。


 罠もなかった。


 やがて奥の扉へ到着する。


 今度の扉には、巨大な戦士が彫られていた。


 片手には剣。


 もう片方には盾。


 その背後に王らしき人物が描かれている。


「こっちは分かりやすいな」


「何が?」


「王を守る戦士だろ、これ」


「じゃあ……」


 リュナが扉を見る。


「この先に何かいる?」


「たぶんな」


 三人の表情が変わる。


 ここまでの迷路では、強敵らしい強敵には遭遇していない。


 だが、長年誰も到達していない場所だ。


 何がいるのか分からない。


「準備してから開けよう」


 シオンがロッドを構える。


 リュナが《蒼銀華》を抜き、ロッテも盾と戦鎚を手にした。


「開けるぞ」


「うん」


「いつでも」


 シオンとロッテが扉を押す。


 ゴゴゴゴゴ……。


 ゆっくりと開いていく。


 その先は、先ほどの広間よりさらに大きかった。


 円形の空間。


 何本もの石柱。


 そして中央に――。


「石像?」


 巨大な人型の石像が立っていた。


 高さはシオンの三倍近い。


 全身を黄金色の装甲で覆い、右手には巨大な曲刀、左手には大盾を持っている。


 顔にも装甲があり、表情は見えない。


「……動きそう」


 リュナが言った。


「俺もそう思う」


 三人が部屋へ入る。


 直後。


 背後で石扉が閉まり始めた。


「やっぱり!」


 リュナが振り返る。


 ゴゴン!


 完全に閉じた。


 同時に、部屋の中央から低い音が響く。


 ゴ……ゴゴ……。


 石像の腕が動いた。


 ゆっくりと頭を上げる。


 顔の奥に二つの赤い光が灯った。


「来ます!」


 ロッテが前へ出る。


 シオンは《鑑定》を使った。


【ファラオガーディアン】


【砂王の眠りを守る古代の守護者】


【魔力によって動く大型ゴーレム】


【高い防御力と物理攻撃力を持つ】


「ファラオガーディアン!」


 巨大な守護者が曲刀を振り上げる。


「ロッテ!」


「任せてください!」


 ロッテが盾を構える。


「《不動》!」


 振り下ろされた曲刀が、ミスリルの盾へ激突した。


 ガァン!!


 金属音が広間に響き渡る。


「くっ!」


 ロッテの身体がわずかに沈む。


 だが、押し潰されることなく受け止めた。


「重いです!」


「《パワーブースト》!」


 シオンがロッテへ強化魔法をかける。


「ありがとうございます!」


 ロッテが盾を押し返す。


 ファラオガーディアンの曲刀が弾かれた。


「リュナ!」


「うん!」


 リュナが横から駆け込む。


 《蒼銀華》を脚へ叩き込んだ。


 ガキン!


「硬っ!」


 刃は通る。


 だが、浅い。


 外装そのものがかなり頑丈だった。


「《ウィークネス》!」


 シオンの魔法がファラオガーディアンを包む。


 防御力を下げる。


「もう一回!」


 リュナが踏み込んだ。


 今度は先ほどと同じ場所へ斬撃を叩き込む。


 ガキッ!


 黄金色の装甲に大きな亀裂が走った。


「効いてる!」


 ファラオガーディアンが左腕の盾を振るう。


 リュナは素早く後方へ跳んでかわした。


 その隙にロッテが懐へ入る。


「《震撃》!」


 戦鎚が脚へ叩き込まれる。


 ドンッ!


 衝撃が装甲の内部へ抜けた。


 ファラオガーディアンの巨体が傾く。


「おお!」


「まだです!」


 ロッテが下がる。


 ファラオガーディアンが体勢を立て直し、曲刀を横薙ぎに振るった。


 三人がそれぞれ距離を取る。


 曲刀が石柱へ激突した。


 バキッ!


 太い石柱の一部が砕ける。


「まともに食らいたくないな」


「当たり前でしょ!」


 シオンがロッドを向ける。


「《ホーリージャベリン》!」


 光の槍が飛ぶ。


 ファラオガーディアンの胸部へ直撃。


 ドンッ!


 黄金色の装甲が大きくへこんだ。


「アンデッドじゃないから特効はなさそうだけど、普通に効くな」


 ファラオガーディアンがシオンへ向く。


 赤い目が強く光った。


「シオン!」


「分かってる!」


 曲刀が振り下ろされる直前。


 シオンは足元の石柱が作る影を見る。


「《影跳び》!」


 姿が消える。


 次の瞬間、視界に入っていた別の石柱の影へ移動した。


 曲刀が誰もいない床を砕く。


「こっちだ!」


 シオンがロッドを向ける。


「《エナジーボール》!」


 魔力弾が背中へ直撃する。


 ファラオガーディアンが振り向く。


 その間にリュナが走った。


「《瞬影乱舞》!」


 何度もの斬撃が、すでに傷ついていた脚へ集中する。


 ガガガガガッ!


 装甲が次々と砕けていく。


 最後の一撃。


 バキン!


 片脚の一部が大きく崩れた。


 ファラオガーディアンの巨体が傾く。


「ロッテ!」


「はい!」


 ロッテが踏み込む。


 戦鎚を大きく引く。


「《震撃》!」


 今度は傷ついた膝へ。


 ドォン!


 脚が完全に砕けた。


 ファラオガーディアンが片膝をつく。


「今だな」


 シオンがロッドを向ける。


「二人とも離れて!」


 リュナとロッテが左右へ走る。


 十分に距離が開いたことを確認する。


「《エクスプロージョン》!」


 ファラオガーディアンの胸元を中心に、爆発が起きた。


 ドォォォン!!


 爆風が広間を走る。


 巨大な身体が大きく揺れた。


 胸部の装甲が砕け、その奥に青白く光るものが見える。


「シオン! 中に何かある!」


「魔石か!」


 ファラオガーディアンが再び動こうとする。


「リュナ!」


「任せて!」


 リュナが一気に駆けた。


 壊れた胸部へ跳び上がる。


「はあっ!」


 《蒼銀華》を突き込んだ。


 青白い核へ刃が届く。


 バキン!


 光が砕けた。


 ファラオガーディアンの動きが止まる。


 赤く光っていた目が消えた。


 巨体がゆっくり前へ倒れていく。


「リュナ、離れろ!」


「分かってる!」


 リュナが飛び退く。


 直後。


 ズズゥン!!


 巨大な守護者が床へ倒れた。


 しばらく待つ。


 動かない。


「……倒した?」


「たぶん」


 シオンが近づいて確認する。


 ファラオガーディアンから魔力の気配は消えていた。


「終わりだな」


「ふう」


 リュナが《蒼銀華》を鞘へ戻す。


「硬かったね」


「でも、そこまで苦戦はしなかったな」


「私たちBランクですからね」


 ロッテも戦鎚を下ろした。


 シオンは倒れたファラオガーディアンを見る。


「これも持って帰るか」


「入るんですか?」


「たぶん」


 シオンが《ストレージ》へ収納する。


 巨大な守護者の姿が消えた。


「入った」


「本当に便利ですね……」


 三人が周囲を見る。


「これで終わり?」


 リュナが尋ねる。


「ボスを倒したんだから、何か――」


 シオンが言いかけた時だった。


 ゴゴゴゴゴ……。


「何?」


 三人が振り返る。


 部屋の奥。


 これまで壁だと思っていた場所がゆっくり左右へ開いていく。


「また隠し扉?」


「みたいだな」


 やがて、その向こうに一本の通路が現れた。


 今までとは違う。


 床には赤い石が敷かれ、壁には金色の装飾が施されている。


「……豪華ですね」


 ロッテが呟く。


「王様の場所に近づいてるのかな」


 リュナが通路の奥を見る。


 シオンは地図を取り出した。


 ボス部屋を書き込み、その奥からさらに通路が続いていることを記録する。


「行こうか」


「うん」


 三人は新たに開いた通路へ入った。


 距離はそれほど長くなかった。


 やがて正面に、一枚の扉が現れる。


 今度は石ではない。


 金色に輝く巨大な扉だった。


 表面には宝石のようなものまで埋め込まれている。


「これって……」


 ロッテが目を丸くする。


 リュナも扉を見上げた。


「いかにもだね」


 シオンは扉の前まで歩く。


 中央には、王冠を被った人物と、その周囲に大量の宝物らしきものが彫られていた。


「宝物庫かな?」


「たぶん」


「開けます?」


 シオンは金色の扉へ手をかけた。


「ああ」


 三人で力を込める。


 ゆっくりと扉が開いていった。

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