第66話 砂王の墳墓
翌朝。
シオンたちは宿で朝食を済ませると、《砂王の墳墓》へ向けてハサムを出発した。
街からでも見えていた巨大な三角形は、近づくにつれてその大きさを増していく。
「昨日も思ったけど……大きいね」
リュナが見上げる。
「ああ。近くで見ると全然違うな」
巨大な石を積み上げて造られた建造物は、砂漠の中にぽつんと存在していた。
かなり古いものらしく、ところどころ崩れているものの、全体の形はしっかりと残っている。
「これを人が造ったんですよね?」
ロッテも首が痛くなりそうなほど上を見ている。
「そうみたいだな」
「どうやって造ったんでしょう……」
「魔法じゃない?」
「それでも大変そうです」
ピラミッドの周囲には冒険者の姿もあった。
これから中へ入る者。
探索を終えて戻ってきた者。
入口へ続く外階段の近くにはギルドの職員らしき者もいる。
三人が近づくと、職員が声をかけてきた。
「砂王の墳墓へ?」
「はい」
「冒険者証を確認させてもらいます」
三人はそれぞれ冒険者証を提示する。
「三人ともBランクですか」
職員は確認を終えると冒険者証を返した。
「二階から先は特に迷いやすくなっています。帰還できなくなる冒険者もいますので、食料と水には余裕を持ってください」
「分かりました」
「それと、内部の壁に目印を刻む行為は禁止されています」
「目印?」
「昔は迷わないように壁へ傷をつける冒険者が多かったんですが、あまりにも増えすぎましてね。逆に混乱する原因になったんです」
「なるほど……」
シオンは妙に納得した。
巨大迷路で全員が好き勝手に目印を残せば、何が正しいのか分からなくなる。
「地図は持っていますか?」
「ギルドでもらったものがあります」
「それなら大丈夫です。お気をつけて」
三人は職員と別れ、外階段へ向かった。
「……これ、登るの?」
リュナが上を見る。
「そうみたいだな」
「入口を下に作ってほしかった」
「造った人に言ってくれ」
「もういないでしょ」
石造りの階段は、ピラミッドの斜面に沿って上へ続いている。
三人は階段を登り始めた。
かなりの高さがあるものの、Bランク冒険者となった三人にとって、階段を登ること自体は大した問題ではない。
やがて、巨大な石造りの入口へ到着した。
振り返ると、砂漠が遥か遠くまで見渡せる。
「おお……」
「ハサムも見えるよ」
リュナが指差す。
遠くに街の外壁と、その内側に広がる建物が見えていた。
「帰りもここ登るのかな?」
ロッテが尋ねる。
「いや、帰りは下から出られるようになっててほしい」
「そんな出口があるんですか?」
「願望」
「ですよね」
三人は入口へ向き直った。
内部は薄暗い。
「《ライト》」
シオンが魔法を使う。
光が周囲を照らし、石造りの通路が奥まで見えるようになった。
「行くか」
「うん」
「はい」
三人は《砂王の墳墓》へ足を踏み入れた。
しばらく真っ直ぐ進むと、最初の分岐に到着した。
左右に通路が分かれている。
「もう迷路?」
「みたいだな」
シオンは《ストレージ》からギルドでもらった地図を取り出した。
広げてみる。
「……改めて見るとすごいな」
「行き止まりばっかりだね」
リュナが横から覗き込む。
地図には大量の通路が書き込まれていた。
しかし、その多くが途中で途切れている。
過去の冒険者たちが一つずつ調査した結果なのだろう。
「右と左、どっち?」
リュナが尋ねる。
「せっかくだから、最初から使ってみるか」
シオンが《正解選択》を意識する。
すると、すぐに文字が浮かび上がった。
【《砂王の墳墓》を攻略するため、進む道を選択してください】
【① 左の通路】
【② 右の通路】
【② 右の通路】
【正解】
「右だな」
「早いね」
三人は迷うことなく右へ進んだ。
少し歩くと、今度は三方向に分かれている。
再び《正解選択》。
【① 左】
【② 中央】
【③ 右】
【① 左】
【正解】
「左」
「はい」
その先には魔物がいた。
乾燥した皮膚を持つ人型の魔物が三体。
身体には古びた布が巻かれている。
「マミーだね」
リュナが刀《蒼銀華》を抜く。
マミーたちがこちらへ向かってくる。
「三体だけなら――」
リュナが一気に距離を詰めた。
銀色の刃が走る。
一体。
二体。
三体。
ほとんど足を止めることなく斬り抜けた。
遅れて三体のマミーが床へ倒れる。
「終わり」
「早いな」
「このくらいならね」
シオンは倒したマミーを《ストレージ》へ収納した。
再び進む。
分岐。
「右」
次の分岐。
「左」
さらに分岐。
「真っ直ぐ」
シオンが《正解選択》を使うたび、進むべき道が示される。
途中でストーンスコーピオンの群れにも遭遇したが、ロッテが盾で受け止め、シオンの《ファイアボール》とリュナの斬撃で簡単に片づけた。
魔物を倒せば、また進む。
「次は?」
「右」
「分かりました」
しばらくして、リュナがふと足を止めた。
「ねえ、シオン」
「ん?」
「地図見せて」
「いいけど」
シオンが地図を渡す。
リュナは現在地と思われる場所を確認し、これまで通ってきた道を指でなぞった。
「やっぱり」
「何が?」
「私たち、一回も行き止まりに入ってないよ」
「ああ」
「この地図、こんなに行き止まりがあるのに」
地図の大半は、先のない通路だった。
昨日バザールで見かけた冒険者たちも、行き止まりばかりだと話していた。
だが、シオンたちは一度も無駄な道へ入っていない。
「《正解選択》使ってるんだから、当然じゃないか?」
「そうなんだけど……」
リュナは地図をシオンへ返す。
「これ、迷路と相性良すぎない?」
「確かに」
「今までの冒険者が何日もかけて調べたところを、私たちずっと正しい道だけ進んでますよね」
ロッテにも言われ、シオンは周囲を見る。
「……反則っぽいな」
「今さら?」
「便利なんだからいいだろ」
「駄目とは言ってないよ」
再び歩き始める。
やがて階段を発見した。
「もう二階?」
リュナが驚く。
「地図だと、そうみたいだな」
「早かったですね」
「まだ昼にもなってないぞ」
普通なら迷路を行ったり来たりしながら探す場所を、正しい道だけ選んで進んだのだから当然だった。
三人は階段を下りる。
外から見れば上へ向かうのが普通に思える建造物だが、《砂王の墳墓》では逆だった。
上部の入口から入り、内部を下へ進んでいく。
階段を下りきると、再び石造りの通路が現れた。
「ここから二階か」
シオンが地図を広げる。
一階よりも複雑だった。
しかも、途中から書き込みが少なくなっている。
「昨日の人たちが言ってたの、ここだね」
「ああ」
二階へ到達した冒険者は多い。
だが、そこから先へ進めた者はいないらしい。
「じゃあ、行くか」
最初の分岐。
シオンは《正解選択》を使う。
【① 左】
【② 右】
【① 左】
【正解】
「左」
三人は進む。
次は右。
その次は中央。
二階でも《正解選択》は迷うことなく進む道を示してくれた。
何度か魔物と遭遇したものの、三人の進行を止めるほどではない。
「このまま二階も抜けられそうだな」
「油断しないでよ?」
「分かってる」
次の分岐に到着する。
三方向。
シオンが《正解選択》を使った。
【① 左】
【② 中央】
【③ 右】
【③ 右】
【正解】
「右だな」
三人は右へ進む。
しばらく真っ直ぐな通路が続いた。
曲がり角もない。
そして――。
「……シオン」
「うん」
「行き止まりだよ?」
目の前には石壁があった。
左右にも道はない。
完全な行き止まりだった。
シオンは後ろを振り返る。
「間違えた?」
「いや」
もう一度、《正解選択》を思い返す。
「右が正解だった」
「じゃあ、何で行き止まりなんです?」
「それは俺にも分からない」
三人は目の前の壁を見る。
リュナが近づき、壁へ手を当てた。
「罠は……なさそう」
ロッテも隣で石壁を調べる。
「普通の壁に見えますね」
「でも、正解なんだよな」
シオンも壁へ近づいた。
表面を触ってみる。
ただの石壁にしか感じない。
リュナが左右の端を調べていく。
「あれ?」
「何かあった?」
「ここ」
リュナが壁の端を指差した。
他とほとんど変わらないが、石と石の間に細い隙間がある。
ロッテがそこへ手を当てる。
「少し動きます」
「押せる?」
「やってみます」
ロッテが力を込める。
ゴゴゴゴゴ……。
「おお?」
重い音とともに、石壁がゆっくり横へ動き始めた。
壁だと思っていたものが完全に横へ収まる。
その向こうには、暗い通路が続いていた。
「隠し通路……」
リュナが呟く。
シオンはギルドでもらった地図を開いた。
現在地を確認する。
そこには、はっきりと書かれていた。
【行き止まり】
「見つけられてなかったんだ」
「そりゃそうですよ」
ロッテが動いた壁を見る。
「普通に見たら、ただの壁ですから」
「でも《正解選択》には、こっちが正しい道だって分かってた」
シオンは地図と隠し通路を交互に見る。
「じゃあ、ここから先は?」
リュナが地図を覗き込む。
隠し通路の先に対応する道は、どこにも描かれていない。
「地図にないな」
「未探索ってこと?」
「そうなるんじゃないか?」
三人の視線が、開いたばかりの通路へ向く。
シオンは地図を畳んで《ストレージ》へ戻した。
「行ってみるか」
「もちろん」
「はい!」
三人は誰も記録していない通路へ足を踏み入れた。




