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第60話 水の流れを辿って

 ダリオと別れたシオンたちは、細い水の流れに沿ってダンジョンの奥へ進んでいた。


 地下へ向かうほど、周囲の岩壁には水が流れていた跡が目立つようになっていく。


「やっぱり変だよね」


 リュナが壁を見上げる。


 今は足元を流れる程度しかない水が、以前はかなりの高さまであったらしい。


 壁には、水に削られたような跡が残っている。


「これだけ跡があるってことは、昔は相当な量が流れてたんだろうな」


「でも、今はこれだけです」


 ロッテが足元を見る。


 水は途切れてこそいないものの、オアシスを満たし続けられるほどの量には見えない。


「この先に何かあるのは間違いなさそうだな」


 シオンは《ライト》で前方を照らしながら歩く。


 少し進むと、通路が二つに分かれていた。


「どっち?」


「水が流れてるのは右だな」


「じゃあ右ですね!」


 迷う必要もなかった。


 三人が右の通路へ入ろうとしたところで、リュナが足を止める。


「待って」


「魔物?」


「うん。前から二匹」


 シオンとロッテも武器を構えた。


 やがて、《ライト》の光の中へ二匹の魔物が姿を現す。


 先ほど戦ったロックリザードより一回り大きな蜥蜴型の魔物だった。


 ただし、その身体は岩ではなく、青黒い鱗に覆われている。


 鱗の隙間で小さな光が弾けた。


 バチッ。


「……雷?」


 シオンが《鑑定》を使う。


【サンダーリザード】


【雷属性の魔力を持つ蜥蜴型の魔物】


【牙や爪に雷を纏わせて攻撃する】


「雷属性だって」


「さっきまでロックリザードだったのに?」


「ダンジョンの奥だから魔物が変わったのかもな」


 一匹のサンダーリザードが地面を蹴った。


 ロッテが盾を構える。


「来ます!」


 サンダーリザードが飛びかかり、雷を纏った爪を振り下ろす。


 ガンッ!


 爪そのものはミスリルの盾が受け止めた。


 だが――


「うっ!」


 バヂッ!


 盾の表面で雷が弾け、ロッテの腕まで伝わる。


「ロッテ!」


「大丈夫です!」


 ロッテはすぐに盾を押し返した。


「《シールドバッシュ》!」


 ドンッ!


 サンダーリザードが大きく体勢を崩す。


 そこへリュナが一気に距離を詰めた。


「はっ!」


 《蒼銀華》が首元を斬り裂く。


 一匹目が倒れる。


 もう一匹はシオンへ向かってきた。


「《アイスランス》!」


 氷の槍がサンダーリザードを正面から貫く。


 そのまま地面へ倒れた。


「終わりか」


 シオンは二匹を《ストレージ》へ収納すると、ロッテを見る。


「本当に大丈夫?」


「はい。ちょっと痺れただけです」


 ロッテは盾を持った左腕を軽く振った。


「盾で攻撃そのものは防げましたけど、雷までは防げませんね」


「金属だもんな」


「ミスリルでも、雷属性そのものを消してくれるわけじゃないですからね」


 リュナがロッテの腕を見る。


「動かしにくくなってない?」


「もう平気ですよ」


「ならいいけど」


 シオンは少し考えた。


 ロッテの防御力は高い。


 普通の爪や牙なら、正面から盾で受ければほとんど問題にならない。


 だが、魔法や属性攻撃となれば話は別だ。


「雷を防ぐ方法があった方がいいかもな」


「まだ普通に戦えるよ?」


「分かってる。でも、この先にもっと強い雷属性の魔物がいたら危ないだろ」


「それはそうだけど」


「必要になったら考えよう」


 シオンたちは再び歩き始めた。


 進むにつれ、通路の様子が少しずつ変化していく。


 壁には青白い結晶のようなものが混ざり始め、ときおり小さな雷光が走った。


 バチッ。


「触らない方がよさそうですね」


 ロッテが結晶を覗き込む。


「ロッテ、こういうの好きそうだよな」


「気になります!」


「触るなよ?」


「分かってますよ」


 そう答えながらも、ロッテの視線は結晶から離れない。


「帰りに採れるか調べてみましょう」


「やっぱり欲しいんじゃない」


「素材を見ると気になるんです!」


 リュナが笑った。


 そのまま水の流れを辿っていく。


 途中で何度かサンダーリザードが現れたが、三人が苦戦するような相手ではなかった。


 リュナが《気配察知》で先に存在を捉え、ロッテが正面を受け持ち、シオンが魔法で仕留める。


 数匹倒したところで、シオンはふと気づいた。


「雷属性ばっかりになってきたな」


「そうだね。ロックリザード、全然見なくなった」


「この辺りは雷属性の魔力が濃いんでしょうか?」


 ロッテが壁の結晶を見る。


「それで雷属性の魔物が集まってるとか?」


「あるかもしれないな」


 三人はさらに地下へ進んだ。


 やがて通路が大きく開ける。


 その先には、これまでより広い空間があった。


 天井も高い。


 中央を細い水が流れている。


「ここも昔は水が多かったみたい」


 リュナが壁を指差した。


 水の跡は、シオンの身長より高い位置にまで残っていた。


「ここまで水があったのか?」


「そうみたいですね」


「だったら今とは全然違うな」


 シオンは周囲を見渡した。


 広い地下空間の端には、いくつもの大きな岩が転がっている。


 だが、妙なものがあった。


「……あれ何だ?」


 シオンが近づく。


 岩壁に、大きな傷が残っていた。


 一本ではない。


 何本もの深い溝が並んでいる。


 リュナも隣へ来た。


「爪痕?」


「でかくないか?」


「うん」


 ロッテが自分の手を近づけて比べる。


「私の手よりずっと大きいですね」


「何の魔物だろうな」


 シオンが《鑑定》を使ってみる。


 しかし、何も表示されなかった。


「さすがに爪痕だけじゃ分からないか」


「でも、かなり大きな魔物がいたのは間違いなさそうだね」


 その近くには、さらに別の跡があった。


 地面の一部が黒く焦げている。


「こっちは?」


 リュナがしゃがむ。


 バチッ。


「わっ!」


 焦げ跡の近くで、小さな雷が弾けた。


「リュナ!」


「大丈夫。触ってないよ」


 リュナはすぐに距離を取った。


 シオンも近づきすぎないよう注意しながら確認



「雷の跡……かな」


「さっきの魔物とは規模が違いません?」


 ロッテの言う通りだった。


 焦げ跡は広範囲に広がっている。


「ここで何か戦ったのかな」


「大きな爪痕と雷の跡か……」


 シオンは腕を組んだ。


 だが、今ある情報だけでは何が起きたのか分からない。


「先へ行けば分かるかもしれないな」


「そうだね」


 三人は広間を抜け、さらに奥へ向かった。


 水の流れはまだ続いている。


 しかし、進むにつれて水量はさらに少なくなっていった。


「逆じゃない?」


 リュナが首を傾げる。


「何が?」


「私たち、水が流れてくる方へ向かってるんだよね?」


「ああ」


「だったら普通、上流へ行くほど水が増えそうじゃない?」


「……確かに」


 シオンも足元を見る。


 水源へ近づいているはずなのに、水が増える気配がない。


 むしろ細くなっている。


「途中から別の場所へ流れてるんでしょうか?」


「それなら分かれ道がありそうだけど……」


 ロッテの言葉に、リュナが首を振る。


「ここまで来る間にはなかったと思う」


「じゃあ、そもそも今は水がほとんど出てないのか」


 三人は顔を見合わせた。


 オアシスの水が減っている理由。


 少なくとも、その一端には近づいている気がする。


 さらに進む。


 やがて水は、岩壁の隙間から僅かに染み出す程度になった。


「ここから出てるのか?」


 シオンが壁を見る。


 しかし、通路はそこで終わっていなかった。


 右側に大きな道が続いている。


「水はここで終わり?」


「今はね」


 リュナは壁へ近づき、耳を澄ませた。


「でも……奥から音がする」


「水?」


「違う」


 リュナの表情が変わる。


「何かいる」


 シオンとロッテが武器を構えた。


「近い?」


「まだ距離はあると思う。でも……大きい」


「大きい?」


「うん。それと――」


 その瞬間。


 バヂィッ!


 通路の奥が青白く光った。


 少し遅れて、低い音が響く。


 ゴロゴロゴロ……。


「雷?」


 ロッテが盾を握り直す。


 もう一度。


 バヂッ!


 今度は、さっきよりはっきり見えた。


 奥から強い雷属性の魔力を感じる。


「サンダーリザードとは比べものにならないね」


 リュナが呟いた。


「ああ」


 シオンはロッテを見る。


 先ほど、サンダーリザードの雷でさえ盾越しに痺れていた。


 この先にいるものが、それより遥かに強い雷を使うなら――。


「このまま行く前に、対策した方がいいな」


「雷への?」


「ああ」


 シオンはロッドを握ったまま、《正解選択》へ意識を向けた。


「今の俺が覚えられる魔法で、雷属性の攻撃から三人を守るのに一番適したものは?」


 目の前に、いくつもの文字が浮かび上がった。


 そして、その中の一つが光る。


【《エレメントガード》】


【指定した属性に対する耐性を高める防御魔法】


【対象者へ使用した場合、指定属性によるダメージを大幅に軽減する】


【盾に付与した場合、指定属性の攻撃を盾で正面から受け止めることに成功すれば、属性ダメージを無効化する】


【正解】


「……これ、いいな」


「何かあった?」


 リュナが覗き込む。


「ああ。《エレメントガード》って魔法がある」


「どんな魔法?」


「属性を指定して、その属性への耐性を上げる魔法らしい。それと、盾にかけた場合は――」


 シオンはロッテのミスリルシールドを見る。


「その盾でちゃんと受ければ、指定した属性の攻撃を無効化できる」


「完全にですか!?」


 ロッテの目が輝く。


「属性部分はな。ただ、盾で受けられなかったら普通に食らう」


「十分です!」


 ロッテが盾を構えてみせる。


「正面から来るなら、私が受けます!」


「頼もしいな」


「任せてください!」


 シオンは迷わずスキルポイントを使った。


【《エレメントガード》を習得しました】


「よし」


 シオンはまず自分へ魔法を使う。


「《エレメントガード――サンダー》」


 身体を淡い光が包み、すぐに消える。


 続いてリュナ。


「《エレメントガード――サンダー》」


「これで雷に強くなったの?」


「完全に防げるわけじゃないけど、かなり軽減できるみたいだ」


「分かった」


 最後に、ロッテ自身へも同じ魔法をかける。


 さらに――。


「《エレメントガード――サンダー》」


 今度はロッテの盾を光が包んだ。


 ミスリルの表面に、一瞬だけ雷を思わせる紋様が浮かび、消えていく。


「おお……!」


 ロッテが盾を眺める。


「これで盾で受ければ大丈夫なんですね!」


「ああ。ただし、ちゃんと盾で受けろよ」


「もちろんです!」


 リュナが通路の奥を見る。


 再び青白い雷光が瞬いた。


「準備できた?」


「ああ」


 シオンはロッドを構える。


 ロッテが盾を前へ。


 リュナが《蒼銀華》を抜いた。


「じゃあ、行こう」


 三人は雷光が瞬く通路の奥へ進んでいった。

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