↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/83

第51話 迷宮完全攻略

 エルダードラゴンを《ストレージ》へ収納したあと、シオンたちは改めて広い空間を見回した。


「……で、次はどこだ?」


 シオンの言葉に、リュナとロッテも周囲を見る。


 これまでなら階層の守護者を倒せば、その奥に次の階層へ続く道があった。


 だが、今回はそれらしいものが見当たらない。


「宝箱の後ろとか?」


「見てみる」


 リュナが壁際へ向かった。


 シオンとロッテも手分けして調べる。


 宝箱が置かれていた場所や、その後ろの壁。エルダードラゴンがいた広間の奥や左右の壁、大きな岩の陰まで一通り確認していく。


 だが、階段どころか扉すら見つからない。


「リュナ、何かある?」


「ない。罠も仕掛けもないと思う」


 リュナが壁を軽く叩く。


 鈍い音が返ってくるだけだった。


「隠し通路とかも?」


「それっぽいところはないね」


「じゃあ、転移陣とか?」


「それもないです」


 反対側を調べていたロッテが戻ってきた。


 三人は顔を見合わせる。


「……もしかして、ここで終わりなんじゃないですか?」


 ロッテが広間を見回した。


「やっぱりそう思う?」


「だって、これ以上進む場所がないですから」


 確かにそうだった。


 シオンはもう一度、エルダードラゴンがいた場所を見る。


 第十階層ではオーガ。


 第二十階層ではアイアンミノタウロス。


 そして第二十五階層ではエルダードラゴン。


 これまでとは明らかに格の違う魔物だった。


「エルダードラゴンが最後の守護者だったってことか」


「多分ね」


「ということは……」


 ロッテが少しずつ笑顔になる。


「私たち、この迷宮を最後まで攻略したってことですよね?」


 三人が黙った。


 改めて言葉にすると、急に実感が湧いてくる。


 これまでリーベルの冒険者たちが到達していたのは第二十階層まで。その守護者すら倒されていなかった。


 そこから先へ進み、第二十一、第二十二、第二十三、第二十四階層を抜け、第二十五階層のエルダードラゴンまで倒した。


「……完全攻略?」


「そうなるんじゃない?」


「おお……」


 シオンは思わず拳を握った。


「やった!」


「今さら!?」


「いや、ドラゴンを倒したときはドラゴンを倒したことに興奮してたから」


「シオンらしいですね」


 ロッテが笑う。


「でも、本当に終わりなんだな」


 シオンは少しだけ名残惜しく広間を見回した。


 強くなるために何度も通った迷宮だ。新しい魔物と戦い、鉱石を見つけ、転職して、新しい装備を作った。


 リュナやロッテと三人で、ここまで来た。


「何、その顔」


「いや。もうこの先がないと思ったら、ちょっと寂しいなって」


「十分潜ったでしょ」


「まだ二十五階層だぞ?」


「普通はそういう感想にならないと思う」


「シオンさんですからね」


「それで納得するなよ」


 三人で笑う。


「じゃあ、戻るか」


「うん」


「ギルドにも報告しないといけませんね」


「ああ」


 第二十五階層が最下層だった。


 それだけでも大きな情報だ。


 しかも、その最後の守護者まで倒している。


 三人は第二十五階層をあとにした。



 迷宮を出たところで、入口の職員が三人に気づいた。


「あ、戻って――」


 そこで言葉が止まる。


 職員の視線が三人の姿を順番に確認した。


「……何階層まで?」


「二十五階層」


 シオンが答える。


「二十五……」


「エルダードラゴンがいた」


「エルダー……」


「倒したよ」


「…………」


 職員が固まった。


 リュナが小さく息を吐く。


「シオン、一気に言いすぎ」


「聞かれたから答えただけだぞ?」


「相手の顔を見ながら話して」


「難しいな」


「難しくない」


 職員はまだ動かない。


「それで、二十五階層より先がなかった」


「……え?」


「階段も扉もなかった。隠し通路も調べたけど見つからなかったから、多分あそこが最下層だと思う」


 ようやく職員の表情が変わった。


「ちょ、ちょっと待ってください! それって……!」


「うん?」


「迷宮を完全攻略したってことじゃないですか!」


「多分」


「多分じゃないですよ!」


 職員の声が迷宮入口に響いた。


 周囲にいた冒険者たちまでこちらを見る。


「と、とにかくギルドへ! すぐ報告してください!」


「そのつもり」


「絶対ですよ!」


「分かったって」


 三人は急かされるように迷宮を離れた。



 冒険者ギルドへ到着すると、いつもの受付にセリナがいた。


「あら、シオンさんたち。お帰りなさい」


「ただいま」


「今日はどちらまで?」


「二十五階層」


「…………」


 セリナの笑顔が止まった。


 シオンは首を傾げる。


「今日、みんなよく止まるな」


「だからシオンの報告の仕方が悪いんじゃない?」


「普通に答えただけだぞ」


「第二十五階層って……」


 セリナが身を乗り出した。


「本当ですか?」


「本当です」


 ロッテが答える。


「第二十四階層を突破して、そのまま第二十五階層へ行きました」


「第二十五階層には何が?」


「エルダードラゴン」


「……エルダードラゴン?」


「倒しました」


 セリナが再び固まった。


「それで、奥を調べたけど先がなかった」


「先が……ない?」


「うん。階段も扉も転移陣もなし。リュナが隠し通路も調べた」


「少なくとも、私が調べた範囲には何もなかったよ」


 セリナの表情が受付嬢のものへ戻った。


「少々お待ちください」


「うん」


「ギルドマスターを呼んできます」


 そう言って、セリナは受付の奥へ消えた。


「やっぱりグラントさん来ますよね」


「そりゃ来るだろ」


「完全攻略だもんね」


 シオンが頷いたところで、隣にいたリュナが何気なく髪を耳へかけた。


 その左手を見て、ロッテが「あ」と声を出す。


「何?」


「リュナさん、それ」


 ロッテが左手を指差す。


 薬指には《絆の指輪》がある。


「外さなかったんですね」


「……別にいいでしょ」


「いいですけど」


 ロッテがニヤッとする。


「何よ」


「何でもありません」


「その顔で言われても信用できないんだけど」


 そこへセリナが戻ってきた。


「お待たせしまし――」


 その視線がリュナの左手で止まった。


「……リュナさん?」


「はい?」


「その指輪」


 リュナの耳がピクリと動いた。


「あ」


 ロッテの顔が一気に明るくなる。


「これ、すごいんですよ!」


「ロッテ!」


「第二十五階層の宝箱から出たんです!」


「宝箱から?」


「《絆の指輪》っていう魔道具で、シオンさんがリュナさんに贈ったんですよ」


「へえ」


 セリナの視線がシオンへ向く。


「俺?」


「しかもですね」


「ロッテ、もういいから!」


「リュナさんが自分でつけようとしても入らなかったんです」


「ほう」


「それでシオンさんがつけたら入ったんですけど――」


「ロッテ!」


「左手の薬指にしか入らなかったんですよ!」


 セリナが黙った。


 リュナの左手を見て、次にシオンを見る。そして、もう一度リュナを見る。


 口元がゆっくり緩んだ。


「……へえぇ」


「何、その反応」


 シオンには分からない。


 だが、リュナの顔は見る見る赤くなっていく。


「しかも、一回外したらリュナさんだけじゃつけられないんですよ。もう一回シオンさんにつけてもらわないと――」


「ロッテ!!」


「何ですか?」


「楽しんでるでしょ!」


「ちょっとだけ」


「絶対ちょっとじゃない!」


 セリナも口元を押さえている。


「なるほど。それで左手の薬指なんですね」


「だから違うの! 指輪が勝手に!」


「私は何も言ってませんよ?」


「顔が言ってる!」


「そうですか?」


「そう!」


 シオンは二人のやり取りを眺めながら首を傾げた。


「そんなに左手の薬指って変なのか?」


「シオンは黙ってて!」


「なんで!?」


「いいから!」


「理不尽だ!」


「お前たちは何の話をしているんだ」


 低い声が聞こえた。


 グラントだった。


「あ、ギルドマスター」


「迷宮を完全攻略したと聞いて急いで来てみれば、ずいぶん楽しそうだな」


「グラントさん、聞いてくださいよ」


 ロッテが指輪を説明しようとする。


「それはあとでいい」


「えー」


「迷宮の話が先だ」


 グラントは三人を奥の部屋へ案内した。



 報告にはかなりの時間がかかった。


 第二十四階層のデーモンナイトとデーモンナイト・コマンダー。


 第二十五階層の巨大な広間と、そこにいたエルダードラゴン。


 その戦いと討伐後に現れた宝箱。そして広間の奥を調べても、次の階層へ続く道が存在しなかったこと。


 グラントは途中で何度か質問を挟みながら、最後まで話を聞いた。


「……間違いないんだな?」


「うん」


「リュナ」


「かなり調べたよ。少なくとも、普通に見つけられる通路や仕掛けはなかった」


「そうか」


 グラントが腕を組む。


「ならば現時点では、第二十五階層が最下層と考えていいだろう」


 セリナも頷いた。


「これまで確認されていたのは第二十階層までです。それより先の情報だけでも大発見なのに……」


「最後まで行っちゃいましたね」


 ロッテが笑う。


「簡単に言うな」


 グラントが苦笑する。


「リーベルの迷宮がどこまで続いているのか。それすら長い間分からなかったんだぞ」


「でも、終わったんだろ?」


「ああ」


 グラントが三人を見る。


「お前たち《デスティニー・コンパス》が、リーベル地下迷宮を最下層まで攻略した。ギルドとして正式に記録する」


「おお」


「やりましたね!」


 ロッテが嬉しそうに拳を握る。


 リュナも笑っていた。


「それと」


 グラントがシオンを見る。


「討伐した魔物はどうした?」


「持ってきた」


「やはりか」


「売っていいんだよな?」


「もちろんだ。二十一階層以降の魔物なら素材としても貴重だ。何を持ってきた?」


「いろいろ」


「……いろいろ?」


「結構あるぞ」


 グラントが少し嫌そうな顔をした。


「まさか、また全部丸ごとか?」


「うん」


「…………」


「そのほうが楽だから」


「お前はな」


 セリナが小さく笑う。


「解体場へ行きましょうか」


「お願いします」


 三人はグラントとセリナと一緒に、ギルド裏手の解体場へ向かった。



「じゃあ出すぞ」


「ああ」


 シオンが《ストレージ》を開く。


 最初に現れたのはキラーマンティスだった。


 巨大な昆虫型の魔物が地面へ横たわる。


「次」


 さらにキラーマンティス。


 続いてアーマーベア。


「まだあるのか」


「ある」


 グレータートロール。


 またグレータートロール。


 デーモンナイト。


 さらにデーモンナイト。


 シオンが次々と魔物を取り出していくと、解体場にいた職員たちが集まり始めた。


「また始まったぞ……」


「シオンたちか」


「今度は何階層の魔物だ?」


「二十五まで行ったらしいぞ」


「二十五!?」


 シオンは気にせず、収納していた魔物を順番に出していく。


 そしてデーモンナイト・コマンダーを置いたところで、ひとまず手を止めた。


「ふう」


「終わりか?」


「いや」


 シオンが首を振る。


「あと一体」


「まだあるのか」


「これで最後」


 シオンが少し広い場所へ移動した。


「そこ、もうちょっと離れて」


「なぜだ?」


「でかいから」


 グラントの眉が動く。


 リュナとロッテは事情を知っているため、黙って後ろへ下がった。


「このくらいでいいかな」


 シオンが《ストレージ》を開く。


 次の瞬間、巨大な竜の身体が解体場へ現れた。


 翼、角、牙。


 強靭な鱗に覆われた巨体。


 首には戦闘で受けた大きな傷が残っている。


 エルダードラゴン。


 解体場が静まり返った。


 誰も声を出さない。


 職員たちは目の前に現れた巨大な竜を見上げたまま動かない。


 セリナも口を開けたまま固まっている。


 グラントだけが、しばらくしてゆっくりとシオンを見た。


「……先にそれを言え」


「でも、順番に出したほうが分かりやすいかなって」


「そういう問題じゃない」


 グラントが額を押さえた。


 その声で我に返ったのか、周囲の職員たちが一斉にざわめき始める。


「これ、本当にエルダードラゴンなのか……?」


「俺、ドラゴン自体初めて見たぞ……」


「こんなの、どうやって解体するんだ?」


 グラントも改めてエルダードラゴンを見上げた。


「俺も実物を見るのは初めてだ」


「グラントさんも?」


 シオンが意外に思って聞き返す。


「ああ。存在や素材についての記録なら知っている。だが、エルダードラゴンなんぞ、そうそう見られる魔物じゃない」


「そんなに珍しいの?」


「この街には、おそらく実物を見たことがある奴なんて一人もいない。王都にだって数人いるかどうかだぞ」


「へえ……」


「へえ、で済ませるな。お前たちが持ち帰ったのはそれだけの魔物だ」


 グラントが巨大な翼へ目を向ける。


「しかも素材の一部じゃない。丸ごと一体、それもかなり状態がいい」


「ちゃんと持って帰ってきてよかったな」


「こういうときのお前の《ストレージ》は本当に反則だな……」


 シオンはもう一度、並べられた魔物を見る。


 キラーマンティス、アーマーベア、グレータートロール、デーモンナイト、デーモンナイト・コマンダー。


 そしてエルダードラゴン。


「で、査定額はいくらになるの?」


「すぐ出るわけないだろ!」


 グラントの声が解体場に響いた。


「え?」


「え、じゃない! これだけの数を持ち込んでおいて、今すぐ査定できると思うな!」


 グラントがエルダードラゴンを指差す。


「普通の魔物だけでも一体ずつ状態を確認しなきゃならん。その上、こいつまでいるんだぞ!」


 セリナも苦笑する。


「エルダードラゴンについては、過去の記録も確認しないと適正な金額を出せませんね」


「じゃあ、明日来ればいい?」


「無理だ」


 今度はグラントが即答した。


「明日も?」


「明日もだ」


「そんなに?」


「そんなにだ!」


 グラントは少し考えてから、解体場の職員たちへ視線を向けた。


 すでに何人かがエルダードラゴンの周囲を歩きながら、どこから確認するべきか相談を始めている。


「……明後日だ」


「明後日?」


「ああ。明後日の午後に来い。それまでに通常の魔物もエルダードラゴンも査定を終わらせる」


「分かった」


「本当に分かってるのか、お前は……」


「明後日の午後だろ?」


「そこは分かってるようだな」


 グラントがため息をつく。


「それと、明日は休め」


「え?」


「迷宮を完全攻略した翌日くらい休めと言っている」


「でも、もう迷宮の先はないぞ?」


「そういう意味じゃない!」


 再びグラントの声が響いた。


 リュナが笑いながらシオンの腕を軽く叩く。


「休もうよ。私も明日はゆっくりしたい」


「私もです。久しぶりに三人で街を回るのもいいじゃないですか」


「街か」


 迷宮へ潜るでもなく、装備を作るでもなく、三人でただ街を歩く。


 最近はそんな一日を過ごしていなかった。


「それもいいな」


「決まりですね!」


 ロッテが笑う。


「じゃあ、明後日の午後にまた来ます」


「ああ。それまではこっちに任せておけ」


「お願いします」


 三人はグラントとセリナに頭を下げた。


 帰ろうとしたところで、セリナがリュナを呼び止める。


「あ、リュナさん」


「何?」


 セリナが自分の左手の薬指を指差した。


「その指輪、大事にしてくださいね」


「――っ!」


 リュナの顔が一瞬で赤くなる。


「だから、そういうんじゃないって!」


「私は大事にしてくださいと言っただけですよ?」


「絶対分かってて言ってるでしょ!」


「さあ?」


 セリナが楽しそうに笑う。


 ロッテも隣でニヤニヤしていた。


「ロッテも笑わない!」


「だって」


「だってじゃない!」


 シオンはそんな二人を見ながら、やはりよく分からず首を傾げる。


「指輪、大事にするのは普通じゃないのか?」


「シオンは黙ってて!」


「また!?」


 リュナの声を聞きながら、三人はギルドをあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。