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第49話 第二十五階層

 三人は階段を下りていく。


 二十四階層までとは違い、階段が長い。


「まだ着かないの?」


「結構下りてるよな」


「はい。さっきからずっと階段です!」


 シオンが《ライト》で先を照らす。


 石造りの階段は、そのまま暗闇の奥へ続いていた。


「二十五階層だけ深いのかな」


「分からないけど、戻るの面倒ね」


「帰りは転移盤があるだろ」


「あ、そっか」


「もう完全に頼り切ってますね!」


「便利なものは使えばいいんだよ」


 さらに下りる。


 やがて。


「あ」


 終わりが見えた。


 階段の先に、大きな石造りの扉がある。


 三人はその前で足を止めた。


「……でかいな」


「今までで一番大きいわね」


 見上げるほどの巨大な扉。


 表面には細かな模様が刻まれている。


「罠、見る?」


「もちろん」


 リュナが扉の周囲を調べる。


 床。


 壁。


 扉。


 しばらく確認してから立ち上がった。


「罠はないと思う」


「向こうに気配は?」


「……ある」


 リュナの表情が変わる。


「一体」


「強い?」


「かなり」


「二十階層のミノタウロスと比べたら?」


「それよりずっと強いと思う」


「おお」


「なんで嬉しそうなのよ」


「だって二十五階層だぞ」


 シオンが扉を見上げる。


「これで普通の魔物が一体いたら、そっちの方が残念だろ」


「気持ちは分からなくもないけど」


「私も楽しみです!」


「ロッテまで……」


 リュナはそう言いながらも《蒼銀華》を抜いた。


「入るなら準備してからよ」


「ああ」


 シオンもロッドを握る。


 ロッテは盾とバトルハンマーを構えた。


「行くぞ」


「うん」


「はい!」


 三人で扉を押す。


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 重い音を響かせながら、巨大な扉が開いていく。


 その先を見た三人は、揃って足を止めた。


「……広っ」


 最初に声を出したのはシオンだった。


「これ、本当に地下なの?」


「すごいです……」


 巨大な空間。


 天井は《ライト》の光でも上まで届かないほど高い。


 横幅も広く、これまでの階層にあった通路とは比べものにならない。


 地面には巨大な岩が点在している。


「これなら」


 シオンが奥を見る。


「何がいてもおかしくないな」


「シオン」


 リュナが小さく呼ぶ。


「いる」


「ああ」


 三人にも見えた。


 奥。


 暗闇の中。


 巨大な何かが横たわっている。


「……あれ?」


 ロッテが目を凝らす。


 その瞬間。


 赤い光が二つ。


 開いた。


「起きた」


 ズズズ……。


 巨大な身体が動く。


 地面がわずかに震えた。


「嘘……」


 リュナが見上げる。


 四本の太い脚。


 全身を覆う硬そうな鱗。


 長い尾。


 巨大な翼。


 そして。


 頭には立派な角。


「ドラゴン……」


 シオンは思わず笑った。


「本物だ」


「喜んでる場合?」


「いや、だってドラゴンだぞ!」


「分かったから鑑定!」


「あ、そうだった」


 シオンが《鑑定》を使う。



【エルダードラゴン】


【長い年月を生きた上位竜種】


【極めて高い筋力、耐久力、魔力を持つ】


【強靭な鱗に覆われ、炎のブレスを使用する】



「エルダードラゴン」


「強そうですね!」


「説明からして強いな」


 エルダードラゴンが完全に立ち上がった。


「大きすぎない?」


「何メートルあるんだろ」


「測ってる場合じゃないわよ」


 ドラゴンの視線が三人へ向く。


 低い唸り声。


 空気が震える。


「来る」


 リュナが腰を落とした。


「ロッテ」


「はい!」


「最初から無理に全部受けなくていいからな」


「分かってます!」


「リュナは横から」


「分かってる」


「俺は――」


「魔法でしょ」


「言わせてよ」


「いつも同じじゃない」


「そうだけど!」


 エルダードラゴンが咆哮した。


「グオオオオオオオオオオッ!!」


 轟音。


 空気そのものが叩きつけられる。


「うるさっ!」


 シオンが思わず耳を押さえる。


「来るわよ!」


 エルダードラゴンが走り出した。


 巨体。


 なのに速い。


「ロッテ!」


「正面は任せてください!」


 ロッテが盾を構える。


 だが。


「待て!」


 シオンが叫ぶ。


「受けるな!」


「えっ!?」


「大きすぎる!」


 ロッテもすぐに判断を変えた。


「はい!」


 三人が左右へ散る。


 直後。


 ドゴォォォン!


 エルダードラゴンが、三人のいた場所を通過した。


 地面が揺れる。


「うわっ」


「これを止めるのは無理です!」


「だから言っただろ!」


「止めてみたかったです!」


「気持ちは分かるけどやめろ!」


「シオン!」


「分かってる!」


 ドラゴンが向きを変える。


 その隙に。


 シオンがロッドを向けた。


《サンダーボルト》。


 雷撃。


 直撃。


 バヂィッ!


「……硬っ」


 エルダードラゴンの鱗から煙が上がる。


 だが、大きな傷にはなっていない。


「効いてない?」


「いや、効いてはいる!」


 シオンがもう一度ロッドを向ける。


《連続魔法》。


《サンダーボルト》。


 二発目。


 同じ場所。


 バヂィッ!


 ドラゴンが低く唸った。


「今のは嫌がった」


「じゃあ効いてるわね」


 リュナが走る。


《獣身強化》。


 一気に加速。


 ドラゴンの横へ。


「そこ!」


《蒼銀華》。


 前脚。


 斬。


 キィン!


「硬い!」


 刃は通った。


 だが、浅い。


「鱗が邪魔!」


「隙間を狙え!」


「分かってる!」


 リュナがドラゴンの攻撃をかわしながら移動する。


 前脚。


 関節。


 鱗の重なり。


「ここ!」


 斬。


 今度は血が飛んだ。


「入った!」


「グオォッ!」


 エルダードラゴンが前脚を振るう。


「リュナ!」


 リュナが後ろへ跳ぶ。


 巨大な爪が目の前を通過した。


「危なっ!」


「リュナさん!」


「大丈夫!」


 その間に。


 ロッテが横から近づいていた。


「硬いなら!」


 バトルハンマーを構える。


「私の出番です!」


《震撃》。


 ドゴン!


 後脚。


 硬い鱗の上から叩く。


 エルダードラゴンの身体がわずかに揺れた。


「効きました!」


「もう一発いける?」


「はい!」


 ロッテが再びハンマーを振り上げる。


 だが。


「ロッテ、離れて!」


「え?」


 尾。


 巨大な尾が横から迫っていた。


「うわっ!」


 ロッテが盾を向ける。


 ドガァン!


「ロッテ!」


 小さな身体が吹き飛ばされた。


 地面を滑る。


「いったぁ……!」


「大丈夫か!?」


「大丈夫です!」


 すぐに立ち上がった。


「盾で受けました!」


「それでも飛ぶのか」


「すごい力です!」


 ロッテの声は元気だ。


「なら!」


 シオンが影へ沈む。


《影潜り》。


 ドラゴンの視線から消える。


 影の中を移動し、側面へ。


 ロッドを向ける。


《ライトニング》。


 雷撃。


 バヂィッ!


「グオォォッ!」


 ドラゴンがシオンへ顔を向ける。


「こっち見た」


 大きく口が開く。


「シオン!」


 口の奥。


 赤い光。


「ブレス!」


 炎が見えた。


「やばっ」


《影跳び》。


 視界の中。


 離れた岩の影へ。


 シオンが消える。


 直後。


 ゴオオオオオオオオッ!


 炎。


 巨大な火炎が地面を焼き払った。


「熱っ!」


 離れていても熱気が届く。


「シオン!」


「こっち!」


 岩陰から声を返す。


「無事!」


「よかった!」


 炎が止まる。


 地面が赤く焼けている。


「まともに食らったらまずいな」


「当たり前でしょ!」


「でも」


 シオンが岩陰から出る。


「ブレスの前は分かりやすい」


「口の中が光ってました!」


「なら避けられる」


「油断しないでよ」


「分かってる」


 エルダードラゴンが翼を広げた。


「……飛ぶ?」


 ロッテが見上げる。


 バサッ!


 強烈な風。


 三人の髪や装備が揺れる。


「本当に飛ぶの!?」


「この広さなら飛べるだろ!」


「だからって飛ばなくてもいいでしょ!」


「ドラゴンに言えよ!」


 巨大な身体が地面から離れる。


「上は面倒だな」


「どうするの?」


「落とす」


「どうやって?」


「魔法」


「そのままじゃない!」


 シオンがロッドを構える。


 エルダードラゴンが上空で旋回する。


「速いな」


「シオン、来る!」


 ドラゴンが向きを変えた。


 口。


 赤い光。


「またブレス!」


「散れ!」


 三人が離れる。


 ゴオオオオオオッ!


 炎が地面を走った。


 シオンは横へ走る。


 その先。


 大きな岩の影が見えた。


《影跳び》。


 一瞬で移動。


「今度はこっちの番だ!」


 上空。


 ドラゴンへ。


《サンダーボルト》。


 雷撃。


 翼へ直撃。


「グオォッ!」


「もう一発!」


《連続魔法》。


《サンダーボルト》。


 同じ翼。


 バヂィッ!


「狙ってる場所が同じ!」


 リュナが気づく。


「翼を壊す気?」


「飛べなくすれば楽だろ!」


「それなら!」


 リュナが周囲を見る。


「シオン! 低く来たら教えて!」


「何する気?」


「私も翼を狙う!」


「届く?」


「届かせる!」


「分かった!」


 エルダードラゴンが旋回する。


 傷ついた翼。


 飛び方が少し傾いた。


「効いてる!」


 だが。


 ドラゴンは再びこちらへ向かってくる。


「今度はブレスじゃない!」


「突っ込んでくるぞ!」


 急降下。


「ロッテ!」


「はい!」


 三人が散る。


 ドラゴンが低空を通過する。


「リュナ!」


「分かってる!」


 リュナが走った。


《獣身強化》。


 加速。


 近くの大岩へ。


 一歩。


 岩を蹴る。


 跳ぶ。


「はあっ!」


《蒼銀華》。


 狙うのは。


 さっきシオンが雷撃を当てた翼。


 斬!


「グオオオッ!」


「入った!」


 リュナが着地する。


 翼から血が落ちる。


 エルダードラゴンが大きく傾いた。


「もう一発!」


 シオンがロッドを向ける。


《サンダーボルト》。


 バヂィッ!


 翼。


 同じ場所。


「グオオオオオッ!」


 飛行が崩れる。


「落ちる!」


「離れて!」


 巨大な身体が地面へ。


 ドゴォォォォン!!


 轟音。


 土煙。


「やった?」


「それ言ったら駄目なやつ!」


「なんでですか!?」


「まだ気配がある!」


 リュナが叫ぶ。


 土煙の中。


 巨大な影が動く。


「やっぱり!」


「グオオオオオオオオッ!!」


 咆哮。


 土煙が吹き飛んだ。


 エルダードラゴンが立ち上がる。


 翼から血を流している。


 もう飛ぶのは難しそうだ。


 だが。


「怒ったな」


「完全に怒ってるわね」


「怖い顔です!」


「最初から怖いだろ」


 エルダードラゴンが三人を睨む。


 口元から。


 炎が漏れた。


 シオンはロッドを握り直す。


「よし」


 リュナが《蒼銀華》を構える。


 ロッテも盾を前へ。


「ここからだな」


「うん」


「はい!」


 エルダードラゴンが地面を蹴った。

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