第46話 第二十二階層
二十二階層。
階段を下りたシオンは。
周囲を見回した。
「……広くなったな」
「二十一階層よりはね」
リュナの言う通り。
さっきまでの狭い通路とは違う。
天井も高い。
通路の幅も。
三人が並んで歩けるほどある。
「これなら戦いやすそうです!」
ロッテが盾を構えたまま言う。
「逆に大きいのが出そうだけどな」
「言わないでよ」
「なんで?」
「そういうこと言うと本当に出るから」
「俺のせい?」
「シオンさん!」
ロッテが前を指差した。
「来ました!」
「早っ!」
通路の奥。
何かが。
ゆっくりと姿を現す。
大きい。
二メートルを軽く超える。
四本の太い脚。
分厚い身体。
茶色い毛。
「熊?」
「大きいわね」
シオンが《鑑定》。
【アーマーベア】
【大型の熊型魔物】
【非常に高い筋力を持つ】
【硬い皮膚と厚い毛に覆われている】
「アーマーベア」
「一体だけ?」
「待って」
リュナの耳が動く。
「……三体」
「後ろにいるのか」
「来るわ」
ドン。
ドン。
重い足音。
一体目の後ろから。
さらに二体。
「でかいのが三体か」
「私が止めます!」
ロッテが前へ。
「頼んだ」
「はい!」
三体のアーマーベアが。
一斉に走り出した。
巨体。
その割に。
「意外と速いな」
「来ます!」
一体目。
巨大な前脚を振り上げる。
ロッテが盾を構えた。
《不動》。
ドゴォン!
「おお」
重い音。
だが。
ロッテは動かない。
「力はあります!」
さらに。
二撃目。
ガァン!
「でも!」
ロッテが踏み込む。
「それだけです!」
《シールドバッシュ》。
盾が。
アーマーベアの胸へ叩き込まれた。
巨体が。
ぐらりと傾く。
「リュナ!」
「分かってる!」
影。
リュナが走る。
《獣身強化》。
加速。
倒れかけたアーマーベアの横を抜け。
二体目へ。
爪。
振り下ろされる。
その直前。
リュナの姿がずれた。
《影歩》。
「そこ!」
《蒼銀華》。
首筋。
深く斬る。
だが。
「硬っ!」
刃は通った。
それでも。
一撃では倒れない。
「なるほど」
シオンがロッドを向ける。
「じゃあ魔法なら」
《サンダーボルト》。
雷撃。
三体目に直撃。
巨体が震える。
《連続魔法》。
二発目。
同じ場所へ。
ドン!
アーマーベアが倒れた。
「やっぱり効くな」
「こっちも!」
リュナの声。
二体目が。
大きく腕を振り回す。
リュナが後ろへ跳ぶ。
空振り。
その影へ。
《影縫い》。
《蒼銀華》が突き刺さる。
アーマーベアの足が止まった。
「今!」
「はい!」
ロッテ。
最初の一体を盾で押し返し。
そのまま。
二体目へ。
《震撃》。
ドゴッ!
脇腹。
厚い皮膚。
その内側へ。
衝撃が通る。
「グオォォッ!」
「効きました!」
「じゃあ」
リュナが踏み込む。
銀色の刃が。
走る。
首。
今度は。
深く。
アーマーベアが崩れ落ちた。
「残り一体!」
「こっちも終わります!」
ロッテの前。
一体目が。
再び立ち上がろうとしている。
「シオンさん!」
「はいよ」
《ライトニング》。
雷撃が走る。
アーマーベアの身体が硬直。
その瞬間。
「せーの!」
バトルハンマー。
《震撃》。
頭部へ。
ドゴン!
巨体が。
完全に動かなくなった。
「終わり!」
「二十一階層よりは丈夫ね」
リュナが《蒼銀華》を払う。
「でも、それくらいか」
「ですね!」
シオンは三体を《ストレージ》へ収納した。
「熊かぁ」
「何よ」
「肉、食えるのかな」
「そこ?」
「美味しかったら食べてみたいだろ」
「ギルドで聞けば?」
「そうする」
「食べることばっかりですね!」
「ロッテに言われたくない」
「なんでですか!」
「いや、なんとなく」
「ひどいです!」
三人が笑いながら先へ進む。
しばらくして。
「止まって」
リュナの声。
三人が止まる。
「罠?」
「違う」
耳が。
ぴくりと動く。
「前にいる」
「何体?」
「……一体」
「また熊?」
「多分違う。音が小さい」
「一体なら行ってみるか」
三人が進む。
曲がり角。
その先。
「……何だ、あれ」
人型。
だが。
人ではない。
灰色の皮膚。
大きな身体。
手には。
長い石の棍棒。
額からは。
一本の角。
「鬼みたいね」
「オーガとは違うな」
《鑑定》。
【グレータートロール】
【高い生命力を持つ大型の亜人型魔物】
【傷を急速に再生する】
「再生するって」
「面倒そうね」
「試してみるか」
「何を?」
「どのくらい再生するか」
「普通に倒しなさいよ」
「でも気になるだろ」
「気にはなるけど」
「なら決まり」
「なんでよ!」
グレータートロールが。
三人に気づく。
「グオォォォ!」
「来ました!」
走る。
巨体。
石の棍棒。
ロッテへ。
「はい!」
振り下ろす。
《不動》。
ドゴォン!
ロッテの盾が受け止めた。
「こっちも力はあります!」
「じゃあ俺から」
《ウインドカッター》。
風の刃。
トロールの腕を深く切る。
血が流れた。
「見て」
リュナが言う。
「おお」
傷が。
少しずつ閉じていく。
「本当に治ってる」
「感心してる場合?」
「いや、すごいなって」
「来るわよ!」
「おっと」
トロールが。
ロッテを無視して。
シオンへ向きを変えた。
「こっち来た」
「シオン!」
「大丈夫」
棍棒。
振り下ろされる。
その直前。
《影跳び》。
シオンが。
通路脇に伸びた影へ移る。
ドゴン!
棍棒が床を叩いた。
「じゃあ」
背後。
ロッドを向ける。
《アイスランス》。
氷の槍。
背中を貫く。
「グオォッ!」
トロールが振り返る。
だが。
「遅い」
リュナ。
すでに懐。
斬。
脚。
さらに。
斬。
反対側。
トロールが膝をつく。
「傷が治るなら」
リュナが《蒼銀華》を構え直す。
「治る前に倒せばいいだけね」
「それな」
「行くわよ!」
《瞬影乱舞》。
銀色の軌跡。
一瞬。
何度も。
トロールの身体を斬り裂く。
首。
胸。
腹。
腕。
再生が。
追いつかない。
それでも。
「まだ動く!」
「すごい生命力ですね!」
ロッテが前へ出る。
「でも!」
バトルハンマーを振り上げる。
《震撃》。
胸。
ドゴン!
トロールの身体が。
大きく揺れた。
「シオン!」
「任せろ」
ロッド。
《サンダーボルト》。
雷撃。
直撃。
巨体が倒れる。
「……」
「……」
「……」
少し待つ。
「起きないわね」
「終わったか」
「再生する魔物って厄介ですね」
「普通の冒険者ならな」
シオンがトロールを収納する。
「俺たちだと、再生する前に削り切れる」
「油断は駄目よ」
「分かってるって」
「本当に?」
「たぶん」
「そこは絶対って言いなさいよ」
「はい」
「返事が軽い!」
先へ。
二十二階層。
アーマーベア。
グレータートロール。
何度か遭遇したが。
三人の進行が止まることはなかった。
「こっち」
リュナが先を示す。
「階段の気配が分かるの?」
「気配じゃないわよ。さっき分かれ道の床に印つけたでしょ」
「ああ」
「忘れてたの?」
「覚えてた」
「今の間は何?」
「覚えてた」
「怪しい」
そして。
「ありました!」
ロッテが指差す。
下へ続く階段。
「二十三階層か」
シオンが足を止める。
「時間は?」
「まだ大丈夫そうね」
「行く?」
リュナが聞く。
「もちろん」
「聞くまでもなかったわ」
「でも」
シオンが笑う。
「さっき言っただろ。ちょっとだけ覗くって」
「二十二階層を全部抜けてるじゃない!」
「結果的に」
「やっぱり信用できなかった!」
「行きましょう!」
「ロッテまで!」
三人が。
階段を下りる。
二十三階層。
「……」
シオンが止まった。
「何これ」
「……部屋?」
リュナも周囲を見る。
階段を下りた先。
そこには。
通路がなかった。
魔物もいない。
扉もない。
広い。
四角い石室。
そして。
中央。
床に。
大きな魔法陣が刻まれている。
「これだけ?」
「みたいね」
ロッテが壁際まで歩く。
「こっち、何もありません!」
反対側。
リュナも確認する。
「扉もないわ」
「隠し通路は?」
「待って」
リュナが壁。
床。
順番に調べる。
「……ないと思う」
「罠は?」
「反応なし」
三人の視線が。
中央へ。
魔法陣。
「乗れってことかな」
「それしかなさそうね」
「転移陣でしょうか?」
「多分」
シオンが近づく。
《鑑定》。
だが。
【転移陣】
「それだけ?」
「それだけ」
「どこに行くかは?」
「出ない」
「怪しいわね」
「でも、他に道ないぞ」
「そうなのよね……」
リュナが。
魔法陣を見る。
「一人ずつはやめましょう」
「そうだな」
「はい!」
三人が。
魔法陣の前へ並ぶ。
「何があるか分からないから」
シオンが二人を見る。
「一緒に乗るぞ」
「うん」
「はい!」
一歩。
三人同時に。
転移陣へ。
「……」
何も起きない。
「動かないな」
「真ん中まで行くんじゃない?」
「じゃあ」
三人がさらに進む。
中央。
その瞬間。
魔法陣が。
強く輝いた。
「来た!」
「離れないで!」
「はい!」
白い光。
視界が。
完全に消える。
そして。
「……」
光が消えた。
シオンが目を開く。
「リュナ?」
返事はない。
「ロッテ?」
返事はない。
「……」
目の前。
細い石造りの通路。
右。
壁。
左。
壁。
後ろ。
行き止まり。
誰もいない。
「……マジか」
シオンは。
一人だった。




