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第45話 Bランク冒険者

 十五時。


「まだ?」


「まだ十五時になったばっかりでしょ」


「もう十五時だろ」


「同じことよ」


「シオンさん、落ち着いてください!」


「ロッテもさっきから扉見てるじゃん」


「見てません!」


「見てたぞ」


「ちょっとだけです!」


 三人は冒険者ギルドの二階。


 朝、筆記試験を受けた部屋の前にいた。


 試験が終わってから一度家へ戻り。


 昼食を食べ。


 十五時ちょうどに戻ってきた。


「落ちたらどうしよう」


「今さら?」


「筆記だぞ。戦うのと違うんだぞ」


「ちゃんと書いたんでしょ?」


「書いたけど」


「なら大丈夫じゃない?」


「第三問がなぁ……」


「殴るって書いたの?」


「書いてない!」


「じゃあ大丈夫でしょ」


「たぶん」


「失礼します!」


 ロッテが扉を開けようとする。


「待て待て待て!」


「十五時です!」


「だからって勝手に入るな!」


「でも呼ばれてます!」


「ノック!」


「あっ」


 コンコン。


「入れ」


 中からグラントの声。


 三人が入る。


 部屋には。


 グラント。


 そしてセリス。


 机の上には三枚の答案が置かれていた。


「来たか」


「結果は?」


「座れ」


「先に教えてくれても」


「座れ」


「はい」


 三人が並んで座る。


 朝と同じ席。


 ただし。


 ロッテは相変わらずミスリルの全身鎧だった。


 グラントがちらりと見る。


「まだ着てるのか」


「このあとダンジョンに行くので!」


「……元気だな」


「はい!」


 グラントが答案を手に取る。


「まず試験結果だが」


「うん」


「三人とも合格だ」


「おお!」


「やった!」


「やりました!」


 ロッテが勢いよく立ち上がる。


 ガシャン!


「座れ」


「はい!」


 ガシャン。


「よかったぁ……」


 シオンが椅子にもたれる。


「そんなに心配してたの?」


「筆記試験なんて聞いてなかったからな」


「普通、試験内容は先に教えん」


「装備持ってこいとは言ったのに」


「まだ根に持ってるのか」


「持ってる」


「そうか」


 グラントは気にした様子もない。


「答案についても簡単に話しておく」


「まだ何かあるの?」


「ある」


 嫌な予感。


「リュナ」


「はい」


「問題なし。状況を見て危険を避ける判断が多い。斥候役として普段から考えてることがそのまま出てるな」


「よかった」


「ただし、自分一人で何とかしようとする回答が少しある」


「……」


 リュナの耳が動く。


「仲間がいることを忘れるな」


「分かった」


「ロッテ」


「はい!」


「お前も問題なし。人命を優先する回答が多い」


「はい!」


「ただ」


「はい?」


「何でも正面から受け止めようとするな」


「……」


「盾役だからって全部受ける必要はない」


「気をつけます!」


「シオン」


「はい」


「お前は」


「うん」


「余計なことを書きすぎだ」


「やっぱり!?」


「質問に対して答えが長い」


「だって条件が足りない問題が多かっただろ」


「だから必要な条件を考えた上で答えればいいんだ」


「考えたら長くなった」


「それは分かる」


 グラントが一枚めくる。


「判断そのものは問題ない」


「じゃあ満点?」


「なぜそうなる」


「問題ないんだろ?」


「第三問」


「……」


「お前、回答の端に小さく『殴るのは駄目』って書いてあるな」


「自分への注意だよ!」


 リュナが吹き出す。


「なんで答案で自分に注意してるのよ!」


「途中で忘れたら困るだろ!」


「何を忘れるのよ!」


「殴っちゃ駄目ってことを」


「そこは最初から覚えてなさい!」


「まあ」


 グラントが答案を置く。


「その辺りも含めて合格だ」


「含めるなよ」


「三人とも、Bランクとして活動する上で問題なしと判断した」


 セリスが。


 三枚のカードを机に置いた。


「おめでとうございます」


 シオンが一枚取る。


 自分の名前。


 その横。


 ランク。


「……B」


「本当に上がったわね」


 リュナもカードを見る。


「Bランクです!」


 ロッテが嬉しそうに掲げる。


「私、Bランク冒険者です!」


「俺たち三人ともな」


「はい!」


 Fランクから始まった。


 あの頃は。


 Bランクなんて。


 もっとずっと先の話だと思っていた。


「早かったなぁ」


「早すぎるのよ」


「そうか?」


「そうよ」


「そうですね!」


「ロッテはどっちだよ」


「早いと思います!」


「だよな」


 グラントがため息をつく。


「自覚だけは持てよ」


「何の?」


「Bランクのだ」


「分かってる」


「本当か?」


「たぶん」


「今すぐCに戻してやろうか」


「分かってます!」


「よし」


 シオンがカードをしまう。


「じゃあ、行くか」


「そうね」


「はい!」


「待て」


 三人が止まる。


「どこへ行く」


「ダンジョン」


「今からか?」


「そのために装備してきたんだよ」


 グラントが。


 ロッテを見る。


 全身鎧。


 盾。


 バトルハンマー。


「……なるほど」


「朝から行くつもりでした!」


「試験が筆記じゃなかったらどうするつもりだったんだ」


「終わって元気だったら行きます!」


「元気じゃない可能性を考えろ」


「その時は帰ります!」


「……まあ、それならいい」


 グラントが椅子にもたれる。


「二十一階層から先は、まともな情報がない」


「ああ」


「二十階層の守護者を倒したのはお前たちが初めてだからな」


「分かってる」


「何か見つけたら報告しろ。だが、調査のために無茶はするな」


「了解」


「必ず三人で戻ってこい」


「もちろん」


「行ってきます!」


 三人は部屋を出た。



 リーベル地下迷宮。


 入口。


「Bランク……」


 管理小屋の職員がカードを見る。


 そして。


 三人を見る。


「昨日までCランクじゃなかったか?」


「今日上がった」


「早すぎるだろ」


「俺もそう思う」


「思うならもう少しゆっくりしろ」


「無理」


「なんでだよ」


「二十一階層が待ってる」


「……」


 職員が。


 諦めたようにカードを返す。


「絶対戻ってこいよ」


「ああ」


「二十一階層の情報、こっちにもほとんどないんだからな」


「分かってる」


 三人は迷宮入口へ。


 シオンが《迷宮転移盤》を取り出す。


 盤面に。


 一から二十までの数字。


「二十階層」


 転移先を選ぶ。


 三人。


「行くぞ」


「うん」


「はい!」


 光。


 一瞬。


 景色が変わった。



 二十階層。


「やっぱり便利だな、これ」


「もう入口から歩く気なくなったでしょ」


「ない」


「即答ね」


「十二階層まで歩いてた頃が懐かしいな」


「そんなに前じゃないわよ」


「行きましょう!」


 守護者の部屋へ向かう。


 昨日。


 《アイアンミノタウロス》と戦った場所。


 当然。


 今は何もいない。


 床には戦いの痕跡だけが残っている。


 そして。


 奥。


 開いたままの通路。


 その先に。


 下へ続く階段。


「……」


 三人が足を止めた。


「ここから先は」


「誰も行ってないのよね」


「ああ」


「私たちが最初です!」


 ロッテの声が弾む。


「なんかワクワクするな」


「シオンはずっとワクワクしてるでしょ」


「未知の階層だぞ?」


「はいはい」


「リュナだって耳動いてるぞ」


「動いてない!」


「動いてますよ」


「ロッテ!」


「すみません!」


 三人が階段を下りる。


 一段。


 また一段。


 空気が。


 少しずつ変わる。


 そして。


 二十一階層。


「……着いた」


 シオンが《ライト》を使う。


 光が周囲を照らした。


 二十階層までと同じ石造り。


 だが。


 通路は少し狭い。


 天井も低くなっている。


「気配は?」


「待って」


 リュナの耳が動く。


「……いる」


「どっち?」


「前。三体」


「近い?」


「まだ少し先」


「罠は?」


「今のところない」


「よし」


 三人が進む。


 曲がり角。


 その先。


 何かが。


 壁を這っている。


「……虫?」


 ロッテが盾を構える。


「でかいな」


 人間ほどの大きさ。


 緑がかった硬い外殻。


 そして。


 両腕には。


 巨大な鎌。


 シオンが《鑑定》する。



【キラーマンティス】


【大型の昆虫型魔物】


【鎌状の前脚を用いた高速攻撃を得意とする】



「キラーマンティス」


「速いの?」


「らしい」


「じゃあ」


 リュナが《蒼銀華》を抜く。


「私が行く」


「任せた」


 三体。


 キラーマンティスが。


 一斉に動いた。


「速っ」


 シオンが声を漏らす。


 確かに速い。


 床。


 壁。


 天井。


 六本の脚を使い。


 一気に距離を詰めてくる。


 だが。


「遅い」


 リュナが消えた。


《獣身強化》。


《影歩》。


 一体目。


 鎌が振り下ろされる。


 その前に。


 リュナが懐へ入る。


 斬。


 胴を深く切り裂く。


 二体目が。


 横から鎌を振るう。


 リュナが身を沈める。


 鎌が頭上を通過。


 そのまま。


 足を斬る。


 体勢が崩れた。


「シオン!」


「はいよ!」


《ウインドカッター》。


 風の刃。


 二体目の首を断つ。


 三体目。


 天井から。


 ロッテへ飛びかかった。


「来ました!」


 ガァン!


 鎌と盾。


「速いですけど!」


 ロッテが踏み込む。


《シールドバッシュ》。


 ドゴッ!


 キラーマンティスが壁へ叩きつけられた。


「軽いです!」


「そりゃロッテからしたらな!」


「とどめです!」


 バトルハンマー。


 ゴッ!


 頭部を叩き潰す。


「終わり」


 リュナが《蒼銀華》を払う。


「二十一階層でもこんな感じか」


「まだ最初よ」


「分かってるって」


 シオンが三体を。


 そのまま《ストレージ》へ収納する。


「さて」


 先へ。



 しばらく進む。


 次に現れたのは。


 五体。


「またキラーマンティスね」


「今度は俺やる」


「どうぞ」


 鎌を構え。


 一斉に走ってくる。


「じゃあ」


 シオンが。


 ロッドを向ける。


《サンダーボルト》。


 雷撃。


 一体。


《連続魔法》。


 二体目。


 三体目。


「……」


 残った二体が左右へ散る。


「お」


 壁を蹴った。


 一体が。


 シオンの横へ。


「速いな」


 影。


《影跳び》。


 シオンの姿が消える。


 直後。


 少し離れた壁際の影へ。


 現れる。


「でも」


 ロッドを向ける。


《エナジーボール》。


 直撃。


 キラーマンティスが吹き飛ぶ。


 最後の一体は。


「こっちです!」


 ロッテへ。


 鎌。


 盾。


 弾く。


「せーの!」


《震撃》。


 バトルハンマーが。


 硬い外殻を叩く。


 一瞬。


 止まった。


 次の瞬間。


 外殻に亀裂が走る。


 崩れた。


「よし」


「問題なさそうね」


「ああ」


 二十一階層。


 未知の領域。


 だが。


 今のところ。


 三人を脅かすほどではない。


「もう少し行くか」


「そうね」


「まだ時間あります!」


 三人は進む。



 その後も。


 何度かキラーマンティスと遭遇した。


 単独。


 三体。


 多くても六体。


 どれも。


 三人なら問題なく倒せる。


 ただ。


「また上!」


「分かってる!」


 天井。


 壁。


 死角。


 これまでの魔物より。


 立体的に動く。


「面白いな」


「何が?」


「階層でちゃんと特徴が違う」


「楽しそうね」


「楽しい」


「でしょうね」


 リュナが呆れながら笑う。


 そして。


「止まって」


 三人が止まる。


「どうした?」


「罠」


 リュナがしゃがむ。


 床。


 細い溝。


「踏むと何か出る」


「解除できそう?」


「できる」


 少し調べ。


 壁際の小さな石を押す。


 カチッ。


「解除した」


「さすが」


「これが仕事だから」


 再び進む。


 やがて。


 階段。


「もう二十二階層?」


「みたいね」


 シオンが。


 少し考える。


「どうする?」


「まだ行けるわよ」


「私も大丈夫です!」


「じゃあ」


 一歩。


 階段へ。


「ちょっとだけ覗いてみるか」


「その言い方」


「何?」


「絶対ちょっとで終わらないやつ」


「そんなことないって」


「信用できない」


「ひどい!」


「シオンさんですから!」


「ロッテまで!?」


 三人の声が。


 階段へ響く。


 Bランクとなったその日。


《デスティニー・コンパス》は。


 二十二階層へ足を踏み入れた。

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