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第44話 Bランク昇格試験

 翌朝。


「よし」


 シオンは自分の装備を確認した。


 ネクロロード・ミスリルロッド。


 ミスリル製の軽装。


 問題なし。


「準備できた?」


 リュナが部屋から出てくる。


「ああ」


「私も大丈夫」


 腰には《蒼銀華》。


 ミスリルの軽装。


 ただし。


 昨日までとは。


 一つだけ違う。


「……」


「何?」


「いや」


「また見てる」


「見てない」


「見てた!」


 リュナの手首。


 そこに昨日のブレスレットはない。


「今日はしてないんだな」


「当たり前でしょ。試験なんだから」


「そっか」


「戦って壊したくないし」


「……」


「何よ」


「いや」


 シオンが少し笑う。


「ちゃんと大事にしてくれてるんだなって」


「っ!」


 リュナの顔が赤くなる。


「朝から変なこと言わないで!」


「変じゃないだろ!」


「変なの!」


「なんでだよ!」


「おはようございます!」


 元気な声。


 ロッテが降りてきた。


「おお……」


 シオンが見る。


 ミスリルの全身鎧。


 ミスリルの盾。


 右手には片手用のバトルハンマー。


 完全武装。


「準備できました!」


「気合い入ってるな」


「もちろんです!」


 その姿で普通に歩いている。


 重そうな様子など。


 まったくない。


「何があるか分からないからな」


「はい!」


 グラントは昨日。


 こう言った。


 装備を持ってこい。


 戦闘力を見る試験ではないとも言っていたが。


 それでも装備が必要ということは。


「護衛とかかな」


「可能性はあるわね」


「魔物がいる場所で判断力を見るのかもしれません!」


「それはありそうだな」


「でも戦闘能力を見る意味はないって言ってたわよ」


「戦いながら別のところを見るとか?」


「あり得るわね」


「とにかく」


 リュナが扉を開ける。


「行けば分かるでしょ」


「それもそうだな」


「行きましょう!」


 三人は家を出た。



 冒険者ギルド。


「来たか」


 グラントが待っていた。


「おはようございます!」


「おう」


 グラントが三人を見る。


 シオン。


 リュナ。


 ロッテ。


 全員。


 完全に戦える格好。


「……」


 グラントの口元が。


 わずかに上がった。


「何?」


「いや」


「なんか笑った?」


「気のせいだ」


「怪しい」


「こっちだ」


 グラントが歩き出す。


 三人もついていく。


「どこ行くんだ?」


「試験会場だ」


「街の外?」


「違う」


「訓練場?」


「違う」


「じゃあどこ?」


「黙ってついてこい」


「教えてくれてもいいのに」


 廊下。


 階段。


 二階へ上がる。


「……」


 シオンが首を傾げた。


「外に出ないな」


「そうね」


「屋内戦ですか?」


「ギルドの中で?」


「分かりません!」


 そして。


 グラントが。


 一つの扉を開けた。


「入れ」


「はい」


 三人が中へ入る。


「……」


「……」


「……」


 机。


 椅子。


 三つずつ。


 机の上には。


 紙。


 ペン。


「……」


 シオンが部屋を見る。


 もう一度。


 見る。


「……何これ?」


「試験会場だ」


「どこが?」


「ここが」


「……」


 シオンが。


 紙を見る。


「魔物は?」


「いない」


「模擬戦の相手は?」


「いない」


「護衛対象は?」


「いない」


「じゃあ何するの?」


 グラントが答えた。


「筆記試験だ」


「……」


「……」


「……」


 三人が固まった。


「筆記?」


「ああ」


「テスト?」


「ああ」


「紙の?」


「目の前にあるだろ」


「……」


 シオンが。


 自分の装備を見る。


 ネクロロード・ミスリルロッド。


 ミスリルの軽装。


 隣。


 リュナ。


 《蒼銀華》。


 さらに。


 ロッテ。


 ミスリル全身鎧。


 盾。


 片手用バトルハンマー。


「……」


 シオンが。


 グラントを見る。


「なんで装備もって来させたんだよ!」


「ひっかけだ!」


「ひっかけ!?」


「ああ」


「なんだそれ!」


「俺は一度も戦闘があるとは言ってない」


「装備持ってこいって言っただろ!」


「言ったな」


「だから持ってきたんだよ!」


「三人ともちゃんと持ってきたな」


「当たり前だろ!」


「なら問題ない」


「問題あるわ!」


 リュナまで声を上げる。


「私も戦闘があると思ってたんだけど!」


「勝手に思っただけだろ」


「ぐっ……」


「ロッテなんか完全武装だぞ!」


「はい!」


 ロッテが胸を張る。


「いつでも戦えます!」


「戦わんぞ」


「ええっ!?」


「だから筆記試験だ」


「せっかく全部持ってきたのに!」


 グラントがロッテを見る。


「鎧は脱いでいいぞ」


「別にこのままで大丈夫です!」


「筆記だぞ?」


「着てても書けます!」


「……そうか」


「はい!」


「なら好きにしろ」


「はい!」


 ロッテが。


 ミスリルの全身鎧を着たまま。


 普通に椅子へ座った。


「……」


 シオンが見る。


「何ですか?」


「いや」


「?」


「その格好で筆記試験受けるやつ、初めて見た」


「シオンさんも杖持ってるじゃないですか!」


「俺は軽装だし」


「リュナさんだって刀持ってます!」


「私は軽装だから」


「二人ともずるいです!」


「何が!?」


「まあ」


 グラントが笑う。


「好きな格好で受けろ」


「はい!」


 ロッテは。


 本当にまったく気にしていない。


「それで」


 シオンが席へ座る。


「本当に戦闘試験はないの?」


「ない」


「このあととか」


「ない」


「本当に?」


「しつこい」


 グラントが腕を組む。


「お前たちの戦闘能力は証明済みだ。試験はいらん!」


「……」


「ネクロロードを倒した」


「ああ」


「二十階層守護者《アイアンミノタウロス》も倒した」


「うん」


「四十七体いたモンスターハウスも三人で突破した」


「はい!」


「それ以上、何を証明させる?」


「……確かに」


「今さら模擬戦をやらせて、強いですねで終わってどうする」


「じゃあ」


 リュナが紙を見る。


「これで何を見るの?」


「性格と頭脳も見させてもらう」


「性格?」


「ああ」


 グラントの表情が。


 少しだけ真面目になる。


「Bランクとなると品位も必要だ」


「品位……」


 シオンが呟く。


「俺、大丈夫?」


「それを今から調べる」


「不安になってきた!」


「私も不安になってきたわ」


「なんでリュナまで!?」


「シオンがいるから」


「俺限定!?」


「私は大丈夫でしょうか!」


 ロッテが手を挙げる。


「それを自分で証明しろ」


「はい!」


「いい返事だけなら満点だな」


「やった!」


「まだ一点もやってない」


「そうでした!」


「大丈夫かな、このパーティ……」


「グラントが推薦したんだろ!」


「だから確認するんだ」


「くそっ!」


 グラントが三人を見る。


「Bランク冒険者には、それなりの信用がつく」


 三人が静かになる。


「重要な護衛や調査を任されることもある。場合によっては低ランクの冒険者をまとめてもらうこともある」


「なるほど」


「そこで必要なのは腕だけじゃない」


 グラントが。


 机の上の試験用紙を指す。


「状況を考える頭と、力を持つ者としての振る舞いだ」


「それを見る試験か」


「そういうことだ」


「分かった」


「試験内容は冒険者としての基本知識。それから状況判断だ」


「魔物の知識とか?」


「ある」


「ダンジョン?」


「ある」


「依頼中の規則?」


「ある」


「普通だな」


「前半はな」


「……前半?」


 シオンが嫌な予感を覚える。


「後半は?」


「状況問題だ」


「何それ」


「読めば分かる」


「怖いな」


「制限時間は二時間」


「長っ!」


「問題数があるからな」


「相談は?」


「当然禁止だ」


「《鑑定》は?」


「紙を鑑定してどうする」


「もしかしたら答えが出るかも」


「出たら俺にも教えてくれ」


「出ないの?」


「知らん」


「……やめとこ」


「最初から普通に解け」


 セリスが。


 三人へ試験用紙を配る。


「では、始めてください」


「はい」


 シオンが。


 最初の問題を見る。



【第一問】


【依頼中、依頼書に記載されていない魔物と遭遇した。最も適切な行動を記述せよ】



「……」


 シオンが考える。


 倒せるなら倒す。


 いや。


 違う。


 依頼の種類が分からない。


 護衛なら。


 護衛対象を優先するべきだ。


 採取なら。


 無理に戦う必要はない。


「……これ」


 シオンが手を挙げる。


「質問」


「何だ」


「状況が足りなくない?」


「ほう」


 グラントが少し笑う。


「どう足りない?」


「依頼の種類も分からないし、魔物の強さも分からない。護衛対象がいるのかも分からないし、逃げられる状況なのかも分からない」


「なら、それを踏まえて答えろ」


「……なるほど」


 シオンが。


 ペンを走らせる。


 隣。


 リュナも。


 すでに書いている。


 さらに隣。


 ミスリルの全身鎧姿のロッテも。


 真剣な顔で。


 小さなペンを握っている。


「……」


 シオンが見る。


「何ですか?」


「いや」


「試験中ですよ」


「はい」


 怒られた。



【第二問】


【依頼先の村で、村人から契約外の魔物討伐を頼まれた。どう対応するか】



「……」


 緊急性。


 危険度。


 人命。


 ギルドへの報告。


 その辺りか。


 書く。



【第三問】


【同行するDランク冒険者が、自分より弱いという理由で指示に従わない。どうするか】



「……」


 シオンが止まる。


 説得。


 理由を説明。


 それでも駄目なら。


「殴る?」


「声に出すな」


 グラントの声。


「あ」


「あと殴るな」


「まだ書いてない!」


「書こうとしてただろ」


「……ちょっとだけ」


 隣で。


 リュナの肩が震えている。


「笑うなよ」


「喋るな」


「はい」



 問題は続く。


 魔物。


 依頼。


 報告。


 素材。


 護衛。


 野営。


 緊急時。


 そして。



【第二十七問】


【護衛依頼中、依頼主から冒険者として不適切な要求を受けた場合、どう対応するか】



「……不適切な要求って何?」


「自分で考えろ」


「例えば?」


「教えん」


「ちょっとくらい」


「教えん」


「ケチ」


「減点するぞ」


「そんな権限あるの!?」


「試験官だからな」


「横暴だ!」


「シオンさん」


 セリスの声。


「静かに」


「……はい」



【第三十四問】


【自分たちより高ランクの冒険者が明らかに危険な判断をしている。あなたはどうするか】



「……」


 ランクが上だから。


 従う。


 ではない。


 シオンは少し考え。


 書く。



【第四十一問】


【街の中で冒険者同士の争いを発見した。片方は知人である。どう対応するか】



「……」


 止める。


 事情を確認する。


 必要なら。


 ギルドへ報告。


「よし」



 そして。



【第四十九問】


【依頼中、仲間と意見が分かれた場合、最終的に何を基準として判断するか】



「……」


 シオンの手が。


 止まった。


 仲間。


 リュナ。


 ロッテ。


 少し考えて。


 書く。



【全員が生きて帰れる可能性が一番高い選択をする】



「……これだな」


 そして。


 最後。



【第五十問】


【あなたにとって冒険者とは何か】



「……」


 シオンが。


 また止まる。


「何だこれ」


「自由記述だ」


「正解あるの?」


「ない」


「試験なのに!?」


「だから性格も見ると言っただろ」


「……」


 シオンは。


 ペンを持ったまま考える。


 強くなる。


 それは。


 もちろん。


 今でも目指している。


 でも。


 冒険者になって。


 リュナと出会った。


 ロッテと出会った。


 三人で家を借りた。


 ダンジョンへ行った。


 戦った。


 笑った。


 宴会もした。


 そして。


 これからも。


 三人で進んでいく。


「……」


 シオンが書いた。



【仲間と一緒に、自分たちの道を進む者】



「よし」


 ペンを置く。


「終わった!」


「静かにしろ」


「あ、はい」


 横を見る。


 リュナは。


 まだ書いている。


 ロッテも。


 最後の問題で悩んでいるらしい。


「……」


 暇。


「……」


 シオンは。


 机に突っ伏した。


「寝るな」


「終わったんだからいいだろ」


「試験中だ」


「暇なんだけど」


「見直せ」


「えー」


「見直せ」


「はい」


 最初から。


 自分の答案を見る。


「……」


 第三問。


 殴る。


 とは書いていない。


「危なかった」


「何が?」


「何でもない」


「喋るな」


「はい」



 やがて。


「そこまで」


 グラントの声。


 三人がペンを置いた。


「終わった……」


 シオンが伸びをする。


「ダンジョンより疲れた」


「それはないでしょ」


 リュナも肩を回す。


「でも疲れたわ」


「難しかったです!」


 ロッテが言う。


「特に最後!」


 ミスリルの全身鎧姿のまま。


 二時間。


 本当に普通に試験を受け切った。


「ロッテ」


「はい?」


「結局ずっとその格好だったな」


「はい!」


「疲れてないの?」


「これくらいで疲れませんよ?」


「……さすがドワーフ」


「何ですか、その反応!」


「いや、すごいなと思って」


「これくらい普通です!」


「その鎧で?」


「はい!」


「……知ってた」


 実際。


 何度も見ている。


 その小さな身体で。


 重装備のまま。


 巨大な魔物の攻撃を受け止める姿を。


「それより」


 シオンが聞く。


「最後、何て書いた?」


「言っていいんですか?」


「もう終わったし」


「私は」


 ロッテが少し照れながら。


「自分のできることで、人の役に立つ人って書きました」


「ロッテらしいな」


「えへへ」


「リュナは?」


「私は……」


 少し考えて。


「自由に生きるための仕事」


「おお」


「何よ」


「リュナらしい」


「シオンは?」


「仲間と一緒に、自分たちの道を進む者」


「……」


 リュナが。


 少しだけ目を丸くした。


「何?」


「別に」


「また?」


「いい答えだと思っただけ」


「……そっか」


「はいはい」


 グラントが答案を集める。


「感想会は帰ってからやれ」


「結果は?」


「採点してからだ」


「いつ?」


「今日中」


「じゃあ待ってる」


「帰れ」


「なんで!?」


「邪魔だ」


「ひどい!」


「十五時に来い」


「十四時半」


「何で交渉する」


「十四時四十五分」


「十五時!」


「分かったよ!」


 三人が立ち上がる。


「じゃあ行くか」


「そうね」


「はい!」


 ロッテも立つ。


 鎧が。


 小さく音を立てる。


「……」


 グラントが。


 三人を見る。


「まあ」


「何?」


「装備を持ってこいと言われて、三人ともきっちり準備してきた点は悪くない」


「……」


 シオンが止まる。


「それも試験?」


「さあな」


「絶対そうじゃん!」


「どうだろうな」


「教えてくれてもいいだろ!」


「十五時に来い」


「くそっ!」


 三人が部屋を出る。


 扉が閉まる。


 セリスが。


 三人分の答案を見る。


「どうでした?」


「少なくとも」


 グラントが。


 シオンの答案を一枚めくった。


「戦うしか能がない連中じゃなさそうだ」


「それはよかったです」


「ただ」


「ただ?」


「シオンは余計なことを書きすぎだ」


「ふふっ」


「あと字が汚い」


「そこも採点します?」


「Bランクには品位も必要だからな」


「字まで?」


「冗談だ」


 グラントが次の答案へ手を伸ばす。


「しかし……」


「何ですか?」


「第三問で、あいつ一度『殴る』って言ったよな?」


「言いましたね」


「書いてないよな?」


「そこを心配するんですか?」


「一応な」


 セリスが笑った。


「大丈夫ですよ。ちゃんと消してあります」


「書いてたのかよ……」

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