第43話 大量査定の結果
「……」
「……」
冒険者ギルドへ入る。
シオンの少し前を。
リュナが歩いている。
「リュナ」
「何?」
「まだ怒ってる?」
「怒ってない」
「じゃあ、なんでこっち見ないの?」
「別に」
「顔まだ赤いぞ」
「うるさい!」
「やっぱり怒ってるじゃん!」
「怒ってない!」
その後ろ。
ロッテが楽しそうについてくる。
「デート、楽しかったですか?」
「ロッテ!」
「はい?」
「その話は終わり!」
「そうなんですか?」
「終わり!」
「でも――」
「終わり!」
「はい!」
ロッテが笑う。
シオンも。
なんとなく自分の頬が熱くなった。
「……」
市場。
甘い菓子。
ブレスレット。
リュナの手首に触れた感触。
「……」
「何?」
「いや」
「何よ」
「何でもない」
「変なの」
リュナが顔を逸らす。
その手首には。
さっきシオンが贈った銀色のブレスレット。
「……」
それを見ると。
また少し嬉しくなる。
「何見てるの?」
「ブレスレット」
「っ!」
リュナが慌てて腕を後ろへ隠した。
「なんで隠すんだよ」
「見ないで!」
「俺が買ったんだけど!?」
「だからってずっと見ないで!」
「なんで!?」
「知らない!」
「お二人とも」
声。
「あ」
セリスが。
カウンターの向こうから三人を見ていた。
「続きはあとにしてもらえますか?」
「続きって何!?」
「何もないから!」
「そうですか」
「なんで笑ってるの!?」
「笑ってません」
「絶対笑ってる!」
セリスが咳払いする。
「それより」
机の上。
何枚もの書類。
「昨日持ち込まれた魔物の査定が終わりました」
「おお!」
シオンの意識が。
一瞬で切り替わった。
「いくら!?」
「切り替え早っ!」
リュナが呆れる。
「大事だろ!」
「さっきまでブレスレット見てたくせに」
「それとこれとは別!」
「はいはい」
「それでセリス!」
「少し落ち着いてください」
「落ち着いてる!」
「全然見えません」
セリスが書類を一枚取る。
「まず、十三階層から十九階層までに持ち帰った魔物です」
「はい!」
「アーマーリザード、ハイオーク、ブレードウルフ、ポイズンスパイダー、オーガファイター、ストーンゴーレム、リザードウォリアー」
「結構いましたね」
ロッテが言う。
「それだけでも通常ならかなりの量です」
「通常なら?」
「はい」
セリスが次の紙を見る。
「そのあとに、二十階層の隠し部屋で倒した魔物が四十七体」
「はい」
「ブラッドウルフ、アイアンゴーレムを含め、状態を確認しました」
「丸ごと持って帰って正解だったな」
「解体担当からは文句が来ています」
「なんで!?」
「多すぎるからです」
「それは俺たちのせいじゃないだろ」
「シオンさん」
ロッテが首を傾げる。
「たぶん私たちのせいです」
「ロッテまで!?」
「それと」
セリスが続ける。
「アイアンミノタウロス」
「おお」
「こちらは守護者個体ということもあり、通常の魔物とは別に査定しました」
「高い?」
「高いです」
「よし!」
「まだ金額を言ってません」
「高いならいい!」
「分かりやすいわね」
「いいだろ!」
セリスが小さく息を吐く。
「全部を合わせた買取金額ですが」
「はい」
シオンが前のめりになる。
「……」
「……」
「……」
「シオン」
「何?」
「近いです」
「あ、すみません」
一歩下がる。
「では」
セリスが告げた。
「金貨四枚、銀貨七枚です」
「……」
「……」
「……」
シオンが止まる。
「金貨?」
「はい」
「金貨四枚?」
「それと銀貨七枚です」
「……」
シオンがリュナを見る。
「金貨だって」
「聞こえたわよ」
「四枚」
「聞こえてる」
「すごくない?」
「すごいわね」
ロッテは。
目を丸くしている。
「金貨……初めて見ます」
「俺も」
「私もよ」
これまで。
銀貨や銅貨で生活してきた。
家賃ですら銀貨で払っている。
その金貨が。
一度の買取で四枚。
「金貨って銀貨何枚?」
シオンが聞く。
「百枚です」
「……」
固まった。
「え?」
「金貨一枚で銀貨百枚です」
「……四百?」
「はい」
「銀貨四百七枚?」
「そうなります」
「……」
シオンが。
自分の指を見た。
「家賃何か月分?」
「計算しないで」
リュナが即座に止めた。
「気になるだろ!」
「絶対変な使い方するから」
「しないって!」
「本当に?」
「……たぶん」
「ほら!」
「でもさ!」
シオンがセリスを見る。
「そんなに高いの?」
「量が量です」
「まあ」
「さらに、アイアンゴーレムなど価値の高い素材もあります。そしてアイアンミノタウロスは、魔核、角、皮、装甲、戦斧、それぞれに価値があります」
「丸ごと持ってきてよかった」
「それについては正解です」
「ほら!」
「ただし次回からは」
「はい?」
「持ち込む前に量を教えてください」
「……はい」
「絶対ですよ」
「はい」
「解体担当から強く言われています」
「昨日の人?」
「昨日の人です」
「怒ってた?」
「かなり」
「……今度何か差し入れするか」
「珍しく気が利くじゃない」
「珍しくって何だよ!」
「今日二回目ね」
「何が?」
「気が利くの」
「……」
シオンが。
リュナのブレスレットを見る。
「見るな!」
「何も言ってないだろ!」
「顔に出てる!」
「どんな顔だよ!」
「それで」
セリスが咳払いする。
「話はまだ終わっていません」
「まだ?」
「これはあくまで素材の買取金額です」
「あ」
シオンが思い出す。
「報奨金!」
「そこは覚えてるのね」
「当たり前だろ!」
セリスが別の書類を取り出す。
「第二十階層守護者の初討伐」
三人が静かになる。
「そして、第二十一階層への道を開いたことによる迷宮攻略記録の更新」
「はい」
「ギルドから正式に報奨金が出ます」
「いくら?」
「シオン」
「だって気になる!」
「分かってるから待ちなさい」
セリスが言った。
「金貨一枚です」
「……」
再び。
沈黙。
「一枚?」
「はい」
「つまり」
シオンが指を折る。
「買取と合わせて……金貨五枚と銀貨七枚?」
「そうなります」
「……」
シオンが。
リュナの手首を見る。
「俺、今日のブレスレット、もっと高いやつ買ってやればよかったかな」
「いらないわよ!」
リュナが即答した。
「そう?」
「あれがいいの!」
「でも、もっと綺麗なのもあっただろ?」
「いいの!」
「なんで?」
「だって……」
リュナが。
手首のブレスレットに触れる。
「……シオンが選んでくれたんだから」
「え?」
「……」
リュナが固まった。
「今――」
「な、なんでもない!」
「いや、今」
「何も言ってない!」
「言っただろ!」
「言ってない!」
「俺が選んだからって」
「聞こえてるじゃない!」
「聞こえるように言っただろ!?」
「忘れて!」
「無理だろ!」
「忘れなさい!」
「無茶言うなよ!」
「お二人とも」
セリスが。
口元を押さえている。
「何?」
「いえ」
「笑ってる?」
「笑ってません」
「絶対笑ってる!」
「気のせいです」
「セリスまで!」
ロッテは。
隣でにこにこしていた。
「何よ、ロッテ」
「いいなあと思って」
「何が!?」
「ブレスレットです!」
「……もう!」
リュナが。
赤い顔のまま。
ブレスレットを大事そうに撫でた。
「それで!」
話を変えるように。
「お金の話は終わり?」
「はい。買取と報奨金については」
「よし!」
リュナが息を吐く。
「助かった……」
「何が?」
「何でもない!」
「今日そればっかりだな」
「誰のせいよ!」
「俺?」
「シオン以外に誰がいるの!」
「なんで!?」
「セリスさん」
ロッテが嬉しそうに言う。
「今日、二人でデートしてきたんです」
「ロッテ!」
「おお」
低い声。
「え?」
三人が振り返る。
グラントが立っていた。
「デートか」
「違います!」
リュナが即答する。
「違うのか?」
「市場へ行って、甘いものを食べて、シオンにブレスレットを買ってもらっただけです!」
「……」
グラントがシオンを見る。
「それを一般的には何と言うんだ?」
「やめてください!」
「俺に怒るな」
「もう!」
シオンは。
少し考えて。
「……やっぱりデートなのかな」
「シオンも考えなくていい!」
「なんでだよ!」
グラントが笑う。
「まあ、その話はあとにしろ」
「あとにもありません!」
「そうか」
グラントがカウンターへ来る。
「昨日の件だ」
「Bランク?」
「ああ」
空気が変わった。
「確認が取れた」
「どうなった?」
「俺からの推薦は正式に受理される」
「じゃあ」
「まだだ」
「まだなの?」
「ランク昇格には確認が必要だ」
「試験?」
「そうなる」
グラントが頷く。
「ただし、普通の昇格試験とは少し違う」
「どう違うの?」
「お前たちの場合、戦闘力を確認する意味がほとんどない」
「なんで?」
「ネクロロードと二十階層守護者を倒した連中に、今さらCランク向けの模擬戦をさせて何を見るんだ」
「それもそうか」
「そこで」
グラントが三人を見る。
「Bランクとして行動できるかを見る」
「行動?」
「依頼の判断、仲間との連携、状況への対応。そういった部分だ」
「へえ」
「内容は?」
リュナが尋ねる。
「まだ教えられん」
「試験だから?」
「ああ」
「いつ?」
「明日」
「明日!?」
ロッテが驚く。
「早いですね!」
「お前たちは二十一階層へ行きたそうだからな」
「分かる?」
「分かる」
「そんな顔してた?」
「シオンはしていた」
「俺だけ!?」
「ロッテも少し」
「えへへ」
「私は?」
「リュナは二人を止める側に見えた」
「正解」
「なんでだよ!」
「事実でしょ」
「否定できないけど!」
グラントが三人の冒険者カードを見る。
「明日の朝、ギルドへ来い」
「分かった」
「装備は?」
「持ってこい」
「戦闘ある?」
「内容は教えられんと言っただろ」
「ちょっとくらい」
「駄目だ」
「ヒント」
「ない」
「一文字だけ」
「何の一文字だ」
「分からない」
「帰れ」
「また言われた!」
セリスが袋をカウンターへ置く。
重い音。
「こちらが今回の代金です」
「おお……」
金貨。
初めて見る。
「確認してください」
三人で確認する。
金貨五枚。
銀貨七枚。
「すごいな……」
シオンが一枚持ち上げる。
「これ一枚で銀貨百枚か」
「落とさないでよ」
「落とさないって」
「シオンさん」
ロッテが言う。
「どうやって分けます?」
「あ」
「そうね」
三人で見る。
「……」
シオンが考える。
「とりあえず全部で預かっとく?」
「私はそれでいいわ」
「私もです!」
「必要なときに三人で使い道決めればいいし」
「そうね」
「じゃあ」
袋ごと。
「《ストレージ》」
消える。
グラントがそれを見る。
「相変わらず便利だな」
「最高ですよ」
「それで何度も騒ぎを起こしてるけどね」
「リュナ、それは関係ないだろ!」
「昨日の解体場」
「……関係あった」
「でしょ」
三人はギルドを出る。
「明日、Bランク試験か」
「緊張しますね!」
「ロッテでも緊張するんだ」
「しますよ!」
「何が出るのかしら」
「強い魔物だったらいいな」
「さっき戦闘力を見る試験じゃないって言われたでしょ」
「でも装備持ってこいって」
「必要になる可能性はあるってことでしょ」
「楽しみだな」
「……」
リュナがシオンを見る。
「何?」
「また変なことしないでよ」
「しないって」
「本当に?」
「俺を何だと思ってるんだよ」
「《正解選択》が出たら、四十七体の魔物がいる部屋にも喜んで入る人」
「正解だっただろ!」
「結果的にはね」
「ならいいじゃん!」
「はいはい」
歩きながら。
リュナが。
ふと自分の手首を見る。
今日。
シオンからもらったばかりのブレスレット。
銀色の細い飾りに。
淡い青の石。
「……」
リュナの口元が。
ほんの少し緩む。
「リュナ?」
「何?」
「今、笑ってなかった?」
「笑ってない」
「いや、笑ってた」
「笑ってない!」
「ブレスレット見ながら」
「見てない!」
「いや、見てただろ!」
「うるさい!」
「なんで怒るんだよ!」
「怒ってない!」
その横で。
ロッテが楽しそうに笑う。
明日は。
Bランクへの昇格試験。
そして。
その先には。
誰もまだ足を踏み入れていない二十一階層。
新しい冒険が。
すぐそこまで迫っていた。




