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第42話 これってデート?

 翌朝。


 シオンは目を覚ました。


「……」


 窓を見る。


 まだ朝。


「……早い」


 もう一度。


 目を閉じる。


「……」


 昨日。


 ギルドへ持ち込んだ大量の魔物。


 アーマーリザード。


 ハイオーク。


 ブレードウルフ。


 ポイズンスパイダー。


 オーガファイター。


 ストーンゴーレム。


 リザードウォリアー。


 モンスターハウスの四十七体。


 そして。


 二十階層守護者。


 アイアンミノタウロス。


「……いくらになるんだろ」


 目を開けた。


「駄目だ。寝られない」


 シオンはベッドから起き上がった。



 居間へ降りる。


 まだ誰もいない。


「十三時か……」


 ギルドへ来るように言われた時間。


 時計を見る。


「長いな」


 まだ。


 たっぷり時間がある。


「十二時じゃ駄目かな」


「駄目って言われたでしょ」


「うわっ!」


 後ろ。


 リュナが立っていた。


「びっくりした!」


「何よ」


「気配消して来るなよ!」


「消してないわよ」


「嘘だ」


「シオンが考え事してただけでしょ」


「……そうかも」


 リュナが椅子へ座る。


「それで?」


「何が?」


「こんな朝早くから何してるの?」


「目が覚めた」


「査定が気になって?」


「違う」


「嘘ね」


「……ちょっとだけ」


「やっぱり」


「だって気になるだろ。あれだけ持っていったんだぞ」


「昨日の職員、かわいそうだったわね」


「仕事だろ?」


「原因作った人が言う?」


「俺たちは普通に買い取ってもらいに行っただけだ」


「普通の人は解体場を魔物で埋めないのよ」


「《ストレージ》があるんだから仕方ないだろ」


「便利すぎるのも考えものね」


「なんでだよ」


 そんな話をしていると。


 階段から足音。


「おはようございます!」


 ロッテが降りてきた。


「おはよう」


「早いな」


「シオンさんもですよ」


「目が覚めた」


「査定が楽しみなんですよね?」


「なんで二人とも分かるんだよ!」


「分かりやすいから」


「分かりやすいです!」


「……そんなに?」


 二人が頷いた。


「マジか……」


 朝食を済ませる。


 それでも。


 十三時までは長い。


「どうするかな」


 シオンが椅子にもたれる。


「ダンジョンへ行くには中途半端だし」


「今日は休みでいいんじゃない?」


「でも暇だぞ」


「たまには何もしなくてもいいでしょ」


「それが苦手なんだよ」


「知ってる」


 ロッテが立ち上がった。


「じゃあ、私は鍛冶場へ行ってきます!」


「鍛冶?」


「はい!」


「何か作るの?」


「作るというより、装備を見ておきたいんです。昨日も結構戦いましたから」


「ああ、点検か」


「それと、少しハンマーを触りたいです!」


「好きだなあ」


「好きです!」


 即答。


「十三時前にギルドで合流しますね!」


「分かった」


「行ってきます!」


 ロッテが元気よく出ていく。


 扉が閉まる。


「……」


「……」


 シオンとリュナ。


 二人だけになった。


「どうする?」


「何が?」


「俺たち」


「別に。家にいてもいいけど」


「暇だな」


「じゃあ何かしたいことある?」


「うーん」


 シオンが考える。


「市場でも行く?」


「市場?」


「最近、依頼とダンジョンばっかりだっただろ」


「まあね」


「たまには普通に街を歩こうぜ」


「……いいけど」


「決まり」


「シオンが暇だから付き合うだけだからね」


「分かってるって」


「ならいいわ」


 二人も家を出た。



 リーベルの市場。


「結構人いるな」


「いつもこれくらいじゃない?」


「昼間にゆっくり来ることないからな」


 野菜。


 肉。


 魚。


 香辛料。


 衣服。


 雑貨。


 武器。


 様々な店が通りに並ぶ。


「おっ」


 シオンが立ち止まる。


「串焼き」


「朝ご飯食べたばかりでしょ」


「一本くらい」


「太るわよ」


「……」


 シオンが止まった。


「どうしたの?」


「前世の記憶が」


「何?」


「いや、何でもない」


「変なの」


 二人で歩く。


 特に目的はない。


 気になる店があれば覗き。


 何もなければ次へ。


「こういうのも久しぶりだな」


「そうね」


「リュナと二人で街歩くのも」


「……」


「ん?」


「何でもない」


「今日それ多くない?」


「気のせい」


 リュナが少しだけ先を歩く。


 その耳が。


 ピクッ。


 動いた。


「……」


 シオンが見る。


 甘い匂い。


 通りの先。


 小さな店。


 店先で焼かれている菓子に、蜂蜜がたっぷりとかけられている。


 横には果物と白いクリーム。


 リュナの耳が。


 もう一度。


 ピクッ。


「食べたい?」


「え?」


「そこ」


「別に」


「でも耳が」


「耳?」


「さっきから店の方に向いてる」


「向いてない!」


「向いてたぞ」


「向いてない!」


「じゃあ俺が食べたいから行こう」


「……」


「いいだろ?」


「シオンが食べたいなら」


 リュナが顔を逸らす。


「仕方ないわね」


「よし」


「何、その顔」


「いや」


「何よ」


「分かりやすいなって」


「誰が!?」


「何でもない」


「言いなさいよ!」


 二人で店に入った。



「……おいしい」


 リュナが呟いた。


 焼きたての菓子。


 蜂蜜。


 少し酸味のある果物。


 冷たいクリーム。


 一口食べた瞬間。


 リュナの耳が立った。


 尻尾が。


 ふわり。


 揺れる。


「……」


「何?」


「いや」


「何よ」


「おいしい?」


「……おいしい」


「そっか」


「何、その笑い方」


「別に」


「絶対何かある」


「ないって」


 シオンも一口。


「おっ。ほんとだ」


「でしょ?」


「これ美味いな」


「うん」


 リュナがもう一口。


 嬉しそうに食べる。


 シオンは自分の皿を見る。


 赤い果物。


「これいる?」


「え?」


「好きそう」


「シオンは?」


「俺はこっちの方が好き」


 蜂蜜の染みた焼き菓子を指す。


「じゃあ……」


 リュナが少し迷って。


「もらう」


「どうぞ」


「ありがと」


 シオンの皿から。


 リュナの皿へ。


「……」


 リュナが。


 ふと周囲を見る。


 二人掛けの席。


 向こうにも。


 男女。


 その隣にも。


 若い男女。


「……」


「どうした?」


「別に」


「また?」


「何でもない」


「今日変だぞ」


「シオンにだけは言われたくない」


「なんでだよ」


「なんでも!」


 リュナは赤い果物を口へ入れた。


「……おいしい」


 耳が。


 また立った。



 店を出る。


「美味かったな」


「……そうね」


「また来ようぜ」


「え?」


「嫌?」


「嫌じゃないけど」


「じゃあ決まり」


「……うん」


 二人は再び市場を歩く。


 その途中。


「……」


 リュナが足を止めた。


「ん?」


 装飾品を扱う店。


 先ほどまで見ていた露店より。


 少し高級そうな店構え。


「見る?」


「……ちょっとだけ」


 二人で中へ入る。


 首飾り。


 指輪。


 髪飾り。


 耳飾り。


 ブレスレット。


 様々な装飾品が並んでいる。


「すごいな」


「高そう」


「実際高いんじゃない?」


「見るだけよ」


「分かってる」


 リュナがゆっくり見ていく。


 その足が。


 ある場所で止まった。


「……」


 細い銀細工のブレスレット。


 繊細な装飾。


 中央には。


 月を思わせる小さな飾り。


 その隣に。


 淡い青色の石が一つ。


 派手ではない。


 だが。


 目を引く。


「……」


 リュナが手に取った。


 角度を変える。


 光が。


 青い石の中で揺れる。


「綺麗……」


 小さな声。


 シオンには聞こえた。


「気に入った?」


「え?」


「それ」


「……別に」


「結構見てるけど」


「見てただけ」


 リュナが値札を見る。


「……高っ」


 すぐに戻した。


「もういいの?」


「いい」


「欲しくない?」


「いらないわよ」


「そう?」


「冒険に必要ないし」


「まあ、それはそうだけど」


「それに」


 もう一度。


 値札を見る。


「高いし」


「ふーん」


「行きましょ」


 リュナが店を出ようとする。


「すみません」


「え?」


 シオンが店員を呼んだ。


「これください」


「は!?」


 リュナが振り返った。


「ちょ、ちょっと待って!」


「何?」


「何してるの!?」


「買ってる」


「見れば分かるわよ!」


「じゃあ何?」


「なんで買うの!?」


「欲しそうだったから」


「欲しいなんて言ってない!」


「じゃあいらない?」


「……」


「いらないなら」


「いる!」


「いるんじゃん」


「……っ!」


 リュナの顔が赤くなる。


「違うの!」


「何が?」


「せっかく買ったのにいらないって言うのは悪いでしょ!」


「じゃあいいじゃん」


「よくない!」


「どっちだよ」


 店員が笑いを堪えている。


 リュナがそれに気づく。


「……」


 さらに赤くなった。


「でも」


 声が少し小さくなる。


「本当にいいの?」


「何が?」


「これ、結構高いわよ」


「大丈夫だろ」


「まだ昨日の査定終わってないでしょ!」


「あ」


「忘れてたの!?」


「いや、忘れてない」


「今の顔は忘れてた!」


「今持ってる金でも買えるから大丈夫だって」


「……本当に?」


「うん」


「……」


 リュナがブレスレットを見る。


「じゃあ」


 小さく。


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 会計を済ませる。


 店員から。


 ブレスレットを受け取る。


「はい」


 シオンがリュナへ差し出す。


「……」


「どうした?」


「つけて」


「え?」


「買ったんだから」


 リュナが腕を差し出す。


「……シオンがつけてよ」


「俺が?」


「嫌ならいいけど」


「嫌じゃないけど」


「じゃあ」


「分かった」


 シオンがブレスレットを受け取る。


 リュナの手首。


 そこへ。


 指が触れた。


「……」


「……」


 二人とも。


 止まった。


 思い出す。


 少し前。


 朝。


 同じベッド。


 すぐ隣にあった顔。


 そして。


 ずっと握っていた手。


「……」


「……早くして」


「あ、ああ」


 留め具。


「これ、どうやるんだ?」


「そこを引っかけるの」


「小さいな」


「ちゃんと見て」


「見てるって」


 指先が。


 また手首へ触れる。


「……」


「……」


「できた」


 シオンが手を離す。


 銀色。


 淡い青。


 リュナの手首で。


 小さく光る。


「どう?」


 リュナが聞く。


「うん」


「……変じゃない?」


「全然」


 シオンは。


 少しだけ離れて見る。


「やっぱり似合うな」


「……っ」


 リュナの耳が。


 ぴんと立った。


 顔が赤くなる。


「何?」


「……シオンって」


「うん?」


「たまにずるい」


「何が?」


「分からないならいい!」


「なんで怒るんだよ!」


「怒ってない!」


「怒ってるだろ!」


「怒ってない!」


 リュナは。


 ブレスレットをつけた腕を。


 胸元へ寄せる。


「……でも」


「ん?」


「ありがと」


 今度は。


 さっきより小さな声。


「大事にする」


「……うん」


 シオンも。


 なぜか少しだけ照れた。



 店を出る。


 市場を歩く。


 リュナは。


 何度も。


 自分の手首を見ていた。


「そんなに気に入った?」


「見ないで」


「なんで?」


「いいでしょ」


「別にいいけど」


「……」


 リュナがブレスレットを見る。


 また。


 少し笑う。


「……」


 シオンも。


 それを見て。


 なんとなく嬉しくなった。


「買ってよかったな」


「聞こえてるわよ」


「聞こえるように言った」


「……バカ」


「なんでだよ」


 しばらく歩く。


 ふと。


 リュナが周囲を見る。


 男女二人。


 楽しそうに店を回っている。


 別の男女も。


 一緒に食べ物を買っている。


「……」


 リュナが止まる。


「どうした?」


「ねえ」


「ん?」


「今日って……」


「今日?」


「……」


「何?」


「何でもない!」


「またかよ!」


「いいの!」


 リュナが先へ歩く。


「待てって」


「早く来なさい。十三時に遅れるわよ」


「まだ全然時間あるだろ」


「いいから!」


「変なの」


「うるさい!」



 十三時少し前。


 冒険者ギルド前。


「あ」


「シオンさん! リュナさん!」


 ロッテが走ってくる。


「鍛冶場終わった?」


「はい! 装備も問題ありませんでした!」


「よかった」


「二人は何してたんですか?」


「市場」


「市場ですか?」


「うん。暇だったから」


「甘いものも食べた」


 リュナが付け加える。


「美味しかったな」


「……うん」


 ロッテが笑う。


「いいですね!」


 そして。


「あれ?」


「何?」


 ロッテがリュナの手首を見る。


「そのブレスレット、どうしたんですか?」


「え?」


 リュナが。


 反射的に手首を隠そうとして。


 やめた。


「……市場で」


「買ったんですか?」


「うん」


 少し間。


「シオンが」


「えっ?」


 ロッテの目が大きくなる。


「シオンさんが!?」


「なんでそんなに驚くんだよ!」


「だって!」


「欲しそうだったから買っただけだぞ」


「ちょっと!」


 リュナがシオンを見る。


「何?」


「言い方!」


「本当だろ?」


「そうだけど!」


 ロッテが。


 二人を見る。


「……」


「何?」


「どうした?」


「二人で市場へ行ったんですよね?」


「うん」


「二人で甘いものを食べて」


「食べたな」


「それから二人でお店を見て」


「見た」


「シオンさんがリュナさんにブレスレットをプレゼントしたんですよね?」


「そうだけど」


「……」


 ロッテが笑顔になる。


「それ、デートじゃないですか?」


「「え?」」


 二人の声が。


 重なった。


「デート?」


 シオンが聞き返す。


「はい!」


「いや、でも」


 シオンが考える。


 二人で市場。


 二人でスイーツ。


 二人で買い物。


 ブレスレット。


 プレゼント。


「……」


「……」


 シオンが。


 リュナを見る。


 リュナも。


 シオンを見る。


「……これ」


 シオンが呟く。


「デートなのか?」


「知らない!」


 リュナの顔が。


 一気に真っ赤になった。


「なんで怒るんだよ!」


「怒ってない!」


「顔真っ赤だぞ!」


「シオンも赤い!」


「俺は――」


 シオンが自分の頬へ触れる。


「……赤い?」


「赤い!」


「なんで!?」


「知らないわよ!」


 ロッテが笑う。


「やっぱり仲いいですね!」


「「よくない!」」


「ほら!」


「今のは偶然!」


「そうよ!」


 また。


 声が重なる。


「もう!」


 リュナがギルドへ向かう。


「先に行く!」


「あ、待てよ!」


 シオンも追いかける。


 その後ろ。


 ロッテが楽しそうについていく。


 リュナの手首。


 銀色のブレスレット。


 淡い青の石が。


 日の光を受けて。


 小さく輝いていた。

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