↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/85

第40話 二十階層の守護者

 翌朝。


「よし!」


 シオンが玄関で両腕を上げた。


「完全復活!」


「朝からうるさい」


 リュナが呆れた顔をする。


「昨日四十七体も倒したんだぞ。寝たら元気になったんだから喜ぶだろ」


「元気なのはいいけど、声が大きいのよ」


「私は元気です!」


 ロッテが盾を背負う。


「ほら!」


「ロッテと比べないで」


「なんでだよ」


「ドワーフだから」


「関係ある?」


「あるんじゃない?」


「適当だな」


 三人は装備を確認する。


 シオンは《ネクロロード・ミスリルロッド》。


 リュナは《蒼銀華》。


 ロッテはミスリルの盾とバトルハンマー。


「忘れ物は?」


「ないわ」


「ありません!」


「じゃあ行こう」


 シオンは《迷宮転移盤》を取り出した。


「今日は一階層から歩かなくていいぞ!」


「それが一番嬉しそうね」


「当たり前だろ!」


「昨日まで普通に歩いてたのに」


「便利なものを知ったら戻れないんだよ!」


「まだ一回しか使ってないでしょ」


「それでもだ!」


 三人は家を出た。



 地下迷宮。


 入口の管理小屋では。


 昨日の職員が待っていた。


「来たか」


「おはようございます」


「本当に二十階層へ飛ぶつもりなんだな?」


「そのために来ました」


 シオンが《迷宮転移盤》を見せる。


「昨日は二十階層から戻ってきた。だが、逆もできるとは限らんぞ」


「分かってます」


「駄目だったら?」


「普通に歩きます」


「……そうか」


 職員が少し離れる。


「やってみろ」


「はい」


 シオンが《迷宮転移盤》へ魔力を流した。


 円盤の表面に数字が浮かぶ。


 一。


 二。


 三。


 そして。


 二十。


「出た」


「二十階層ね」


「押します?」


「もちろん」


 二十を選ぶ。


【転移対象を指定してください】


「三人」


【転移対象 三名】


【第二十階層へ転移しますか?】


「行くぞ」


「ええ」


「はい!」


「転移!」


 光。


 三人の姿が消えた。



「……着いた」


 シオンが周囲を見る。


 石造りの通路。


 昨日と同じ場所。


「本当に二十階層ね」


「すごいです!」


「便利すぎる……」


 シオンが《迷宮転移盤》を見る。


「昨日まで一階層から歩いてたの、何だったんだ」


「それ言ったら悲しくなるからやめなさい」


「でもさ」


「やめなさい」


「はい」


 《迷宮転移盤》を《ストレージ》へ戻す。


「じゃあ」


 シオンが通路の先を見る。


「守護者に行こう」


 三人は歩き出した。



 しばらくして。


 大きな扉。


 昨日。


 リュナが強い気配を感じた場所。


「いるわ」


「一体?」


「一体」


「昨日と変わってない?」


「たぶん」


 リュナの耳が動く。


「強いけど……」


「けど?」


「ネクロロードほどじゃないと思う」


「なら大丈夫そうだな」


「油断しない」


「分かってる」


「本当に?」


「信用ないなあ」


「昨日、四十七体いる部屋を見つけて嬉しそうに入った人だから」


「《正解選択》が出たからだろ!」


「経験値って顔してたけど」


「まだ言うのかよ!」


「シオンさん」


 ロッテが盾を構える。


「来ます」


「え?」


 扉の向こう。


 ドン。


 何かが動いた。


「向こうも気づいたか」


 シオンがロッドを握る。


「開けるぞ」


「ええ」


「はい!」


 三人で頷く。


 シオンが扉を押した。


 ゴゴゴゴゴ……。


 重い音を響かせ。


 扉が開いていく。


 広い部屋。


 その中央。


 巨大な影。


「……でかいな」


 二本の角。


 牛の頭。


 三メートル近い巨体。


 黒い金属鎧。


 両手には。


 巨大な戦斧。


「《鑑定》」


【アイアンミノタウロス】


【第二十階層守護者】


【高い筋力と耐久力を持つ】


【重装甲と巨大な戦斧を用いて戦う】


「アイアンミノタウロス」


「硬そうですね!」


 ロッテの声が弾む。


「なんで嬉しそうなんだよ」


「《震撃》が使えます!」


「最近、硬い敵を見ると喜ぶようになったな」


「いいじゃないですか!」


「来るわよ!」


「ブモオオオオオオッ!」


 咆哮。


 アイアンミノタウロスが地面を蹴った。


「速っ!」


 巨体からは想像できない速度。


「ロッテ!」


「はい!」


 前へ。


 盾を構える。


「《不動》!」


 巨大な戦斧。


 振り下ろされる。


 ガァァァン!


「くっ!」


 ロッテの足が床へ沈む。


 だが。


 止めた。


「大丈夫!?」


「はい!」


 ロッテが笑う。


「重いです!」


「そりゃそうだろ!」


 戦斧が持ち上がる。


 二撃目。


「させない!」


 リュナが飛び込んだ。


 《蒼銀華》。


 首を狙う。


 ガキンッ!


「硬っ!」


 刃が弾かれた。


「首まで鎧か!」


「だったら!」


 シオンがロッドを向ける。


「《サンダーボルト》!」


 雷撃。


 直撃。


「ブモオオッ!」


 アイアンミノタウロスがよろめく。


「効いてる!」


「もう一発!」


 《連続魔法》。


「《サンダーボルト》!」


 二発目。


 巨体が揺れる。


 だが。


 倒れない。


「頑丈ね!」


「守護者だからな!」


 アイアンミノタウロスが戦斧を横へ薙ぐ。


「散れ!」


 三人が離れる。


 ブオンッ!


 凄まじい風。


「うわっ!」


 シオンの目の前を戦斧が通過する。


「当たったら痛いじゃ済まないな」


「当たらなきゃいいのよ!」


「簡単に言うな!」


「シオンなら避けられるでしょ!」


「まあな!」


 足元。


 影。


「《影潜り》!」


 シオンの身体が沈む。


 アイアンミノタウロスが周囲を見る。


 その背後。


 シオンが影から飛び出した。


「こっちだ!」


「ブモッ!?」


「《ライトニング》!」


 背中へ雷撃。


 アイアンミノタウロスが振り返る。


「今!」


 リュナが走った。


 狙うのは。


 膝裏。


 鎧の隙間。


「はっ!」


 《蒼銀華》が入る。


「ブモオッ!」


「ここなら斬れる!」


 もう一撃。


 アイアンミノタウロスの片膝が落ちる。


「ロッテ!」


「はい!」


 盾を構え。


 走る。


「《シールドバッシュ》!」


 ドンッ!


 盾が頭部へ叩き込まれた。


 巨体が傾く。


「効いてます!」


「そのまま行け!」


「はい!」


 ロッテがバトルハンマーを振り上げる。


「《震撃》!」


 胸部。


 黒い装甲へ。


 ゴンッ!


 鈍い音。


 表面に。


 小さな亀裂。


「もう一回!」


「《震撃》!」


 ゴンッ!


 亀裂が広がる。


「ブモオオオオッ!」


 アイアンミノタウロスが腕を振る。


「ロッテ!」


「大丈夫です!」


 盾。


 ドンッ!


 ロッテが数歩下がる。


「《不動》を使ってないと、さすがに飛ばされますね!」


「分析してる場合か!」


「大丈夫です!」


「元気だな!」


 アイアンミノタウロスが立ち上がった。


 両手で。


 戦斧を高く掲げる。


「……あれは」


「避ける!」


 リュナの声。


 三人が一斉に散った。


 戦斧。


 振り下ろす。


 ドガァァァン!!


 床が砕けた。


 石片が飛ぶ。


「……」


 ロッテが見る。


「今のは受けたくないです」


「俺も止めろとは言わない」


「当たり前でしょ!」


 戦斧が。


 床へ食い込んでいる。


「今だ!」


 リュナが走る。


「《影歩》!」


 一気に接近。


 そして。


「《影縫い》!」


 《蒼銀華》が影へ突き刺さる。


 アイアンミノタウロスの足が止まった。


「長くは無理!」


「十分です!」


 ロッテ。


 横から。


「《震撃》!」


 バトルハンマー。


 胸。


 ゴンッ!


 亀裂。


「もう一回!」


「《震撃》!」


 バキンッ!


 黒い装甲が砕けた。


「シオンさん!」


「見えた!」


 胸部。


 鎧のなくなった場所。


 シオンがロッドを向ける。


 魔力。


 光が集まる。


「《ホーリージャベリン》!」


 光の槍。


 一直線。


 アイアンミノタウロスの胸へ突き刺さった。


「ブモオオオオオオッ!」


 巨体が仰け反る。


「まだ立ってる!」


「なら!」


 リュナが《蒼銀華》を構える。


「私が行く!」


 地面を蹴る。


「《瞬影乱舞》!」


 銀色の軌跡。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 胸。


 脇腹。


 首元。


 鎧の隙間を次々と斬る。


 最後。


 リュナが背後へ抜けた。


「……」


 アイアンミノタウロスが。


 止まった。


 巨大な戦斧が。


 手から落ちる。


 ガランッ!


 そして。


 巨体が傾く。


 ズゥゥン……。


「……」


「……」


「……」


 静かになった。


「終わった?」


 ロッテが聞く。


 リュナの耳が動く。


「……終わった」


「よし!」


 シオンがロッドを掲げる。


「二十階層守護者、撃破!」


「やりました!」


「思ったより余裕だったわね」


「昨日の方が疲れた」


「四十七体いたもの」


「守護者が四十七体じゃなくてよかったな」


「そんな部屋だったら閉めるわよ」


「《正解選択》が出ても?」


「……」


 リュナが黙る。


「出ても?」


「シオンを先に入れる」


「なんでだよ!」


「正解なんでしょ?」


「三人で入るのが正解かもしれないだろ!」


「そのとき考えるわ」


「ひどい!」


 ロッテが笑う。


「シオンさん」


「ん?」


 ロッテが倒れたアイアンミノタウロスを見る。


「これ、どうします?」


「どうするって」


 シオンも見る。


 三メートル近い巨体。


 黒い金属鎧。


 床には巨大な戦斧。


「持って帰る」


「丸ごと?」


「もちろん」


 リュナが戦斧を見る。


「それも?」


「それも」


「入るの?」


「たぶん」


 シオンがアイアンミノタウロスへ触れる。


「《ストレージ》」


 巨体が消えた。


「入った」


「相変わらず便利ね」


「次は」


 巨大な戦斧。


「《ストレージ》」


 消える。


「よし」


「本当に全部持って帰るのね」


「だって、わざわざここで解体する必要ないだろ?」


「まあ、そうね」


「ギルドで売れるものを見てもらえばいい」


「それが一番楽ですね!」


「だろ?」


 シオンが満足そうに頷く。


 そして。


「……そういえば」


「何?」


「昨日の魔物もかなり入ってるんだよな」


「今さら?」


「いや、分かってるけど」


 シオンが《ストレージ》の中を確認する。


 今回の探索で倒した魔物。


 アーマーリザード。


 ハイオーク。


 ブレードウルフ。


 ポイズンスパイダー。


 オーガファイター。


 ストーンゴーレム。


 リザードウォリアー。


 そして。


 モンスターハウスで倒した四十七体。


 ブラッドウルフ。


 アイアンゴーレム。


 その他の魔物たちも。


 倒したあと。


 売れそうかどうかなど細かく考えず。


 ほとんど丸ごと収納していた。


「……いっぱいある」


「でしょうね」


「全部売ったら結構な金になりそうだな」


「またその顔」


「何だよ」


「お金」


「俺の顔どうなってるんだよ!」


「分かりやすいです!」


「ロッテまで!?」


 二人が笑う。


「まあ、帰ったら全部出して見てもらおう」


「全部?」


「ああ」


「……」


 リュナがシオンを見る。


「何だよ」


「別に」


「なんだよ、その顔」


「知らない」


「変なの」


 シオンは気にしなかった。



 そのとき。


 ゴゴゴゴゴ……。


「何?」


 三人が振り返る。


 守護者が立っていた場所。


 その奥。


 石壁がゆっくりと開いていく。


「扉?」


「守護者を倒したからか」


「見に行きましょう!」


 三人が近づく。


 開いた先。


 短い通路。


 その奥に。


 下へ続く階段。


「……」


 シオンが覗き込む。


「下に続いてる」


「二十一階層?」


「たぶんな」


 リュナも隣へ立つ。


「ここから先って」


「ああ」


 二十階層までは。


 到達した冒険者がいる。


 だが。


 その先の確かな情報はない。


「じゃあ」


 ロッテが階段を見る。


「この先へ行った人は?」


「少なくとも、ギルドでは聞いてないな」


「……行ってみます?」


 シオンが階段を見る。


「……」


 体力。


 問題ない。


 魔力もまだある。


 進もうと思えば。


 進める。


「いや」


「え?」


「今日は帰ろう」


 リュナが驚いた顔をする。


「何だよ」


「シオンなら行くって言うと思った」


「俺だって考えるぞ」


「本当に?」


「……たまには」


「たまになんですね」


「ロッテまで!」


 シオンは階段を見る。


「今日は守護者を倒すのが目的だったし」


「そうね」


「この先は情報もない」


「珍しくまともね」


「珍しくは余計だ!」


「それに」


 シオンが《迷宮転移盤》を取り出す。


「もう一階層から歩く必要もない」


「それが一番大きそうね」


「大きい!」


「即答した」


「便利なものは使う!」


「はいはい」


「一度帰って」


 シオンが笑う。


「守護者を倒したことも報告しよう」


「そうね」


「買取もですね!」


「ああ」


 シオンが《ストレージ》を見る。


「今回の分、全部持っていこう」


「もう持ってるでしょ」


「そうだった」


「……」


 リュナが。


 また何とも言えない顔をした。


「さっきから何なんだよ」


「別に」


「言えよ」


「知らない」


「変なの」


 三人が集まる。


 シオンが《迷宮転移盤》へ魔力を流す。


【転移対象 三名】


【迷宮入口へ帰還しますか?】


「帰還!」


 光。


 三人の姿が消えた。



 次の瞬間。


 迷宮入口。


「戻った!」


「もう慣れたわね」


「これ最高だな」


「帰るのも一瞬です!」


 管理小屋。


 昨日の職員が飛び出してくる。


「お前ら!」


「あ」


「戻ってきたのか!」


「はい」


「二十階層へ行けたのか?」


「行けました」


「本当に?」


「はい」


「三人とも?」


「見れば分かるだろ」


「いや、そうだが……」


 職員が三人を見る。


「それで?」


「何が?」


「守護者だ!」


「ああ」


 シオンが答える。


「倒しました」


「……」


 職員が止まった。


「何?」


「二十階層の守護者」


「はい」


「倒した?」


「はい」


「……三人で?」


「はい」


「死体は?」


「ありますよ」


「ある?」


「《ストレージ》に丸ごと」


「……丸ごと?」


「はい」


「守護者を?」


「はい」


「武器も?」


「戦斧も入ってます」


「……」


 職員が黙った。


「どうしました?」


「お前」


「はい?」


「それ以外の魔物も?」


「入ってますよ」


「どれくらい?」


「今回倒した分だから……」


 シオンが考える。


「結構いっぱい」


「……」


「モンスターハウスの四十七体もあるし」


「……」


「途中の魔物も」


「……」


「全部じゃないかもしれないけど、倒したやつはだいたい丸ごと――」


「もういい!」


「え?」


「ギルドへ行け!」


「行くつもりですけど」


「今すぐだ!」


「そんなに?」


「そんなにだ!」


「分かりました」


 シオンは首を傾げながら歩き出す。


「じゃあ行こう」


「ええ」


「買取ですね!」


「ああ!」


 シオンが笑う。


「今日はまとめて全部出そう」


「……」


 リュナが足を止めた。


「どうした?」


「シオン」


「何?」


「やっぱり何でもない」


「だから何なんだよ!」


「知らない」


 リュナが先へ歩いていく。


「変なの」


「シオンさん、行きましょう!」


「ああ」


 三人は冒険者ギルドへ向かう。


 その背中を。


 管理小屋の職員が見送っていた。


「……丸ごとって」


 職員は呟く。


「まさか、全部いっぺんに出す気じゃないだろうな……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。