第39話 迷宮転移盤
「じゃあ、行くぞ」
シオンがミスリルロッドを構える。
隠し部屋。
その中には四十七体の魔物。
リザードウォリアー。
ストーンゴーレム。
オーガファイター。
ポイズンスパイダー。
ブラッドウルフ。
そして。
奥にはアイアンゴーレムまでいる。
「ロッテ、前!」
「はい!」
「リュナは右!」
「分かったわ!」
三人が部屋へ踏み込んだ。
直後。
魔物たちが一斉に動いた。
「うわっ、やっぱり多いな!」
「今さら!?」
最初に飛び出してきたのはブラッドウルフ。
五体。
速い。
だが。
「《挑発》!」
ロッテが盾を鳴らす。
三体がロッテへ。
残り二体はシオンへ向かう。
「《ウインドカッター》!」
一体を斬る。
もう一体。
牙を剥いて飛びかかってきた。
「《影跳び》!」
消える。
ブラッドウルフが空中を通過。
シオンは別の魔物の影へ現れた。
「よし!」
「シオン!」
「ん?」
目の前。
オーガファイター。
「近っ!」
「またやってる!」
大斧が振り下ろされる。
「《影潜り》!」
影へ沈む。
大斧が床を叩いた。
その背後。
シオンが影から飛び出す。
「《サンダーボルト》!」
雷撃。
オーガファイターが倒れる。
「やっぱり便利だな!」
「遊んでないで手伝って!」
「遊んでない!」
リュナの前には。
リザードウォリアーが六体。
盾を並べて迫っている。
「邪魔ね」
リュナが地面を蹴った。
一体目。
盾の横を抜ける。
斬る。
二体目が剣を振る。
避ける。
そのまま懐へ。
「遅い!」
《蒼銀華》が走った。
三体目。
四体目。
左右から挟む。
「《影歩》!」
姿がずれる。
二本の剣が空を切った。
「《瞬影乱舞》!」
銀色の斬撃。
二体が倒れる。
「あと二体!」
「分かってる!」
リュナが駆ける。
速い。
《獣身強化》を得てから。
さらに速くなっている。
「はっ!」
一閃。
残り一体。
「《影縫い》!」
影を刺す。
動きが止まったところへ。
《蒼銀華》。
「終わり!」
「リュナ、上!」
「え?」
天井。
ポイズンスパイダー。
糸が飛ぶ。
「もう!」
リュナが横へ跳んだ。
「蜘蛛嫌い!」
「さっき平気って言ってただろ!」
「戦ってるときに上から糸を吐かれるのは嫌なの!」
「それは分かる!」
「《ファイアボール》!」
炎が蜘蛛へ直撃する。
一体。
「《ファイアボール》!」
二体。
「《ファイアボール》!」
三体。
続けて撃つ。
糸ごと燃える。
「シオン!」
「なんだ?」
「まだ上!」
「多いな!」
さらに二体。
「まとめて――」
シオンがロッドを向ける。
「《ライトニング》!」
雷撃が走る。
二体のポイズンスパイダーが落下した。
「よし!」
その直後。
ドンッ!
「うおっ!」
大きな音。
振り返る。
ロッテが。
ブラッドウルフを盾で吹き飛ばしていた。
「《シールドバッシュ》!」
もう一体。
壁へ激突。
「ロッテ、後ろ!」
「はい!」
振り向く。
ストーンゴーレム。
大きな拳。
ロッテが盾を構える。
「《不動》!」
ドンッ!
受け止めた。
「今度はこっちです!」
バトルハンマー。
「《震撃》!」
叩く。
ピシッ。
ストーンゴーレムに亀裂。
さらに。
バキバキッ!
崩れた。
「やっぱりそれ強いな!」
「硬い敵には任せてください!」
「じゃあ」
シオンが奥を指差す。
「もっと硬そうなのいるぞ」
「え?」
ゴン。
ゴン。
重い足音。
銀灰色の巨体。
アイアンゴーレム。
「……大きいですね」
「いける?」
「やります!」
ロッテが向かう。
「待って、一体だけじゃないわよ!」
リュナの声。
アイアンゴーレム。
三体。
「三体か!」
「一体ください!」
「くださいって言い方おかしくない!?」
ロッテが一体目へ。
残り二体。
「リュナ!」
「私にあれ斬らせるの?」
「硬そうだよな」
「硬そうじゃなくて硬いのよ!」
「じゃあ俺がやる!」
シオンがロッドを向ける。
「《サンダーボルト》!」
雷撃。
アイアンゴーレムへ直撃。
巨体が揺れる。
「効いてる!」
「もう一発!」
だが。
「シオン、横!」
「え?」
ブラッドウルフ。
三体。
「多いって!」
《影跳び》。
逃げる。
飛んだ先。
「グオオオッ!」
「またオーガ!」
オーガファイターが大斧を振り上げている。
「飛ぶ場所ちゃんと見なさいよ!」
「影が多すぎるんだよ!」
シオンが笑う。
「《エナジーボール》!」
至近距離。
吹き飛ばす。
そこへブラッドウルフが追いつく。
「《ウインドストーム》!」
風が巻き起こった。
刃となった風。
ブラッドウルフ。
オーガファイター。
さらに周囲のリザードウォリアーまで巻き込む。
「今!」
「分かったわ!」
リュナが飛び込む。
傷ついた魔物を次々と斬る。
一方。
「《震撃》!」
ロッテのハンマーがアイアンゴーレムへ叩き込まれた。
ゴンッ!
「……硬い!」
「効いてない!?」
「効いてます!」
もう一度。
「《震撃》!」
ゴンッ!
アイアンゴーレムの胸に亀裂。
「もう一回!」
「《震撃》!」
バキン!
胸部が砕けた。
アイアンゴーレムが倒れる。
「やりました!」
「ロッテ!」
「はい?」
「もう一体行った!」
二体目。
「望むところです!」
「楽しそうね……」
リュナが呟く。
「リュナ!」
「何?」
「そっち七体!」
「多い!」
リザードウォリアー。
ブラッドウルフ。
オーガファイター。
混ざっている。
「ロッテ!」
「今行きます!」
「いや、そのままでいい!」
「え?」
「二人とも下がって!」
シオンが前へ出る。
「何するの?」
「数が減って、まとまった」
ロッドを掲げる。
魔力が集まる。
「……また叫ぶのね」
「当然!」
頭上。
光。
一本。
二本。
十本。
さらに増える。
「《ソードジャッジメント》!」
無数の光剣が降り注いだ。
轟音。
床が揺れる。
魔物たちが次々と倒れる。
「おお……」
「相変わらず派手ですね!」
「シオンらしいわ」
「褒めてる?」
「半分くらい」
だが。
まだ終わっていない。
「残り!」
「八体!」
「まだいるの!?」
「最初四十七体いたのよ!」
「そうだった!」
残ったのは。
アイアンゴーレム一体。
オーガファイター二体。
リザードウォリアー三体。
ブラッドウルフ二体。
「一気に行くぞ!」
「はい!」
「ええ!」
ロッテが走る。
「《シールドバッシュ》!」
リザードウォリアーを盾ごと吹き飛ばす。
そのまま。
アイアンゴーレムへ。
「《震撃》!」
ハンマー。
シオンは。
「《サンダーボルト》!」
一体。
「《ファイアボール》!」
二体。
そして。
リュナ。
「《瞬影乱舞》!」
駆け抜ける。
斬撃。
また斬撃。
最後のブラッドウルフが。
地面へ倒れた。
「……」
「……」
「……」
静かになった。
「終わった?」
シオンが聞く。
リュナが周囲を探る。
「……うん」
「四十七体?」
「全部」
「よっしゃ!」
シオンが拳を上げた。
「勝った!」
「疲れたわ……」
「私もです」
ロッテが盾を下ろす。
「さすがに四十七体は多かったですね」
「MPも結構使った」
シオンがロッドを見る。
魔核のおかげで以前より消費は少ない。
それでも。
四十七体。
しかも《ウインドストーム》や《ソードジャッジメント》まで使った。
「これで守護者は?」
リュナが尋ねる。
「……今日は嫌だな」
「珍しく素直ね」
「勝てるかどうかじゃなくて、万全で戦いたい」
「私もその方がいいです」
「でも」
リュナが入口を見る。
「また一階層まで戻るの?」
「……」
「……」
「……」
三人とも黙った。
「その前に」
シオンが奥を指差す。
「宝箱!」
「忘れてた」
「私は覚えてました!」
三人が歩く。
部屋の最奥。
台座の上。
宝箱。
「罠は?」
「待って」
リュナが調べる。
「……大丈夫そう」
「開けるぞ」
「どうぞ」
「はい!」
シオンが蓋を開けた。
「……ん?」
中に入っていたのは。
剣でも。
防具でもない。
手のひらより少し大きい。
円盤状の魔道具。
「……何これ?」
「丸いですね」
「見れば分かる」
銀色の縁。
中央には。
数字のようなものが並んでいる。
「《鑑定》」
表示が現れた。
【迷宮転移盤】
「転移?」
シオンの声が変わる。
【迷宮攻略用の希少な転移魔道具】
【使用者が到達した階層を記録する】
【迷宮入口から記録済みの階層へ転移できる】
【記録済みの階層から迷宮入口へ帰還できる】
【戦闘中は使用できない】
「……」
「……」
「……」
三人とも。
しばらく何も言わなかった。
「シオン」
「うん」
「これ」
「うん」
「すごくない?」
「……すごい」
シオンが転移盤を見る。
中央。
数字が浮かび上がっている。
一。
二。
三。
続いて。
二十。
「二十階層まで出てる」
「到達した階層だからでしょうね」
「ということは」
ロッテが目を輝かせる。
「次から、ここまで一気に来られるんですか?」
「そうなるな」
「……」
シオンは。
今日のことを思い返した。
一階層。
二階層。
三階層。
ずっと歩いた。
十二階層まで戻るだけでも。
かなり歩いた。
「……もっと早く欲しかった」
「無茶言わないの」
「だって!」
「二十階層にあったんだから仕方ないでしょ」
「そうだけど!」
ロッテが転移盤を覗き込む。
「帰る方も使えるんですよね?」
「……あ」
三人。
同時に。
入口を見る。
そして。
守護者のいる方向を見る。
「……」
シオンが転移盤を見る。
「これ」
「うん」
「今使えば」
「入口へ帰れるわね」
「歩かなくていい?」
「そう書いてあるわ」
「……使おう」
「即決ね」
「だって疲れた!」
「私も賛成です!」
ロッテも手を上げる。
「今日は帰って、ご飯食べて、お風呂入って寝たいです!」
「決まりだな」
シオンが転移盤を持つ。
「どうやって使うんだ?」
「魔力じゃない?」
「やってみる」
魔力を流す。
転移盤が光った。
「おっ」
中央に。
【帰還】
文字が浮かぶ。
「分かりやすいな」
「押すの?」
「たぶん」
「待って」
リュナがシオンの腕を掴む。
「何?」
「シオンだけ帰ったりしないでしょうね?」
「……」
「……」
「ありそうですね」
「ロッテまで!?」
「だって《影跳び》も一人だけですし」
「これは違うだろ!」
「確認して」
「どうやって!?」
三人で転移盤を見る。
すると。
【転移対象を指定してください】
「ほら!」
「三人にして」
「はいはい」
シオン。
リュナ。
ロッテ。
三人を指定する。
【転移対象 三名】
【帰還しますか?】
「今度こそ」
「ええ」
「お願いします!」
「帰還!」
押した。
光。
「うわっ!」
一瞬。
視界が白くなる。
次の瞬間。
「……」
風。
空。
夕方の光。
「……外?」
ロッテが周囲を見る。
見覚えのある場所。
地下迷宮の入口。
すぐ近くには。
管理小屋。
「……」
「……」
「……」
「帰ってきた」
シオンが呟いた。
「本当に一瞬ね」
「すごいです!」
三人が喜んでいると。
「……は?」
声。
管理小屋。
職員が。
こちらを見ている。
「……」
「……」
目が合った。
「お前ら」
「はい?」
「いつ出てきた?」
「今です」
「どこから?」
「二十階層から」
「……」
職員が黙った。
「二十階層?」
「はい」
「ここへ?」
「はい」
「一瞬で?」
「はい」
「……」
職員が。
頭を押さえた。
「ちょっと待て」
「何ですか?」
「理解が追いつかん」
「ですよね」
シオンもそう思う。
「何を見つけた?」
「これ」
シオンが転移盤を見せる。
職員が見る。
「……」
もう一度見る。
「ギルドに報告しろ」
「やっぱり?」
「今すぐ」
「今日は疲れたんだけど」
「報告してから帰れ!」
「はい……」
リュナが笑う。
「怒られたわね」
「俺、何も悪いことしてないのに」
「二十階層から突然現れたら驚くわよ」
「それもそうか」
シオンは。
もう一度。
《迷宮転移盤》を見る。
これがあれば。
明日は。
一階層から歩く必要がない。
「よし」
「何?」
「明日は二十階層直行だ」
「その前に休むんでしょ?」
「もちろん」
「ご飯もです!」
「ああ」
そして。
万全の状態で。
二十階層の守護者へ挑む。
シオンは転移盤を握った。
「便利なもの見つけたな」
「四十七体倒した甲斐はあったわね」
「大当たりです!」
「だな」
隠し部屋。
四十七体の魔物。
その先にあった宝箱。
そこから手に入れたものは。
これから先。
迷宮の奥深くへ進む三人にとって。
欠かせない魔道具になりそうだった。




