↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/81

第23話 初めての刀

 迷宮から帰った翌朝。


 シオンが居間へ下りると、ロッテが食卓に紙を広げていた。


「おはよう、ロッテ。何してるんだ?」


「あっ、おはようございます! 昨日のうちに、作りたい武器の形を考えてたんです」


 紙には、細長い剣の絵が何本も描かれていた。


 まっすぐなもの。先端だけ曲がったもの。刃が大きく反ったもの。


 どれも、シオンが昨日説明した刀を想像して描いたらしい。


「すごいな。もうこんなに考えてくれたのか」


「でも、どれが正しいのかわからなくて……」


「俺も専門家じゃないから、正しい作り方までは知らないんだよな」


 シオンは椅子に座り、紙を一枚引き寄せた。


「ただ、前の世界で見た刀は、こんな感じだったと思う」


 紙の上に、緩やかに反った一本の線を描く。


「刃があるのはこっち側だけ。反対側は峰っていって、刃がついてないんだ」


「片側だけ……」


「あと、持ち手は両手でも握れるくらいの長さがあったな。でも、リュナが使うなら、長すぎないほうがいいかも」


「そうですね。体格と戦い方に合わせたいです」


 ロッテは真剣な顔で、シオンの描いた線を見つめた。


 そこへリュナがやってきた。


「おはよう。二人とも、もう始めてたの?」


「おはよう! ちょうどリュナの刀を考えてたところだ」


「私の?」


 リュナが紙を覗き込む。


「へえ……こんな形なのね」


「今日は実際に握ってもらいながら、長さを決めたいです!」


 ロッテが言うと、リュナは笑顔でうなずいた。


「うん。お願いするわ」


 三人は朝食を済ませ、街の鍛冶場へ向かった。


 ロッテが以前から知っている貸し鍛冶場は、職人街の一角にあった。


 入口には、鉄を打つ音が響いている。


「おや、ロッテじゃないか」


 奥から出てきた年配の職人が、ロッテに声をかけた。


「久しぶりだな。今日は何を作るんだ?」


「剣です! 仲間のために!」


「ほう」


 職人はリュナを見てから、ロッテの持つ紙に目を落とした。


「……変わった形だな」


「私も初めて作る形なんです」


「そうか。炉と道具は空いてるぞ。無理な使い方だけはするなよ」


「はい!」


 ロッテは鍛冶場の使用料を払い、作業場所を借りた。


 シオンが《ストレージ》から第五階層で採掘した鉱石を取り出すと、職人が目を丸くする。


「お前さん、そんなものまでしまえるのか」


「あっ……ええと、ちょっと珍しいスキルで」


「便利なもんだな。だが、鉱石から剣にするなら、今日一日で全部終わるとは思うなよ」


「はい。急いで仕上げるつもりはありません!」


 ロッテが答えた。


 職人はうなずき、作業の邪魔にならない場所へ戻っていった。


 まずは材料の確認だった。


 ロッテは鉱石を一つずつ《金属鑑定》で調べ、使えそうなものを分けていく。


「こっちはいいですね。こっちは少し不純物が多いです」


「同じ場所で採っても違うんだな」


「はい。見た目だけじゃわからないこともあります」


 ロッテは選別した鉱石を炉のそばへ運んだ。


 鉱石から使える鉄を取り出す工程は、シオンが想像していたよりずっと手間がかかった。


 炉の熱を整え、鉱石を処理し、取り出した金属の状態を確かめる。


 ロッテは《鍛造の才》で金属の様子を感じ取りながらも、何度も手を止めて確認していた。


「スキルがあれば、一瞬でできるのかと思ってた」


 シオンが呟くと、ロッテは首を横に振った。


「どこを見ればいいかは、前よりわかるんです。でも、手を動かすのは私ですから」


「そっか」


「それに、初めての形です。焦って失敗したくないです!」


 その言葉に、シオンはうなずいた。


「じゃあ、今日はできるところまでだな」


「はい!」


 昼を過ぎたころ、ロッテはようやく刀身に使う材料をまとめ始めた。


 シオンは木片を借り、リュナに握ってもらいながら長さを相談する。


「これくらいだと、どう?」


「ちょっと長いかも。狭い通路だと振りにくそう」


「じゃあ、少し短くしよう」


 ロッテも作業の手を止め、リュナの構えを見た。


「短剣みたいに片手で振ることもありますか?」


「たぶんね。でも、両手で握る動きも試してみたいわ」


「それなら、持ち手は少し長めにしましょう!」


 三人で相談し、刀身の長さと反りの具合を決めていった。


 ロッテが鉄を熱し、金槌を振るう。


 甲高い音が、鍛冶場に響いた。


 何度も熱しては打ち、形を整える。


 途中、ロッテは金属を見つめて首を傾げた。


「……ここ、少し薄くなりすぎました」


「大丈夫か?」


「今なら直せると思います。もう一度、形を整えますね」


 打ち直しが必要になるたび、ロッテは理由を確かめた。


 シオンは、彼女が失敗を隠さず、一つずつ向き合っていることに気づいた。


 夕方になっても、刀は完成しなかった。


 形はできてきたものの、刃の仕上げや持ち手の調整が残っている。


「……ごめんなさい。今日中にはできませんでした」


 ロッテが申し訳なさそうに言う。


「謝ることないだろ!」


 シオンは即座に答えた。


「初めて作る武器なんだし、急いで使えないものになるほうが困るって!」


「私も待てるわよ」


 リュナも笑った。


「私のために、こんなに考えて作ってくれてるんだもの」


「……ありがとうございます!」


 ロッテはほっとした顔をした。


 職人に相談すると、翌日も同じ作業場所を借りられることになった。


 三人は道具を片づけ、家へ帰った。


 翌日も、ロッテは朝から鍛冶場に立った。


 前日に形を整えた刀身を確かめ、刃の仕上げへ進む。


 焼き入れの工程では、ロッテはいつになく慎重だった。


「……ここで失敗したら、今までの作業が無駄になるかもしれません」


「俺たちは待ってるから、落ち着いてやってくれ」


「はい」


 ロッテは金属の状態を確かめ、温度とタイミングを見極めながら作業を進めた。


 やがて、刀身が姿を現した。


 緩やかに反った、片刃の剣。


 シオンの記憶にある刀とは細部が違うものの、確かにその面影があった。


「おお……!」


 シオンは思わず声を漏らした。


「刀だ……!」


「まだ、持ち手と鞘が残ってますよ!」


 ロッテは嬉しそうに笑い、作業を続けた。


 持ち手には滑りにくい素材を使い、リュナの手に合わせて太さを調整する。


 鞘も、鍛冶場の職人に木工の道具を借りながら、少しずつ形にした。


 すべての作業が終わったころには、外は夕方になっていた。


「……できました!」


 ロッテが完成した刀を両手で差し出す。


 リュナは、そっと受け取った。


「……軽い」


 鞘から抜くと、細身の刀身が光を受けた。


 装飾は少なく、ところどころに手作りらしい粗さが残っている。


 それでも、刃はまっすぐ整えられ、持ち手もリュナの手にしっくりと収まった。


「振ってみてもいい?」


「もちろんです! でも、周りに気をつけてくださいね!」


 三人は職人に許可をもらい、鍛冶場の裏にある試し振り用の場所へ移動した。


 リュナは刀を構え、ゆっくり振ってみた。


 一度、二度。


 続けて足を動かしながら、斬り下ろす。


「……うん」


 リュナの口元に笑みが浮かんだ。


「いい感じ。短剣とは違うけど、思ったより動きやすいわ」


「本当ですか!?」


「うん。私、これ好きよ」


 ロッテの顔がぱっと明るくなった。


「よかったです……!」


 シオンも刀を見つめた。


「すごいな、ロッテ。俺は形を説明しただけなのに、本当に作っちゃった」


「シオンさんが教えてくれたからですよ!」


「いやいや、作ったのはロッテだって!」


 二人が言い合っていると、リュナが小さく笑った。


「二人とも、ありがとう」


 その一言に、シオンとロッテは顔を見合わせた。


 リュナは刀を鞘へ収めると、ステータスを開いた。


「……これなら、あのスキルも試せるかもしれない」


「《瞬影乱舞》か!」


「うん」


 リュナはスキルの説明をもう一度確認した。


 高速で移動しながら連続で斬りつける技。


 ただし、途中で急に方向を変えにくく、使い終わった直後には隙が生じる。


「実戦でいきなり使うのは危ないわね」


「じゃあ、ここで動きだけ試してみるか?」


「そうする」


 リュナはスキルポイントを使い、《瞬影乱舞》を習得した。


 刀を抜き、周囲に誰もいないことを確認する。


「二人とも、少し離れてて」


「わかった!」


 シオンとロッテが下がった。


 リュナは刀を構え、前方へ視線を向ける。


「《瞬影乱舞》!」


 次の瞬間、リュナの姿が前へ滑るように動いた。


 一歩。


 二歩。


 素早い踏み込みに合わせて、刀が連続して振るわれる。


 最後の一撃を終えたリュナは、その場で足を止めた。


「……っ!」


 体勢がわずかに崩れる。


 リュナはすぐに立て直したものの、少し驚いた顔をした。


「なるほど……。最後まで動きが決まってる感じね」


「途中で止まれないのか?」


「止まれなくはないと思う。でも、無理に変えようとすると、かえって危ないわ」


 リュナは刀を見下ろした。


「それに、終わった直後はすぐ次の動きに移りにくい。使う場所を選ばないと」


「じゃあ、俺たちが援護できるときに使おう!」


 シオンが言う。


「私も盾で守ります!」


 ロッテが胸を張った。


「ありがとう」


 リュナはもう一度、ゆっくりと刀を振った。


「まずは、この刀に慣れるところからね」


 ロッテは嬉しそうに、その姿を見つめていた。


「……あの、リュナさん」


「なあに?」


「使いにくいところがあったら、遠慮なく言ってください。次に作るときは、もっとよくしたいです!」


「うん。じゃあ、これから使いながら教えるわ」


 リュナは刀を鞘へ収め、大切そうに腰へ差した。


「でも、この一本も大事に使うから」


「……はい!」


 帰り道、シオンはリュナの腰にある刀をちらりと見た。


「名前、つけたりする?」


「名前?」


「せっかくロッテが作ってくれた、初めての刀だしさ」


 リュナは少し考え、首を傾げた。


「今はまだ、いいかな」


「そうなのか?」


「うん。もっと一緒に戦ってから考えたいの」


 リュナは刀の鞘にそっと触れた。


「まずは、この子のことをちゃんと知りたいから」


 シオンは笑った。


「そっか。それもいいな!」


 ロッテも嬉しそうにうなずいた。


「私も、もっといい刀を作れるように頑張ります!」


 三人が家に帰り着くころには、すっかり日が暮れていた。


 夕食の席で、シオンは明日の予定を切り出した。


「さて、明日は迷宮の続きだな!」


「六階層からね」


 リュナが答える。


「刀は持っていくけど、短剣も忘れないようにするわ。狭い場所では、今までの武器のほうが使いやすいかもしれないし」


「私は、新しい刀を使うリュナさんの動きに合わせて守ります!」


 ロッテが言う。


「俺も、二人の動きをよく見て魔法を使うよ」


 三人は顔を見合わせ、笑った。


 新しい刀は完成した。


 けれど、それを使いこなすのは、これからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。