↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/83

第21話 月影獣と武装匠

 翌朝、シオンはいつもより早く目を覚ました。


 今日は、リュナとロッテが転職する日だ。


 自分のことではないのに、昨夜から楽しみで仕方がなかった。


「よし!」


 勢いよく寝台から起き上がり、着替えを済ませて居間へ向かう。


 すると、すでにリュナとロッテが食卓についていた。


「おはよう!」


「おはよう、シオン」


「おはようございます!」


 二人の前には、まだ手をつけていない朝食が並んでいる。


「待っててくれたのか?」


「三人で食べようと思って」


 リュナが答える。


「それに、今日はシオンが一番早く起きると思ってたんだけど」


「……俺、そんなに楽しみにしてるように見えた?」


「昨日、寝る前に三回も『明日が楽しみだな』って言ってたわよ」


「三回も!?」


 ロッテが笑った。


「私も楽しみです!」


 シオンは椅子に座り、二人と一緒に朝食を食べ始めた。


「リュナは《月影獣》、ロッテは《武装匠》か……。名前からして強そうだよな!」


「名前だけで決めちゃ駄目よ」


「わかってるって!」


 リュナは苦笑しながらパンをちぎった。


「でも、私も気になってる。今までの《獣影士》と、何が変わるのかしら」


「私は、新しいスキルが楽しみです!」


 ロッテは自分の左手を見た。


「昨日のホーンゴブリンの攻撃、受け止めたのに少し下がっちゃいましたから。もっとしっかり守れるようになりたいです」


「十分頼もしかったけどな」


「ありがとうございます! でも、もっと頑張りたいです!」


 朝食を終えると、三人は身支度を整えて家を出た。


 教会は、リーベルの中央広場から少し離れた場所にあった。


 白い石造りの建物で、入口の上には見慣れない紋章が刻まれている。


「ここか……」


 シオンは建物を見上げた。


「俺、教会に来るのは初めてだな」


「私は前に来たことがあるわ」


 リュナが答える。


「でも、転職するのは初めて」


「私もです!」


 ロッテは少し緊張した様子で、盾の持ち手を握り直した。


「じゃあ、行こう!」


 三人は教会の扉を開けた。


 中は静かだった。


 高い天井から柔らかな光が差し込み、奥には大きな石の台座が置かれている。


 入口近くにいた神官が、三人へ歩み寄ってきた。


「本日は、どのようなご用件でしょうか?」


「転職の手続きをお願いしたいんです!」


 シオンが答える。


「こちらの二人が、ジョブレベル五十になりまして!」


「おめでとうございます」


 神官はリュナとロッテへ丁寧に頭を下げた。


「それでは、順番に転職の儀を行いましょう。冒険者カードを拝見してもよろしいですか?」


 二人がカードを差し出すと、神官は内容を確認した。


「確かに、お二人とも現在のジョブがレベル五十に達していますね」


 ロッテが遠慮がちに尋ねる。


「あの……費用は、いくらでしょうか?」


「上限に達した方の転職には、高額な寄付は必要ありません。通常の手続きとして、お一人につき銅貨五枚をお納めいただいています」


「銅貨五枚……!」


 ロッテはほっとしたように息をついた。


「よかったです……」


「途中で転職するときは、ずいぶん高いって聞いたもんな」


 シオンが言うと、神官はうなずいた。


「現在のジョブを修める前に変更する場合は、別の手続きとなります。今回はお二人とも上限に達していますので、ご安心ください」


 二人はそれぞれ銅貨五枚を支払った。


「では、どちらから始めましょうか?」


「私からでもいい?」


 リュナが一歩前へ出た。


「もちろん!」


 シオンが答えると、ロッテも笑顔でうなずいた。


「頑張ってください!」


 神官に案内され、リュナは奥の台座の前に立った。


「台座に手を置き、希望するジョブを意識してください」


「はい」


 リュナは石の台座へ手を置いた。


 その表面に、淡い光が広がる。


 リュナの視界には、転職可能なジョブの一覧が浮かんでいた。


 昨日、シオンの《正解選択》によって見つかった名前も、そこにある。


《月影獣》


 リュナは小さく息を吸った。


「……《月影獣》」


 台座の光が強まった。


 淡い銀色の光がリュナの体を包み、やがて静かに消えていく。


「……終わった?」


 リュナが自分の手を見下ろす。


 神官が微笑んだ。


「はい。転職は無事に完了しました」


「おおっ!」


 シオンが思わず声を上げる。


「リュナ、どうだ!?」


「ちょっと待って……」


 リュナは自分のステータスを開いた。


【ジョブ:月影獣 Lv1】


「……変わってる!」


「やったな!」


「うん!」


 リュナは嬉しそうに笑った。


 続いて、ロッテが台座の前へ進む。


「私も、お願いします!」


「どうぞ」


 ロッテは盾を脇に置き、台座に手を添えた。


 転職候補の一覧を確認し、その中から一つの名前を選ぶ。


「《武装匠》……!」


 台座から光が広がった。


 今度は温かな金色の光が、ロッテの小さな体を包み込む。


 光が消えると、ロッテはすぐにステータスを開いた。


【ジョブ:武装匠 Lv1】


「……できました!」


「おめでとう、ロッテ!」


「ありがとうございます!」


 ロッテは盾を抱え、満面の笑みを浮かべた。


 神官に礼を伝え、三人は教会を出た。


 広場の端にあるベンチに腰を下ろすと、シオンは待ちきれない様子で尋ねた。


「それで、新しいスキルは!?」


「今、見てるところよ」


 リュナは《月影獣》の習得候補を確認していた。


「……あっ」


「何かあった?」


「《影縫い》っていうスキルがあるわ」


「影縫い?」


「相手の影を武器で捉えると、短い間だけ足を止められるみたい」


「おお! それ、便利そうだな!」


 リュナは説明を読み進めた。


「強い相手ほど止められる時間は短いし、体全部が動かなくなるわけじゃないみたい。でも、突進を止めたり、逃げる相手の足を止めたりはできそう」


「ロッテが受け止めた相手にも使えそうだな」


「うん。覚えてみる」


 リュナは《影縫い》を習得した。


 続いて、別のスキルに目を留める。


「……《瞬影乱舞》?」


「何だそれ!?」


 シオンが身を乗り出した。


「高速で移動しながら、連続で斬りつける技みたい」


「乱舞……!」


 シオンの目が輝く。


「絶対かっこいいやつだ!」


「かっこよさだけで決めないの」


 リュナは笑いながら、説明を最後まで読んだ。


「連続攻撃の途中では、急に進む方向を変えにくいみたい。それに、使った直後は少し隙ができるって」


「じゃあ、ロッテに相手を引きつけてもらってから使うとよさそうだな」


「そうね。ただ……」


 リュナは腰の短剣に触れた。


「この技、長めの片刃の剣と相性がいいみたいなの」


「片刃の剣……」


 シオンは少し考えた。


 そして、前世で知っていた武器を思い出す。


「……刀か!」


「カタナ?」


「俺が前にいた世界にあった武器だよ。片側だけに刃があって、少し反った形の剣なんだ」


 シオンは手で大まかな形を描いた。


「斬る動きに向いてる。リュナの速さにも合いそうだな」


「へえ……」


 リュナは興味深そうに聞いていた。


「この街で売ってるかしら?」


「見たことないな。あとで武器屋で聞いてみるか」


「うん。今は、短剣でも使える技を先に覚えたいわ」


 リュナは《瞬影乱舞》の習得をいったん見送った。


 新しい武器を手に入れ、動きを確かめてから考えるつもりだった。


「じゃあ、次はロッテだな!」


「はい!」


 ロッテは《武装匠》のスキル一覧を開いた。


「……あっ! 盾に関係するスキルがあります!」


「何があるんだ?」


「《挑発》と《不動》です!」


「おお!」


 シオンがうなずく。


「いかにも盾役って感じだな!」


 ロッテは《挑発》の説明を読み上げた。


「相手の注意を自分に向けやすくするスキル、みたいです。ただ、必ず引きつけられるわけじゃないんですね」


「頭のいい魔物だと、無視することもあるのかもしれないな」


「はい。だから、使ったあとも相手の動きをよく見ないといけません」


 続いて、《不動》を確認する。


「こちらは、足を踏ん張って攻撃を受け止めやすくするスキルです!」


「昨日のホーンゴブリンみたいな相手に使えそうだな!」


「そうですね!」


 ロッテは嬉しそうにうなずいた。


「でも、動きにくくなるみたいですし、攻撃そのものが痛くなくなるわけじゃないです」


「じゃあ、正面を守るときに使って、横や後ろは俺たちが気をつける!」


「私も周りを見るわ」


 リュナが言う。


 ロッテは二人の顔を見て、力強くうなずいた。


「お願いします!」


 ロッテは《挑発》と《不動》を習得した。


「……これで、もっと盾役らしくなれます!」


「もともと頼りにしてたけど、ますます頼もしくなったな!」


「えへへ……!」


 ロッテは照れくさそうに笑った。


 そして、もう一度スキル一覧を見た。


「鍛冶のスキルも、ちゃんと残ってます」


「《鍛造の才》も?」


「はい! なくなってません!」


「よかった!」


 ロッテは胸を撫で下ろした。


「《金属鑑定》も習得候補にあります。昨日の鉱石を見て、やっぱり覚えたいと思ったんです」


「いいじゃないか!」


「はい!」


 ロッテは《金属鑑定》を習得した。


「これで、鉱石を見つけたときに、もう少し詳しく調べられると思います!」


「じゃあ、次の迷宮探索が楽しみだな!」


 シオンは立ち上がった。


「よし! 採掘道具を買いに行こう!」


「……その前に、ひとつ聞いていい?」


 リュナがシオンを見上げた。


「さっき言ってた、カタナっていう武器。ロッテなら作れるのかしら?」


「えっ、私ですか!?」


 ロッテが目を丸くした。


 シオンは少し考えた。


「形や使い方を俺が説明して、ロッテに作り方を考えてもらう……っていうのは、どうだろう?」


「でも、私、見たことのない武器を作ったことはないです」


「そりゃそうだよな」


 シオンはうなずいた。


「いきなり完成品を作れるとは思ってないよ。まずは、どんな形がいいか相談するところからだな」


 ロッテは少しの間、考え込んだ。


 やがて、顔を上げる。


「……やってみたいです!」


「おお!」


「ちゃんと使えるものを作れるかは、まだわかりません。でも、リュナさんが使う武器なら、頑張ってみたいです!」


 リュナが嬉しそうに笑った。


「ありがとう、ロッテ」


「はい!」


「ただ、今日は鍛冶場を借りる日じゃないわよね?」


 リュナがシオンを見る。


「まずは採掘道具を買って、次の迷宮探索の準備をするんでしょ?」


「そうだった!」


 シオンは笑った。


「刀のことは、依頼を休む日にゆっくり考えよう!」


 三人は広場を離れ、道具屋へ向かった。


 店内には、縄や水袋、ランタンなどの冒険用品が並んでいる。


 奥の壁には、つるはしや小型の採掘用ハンマーが掛けられていた。


「おお、あった!」


 シオンがつるはしを手に取ろうとすると、ロッテが声をかけた。


「シオンさん、ちょっと待ってください!」


「ん?」


「持つところと、先の金属を見てもいいですか?」


「もちろん!」


 ロッテはつるはしを受け取り、柄の状態を確かめた。


 続いて、金属部分へ意識を向ける。


「《金属鑑定》……」


 ロッテの目が、わずかに見開かれた。


「……見えます!」


「何が!?」


「使われている金属の状態です! こっちは、刃先が少し傷んでますね」


 ロッテは別のつるはしを手に取った。


「こっちのほうが、先端の状態がいいです」


「おお! もう役に立ってる!」


「えへへ……!」


 店主に用途を伝え、三人は採掘用のつるはし一本と、小型のハンマー、鉱石を崩すための道具を選んだ。


 ロッテは持ちやすさを確かめ、シオンは代金を支払う。


 買った道具は《ストレージ》へ収納した。


「これで、次は鉱石も採れるな!」


「はい!」


 ロッテが嬉しそうに答える。


「でも、迷宮では周りを確認してからですよ!」


「わかってるって!」


「本当に?」


 リュナが笑いながら尋ねる。


「……三人で確認してから!」


「それなら大丈夫ね」


 店を出ると、シオンは二人を見た。


「明日は、新しいジョブで迷宮に行ってみようか!」


「私はいいわよ」


「私も行きたいです!」


 ロッテは自分の盾を見下ろした。


「《挑発》と《不動》、ちゃんと使えるようになりたいです!」


「私は《影縫い》の練習ね」


 リュナが言う。


「それに、鉱石が見つかったらロッテに見てもらいたいわ」


「任せてください!」


 シオンは満面の笑みを浮かべた。


「よし! じゃあ、明日も三人で頑張ろう!」


 新しいジョブ。


 新しいスキル。


 そして、初めての採掘道具。


 三人は次の迷宮探索を楽しみにしながら、家への道を歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。