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第17話 三人の家と、もう一度の夢

 リーベルの門をくぐったシオンたちは、そのまま冒険者ギルドへ向かった。


「ただいま戻りました!」


 受付にいたセリスが顔を上げる。


「おかえりなさい。オークの討伐依頼ですね」


「はい! 五体、倒しました!」


「お疲れさまです。皆さん、お怪我はありませんか?」


「大丈夫です!」


 シオンが答えると、リュナとロッテもうなずいた。


「では、討伐の確認をしましょう。いつもの作業場へお願いします」


 三人はセリスに案内され、ギルドの奥へ進んだ。


     ◇


「おう、今日は何を持ってきた?」


 作業場では、見慣れた買い取り担当の男性が待っていた。


「オーク五体です!」


「ほう。じゃあ、出してくれ」


 シオンは空いている床へ手を向けた。


「《ストレージ》!」


 一体目。


 二体目。


 五体すべてを取り出すと、男性は一体ずつ確認していった。


「……よし。五体ともオークだな。依頼の討伐数は問題ねえ」


「ありがとうございます!」


「素材も見ておく。少し待ってな」


 男性が作業を始めると、ロッテはそっとシオンへ近づいた。


「あの……やっぱり、その《ストレージ》ってすごいですね」


「便利だろ?」


「はい。オーク五体を運ぶなんて、普通なら大変ですから」


 ロッテは感心したように、何も持っていないシオンの手を見つめた。


 リュナが小さく笑う。


「私も、最初は何度も驚いたわ」


「……ですよね」


 ロッテは深くうなずいた。


 しばらくして、男性が査定を終えた。


「待たせたな。五体とも状態は悪くねえ。素材の買い取りは、まとめて銀貨七枚だ」


「銀貨七枚!」


 シオンの顔が明るくなる。


「依頼の報酬とは別ですよね?」


「ああ。討伐報酬は受付でもらってくれ」


「ありがとうございます!」


 男性はロッテへ目を向けた。


「おっ、今日は新しい仲間か?」


「は、はい! 今日は一緒に戦わせてもらいました!」


「そうか。オーク相手に怪我なしなら、いい仕事をしたな」


「……ありがとうございます!」


 ロッテは嬉しそうに頭を下げた。


     ◇


 受付へ戻ると、セリスが報酬を用意していた。


「オーク五体の討伐を確認できました。依頼報酬は銀貨十二枚です」


 セリスが硬貨を並べる。


「素材の買い取りが銀貨七枚ですので、今回のお受け取りは合計で銀貨十九枚になります」


「十九枚!」


 シオンは思わずリュナを見た。


 リュナも笑みを浮かべる。


「家の資金、また増えたわね」


「おう!」


 シオンは報酬を受け取り、《ストレージ》へしまった。


 そして、思い出したようにセリスへ向き直る。


「あっ、もう一つお願いがあるんです!」


「何でしょう?」


「ロッテに、俺たちのパーティへ入ってもらうことになりました!」


 セリスの顔が明るくなった。


「まあ! そうなんですね」


「は、はい!」


 ロッテは少し緊張した様子で答えた。


「これから、シオンさんとリュナさんと一緒に冒険したいんです」


「承知しました。では、ギルドカードをお預かりしますね」


 三人はそれぞれのカードを差し出した。


 セリスが登録内容を確認する。


「シオンさんとリュナさんのパーティに、ロッテさんを追加します。ロッテさんご自身の冒険者ランクは、現在のランクのままです」


「はい!」


「それでは、登録しますね」


 セリスが手続きを進め、三枚のカードを返した。


「お待たせしました。これで正式に、三人のパーティになりましたよ」


「やった!」


 シオンが声を上げる。


 リュナもロッテへ笑いかけた。


「改めて、よろしくね」


「……はい! よろしくお願いします!」


 ロッテはカードを両手で受け取り、大切そうに胸元へ寄せた。


 シオンは二人を見た。


「よし! じゃあ、次は家だな!」


「……本当に、今日見に行くんですか?」


 ロッテが目を丸くする。


「うん! まだ借りられるか聞いてみよう!」


「まずは三部屋の物件があるか、ね」


 リュナが付け加えた。


 三人はセリスに礼を言い、ギルドをあとにした。


     ◇


 不動産屋の扉を開けると、以前案内してくれた女性が顔を上げた。


「あら、いらっしゃい。先日のお二人ね」


「こんにちは!」


 シオンは元気よく挨拶した。


「今日は、三人で住める家を探しに来ました!」


「三人?」


 女性はロッテへ目を向ける。


「新しいお仲間が増えたのね」


「はい!」


 ロッテはぺこりと頭を下げた。


「ロッテといいます。よろしくお願いします」


「こちらこそ。どんな家をお探しかしら?」


「寝室が三つあって、お風呂付きがいいです!」


 シオンが即答する。


 女性は少し考えてから、棚の奥にある書類を取り出した。


「それなら、ちょうど一軒あるわ。先日ご覧になった家より少し広いの」


「おおっ!」


「寝室が三つ、居間と台所、それにお風呂付き。家賃は月に銀貨十枚。保証金が銀貨十枚で、入居時には合わせて銀貨二十枚ね」


「二十枚……!」


 シオンはリュナを見た。


 昨日と今日の報酬だけでも、銀貨二十枚を超えている。


 以前から持っていたお金もある。


 ただし、家具や食費、次の家賃の分まで考えなければならない。


「……まずは、見せてもらおうか」


 リュナが言う。


「うん!」


 シオンはうなずいた。


「ロッテも、一緒に見て決めよう!」


「……私も、決めていいんですか?」


「もちろん。三人で住むかもしれない家だしな!」


 ロッテは、少し照れたように笑った。


     ◇


 案内された家は、リーベルの住宅街にあった。


 石畳の道に面した、二階建ての小さな家だ。


 女性が鍵を開ける。


「どうぞ、入って」


「お邪魔しまーす!」


 シオンが真っ先に足を踏み入れた。


 玄関の先には、明るい居間があった。


 奥には台所。


 窓からは午後の日差しが差し込んでいる。


「おお……!」


 シオンは部屋を見回した。


「前に見た家より、広いな!」


「三人なら、これくらいあると使いやすいと思うわ」


 女性が説明する。


「寝室は一階に一つ、二階に二つ。家具は付いていないから、必要なものは用意してね」


「はい!」


 三人は順番に部屋を見て回った。


 一階の寝室。


 二階の廊下を挟んで並ぶ、二つの寝室。


 それぞれに窓があり、寝台を置く場所も十分にある。


「……本当に、一人一部屋あるんですね」


 ロッテがつぶやいた。


「そうだな!」


 シオンは笑った。


「ロッテは、どの部屋がいい?」


「えっ、もう選ぶんですか!?」


「気に入った部屋があったら、先に言っていいぞ!」


 ロッテは二階の窓から外を眺めた。


 屋根の向こうに、遠くの街並みが見える。


「……じゃあ、私、この部屋が好きです」


「よし! ロッテはここだな!」


「まだ契約してないわよ」


 リュナが笑う。


「……あっ、そうだった!」


 シオンは頭をかいた。


 最後に、三人は風呂場へ向かった。


 扉を開けたシオンの顔が、ぱっと明るくなる。


「……風呂だ!」


「うん。お風呂ね」


「家に風呂がある!」


「それを見に来たんでしょ」


 リュナは呆れたように言いながらも、口元が緩んでいた。


 ロッテも浴槽をのぞき込む。


「……これ、毎日使えるんですか?」


「水と燃料の用意は必要だけど、好きなときに使えるわよ」


 女性が答える。


「……すごい」


 ロッテは目を輝かせた。


 シオンは二人を振り向く。


「どうだ? この家!」


「私は気に入ったわ」


 リュナが答える。


「ロッテは?」


「……私も、すごく好きです」


 ロッテは少し迷ってから、続けた。


「でも、本当に私も一緒に住んでいいんでしょうか? 今日、パーティに入ったばかりなのに……」


 シオンは首をかしげた。


「一緒に住みたくないなら、無理にとは言わないぞ?」


「い、いえ! そうじゃなくて!」


 ロッテは慌てて首を振った。


「……一緒に住めたら、嬉しいです」


「じゃあ、決まりだな!」


 リュナも笑顔でうなずいた。


「三人で暮らしましょ」


「……はい!」


 ロッテは嬉しそうに笑った。


     ◇


 不動産屋へ戻り、三人は契約の説明を受けた。


 家賃は月に銀貨十枚。


 保証金は銀貨十枚。


 保証金は、退去時に家の状態を確認したうえで返される。


 水や燃料、食費は別に必要だ。


 シオンはリュナと一緒に、現在の所持金と今後の出費を確かめた。


「……入居時に銀貨二十枚を払っても、必要な家具を買うお金と、しばらくの生活費は残せそうね」


「よかった!」


「でも、全部使っちゃ駄目よ」


「わかってるって!」


 リュナはシオンをじっと見た。


「……本当に?」


「……ちゃんと残す!」


 女性は微笑みながら、契約書を差し出した。


「それでは、こちらにお名前をお願いね」


 三人は内容を確認し、順番に名前を記した。


 シオンが銀貨二十枚を支払う。


 女性は硬貨を数え、家の鍵を手渡した。


「はい。これで契約完了よ。今日から入居できるわ」


「……おおっ!」


 シオンは鍵を受け取った。


 小さな金属の鍵が、手のひらの上で光る。


「……俺たちの家だ!」


「そうね」


 リュナが笑う。


 ロッテは、鍵を見つめたまま小さくつぶやいた。


「……私たちの、家」


 その声は、嬉しそうだった。


     ◇


「次は家具だ!」


 シオンの一声で、三人は家具屋へ向かった。


 店内には、寝台や机、椅子、棚が所狭しと並んでいる。


「……うわあ」


 ロッテが目を丸くした。


「こんなにあるんですね」


「まずは寝台が三つ必要だな!」


「寝具もね」


 リュナが言う。


「それから、食卓と椅子。台所で使うものも買わないと」


「よし! 順番に見よう!」


 三人は店内を歩き回った。


 寝台は、飾りの少ない丈夫なものを三台。


 それぞれに敷物と掛け布を用意する。


 食卓は三人で使える大きさのものを選び、椅子も三脚揃えた。


 台所用には鍋や皿、木の匙など、当面必要なものを買う。


 ロッテは、並んだ寝台の前で足を止めた。


「……私、これがいいです」


 指さしたのは、背の低いシンプルな寝台だった。


「おっ、いいな!」


「……自分の部屋に、自分の寝台があるんですね」


 ロッテは、少し不思議そうに笑った。


 シオンは店員に声をかけ、選んだ家具の代金を確認した。


 必要なものに絞ったこともあり、全部で銀貨六枚に収まった。


「よし、これで生活できるな!」


「食べ物はまだよ」


 リュナがすかさず言う。


「……そうだった!」


 家具を《ストレージ》へ収納すると、ロッテはまた目を丸くした。


「……寝台まで入るんですね」


「入ったな!」


「……本当に、すごいです」


 三人は食料品店にも立ち寄り、当面の食材と調味料を買った。


 シオンは支払いのたびに残りのお金を確かめ、リュナにも見せる。


「どうだ?」


「うん。これなら、次の家賃のためのお金も残しておけるわ」


「よかった!」


 買い物を終えた三人は、新しい家へ向かった。


     ◇


「ただいまー!」


 シオンは鍵を開け、勢いよく玄関へ入った。


 リュナが後ろから続く。


「……まだ誰もいないけどね」


「でも、言いたかったんだ!」


「ふふっ。そうね」


 ロッテは玄関で立ち止まった。


 少しだけ迷ってから、小さな声で言う。


「……ただいま、です」


 シオンは振り返った。


「おかえり、ロッテ!」


「……っ」


 ロッテは驚いたように目を見開き、それから笑った。


「……はい!」


 三人はさっそく家具を運び込んだ。


 シオンが《ストレージ》から寝台を一台ずつ取り出し、リュナとロッテが置く位置を決める。


 食卓は居間の中央へ。


 椅子を三脚並べ、台所には鍋や皿を収めた。


 ロッテは自分の部屋に寝台を置くと、その縁へそっと腰を下ろした。


「……私の部屋だ」


 窓から、柔らかな光が差し込んでいる。


 しばらく部屋を眺めていたロッテは、やがて居間へ戻った。


 そこでは、シオンとリュナが食卓に座っていた。


「ロッテ、こっち!」


 シオンが空いている椅子を指さす。


「はい!」


 ロッテが座ると、三脚の椅子がすべて埋まった。


「……三人分、ぴったりだな!」


「そうね」


 リュナが笑う。


 シオンは二人を見回した。


「さて、と」


 その声が、少しだけ真剣になる。


「ロッテに、話しておきたいことがあるんだ」


     ◇


「……話、ですか?」


 ロッテが背筋を伸ばす。


「うん。ギルドじゃ、ほかの人に聞かれるかもしれないからさ」


 シオンは窓と扉が閉まっていることを確かめた。


 リュナもうなずく。


「私も知ってる話よ。ロッテにも、これから一緒に戦う仲間として聞いてほしいの」


「……はい」


 ロッテは真剣な顔になった。


 シオンは、自分が特別なスキルを持っていることを説明した。


 《経験値15倍》。


 《スキルポイント15倍》。


 そして、その効果は一緒に戦う仲間にも及び、仲間はどちらも十倍になること。


「…………」


 ロッテは動かなかった。


 しばらくして、ゆっくりと口を開く。


「……十倍?」


「うん」


「経験値も……スキルポイントも?」


「そう!」


「……じゅ、十倍!?」


 ロッテが椅子から立ち上がった。


 シオンは慌てて手を振る。


「しーっ! 声!」


「……っ!」


 ロッテは両手で口を押さえた。


 リュナが苦笑する。


「驚くわよね。私も最初はそうだったわ」


「……そ、それって……」


 ロッテは声を落とした。


「……今日のオークも、ですか?」


「一緒に戦った仲間には効果があるんだ。ギルドで正式に登録する前でもね」


 シオンが答える。


 ロッテは、はっとしたように自分のギルドカードを取り出した。


「……そういえば」


「どうした?」


「オークを倒したあと、ジョブレベルがすごく上がってたんです。スキルポイントも、見たことがないくらい増えていて……」


 ロッテはカードを見つめる。


「何かの間違いかと思って、何度も確認したんですけど……」


「間違いじゃないよ」


 シオンが笑った。


「俺たちと一緒に戦ったからだな!」


「…………」


 ロッテは、もう一度カードを見た。


 その指先が、少し震えている。


「……こんなに、ポイントがあったら」


 小さな声が漏れた。


 シオンは首をかしげる。


「覚えたいスキルがあるのか?」


「……あります」


 ロッテはうなずいた。


「でも……私の一覧には、出てこないんです」


「一覧に?」


「はい」


 ロッテは、膝の上で拳を握った。


「鍛冶師として頑張っていたころ、ずっと欲しかったスキルがあるんです。でも、何度レベルを上げても、習得できるスキルの中に出てこなくて……」


 リュナが静かに尋ねる。


「それで、鍛冶師を諦めたの?」


「……はい」


 ロッテは視線を落とした。


「ほかの人みたいに、うまく金属を打てなくて。何度やっても、思った形にならなくて……」


 右手を見つめる。


 その手には、鍛冶を続けてきたころの硬いまめが残っていた。


「欲しいスキルさえ覚えられたら、何か変わるかもしれないって思ってたんです。でも、いつまでたっても出てこなくて」


「……そっか」


「だから、鍛冶師は諦めました。力には自信があったから、今度はタンクになろうって」


 ロッテは顔を上げた。


「今日、二人と戦えて、タンクになりたい気持ちはもっと強くなりました。でも……」


 言葉が途切れる。


 シオンは、少し考えた。


 ロッテの習得一覧には、欲しいスキルが出てこない。


 けれど、シオンは以前、リュナの一覧にはなかった《影歩》を《正解選択》で見つけたことがある。


「……なあ、ロッテ」


「はい?」


「もしかしたら、見つけられるかもしれない」


「……え?」


 シオンは、もう一つの秘密を話した。


 ユニークスキル《正解選択》。


 選択に迷ったとき、進むべき道を示してくれること。


 そして、普通の一覧には見えないスキルを示してくれたこともある、と。


「リュナの《影歩》も、そうだったんだ」


「うん。シオンに教えてもらうまでは、私の一覧にはなかったわ」


 リュナがうなずく。


 ロッテは二人を交互に見た。


「……私のスキルも、見つかるんですか?」


「絶対とは言えないけど、試してみよう!」


 シオンは笑った。


「ロッテが鍛冶をもう一度やりたいなら、俺も力になりたいしな!」


「…………」


 ロッテは、ゆっくりとうなずいた。


「……お願いします!」


     ◇


 シオンは目を閉じた。


 ロッテにとって、今、最初に習得するべき鍛冶師のスキルは何か。


 心の中で問いかける。


 すると。


 目の前に、見慣れた文字が浮かび上がった。


【正解選択】


 《鍛造の才》


 シオンは目を開けた。


「……出た!」


「ほ、本当ですか!?」


 ロッテが身を乗り出す。


「《鍛造の才》ってスキルだ!」


「…………え?」


 ロッテの動きが止まった。


 シオンは続ける。


「金属の状態や、打つ強さ、タイミングをつかみやすくなるスキルみたいだな」


「……《鍛造の才》」


 ロッテは、震える声で繰り返した。


「……それです」


「ん?」


「私が……ずっと、欲しかったスキルです……!」


 ロッテは慌てて、自分のスキル一覧を開いた。


 これまで何度見ても、そこにはなかった名前。


 シオンに教えられた名前を、もう一度確かめる。


「……あっ」


 ロッテの目が、大きく見開かれた。


「……あります」


「本当か!?」


「……あります! 《鍛造の才》が、一覧に……!」


 ロッテは顔を上げた。


 目元が、少し潤んでいる。


「……ポイントも、足ります」


 シオンは笑った。


「じゃあ、覚えられるな!」


「……はい!」


 ロッテは、迷わず習得を選んだ。


 その瞬間。


 スキル一覧に、新しい名前が刻まれた。


 《鍛造の才》。


「…………」


 ロッテは、しばらく何も言わなかった。


 やがて、両手でカードを抱きしめる。


「……覚えられた」


 ぽつりと、声が落ちた。


「……私、覚えられました……!」


 シオンとリュナは、顔を見合わせた。


「よかったな、ロッテ!」


「うん。本当によかったね」


「……はい……!」


 ロッテは笑おうとした。


 けれど、目から涙がこぼれた。


「……ずっと、欲しかったんです」


 涙を拭いながら、言葉を続ける。


「何度も失敗して、何度も練習して……それでも、うまくできなくて……」


 ロッテは自分の手を見つめた。


「もう、鍛冶師には向いてないんだって、思ってました」


 シオンは黙って聞いていた。


「でも……もう一度、やってみたいです」


 ロッテは顔を上げる。


「私、もう一度、鍛冶師を目指したいです!」


「おう!」


 シオンは即答した。


「目指そうぜ!」


「……でも、タンクも……」


「そっちも続ければいいじゃないか!」


「……え?」


 シオンは笑った。


「今日のロッテ、すごく頼もしかったぞ。盾で守ってくれて、ハンマーでも戦ってくれた。鍛冶もやりたいなら、両方やればいいと思う!」


 リュナもうなずいた。


「私も、ロッテと一緒に戦いたいわ。それに、自分たちの装備を作れる仲間がいたら、心強いもの」


「…………」


 ロッテは二人を見つめた。


 それから、涙を拭って、満面の笑みを浮かべた。


「……はい!」


 今度の返事は、はっきりしていた。


「私、タンクも鍛冶師も、頑張ります!」


     ◇


 少し落ち着いたところで、ロッテは再びスキル一覧を開いた。


「……あっ!」


「どうした?」


「《金属鑑定》も、《温度感知》も……今のポイントなら覚えられます!」


 ロッテの声が弾む。


「《精密加工》も、もう少しレベルが上がれば……!」


「おおっ!」


 シオンも嬉しくなって、身を乗り出した。


 だが、リュナが二人の間に手を差し入れる。


「待って。今日はまず、《鍛造の才》を覚えたんでしょ?」


「……あっ」


 ロッテが顔を上げる。


「ほかのスキルも、実際に鍛冶をするときに必要なものから選べばいいんじゃない?」


「……そうですね!」


 ロッテはうなずいた。


「まずは、このスキルを使ってみたいです!」


「じゃあ、今度、依頼を休む日に鍛冶場を借りてみようぜ!」


 シオンが言うと、ロッテは目を輝かせた。


「……はい! 自分の盾も、いつか作ってみたいです!」


「それ、楽しみだな!」


「今の盾だって使い込んでるものね。自分で作れたら、もっと愛着が湧きそう」


 リュナの言葉に、ロッテは嬉しそうにうなずいた。


「はい! でも、まずは冒険者として、もっと頑張ります。依頼がお休みの日や、作りたい装備ができたときに鍛冶場を借りられたら、それで十分です!」


「うん。三人で依頼に行って、休む日はしっかり休んで。鍛冶をしたい日には、工房を借りに行こう!」


 シオンがそう言うと、ロッテは満面の笑みを浮かべた。


「……はい!」


 リュナは食卓を見回した。


 椅子が三脚。


 その上には、買ってきたばかりの食器。


 奥の台所には、まだ一度も使っていない鍋が置かれている。


「……鍛冶場を借りるのは、また今度にしましょ」


「ん?」


「今日はまず、この家で初めての夕食を作らないと」


 シオンは、はっとした。


「……そうだった!」


 ロッテが笑う。


「私も手伝います!」


「じゃあ、三人で作ろう!」


 シオンは勢いよく立ち上がった。


 リュナも椅子から腰を上げる。


 三人は並んで台所へ向かった。


 新しい家の中に、食器の触れ合う音が響き始めた。

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