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第12話 二人そろってEランク

 リーベルの冒険者ギルドに戻ると、朝よりも受付の前は空いていた。


「ただいま戻りました!」


 シオンが元気よく声をかけると、受付にいたセリスが顔を上げた。


「あっ、シオンさん、リュナさん。おかえりなさい!」


「依頼、終わりました!」


「お疲れさまです。お怪我はありませんか?」


「二人とも大丈夫です!」


 セリスはほっとしたように笑った。


「それは何よりです。では、討伐の確認を――」


「あっ、その前に聞きたいことがあるんですけど」


「はい。何でしょう?」


「コボルトって、丸ごと持って帰ってきても大丈夫ですか?」


「……丸ごと?」


 セリスの視線が、シオンの背後へ向いた。


 もちろん、そこにコボルトの姿はない。


「《ストレージ》に入れてきました!」


「ああ……そうでしたね」


 セリスは一瞬だけ遠い目をした。


 昨日も、シオンはボアを三体持ち込んでいる。


「それでしたら、買い取り窓口へご案内します。討伐の確認も、そちらで一緒に行いましょう」


「お願いします!」


「……シオン」


 隣から、リュナが小声で呼んだ。


「ん?」


「何体持ってきたか、先に言ったほうがいいんじゃない?」


「あっ、そうか!」


 シオンはセリスへ向き直る。


「十一体です!」


「…………」


 セリスの笑顔が止まった。


「……十一体、ですか?」


「はい! 依頼の五体を倒したあと、近くでもう一つ集団を見つけたので!」


「そちらは六体だったのよ」


 リュナが補足する。


 セリスは二人の顔を交互に見た。


「……少々、お待ちくださいね」


 そう言って、受付の奥へ歩いていった。


「……驚かせちゃったかな」


「そりゃ、驚くでしょ」


 リュナは呆れたように答えた。


     ◇


 案内されたのは、昨日ボアを売ったときと同じ、ギルドの裏手にある作業場だった。


 頑丈な作業台がいくつも並び、壁には解体用の道具が整然と掛けられている。


「おう、また来たのか」


 声をかけてきたのは、昨日の買い取り担当の男性だった。


「こんにちは!」


「今日は何を持ってきた?」


「コボルトです!」


「ほう。討伐依頼か」


 男性は空いている作業台を指さした。


「そこへ出してくれ」


「はい!」


 シオンは作業台に手を向けた。


「《ストレージ》」


 一体目のコボルトが現れる。


 続けて二体目、三体目。


「……おい、ちょっと待て」


「はい?」


「まだあるのか?」


「あります!」


 シオンは別の作業台にもコボルトを出した。


 四体、五体、六体。


 男性は腕を組み、無言になった。


 七体、八体、九体。


「……お前、何体倒してきたんだ?」


「十一体です!」


 十体目と十一体目が現れた。


 作業台の上には、コボルトがずらりと並んでいる。


「…………」


 男性は、しばらく何も言わなかった。


 やがて、大きく息を吐く。


「昨日はボア三体で、今日はコボルト十一体か……」


「はい!」


「元気に返事すりゃいいってもんじゃねえぞ」


「えっ?」


 リュナが横で吹き出した。


 男性は苦笑しながら、一体ずつ状態を確認し始めた。


「……ふむ。こいつは雷か。こっちは刃物で、こっちは氷……。どれも状態は悪くねえな」


「よかった!」


「それで、聞きたいことがあるんです」


 シオンは作業台をのぞき込んだ。


「コボルトって、どこが素材になるんですか?」


「牙と爪、それから毛皮だな」


「おおっ、三種類も!」


「ただし、どれも状態次第だ。傷んでいれば値は下がるし、使える部分が少なけりゃ、その分安くなる」


 男性はコボルトの一体を指さした。


「お前らの持ってきたやつは、丸ごと残ってる。こっちで使える部分を見られるから助かるぜ」


「《ストレージ》、便利だなあ!」


「便利なんてもんじゃねえよ」


 男性は呆れたように笑った。


 そこで、シオンはもう一つ気になっていたことを思い出した。


「そういえば、肉は食べられるんですか?」


「肉?」


「ボアは肉も売れたじゃないですか。コボルトも食べるのかなって」


 男性は首を横に振った。


「コボルトの肉は、うちじゃ食用として扱わねえな。買い取りの対象にもしてない」


「そうなんですね」


「ボアみたいに肉を目当てに狩る魔物じゃねえんだ。コボルトは牙、爪、毛皮が中心だな」


「なるほど!」


 シオンは納得してうなずいた。


 同じ魔物でも、売れるものは違うらしい。


「じゃあ、十一体分、査定をお願いできますか?」


「おう。討伐数の確認も済ませるから、少し待ってな」


「お願いします!」


     ◇


 査定を待つ間、シオンとリュナは作業場の端にある長椅子へ座った。


「十一体も並ぶと、結構な数だったなあ」


「……倒した本人が今さら言う?」


「《ストレージ》に入れると、場所を取らないからさ」


「そういう問題じゃないと思うけど」


 リュナは笑いながら、膝の上で指を組んだ。


 コボルトとの二度の戦闘。


 シオンの魔法は強力だったし、自分も《影歩》を使って、今までとは違う動きができた。


 何より、レベルとスキルポイントが一気に増えた。


 まだ、どこか現実味がない。


「……ねえ、シオン」


「ん?」


「帰ったら、次に覚えるスキルの相談、してもいい?」


「もちろん!」


「……今度は、あんたの意見も聞くからね」


「おう! ちゃんと考える!」


 シオンは力強くうなずいた。


 リュナはその様子を見て、小さく笑った。


 しばらくすると、買い取り担当の男性が戻ってきた。


「待たせたな。確認が終わったぞ」


「おおっ!」


「十一体とも、討伐の確認は問題なし。素材の状態も含めて、買い取り額は――」


 男性は書類を差し出した。


「銀貨五枚と銅貨五枚だ」


「おおおっ!」


 シオンは思わず立ち上がった。


「リュナ! 銀貨五枚だって!」


「聞こえてるわよ」


 リュナも驚いた顔で書類を見つめていた。


 コボルトを十一体も持ち帰ったとはいえ、まとまった金額だ。


「……家の資金、結構増えるわね」


「だよな!」


 男性は二人のやり取りを聞き、首をかしげた。


「家?」


「あっ、俺たち、家を借りようと思ってるんです!」


「ほう。そりゃ、頑張りがいがあるな」


「はい!」


「ただし、稼げるからって無茶はするなよ。素材を持ち帰れても、お前らが帰ってこなきゃ意味がねえ」


「……はい。気をつけます」


 シオンが答えると、男性は満足そうにうなずいた。


「よし。じゃあ、買い取り代金は受付で依頼報酬と一緒に受け取ってくれ」


「ありがとうございました!」


     ◇


 受付へ戻ると、セリスが二人を待っていた。


「お待たせしました。討伐の確認が取れましたよ」


「はい!」


「依頼の五体に加えて、追加で六体。合計十一体ですね」


 セリスは書類に目を通し、二人のギルドカードを取り出した。


「まず、こちらが今回の討伐依頼の報酬です。銀貨四枚になります」


「銀貨四枚!」


「それから、買い取り代金が銀貨五枚と銅貨五枚です」


 セリスは硬貨を数え、二人の前へ置いた。


「合わせて、銀貨九枚と銅貨五枚ですね」


「……九枚と五枚」


 シオンは硬貨を見つめた。


 昨日の夕食で話した、家を借りるという目標。


 まだ必要な金額すら、詳しく調べていない。


 けれど、これだけまとまったお金を受け取ると、急に現実味が増してきた。


「リュナ! 家、探せそうじゃないか!?」


「まだ気が早いわよ。最初にいくら必要か、ちゃんと調べてから」


「そうだった!」


 セリスが、くすりと笑った。


「お二人で住む家をお探しなんですね」


「はい!」


「それなら、街の貸家を扱っているお店をご案内できますよ。ご予算が決まったら、相談してみるといいと思います」


「本当ですか!?」


「はい。……それと、今日はもう一つ、お伝えすることがあります」


 セリスは二枚のギルドカードを並べた。


 その表情が、少し改まる。


「シオンさん、リュナさん。今回の討伐実績を確認した結果、お二人ともEランクへの昇格が認められました」


「…………え?」


 シオンが固まった。


 リュナも目を見開く。


「……私も?」


「はい。お二人ともです」


 セリスは笑顔でうなずいた。


「依頼を達成したうえで、追加の六体も討伐されています。パーティとしての実績も確認できましたので、今回の昇格となりました」


「……Eランク」


 リュナは、ぽつりとつぶやいた。


 シオンは一拍遅れて、勢いよく両手を上げた。


「やったあああっ!」


「シ、シオン! 声が大きい!」


「あっ、ごめん!」


 周囲の冒険者たちが、ちらりとこちらを見る。


 シオンは慌てて手を下ろしたが、顔の笑みは消えなかった。


「リュナ! 二人そろってEランクだって!」


「……うん」


「すごいな!」


「……そうね」


 リュナは受け取ったカードを見つめた。


 そこには、確かに新しいランクが記されている。


 昨日、シオンとパーティを組んだばかりだ。


 それなのに、もう一緒に昇格している。


「……こんなに早く、上がれるなんて」


「リュナが一緒に戦ってくれたからだよ!」


「……あんたの魔法も、相当だったけどね」


「二人で頑張ったってことだな!」


 シオンが笑う。


 リュナも、ゆっくりとうなずいた。


「……うん。二人でね」


     ◇


「Eランクになると、受けられる依頼も増えるんですよね?」


 シオンが尋ねると、セリスはうなずいた。


「はい。討伐依頼の選択肢も広がります。ただし、Eランクの依頼なら何でも安全というわけではありませんから、内容はよく確認してくださいね」


「もちろんです!」


「……私も、ちゃんと確認します」


 リュナが答えると、セリスは安心したように微笑んだ。


「それでしたら、次にいらしたとき、お二人に合いそうな依頼を一緒に探しましょう」


「お願いします!」


 シオンはカードを大切そうに握った。


 FランクからEランクへ。


 ほんの一文字変わっただけなのに、できることが増えた気がする。


 そして、今日受け取った報酬もある。


「……なあ、リュナ」


「何?」


「家を借りるのに、最初にいくら必要か聞きに行かない?」


「……そうね。今なら、具体的に考えられそうだし」


「よし!」


 シオンはセリスへ向き直った。


「貸家を扱ってるお店、教えてもらってもいいですか?」


「もちろんです」


 セリスは紙を一枚取り出し、場所を書き留めた。


「こちらです。大通りから少し入ったところにありますよ」


「ありがとうございます!」


 二人はセリスに礼を言い、ギルドを出た。


     ◇


 通りへ出ると、午後の日差しが石畳を照らしていた。


 シオンはセリスから受け取った紙を広げる。


「ええと、大通りを進んで……」


「その角を曲がるみたいね」


「おお、助かる!」


 リュナは隣を歩きながら、もう一度ギルドカードを取り出した。


 Eランク。


 見間違いではない。


「……ねえ、シオン」


「ん?」


「私、今日のこと、まだちょっと信じられない」


「レベルが上がったこと?」


「それも。新しいスキルを覚えたことも、Eランクになったことも」


 リュナはカードをしまった。


「昨日まで、こんなふうになるなんて思ってなかったから」


 シオンは少し考え、それから笑った。


「俺も、昨日は家を借りようなんて考えてなかったぞ!」


「……それは、あんたが急に言い出したんでしょ」


「ははっ、そうだった!」


 リュナもつられて笑った。


 二人は大通りを曲がり、貸家を扱う店へ向かう。


 まずは、どんな家があるのか。


 いくらあれば借りられるのか。


 それを知るところからだ。


「よーし、いい家があるといいな!」


「……見るだけだからね。今日すぐ決めないわよ」


「わかってるって!」


 そう答えたシオンは、もう店の看板を探し始めていた。

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