表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「泥臭い辺境令嬢はいらない」と婚約破棄されましたが、前世は町工場社長なので“止まらない魔導炉”で廃工房を王国一にします  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/40

第23話 採用試験の日

王国北方救援装備の採用試験の幕が、ついに切って落とされた。


 王都魔導商会連合によって不当に平坦路へと変更されたコースと、圧倒的な性能を誇る敵の新型機。


 極めて不利な条件を突きつけられた中で、辺境の泥臭い輸送橇は走り出さなければならなかった。



 北方司令部の演習場に、二つの機体が並び立つ。


 一つは、グロウ商会が誇る純白の新型雪上魔導車《白鷲》。


 もう一つは、ヴォルクハルト工房が作り上げた、鉄と革の無骨な真っ黒い塊、《雪燕》だ。



「両機、前へ!」



 試験官の合図と共に、《白鷲》が甲高い駆動音を響かせた。


 機体の下部に仕込まれた高純度魔石が青白い光を放ち、反重力のルーンが巨体を雪面からわずかに浮かせる。


 そのまま後部の大型魔導駆動輪が圧雪された平坦なコースを蹴り出し、《白鷲》は瞬く間に猛烈な速度で前方の雪原へと飛び出していった。



 観覧席の暖かな天幕から、貴族たちのどよめきと割れんばかりの拍手が沸き起こる。


 広告塔であるレティシアは満足げに微笑み、セドリックは隣で勝ち誇ったように胸を反らしていた。



 一方の《雪燕》は、重苦しい音を立ててゆっくりと滑り出した。


 ガガッ、ガガガッ。


 二基直列で配置された《常火》が、辺境の濁り石を燃やして動力を生み出し、鉄の滑走板が雪を押し潰しながら進んでいく。


 その速度は、《白鷲》に比べればあまりにも遅く、這うような鈍重さだった。



「なんだあの遅さは。歩いた方が早いのではないか?」


「農具に毛が生えたようなガラクタめ。王都の試験を舐めているのか」



 貴族たちから、あからさまな嘲笑の言葉が投げかけられる。


 だが、天幕の端に立つ王国調達監査官エルネストだけは、冷徹な灰色の瞳でストップウォッチを見つめ、一切の嘲笑に加わることなく手元の記録帳にペンを走らせていた。



 嘲笑を背に受けながら、《雪燕》の操縦席では、片脚の配達少年ノアがしっかりと操縦桿を握りしめていた。


 その後方で、リナリアが二基の炉の圧力計を睨み、記録係のミラが必死に揺れに耐えながら数値を書き留めている。



「ノア、焦らないで。速度は時速十五エルのまま、絶対に一定を保って」



「了解です、親方! あんな速そうな車、どうせすぐにバテますよ!」



 ノアの言葉通り、試験のコースは中盤から大きくその姿を変えようとしていた。


 朝から空を覆っていた鉛色の雲が、ついに本格的な吹雪を降らせ始めたのだ。


 吹き荒れる風が、王都の人間が整えた圧雪路の上に、あっという間に深い新雪の層を築き上げていく。


 北方の冬が、その真の牙を剥いた瞬間だった。



 先行していた《白鷲》の操縦士は、深くなる雪に焦りを感じていた。


 車体を浮かせるための反重力機構は、降り積もる雪の抵抗を受けて著しく魔力効率を落としている。


 無理に速度を保とうと魔力を最大出力で流し込んだ結果、極低温の環境下で酷使された高純度魔石が、限界の悲鳴を上げた。



 純度の高い魔力は、少しでも流れが淀むと繊細な制御弁に詰まりを引き起こす。


 王都式の過剰な安全装置が、その魔力の詰まりを異常事態として検知した。



 バチンッ!



 鈍い破裂音と共に、《白鷲》の青白い光が完全に消失した。


 雪を蹴っていた車輪が動きを止め、機体が深雪の中にズブズブと沈み込む。


 王都の技術の結晶は、ただの冷たい鉄の棺桶と化し、雪原の真ん中で完全に停止した。



 それからしばらくして。


 猛烈な吹雪の中から、重々しい駆動音を響かせて黒い影が近づいてきた。


《雪燕》だ。



 深い新雪も、吹き荒れる暴風も、この無骨な橇には関係なかった。


 ガスパルが滑走板に刻み込んだ深い溝が、確実に雪を噛んで進路を安定させる。


 どんなに冷え込もうと、《常火》の心臓部に組み込まれた戻し輪が、濁り石の不安定な波を安全に循環させ続ける。


 速くはない。だが、その足取りは決して止まることがなかった。



 エッダが縫い上げた分厚い防寒覆いの中で、リナリアは窓の外を見た。


 そこには、雪に埋もれて動けなくなった《白鷲》の無惨な姿があった。


 操縦士が外に出て、凍えながら必死に魔石を交換しようとしているが、専用の部品と温暖な環境がなければ、王都の高級品は現場では直せない。



 どんなに美しくても。どんなに高出力でも。


 雪山の極限環境で動き続けられないのなら、それは輸送機としての要件を満たしていない。



「現場で動かない魔導具に、価値はありません」



 リナリアは静かに呟き、停止した王都の象徴を横目に、ただ真っ直ぐに前を見据えた。


《雪燕》は、そのまま一定の速度で《白鷲》を抜き去り、吹雪の向こうへと進み続けた。



 その頃、スタート地点である北方司令部の天幕では、異変が起きていた。


 望遠鏡でコースの先を監視していた将校たちが、慌ただしく声を上げ始めたのだ。



「《白鷲》の魔力反応が消失! コース中盤の深雪地帯で完全に停止しています!」



 その報告に、貴族たちは水を打ったように静まり返り、バルテスは持っていたワイングラスを床に取り落とした。



「馬鹿な……! 王都の最新鋭機だぞ!」



 セドリックが顔を青ざめさせて叫ぶ。


 その横で、エルネストだけが淡々と記録帳にペンを走らせていた。


『グロウ商会製・白鷲。環境要因による魔力詰まりで完全停止。ヴォルクハルト工房製・雪燕。現在も継続稼働中』。


 敵の高級品の致命的な欠陥が、監査官の公的な記録として刻まれた瞬間だった。



 だが、採用試験の勝敗によるざわめきを切り裂くように、天幕の入り口が乱暴に開け放たれた。


 全身を雪まみれにした地元の猟師が、転がり込むようにして飛び込んできたのだ。



「助けてくれ! 試験場近くの村で、急病人が出たんだ!」



 猟師は凍りついた息を吐きながら、将校たちにすがりついた。



「子供が高熱を出して痙攣している! 司令部にある特効薬を今すぐ届けてくれ! ……だが、猛吹雪で馬も出せず、道は完全に塞がっちまってる!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ