第6話:飽きたのに周回は苦行
20時に更新します。
「……よし」
俺は端末を閉じる。
知りたいことは調べ終わった。
魔石化病の専門病院。
正式名称は長ったらしいので忘れた。
全国から魔石化病の患者を集めて、治療法を研究している施設。
現在の患者の人数は100人程。
そして当然。
全員が治療待ち。
「まぁ、エリクサー以外に治せないからな」
この世界では割と有名な病気だ。
ゲームでなら、“可哀想な設定”くらいの扱いだったけど。
現実で起きてると思うと、かなり重い。
「………」
自室の椅子に深く座り、天井を見る。
助けたい。
その気持ち自体は本当だ。
でも。
やっぱり神代にエリクサーを直接渡すことはためらわれる。
好感度とか。
システムとか。
そういうの抜きでも。
神代レイナとして、生きていてほしい。
今の無理したような神代を見てしまうと、そう思う。
エリクサーのためだけに生きててほしくはない。
いうなれば。
――ゲームと同じように生きててほしいけども。
――ゲームには縛られててほしくはない。
……いや、我ながら面倒臭すぎだな、これ。
「でもまぁ、そういう性格だから仕方ない。三つ子の魂百まで、ってな」
あと、80年ぐらいは変わらない計算だ。
もうこの性格に一生付き合ってくしかない。
俺は小さく息を吐く。
そして。
「神代に直接は渡さない。だけど、妹は治す」
結論は出ていた。
神代を介さず、妹を治す。
ついでに他の患者も全員治しておく。
そうすれば。
なんか、あのー、奇跡とか?
ダンジョンの謎現象のおかげとか?
……なんか、そういう感じになる、だろ?
ダンジョンがある世界なんだから、そういうこともある、はず。
「うん、完璧すぎる。意外とこういう才能があるのかもしれない」
いや本当に。
これかなり良くないか?
神代の好感度は上げない。
でも神代の妹は助けられる。
みんなもハッピー。
しかも。
「……なんかこの、人知れず世界の裏で人々を救う感じ、カッコよくね?」
ちょっとテンション上がってきた。
いや実際。
一応やること自体は、かなりそれっぽいんだけどな。
◇
準備は簡単だった。
まず装備。
ドロップ率上昇武器。
ドロップ率上昇防具。
ドロップ率上昇アクセサリー。
この装備はもう手に入れてある。
次にスキル構成。
ドロップ率を上げるバフ。
ステータスの幸運を上げるパッシブスキル。
そして最後にアイテム。
ドロップ率を上げるアイテムを持てる分だけ持っておく。
ついでに、長丁場になる予定なので、幸運値上昇するバフ飯を用意しておこう。
「久々だな、このドロップマシマシ構成」
高レアドロップ狙い構成。
装備自体は強い訳ではないので、普通なら命懸けの深層探索にはなるだろう。
だが。
「まぁ、もう俺には雑魚だし」
俺は高額な転移アイテムを使い、ダンジョンの深層へと移動した。
◇
ダンジョン150階層。
現在、この世界では到達者が存在してない深層。
空気そのものが重い。
そこらを漂っている紫色の霧は、猛毒。
普通の探索者なら、侵入しただけで死ぬ。
だが。
「久々だなぁ」
俺は普通に歩く。
セットしているパッシブスキルで無効化しているのだ。
既にアイテムやバフ飯も食べていた。
そして少し歩くと前方に、巨大な蛇型モンスターが現れた。
深層モンスター、ヒュージバジリスク。
普通なら国家災害級のモンスター。
地上に出たなら、小国ならば滅ぼされてしまうだろう。
だが。
「一匹目」
一閃。
それだけで終わる。
ヒュージバジリスクが崩れ落ちる。
赤い瓶が地面へ転がった。
エリクサー。
「お、幸先いいな。よし、次」
拾ってアイテムボックスに入れたら、すぐ次のモンスターを探す。
二匹目。
エリクサー。
三匹目。
外れ。
四匹目。
エリクサー
俺は思わずダンジョンの天井を見上げた。
……無心になろう。
いや、昔はこんな作業でも楽しかったのに。
レアドロップが出たら喜びで叫んでたし。
今は。
「あ、出た」
としか思えない。
「……はぁ~」
思わずため息が出た。
エリクサーだぞ?
価値もあるからもっと喜んでいいはずなのに。
「……終わってるなぁ、俺」
そんな感じで、俺は淡々と周回を始めた。
◇
二日後。
「……終わったぁ」
アイテム欄を確認する。
アイテムの表示欄には個数も記載されている。
病院の患者全員を治しても、少し余る数がエリクサーの個数のところに表示されていた。
必要数は100本。
現在――103本。
まぁ、多少増えても大丈夫だろ。
ちなみに。
現在確認されているエリクサーの一年での流通数は、世界全体でも10本未満だったはずだ。
「まぁ、こっちは誰よりも深層を探索してるし、ドロップ率上昇フル装備で挑んでるしな」
このドロップ率上昇装備は、ダンジョンの隠し階層で手に入れていた。
入手はかなりの難易度なのだが、ダンプロのヘビーユーザーだった俺に関係ない。
「いやぁ、それにしても……」
ストレッチをしながら息を吐く。
二日間。
ずーっと同じことの繰り返しだった。
モンスターを探して。
倒して。
拾う。
また探して。
倒して。
拾う。
「………」
ゲームだった頃は、もっと楽しめていたんだが。
でも今は。
「あー、やっぱダンジョン飽きたわぁ……」
強敵にも。
レベル上げにも。
レアドロップにも。
もう心が動かない。
この二日間、出来るだけ心を無にして周回を行っていた。
いや、今回は患者全員のエリクサーを手に入れるという目標があっただけ、まだマシだったかもしれない。
それがなければ、30分くらいで投げ出していただろう。
「うん、やっぱりもうダンジョンはお腹いっぱい! 早く帰ろう」
俺は転移結晶を取り出して、ダンジョンを脱出した。
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