第3話:俺、何かやっちゃってました
20時に更新します。
ホームルームは、妙な空気のまま進んだ。
担任は俺の顔色を窺っているし、クラスメイトは基本こちらを極力見ないようにしている。
たまに視線が合ったと思ったら、ビクッと肩を震わせて逸らされる。
九条なんて殺意のこもった視線をぶつけてくるし、九条以外にもそんな風に見てくるキャラもいた。
なんなんだ本当に。
あと神代。
「ユウマ様、今まで授業内容はまとめた私のノート見ますか? あ、肩揉みますか!?」
「……いや、ホントやめて」
ぐいぐいくる。
こんなの絶対ゲームになかったぞ。
「………」
ちらりと神代を見る。
ゲームの立ち絵そのままでもあった。
……なのに、中身が全然違う。
男相手だと、割と塩対応だったはずなんだけど。
ただ笑顔ではあるけども、どこか嘘くさいんだよなぁ。
目が笑ってないってやつ?
じーっと見ていたら、神代が嬉しそうに顔を綻ばせた。
いや、少し顔が引きつっている?
「なんですか? そんなに見つめて」
「いや……」
「ふふっ、そんなにボクが魅力的でしたか?」
「違います」
思わず即答してしまった。
すると神代が露骨にショックを受けた。
……いやどこか焦った感じになる。
「そ、そんな即答しなくても。なにか、粗相しましたか!?」
「いや、別にそこまでではないですけども……なんか怖いんですよ、神代さん」
「えぇっ!? ご、ごめんなさい、気に障ったならすぐに直します!」
「い、いや、別にそこまででもないんですけど……」
なんか、彼氏に捨てられないように必死になってる女性みたくなってるじゃん!
ストーリー部分については、ほとんど覚えてないけど、こんなことはなかったはずだぞ?
「「「……」」」
さっきからずっと俺に話しかけてくるが、ホームルーム中だぞ?
俺たちを無視してホームルームが進行しているようだが、俺は謝罪を込めて担任に向けて頭を下げた。
担任はそれを見てなぜか、ビクッと身を震わせた。
「よ、よーし、ホームルームはこれで終わりだ! 今日もよろしく、それじゃ失礼する!」
担任はホームルームを途中で切り上げて、教室を出て行ってしまった。
えぇ、俺がホームルームを強制的に終わらせたみたくなってるじゃん。
ただの謝罪だったのに。
だが、もう今の空気にうんざりしていたので、好都合でもある。
俺は意を決して、神代に問いかける。
「……神代さん!」
「は、はい!」
「なんでそんな俺に構うんですか? 俺が何かした?」
その瞬間。
神代の噓くさい笑顔が、ぴたりと止まった。
「……」
え、もしかして俺、本当になにかやっていたのか?
……いやでも、こんなにキャラが崩壊していたら誰だって聞くだろ。
すると神代は、数秒ほど視線を泳がせる。
「そ、それは……」
神代が詰まる。
周りの様子をキョロキョロしながら見ている。
いや本当にどういうことだ。
(――あ、まさか)
ふと思う。
好感度。
ゲームでは確かに存在したシステムだ。
ダンジョンを一緒に攻略。
好感度上昇アイテムの譲渡。
会話での選択肢。
それによってキャラ同士の好感度が変動する。
だが。
「……いや、それは違うか」
俺は小さく呟いた。
俺は誰の好感度も上げるようなことはしていない。
一緒にダンジョンを攻略したことも、
アイテムをあげたことも、
キャラとの会話も、
この世界では好感度を上げる行為をしなかった。
もちろん、ゲーム時代には一度は攻略した。
だが、その後はずっとダンジョン攻略ばかりだ。
キャラ攻略は正直面倒だったし、
――ダンジョン攻略には関係がなかったから。
「?」
俺の視線を受けて神代が不思議そうな顔をする。
現実になって見えなくなっているようだが、俺は気になって仕方なかった。
相手の好感度。
――だって、
「……ユウマ様?」
俺が考え込んでいたら、神代が不安そうに俺の顔を覗き込んできた。
近い近い近い。
いきなり距離を詰められ、思わずのけぞった。
「ごめん、なんでもないです。あと、離れてくれ!」
「そ、そうですか、ごめんなさい!」
「あ、いや、こっちもすいません」
「……」
神代が妙にしゅんとした。
なんだこれ、俺悪いことしたか?
いや、してないよな。
たぶん。
結局、理由を教えてくれそうにないし。
そんな微妙な空気を断ち切るように俺は席を立った。
ここはとりあえず仕切りなおそう。
神代がすぐに反応する。
「どうしたんですか? 一時限目はこの教室ですよ?」
「いや、トイレ」
「……ついていきます!」
「いや、なんでだよ!?」
神代が顔を赤くしながらも、トイレについてくる宣言をした。
いや、マジでなんでだ!?
男装が似合いそうだけども、れっきとした女子だろ!?
教室からはピシッと音が鳴った気がする。
静かだけど、どえらい空気になってますやん。
「いやいや! 男女で一緒にトイレ行くとか、聞いたことないぞ!? ついてくるなよ!」
「ですが、またいなくなりそうですし、心配です!」
「なんの心配!? いやもうなんなんだよ!」
俺は思わずですます調を忘れて話してしまう。
他人と話すときはですます調と決めていたのだが、それがあまりの衝撃で崩れてしまった。
――正直、ずっと神代が無理をしているのはわかっている。
顔が笑ってても目が笑っていないし、俺を触る手が微かに震えてもいた。
うーん、元々気を落ち着かせたくてトイレの個室に行こうとしただけなので、別に尿意があるわけではない。
……ここまで来たら多少強引でも、神代が理由を聞き出した方がいいかもしれない。
これ以上、ゲームキャラの変な行動を見てられない。
「あーもう! ちょっとついてこい!」
「え、え!? ト、トイレにですか!?」
「ちっげーわ! ちょっと屋上で話を聞かせてもらうぞ!?」
「こ、告白!?」
「だから、違うって!」
もう、ですます調を使わない。
神代と仲が良くなったとか、そういうのではなく、ただただめんどくさくなった。
どうせもう、大多数から変に思われているんだ。
行儀良くしゃべるのはやめる。
盛大に勘違いしながらも、神代を屋上まで連れていくことにする。
理由を聞いたときに周りを気にしていたので、誰もいなければ理由を喋るかもしれない。
俺が教室を出ていこうとすると、教室の空気が少しだけ緩むのがわかる。
皆、明らかに安心した顔をしている。
逆に、何人かは神代に対して同情した視線を投げてもいた。
何か生贄になってしまったものを憐れむかのように。
……だからなんなんだよ、本当に。
そしてそんな居心地の悪い教室から出ていくと、屋上に向かって階段を昇る。
すると、神代が。
「あの~、屋上って立ち入り禁止でいつも鍵がかかってませんか?」
「そこは大丈夫。俺、合鍵持ってるし」
「え、なんで合鍵もってるんですか!?」
「あー……まぁ、別にそこはいいじゃん?」
神代の疑問に曖昧に返しながら、屋上の扉を持っている鍵で開ける。
屋上はフェンスで囲まれていてベンチなども置いてあった。
立ち入り禁止の場所なので、当たり前だが誰もいない。
俺は屋上へ出た後、神代の方を振り返った。
神代は二人きりになっていることに緊張しているのか、視線を向けただけで、身が強張った。
……別に変なことするつもりはないんだけど。
とりあえず、細かいことは無視して直球で尋ねてみた。
「あのさ、神代、お前今日ずっとおかしいよね? 俺と喋ったことないのに、なんでそんなに関わってくるの? ここは周りもいないし、理由を教えてくれない?」
「え、い、いやでも……」
ここまで言っても神代は言い渋る。
「いや、理由がわからないと、俺としてはちょっと怖いんだよ。……分からなさ過ぎて、さっきからハニートラップを警戒しているし」
ゲームではそんな事なかったはずだが、どこかのスパイにでもなったのかと思っていた。
実はさっきから、防御スキルの準備だけはしている。
俺の言葉に表情を青ざめた神代が、しばらく迷った後、覚悟を決めたように口を開く。
「あ、あの、難しいのはわかっています!
ですが、ボクに――エリクサーをください!」
神代のその言葉で、ようやく一つのサブクエを思い出した。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、★評価やフォロー、感想などをいただけると執筆の励みになります。




