第2話:知らないのは俺だけ
20時に更新します。
「さ、ユウマ様。席へ行きましょう!」
「……いや、お前」
「はい、なんですか?」
「誰?」
――俺が知っているゲームキャラが知らないキャラになっている。
俺の言葉に神代レイナの表情が固まった。
……いや、知ってはいるのだ!
キャラの性能と性格くらいは覚えている。
でも、こんなのは知らん!
神代レイナって、こんなキャラじゃなかっただろ。
もっとこう、女子キャラには優しいイケメン女子ではあるが、男キャラには少しだけ辛辣なキャラだったはずだ。
それこそ男には、
『まったく、君というやつは。 そんなんじゃ、ボクには勝てないよ?』
とか、
『はぁ、これだからは男は嫌いなんだ』
みたいな感じだったはずだ。
こんな、いきなり男に抱きつく様なタイプじゃない。
なのに。
「もう、忘れたんですか? 神代レイナですよ! 気軽にレイナ、って呼んでください! ユウマ様の体って逞しいですね! とっても雄々しいです!」
めちゃくちゃ男である俺に媚びてくるやないかい!
抱き着いて腹に柔らかい感触を当ててきてるし、とってつけたようなお世辞を言ってくる。
黒峰ユウマは標準体形やぞ。
なんなんだこれ。
バグか?
……いや、ゲームが現実になった時点でバグみたいなもんだけど。
「……神代さん、離れてください」
「嫌です!」
「え、なんで!?」
「だって、ユウマ様がまた急にいなくなりそうですから。あと、レイナ、です」
「……」
意味が分からん。
俺、コイツとそんな仲良かったか?
いや、そんなはずない。
そこは断言できる。
そもそも俺はほぼダンジョンに籠ってたし、クラスメイトと話した記憶なんてほとんどない。
そんな“好感度”が上がるようなことなんて一切していない。
「……」
全員、こっち見てた。
なんかもう、見てはいけないものを見てる感じの顔してる。
特に女子。
……いや、なんか違うな。
嫉妬とかじゃない。
もっとこう。
気まずいというか、痛々しいものを見るような顔だ。
なんで?
「神代さんが……」
「なんであんな黒峰に……」
「……かわいそう」
「……あんなの、洗脳だよ」
聞きたくなくても俺の高いステータスのせいで、ひそひそ声が聞こえてしまう。
洗脳なんて魔法このゲーム世界にないわ!
……ないよな?
「今日、ユウマ様の隣はいないようなのでボクが座りますよ。一緒に授業を受けましょう!」
神代はそう言いながら、体に抱き着くのはやめてくれたが、腕に抱き着いて席へと促してきた。
いや、離れてぇ。
正直、振りほどくことも可能だが、女子に暴力振るうのはためらわれた。
……JK界隈では冤罪があるので、怖いのだ。
「……あの、神代さん。今日なんか変じゃないですか?」
「そうですか? あと、レイナです!」
「いや変だって!」
「ボクはいつも通りですよ?」
絶対に違う。
なんなんだ本当に、俺が何か忘れているのか?
そんなことを考えていると。
「く、黒峰!?」
教室の入り口から、驚いたような声が飛んできた。
担任だった。
名前は……なんだっけ?
ゲームでは名前が出てなかったし、学園にも来てなかったしわからん。
まぁいいや。
中年で赤ジャージを着ている男。
多分、熱血教師。
去年の試験の時には、俺を不正扱いした側の一人だった。
「お久しぶりです」
「お、お久しぶり、ですねぇ……」
顔が盛大に引き攣っている。
なんか妙に低姿勢だし。
というか、なんで敬語?
「……なんですか、その反応?」
「い、いやいやいや!? 何もない、ですよ!? 黒峰様に思うことなど何もありませんよ!」
めちゃくちゃあるやないかい!
なんかビビってるし、こっちにも様付けだし。
……いやまぁ、試験の模擬戦では俺が倒したからだろうけども。
ただ、ダンジョンがある世界にしては軟弱じゃないか?
熱血教師の見た目にあるまじき低姿勢だぞ?
「そ、それじゃあホームルーム始めるから、みんな席についてくださーい!」
担任が慌てたように教壇に立つ。
俺もその言葉で席に着く。
神代も俺の隣にしれっと座ってきている。
でも、腕だけは離してくれたので俺はホッとする。
……マジで助かった。いやマジで。
さっきから、エロい方のドキドキと社会的に殺される恐怖のドキドキのせいで、嫌な汗が止まらなかったのだ。
JKは男を簡単に抹殺できる存在なんだと、ちゃんと自覚して生きてほしい。
いや本当に何だったんだ。
すると。
ホームルームが始まっても、クラスメイトが半分もいないことに改めて気づく。
「やっぱり人数少ないなぁ」
教室を見回しながら、思わず口に出してしまった。
本当に少ない。
三十人クラスだったはずなのに、今いるのは十人くらいだ。
ゲームでは操作しているキャラやパーティーメンバー以外は、授業をちゃんと受けている設定なのだが。
やっぱり、ゲームが現実になるとプレイヤーが介入しなくても勝手に動くのかなぁ。
「「「……」」」
俺の言葉で教室の空気が重くなった。
心なしか敵意も増えた気がする。
なんだ、なんかまずいこと言ったか?
すると。
「……そのことについては、あとで話しますよ」
神代が、さっきまでの媚びた声とは違う、低く沈んだ声で言った。
その瞬間。なんとなくだが。
俺の知らないところで、何かが起きている。いや、起きていた?
――そんな、嫌な予感が過った。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、★評価やフォロー、感想などをいただけると執筆の励みになります。




