第20話:敗北者じゃけぇ
20時に更新します。
影山はなすすべもなく、床を転がっていった。
俺の拳をまともに受けたのだ。
当然である。
でも、HP1で済んでいるんだから、手加減スキル様様である。
そんなことを思っていると。
「この、クソがっ!!」
怒鳴り声が響いた。
ボスだった。
床に転がったまま、俺ではなく影山を睨みつけている。
「余計な奴を連れてきやがって!」
「っ……」
「使えるかと思って入れてやったのによぉ、恩を仇で返しやがって!」
影山が俯く。
結果だけ見れば、影山は敵を連れてきた張本人だ。
ボスとしては疫病神であろう。
正直、犯罪なんかするなよ、って言いたいけどもそんな感じでもない。
いや。
ボスに関しては、ゲームで犯罪者組織の幹部として登場してたから、ゲームの被害者ともいえるのかもしれない。
あーでも、犯罪者組織が潰れたのに、また結成してるしなぁ。
ゲームのキャラ設定で犯罪者として作られてるとはいえ、それはちょっと捕まえないとなぁ。
……いや、前の犯罪組織のボスとかをボコボコにして協会に預けたから今更か。
「お前なんか入れなきゃ良かったよ!」
ボスが吐き捨てた。
他の奴らも口々に「お前のせいだ」と影山を罵る。
影山は何も言わない。
ただ俯いて、肩を震わせている。
「……ぐずっ」
泣いちゃった!?
俺は少し考える。
ここは俺がなんか言うべきなんだろうな。
ボスが突き放したんだ、ここはクラスメイトの俺の出番なんだろう。
俺は影山の良いところを知ってる。
ユニークスキルが強い。
ソロ向けの仕様ではあるが、確実に相手が油断してるところにファーストアタックを決められる。
しかも、暗殺者系統のステータスやスキルが伸びやすいので、不意打ちでの倍率とか状態異常付与とかを高めていけば、敵が生き残ってもその後の戦闘を有利に進められる。
しかも、さっきの話だと攻略階層もそこそこいってる。
かなりダンジョン攻略で重宝される人材だろう。
えっと。
あとは……。
俺がそんな影山の良いところを考えていると。
「そんなこと言わないでくださいよ!!」
別の声がした。
最初に影山と一緒にいたリーダー格の男だった。
「影山がいたから、俺たちはここまで来れたんですよ!」
「はぁ?」
「情報集めもそうだし、今まで仲間が捕まれずにいたのも影山のおかげだ!」
男はボスを睨み返した。
「影山がいなかったら、もっと簡単に潰れてましたよ! それにこいつは、いい奴だ! よくメンバーに気を使ってくれるし、面倒なことも率先してやってくれた!」
影山が顔を上げて、リーダーを見つめる。
……なんだそれ。
いい奴って、犯罪者、だろ?
「お、おれもそう思います!」
「影山がいなかったら、俺は前に捕まってたしなぁ」
影山やリーダーのやつと一緒に居たメンバーの2人も影山を擁護する。
「み"、み"んな"ぁ」
影山が泣きながら、3人の言葉に感動している。
「とにかく、いくらボスだって影山を悪く言うなら、許しませんよ! 俺達は犯罪しちまったんだ、こんな日が来るのは仕方ないでしょうが!」
「「「………」」」
今度は、ボスを筆頭に影山を罵っていた面々が、言い返せなくて俯く。
「………」
俺まで何も言えなくなってしまった。
ーーなんだよ、その茶番は。
なんで、お前らが普通に、“仲間”やってるんだよ。
こんな。
こんな状況じゃ、俺のゲーム知識なんて、ゴミみたいなもんじゃないか!
……犯罪者のくせに。
そんな、嫉妬から出たような言葉を思ってしまう。
その後も、影山達4人は励まし合って、和気藹々としていた。
ボスや他の犯罪者達、そして俺を置き去りにして。
◇
しばらくして。
協会の職員達が倉庫へ入ってきた。
そして。
全員が止まった。
「……」
「……」
「……」
何だ、その反応。
失礼だろ。
犯罪者が30人ほど倒れてて、倉庫がちょっと壊れてるだけじゃないか。
「し、支部長」
「なんだ」
「これ……本当に一人で?」
「聞くな」
支部長が微妙な顔をする。
「とりあえず今は、捕縛だ!」
そんな感じで作業が始まっていった。
犯罪者達は次々と拘束されていく。
影山も。
ボスも。
全員だ。
これで終わり。
多分。
ちゃんと終わった。
前回みたいな失敗もないだろう。
「あの、支部長」
俺が声をかけると、支部長がビクッとする。
「ど、どう、した?」
「いや、倉庫から逃げた者はいなかったですか? って事なんですが?」
「あ、あー、その点は大丈夫だ! 数人いたが全員捕縛している!」
どうやら、懸念していた点は大丈夫のようだ。
前回みたいなことは回避できたらしい。
「あの」
俺は支部長を呼び止めた。
「な、なんだね?」
「弁償ってーー」
「大丈夫だ!」
食い気味だった。
びっくりした。
「いやでも」
「大丈夫だ! 君は何もしなくていい!」
「本当に?」
「本当にだ!」
なんか。
早く帰れって言われてる気がする。
気のせいだといいんだが。
「黒峰」
そんなことを思っていると、影山が俺に声をかけてきた。
「……どうしたんだよ」
モヤモヤが残ったままだったので、少しトゲトゲしい返事になってしまった。
元々、影山のために来てたんだが、今少し話したくなかった。
影山は俺のそんな様子に気づかず、言葉を出す。
「僕、また頑張るよ。黒峰に負けてから、犯罪とか色々間違えたけど、リーダー達とまたやり直す! 今、そんな話をリーダー達としてたんだ。……その前に罪は償わなくちゃいけないけども……でも、またいつか!」
「……そうかよ」
「黒峰もごめん! 一年の時は、ずっと自分よりも下がいるって安心してたのに黒峰が強くなったのを認められなかった。今ならわかるよ、黒峰は相当努力してたんだって」
影山はつきものが落ちた顔で言ってくる。
「……まぁ、そりゃな」
ゲーム知識のおかげでもあるが。
「やっぱり! いつか罪を償って、仲間とダンジョンに潜ったら、黒峰を超えてみせる!」
「……そうかよ」
「だから、今日はありがとう! 僕を止めてくれて! いつか会えたら、またね!」
「……おう」
そんな風に影山は、爽やかに連行されていった。
……これが見たかったはずなのに。
クラスメイトが前を向いた。
犯罪もアイツならもうしないだろう。
影山というクラスメイトを救えたと言ってもいい。
それなのに。
俺は、何かの敗北感を味わっていた。
◇
全員の連行が終わった。
俺も帰ろうと思って、支部長に声をかけようとする。
その時だった。
「……バケモノがよぉ」
職員の誰かの声が聞こえた。
小さな声だった。
言った本人も聞かれると思ってなかったんだろう。
「…………」
足が止まる。
俺はバレないように周りをよく見た。
全員が全員、俺を恐怖とか畏怖のようなもので見ていた。
俺は思わず空を見上げる。
(うまくいかないなぁ……)
さっきまでクラスメイトの影山がいた。
犯罪者で俺が捕まえた。
それなのに。
あいつには仲間がいた。
一緒に歩もうとしている奴らがいた。
帰る場所があった。
じゃあ。
俺は?
「……」
何もない。
学園に行けば嫌な顔をされる。
協会ではバケモノ扱い。
たくさんの人を助けた。
犯罪者も捕まえた。
クラスメイトだって。
なのに。
「なんで俺にはダンジョンしか残らないんだろう……」
思わず本音が出た。
結局、俺に誇れるのはゲーム知識で攻略したダンジョンだけしかない。
……犯罪者の方が幸せそうってどうなんだよ。
おかしいだろ、世の中。
俺がやりすぎたんだってことはわかる。
でも。
やってること自体はマトモなはずなのに。
そんなことを考えながら帰ろうとする。
いつもより重い足取りで。
「やっぱり、俺には青春なんか出来ないんだろうなぁ」
そんな言葉が、つい出てしまった。
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