第19話:燃え尽きろ、紅蓮の中で
20時に更新します。
鉄扉が吹き飛ぶ。
倉庫中に様々な音が響いた。
金属が捻じ曲がる音。
悲鳴。
怒号。
そして。
俺はそんな倉庫の中に足を踏み入れた。
「なっ――!?」
「敵襲だ!」
「何者だ!?」
一気に悪党どもは騒がしくなる。
もちろん、歓迎はされていない。
そりゃ、歓迎はされないんだが、悪党がヒーローを歓迎なんてしないだろう。
……一応、悪党をしばきに来たからヒーロー側でいいよね?
そんなことを考えながら中を見る。
思ったより多い。
30人?
いや。
もっといるか?
倉庫の奥まで人がいる。
集会中を狙ったが、ドンピシャだったようだ。
すると。
「あっ――」
聞き覚えのある声がした。
影山だった。
こちらを見て固まっている。
よしよし、ちゃんと俺の第一目標はいるな。
いや。
居ると思って来たんだけども。
こんな犯罪集団の中にいるのを実際に見ると、なんというか。
うん。
嫌な気分だな。
「お、お前……!」
影山が目を見開く。
「黒峰!?」
倉庫の中が少しざわついた。
「おい、お前の知り合いか?」
奥から低い声がした。
視線を向けると、そこには大柄な男がいた。
多分ボス?
ここにいる中では1番強そうだし、ボスっぽいけど、なんか下っ端っぽい?
……なんか、不思議な感覚だ。
――あ、こいつ俺が潰した犯罪組織の幹部の一人だ!
こいつは有用なアイテムをドロップしないから、捕まえるのが面倒くさくて探さなかったんだ。
……こいつのせいで、影山が犯罪組織に入ったのかよ。
俺がそんな風に思って、イラッとしている、と。
「こいつは、学園での元クラスメイトです!」
影山が叫んだ。
いや、元じゃないだろ。
それは、お前がもうクラスにはいないって意味か、それとも俺がもうクラスからいない想定のどっちなんだ?
後者は違うぞ、俺はちゃんと、いやちょっと登校し始めたし。
「テメェが何しに来た!」
影山が怒鳴る。
「見て分からんか?」
俺は肩を竦めた。
「お前とついでに他のやつを捕まえに来たんだよ」
……一応、クラスメイト優先である。
そしてその言葉で、空気が変わった。
全員が武器へと手を掛ける。
スキルの威圧だけでなく、殺気も向けてくる。
……こんなの前世の状態で受けてたらひとたまりもないだろうな。
ただ俺にはステータスがある。
こいつらに手加減してやる余裕さえある。
「ふざけるな!」
影山が叫んだ。
「今さら何なんだよ!」
「何なんだよって……」
むしろ。
何だと思ってるんだ?
犯罪者になったら捕まるだろ。
法律的に。
「お前が犯罪なんかするからだろ。だからクラスメイトの俺が、責任もって捕まえに来たんだろうが」
「っ!」
影山の顔が歪む。
「ふざけるな! お前が僕のクラスメイトなんて、虫唾が走る! お前なんかが僕の人生に入ってくるな!」
めちゃくちゃ拒絶されている。
え、そんなに?
そんなに俺って影山から嫌われているの?
言ってしまえば、模擬戦で倒したくらいじゃないか?
それでこんなに嫌われるモノなの?
分からん。
……青春って難しい。
ダンジョンなら強ければなんでもOKなのに。
なんでダンジョンのある現実は、こんなにも複雑なんだ。
「僕は仲間と楽しくやってんだよ! お前が邪魔すんなよ!」
後ろの連中を指差しながら、影山が叫ぶ。
「みんな僕を必要としてくれる!」
ああ。
そういう話なのか。
「前までの、弱くて、バカにされる、僕じゃない!」
影山の声が大きくなる。
まぁ。
それはそう。
クラスでは黒峰の次に弱いしな。
「この人たちは僕を必要としている!」
影山の表情は真剣だった。
犯罪だぞ、って言葉が喉まで出かかっているのだが、影山の勢いのせいで言えない。
少なくとも、言葉に嘘はなさそうだ。
「お前が強くなって僕はクラスで最弱になった!」
「……」
「でも今は違う! 僕はここでやっと自分の居場所が出来たんだ」
「そうか」
「ここで僕は――みんなに認められる存在になったんだ!」
(あ!?)
俺はここまできてやっと、影山のストーリーを思い出すことができた。
元々、パッとせず、ユニークスキルも手に入れたが、存在が薄くなる系なので余計に人から認められたくなる。
影山の、誰からも認められる存在になりたい、有名になりたい、という願望をどうにかするのがストーリーだったはずだ。
だから。
影山のサブクエでは、ダンジョン攻略を頑張って、インフルエンサーになる。
そんな話だった。
……神代と違って、しょぼすぎる。
この温度差も、ゲームのストーリーが不評だった理由でもあった。
しかし。
影山が犯罪した理由はストーリーが関係してたわけか。
そりゃ、影山のスキルは犯罪に利用しやすいけども。
……やっぱり、ストーリーのせいなのか。
「ボスは学園長より強いんだぜ! 攻略階層は――100階層だ! しかも、ここにいるやつはみんな最低でも50階層に行ってんだよ! いくらお前が強くても、絶対に倒せるぜ!」
本人は何も言ってないけど。
勝手に決めていいのか?
「おい、影山ぁ。てめーのケンカじゃねえのかよ。俺らの手を煩わせんのか!?」
「ひっ、すいません! で、ですが、こいつはダンジョン学園で最強の学園長よりも強いんです! 僕だけじゃ……でも、こいつ昔、僕より弱かったんです! だから、凄いアイテムとかで強くなってるんですよ! 倒せば手に入れられますよ!」
「ほう、なるほどな。そりゃ、興味がでるなぁ。それに、扉を壊した落とし前をつけなくちゃならんしな」
ボスが悠然と立ち上がった。
その手には武器が握られている。
「おう、うちの影山に用があるらしいなぁ。出すもんだしなぁ」
あ、ついでに思い出した!
こいつ、出すもんだしなぁ、ってセリフがあるくせにこいつ自体は何も出さないんだった!
ドケチやろうって覚えてたわ。
てか。
話し合いは終了らしいな。
「……はぁ」
思わずため息が出た。
影山が変わった理由を知れた。
それ自体はいいことなのだが、残念だ。
もうちょっと話せるかと思った。
もっと、ストーリー関係ない理由から変わったと思ったんだが。
ストーリーを解決してるうえで、変わったのなら俺はどうすればいいんだ。
「影山」
ボスは無視して、影山を呼ぶ。
「なんだよ」
「お前、本当にそれでいいんだな?」
確認だった。
最後の。
本当に最後の確認。
影山は即答した。
「ああ! ここが僕の居場所なんだよ! 絶対にここだけはお前に譲らない!」
迷いはなかった。
そうか。
なら。
もういい。
俺は杖を取り出した。
「おい」
「待て」
「何する気だ」
何って。
犯罪者を捕まえるだけだろ。
「手加減はしてやる」
そう言いながら魔力を練る。
久しぶりだな。
この魔法。
無駄に派手なわりに、俺がいける深層のモンスターには効きにくいからあまり使ってないんだよなぁ。
今回はしょうがない。
だって人数多いし。
それに。
――こいつらは俺が行く深層のモンスターよりも弱いし。
ダンジョン以外では、派手な魔法をよく使ってるなぁ。
……実験とかはおもってないよ?。
本当だよ?
まぁいい。
派手に吹き飛べや。
「――ネオ・エクスプロージョン」
次の瞬間。
白い光が倉庫の中から外を照らす。
世界が白く染まった、と錯覚するほどの光量だ。
そして遅れて、
轟音。
爆音。
衝撃波。
そして。
倉庫の天井が逝った。
うん。
見事なまでに吹き飛んでる。
ちょっとやりすぎ?
いや。
手加減はしてる。
周りを見ても犯罪者たちは、HP1でマヒ状態で生き残っている。
スキルの手加減のおかげだ。
でも。
倉庫は手加減の範囲外だったようだ。
一応、範囲は倉庫内に絞った。
……合図のために空は範囲外だったが。
屋根は消滅したっぽいし、いいよね?
まぁ、支部長にエリクサーを半額で二つも渡しているし。
大丈夫だ。
多分。
きっと。
おそらく。
「……夜空、きれいだなぁ」
あ。
オリオン座。
◇
少し離れた場所。
支部長達は、夜空を突き抜ける光の柱を見上げていた。
「……」
「……」
「……」
全員無言だった。
いや。
無言にもなるだろう。
協会の支部長ですら。
あれほどの魔法は見たことがなかった。
魔法は倉庫だけに範囲を絞っているようだが、それでも威力の過多はわかってしまう。
「支部長」
一人の職員が呟く。
「あれが……合図ですか?」
「……そう、だろうな」
支部長も呆然としていた。
しばらくして。
誰かが小さく言った。
「……バケモノ」
その言葉に反論する者はいなかった。
◇
光が消えて、煙が晴れる。
倉庫の中は酷い有様だった。
床はクレーターの様になり。
壁はひび割れ。
天井は消滅した。
だが。
全員生きている。
便利だなぁ。
手加減スキル。
犯罪者達は、床を息も絶え絶えに転がっている。
「ぐっ、いてぇ……」
「からだが……」
「なんだったんだ、いまの……」
みんなHP1でマヒ状態。
成功である。
完璧な仕事だ。
そんなことを思いながら周囲を見る。
ボス。
いる。
リーダーっぽい奴。
いる。
その他。
いる。
そして。
「……あれ?」
影山がいない。
「……吹っ飛んだか?」
思わず呟く。
その瞬間だった。
背後。
ほんの僅かな違和感。
空気が揺れた。
そして、――殺気。
「死ねや!!」
影山だった。
どうやら、俺が魔法を放つ瞬間に、背後へ回り込んでいたようだ。
影山の短剣が俺の首筋へ向かう。
かなり上手い。
確かに、こんな暗殺じみたやり方が影山の強みだ。
普通の探索者は死んでいたかもしれない。
だが。
――キンッ!
金属音。
影山の短剣は何も傷つけられずに、俺の首で止まる。
「……へ?」
影山が固まった。
そりゃな。
――影山と俺ではステータスが違いすぎる。
「なっ……」
影山が後退る。
「なんで……」
なんでと言われても。
ゲームの仕様だ。
ステータスが離れすぎていれば、ダメージを与えられない。
それは絶対だ。
「影山」
影山の肩が震えている。
「……悪いな」
今にも武器を取り落としそうだ。
「俺の攻略階層は――250階層なんだよ」
それを聞いて、影山は武器を取り落としてしまった。
もう分かったのだろう。
どうやっても勝てない、と
「……う、うわぁーーっ!」
パニックになったのか、影山は何も持たずに突っ込んできた。
ああ。
そうか。
それでも来るか。
なら。
「終わりだよ」
俺は拳を握った。
手加減。
HPは1残る。
そして。
拳を振り抜いた。
(あ、そういえば試験でもこれをやってた)
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、★評価やフォロー、感想などをいただけると執筆の励みになります。




