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ゲーム世界に転生して最強になった俺、なぜか青春だけ攻略できない  作者: 愛川 唯々
第2章

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16/25

第15話:褒めて伸ばす、が1番かもしれない

20時に更新します。

 夜。


 俺は、人気の少ないダンジョン管理区域を歩いていた。


 昼間は探索者が多く行き交い、そんな探索者を目当てにした露店なども並んでいて、かなり賑わっている。


 だが。


 夜になると、人通りは一気に減る。


 もっとも。


 完全に無人になるわけでもない。


 深夜帯専門の探索者。

 違法アイテムの売買。

 許可されていない素材を扱う闇市。


 昼間とは違う、どこか怪しげな空気が漂っていた。


 そして。


 ダンジョンで採れる興奮作用のある素材を加工した違法薬物。


 そんなものまで流れているらしい。


 まぁ、流石に表立って売られている訳ではないだろうが。

 闇市自体は普通に存在していた。


 ゲーム通り、といえばそうなのだが。


 よくこんなのを放置してるよなぁ、と俺は露店を眺める。


 ……いや、見えてないところで摘発はされてるのかもしれないけど。


 ちなみに、ここには転生した当初かなり世話になった。


 序盤の隠しアイテムやレアイベント用のアイテムは、こういう場所で手に入ることが多いからだ。


 俺もゲーム知識があったから利用できていたとはいえ、よくこんな治安の悪い場所に来れてたよなぁ。


 ダンジョン周辺ってのは、夜になるほど治安が悪くなる。


 壁には落書き。

 路地裏には酔い潰れた探索者。

 明らかにカタギじゃない連中も普通に歩いている。


「……まぁ、ゲームでもそうだったしな」


 俺はフードを深く被りながら、小さく呟く。


 ダンプロでは、この辺りの区域は中盤以降に“夜の探索”が解放されるエリアだった。


 ダンジョンではない。


 だが、危険区域扱いではある。


 普通に薬物中毒者とか、半グレ探索者とかとエンカウント戦闘するのだ。


 まぁ、その代わり。


 違法ショップの品揃えはかなり良い。


 正規ルートじゃ手に入らないアイテムとかも普通に売ってるからな。


 ……金さえあれば。


 最初来た時は、かなりぼったくられたけども攻略がスムーズになったので助かった。


 その時はこの夜の雰囲気を見て、

「こんなところにいられるか! 俺は早く帰る!」

 くらいにしか思ってなくて、お目当てのアイテムを取ったらすぐに逃げ帰ったが。


 改めて見ると、まぁ酷い。


 酔っ払い探索者同士の喧嘩なんて、その辺で普通に起きてるし。


 たまに悲鳴も聞こえる。

 ……男の声だし、まぁいいか。男なら強く生きろよ。


「……今日は他の面倒事に関わる気ないし」


 俺は気配遮断系アイテムを起動する。


 透明になるわけじゃない。


 ただ、“認識されにくくなる”。


 深層産のレアアイテムだ。


 この辺のチンピラ探索者程度なら、まず俺をまともに認識できない。


 そして。


 俺は建物の屋上から周囲を見下ろした。


 神代から聞き出したのは、あるFランクダンジョン周辺の噂だった。


 探索者崩れ。

 半グレ探索者。

 違法アイテム取引。


 そういう連中が、夜になると集まるらしい。


「とはいえ、今日すぐに見つかるとは思ってないんだけどな」


 索敵系スキルを使用。


 視界外の魔力反応を探る。


「……いた」


 路地裏。


 五人。


 いや、六人か?


 全員探索者装備を着込んでいる。


 だが、雰囲気が明らかに普通じゃない。


 武器の持ち方。

 視線。

 立ち位置。


 どれも慣れているのだろう。


 “対人”に。


「うーん、装備とかも対人想定のビルドっぽいなぁ」


 その中の一人が、小さなケースを取り出した。


 違法薬物か。

 違法魔石か。


 距離的にまだ断定はできない。


 だが。


 少なくともこんな所でする取引が、まともな取引ではないだろう。


「……ん?」


 そこで。


 俺は、影が薄い一人の男を見て動きを止めた。


 俯き気味。

 長めの前髪。

 地味な顔。


 目立たない。


 教室にいても、すぐ視界から消えそうな男子。


「……影山?」


 思わず呟く。


 影山シュウト。


 本当にいた!?


「……マジかよ」


 少しだけ息を呑む。


 影山は、普通にその輪の中へ溶け込んでいた。


 でも。


 まだ分からない。


 脅されてるだけかもしれない。

 借金の肩代わりで付き合わされてるだけかもしれない。


 そう思いながら、俺はさらに距離を詰めた。


 気配遮断のアイテムがある。

 この程度の探索者なら、まず気づかれない。


 ――はずだった。


「――っ!?」


 影山が突然顔を上げた。


「誰かいる!」


 鋭い声が、路地裏へ響く。


「っ!?」


 しまった。


 次の瞬間。


「逃げるぞ!」


 男の一人が叫ぶ。


 六人が一斉に動いた。


 迷いがない。


 逃走慣れしている動きだった。


「チッ……!」


 しかも、その中でも影山の動きだけ異様に速い。


 いや。


 正確には、“見失う”。


 視線を向けているはずなのに、存在感が薄れる。


 気づけば視界の端から消えている。


「……なるほどな」


 俺は小さく呟いた。


 ゲームの時より、よっぽど厄介だ。


 確かに影山はゲームでは、斥候系の能力が上がりやすかった。


 だが。


 まさか、そこまでレベルが上がってないはずなのに、ここまでの感知能力を見せるとは。


 アイテムで底上げもしてる?

 それとも、ユニークスキルで“違和感”を感じ取ったか?


 ゲーム知識が脳裏をよぎる。


 影山のスキルは、単純に影が薄くなる、というだけではない。


 周りの空気に紛れる、みたいな内容だったはずだ。


 周りの空気に敏感にもなるから、索敵適性も必然高くなる。


 俺とした事が忘れていた。


 ……あ、いや、よく忘れてはいるんだが、ダンジョン関係でも忘れてしまうとは。


 だが、それでも俺が油断していたとはいえ、ここまでの索敵能力になっているとは……。


 ――なんでそれを犯罪に使われてるんだよ!


 俺はそんな憤りを沈めて、一旦冷静になる。


 影山の索敵能力には面を食らってしまったが、もう油断しない。


 多分、影山達はかなり遠くまで行ってしまったのだろうが。


 ――ゲーム世界転生者を舐めるなよ?


「逃げるモンスターを捕まえるなんて、朝飯前なんだぜ。そう、用意したアイテムとスキルがあれば!」


 俺は事前に用意していたアイテムが示してる方へと急いで向かった。


 今度は隠密を最大にした状態で。


    ◇


 とある、倉庫。


 先程、麻薬取引中に逃げていった六人の内の四人が集まっていた。


「おい、影山。どうだ、ここまで追ってきてるか?」


 短髪の男が、影山に声を掛ける。


「いえ、気配はないので撒けたと思います。それか、相手側の方に言ったかもしれませんね」


「あー、それは後で確認しておくが、本当にこっちにはいないんだな?」


「はい。まぁ、僕のスキルを信じてくださいよ」


 影山は、どこか誇らしげに答えた。


 すると。


 短髪の男が、影山の肩をバシバシ叩いた。


「当たり前だろ! いつも助かってるぜ!」


「やっぱ、その能力便利だよなぁ!」


「誘って正解だったな!」


「いやぁ……」


 影山が照れ臭そうに頭を掻く。


 その様子は。


 少なくとも、無理やり付き合わされてる人間の態度ではないだろう。


「まぁ、最後にケチついちまったが、“麻薬”の取引は終わってたんだ。ほら、お前ら今日の取り分を貰いに行こうぜ!」


 リーダーだったらしい短髪が、他の影山含めた三人に外に出ることを促す。


「影山には、重要な見張りを任せてるから、多分多めにもらえるぞー」


「チェッ、影山はいいよなぁー」


「おいおい、影山のおかげで俺たちも助かってるんだ、文句言うなよ」


「あ、ありがとうございます……。その、僕なんかでも役に立ててるなら……」


 影山の言葉で短髪の男が、感動する。


「お、嬉しいこと言ってくれるねぇ。よし、上への報告が終わったら、みんなで飲みに行こうぜ! 今日は俺が奢るぜ?」


「「「行きます!」」」


 軽口を叩きながらも、和気藹々《わきあいあい》と喋っている。


 そんな仲間との、些細な一幕を。


 見下ろしている視線には気づかず、四人は倉庫を去っていった。


「……影山、なんで……」


    ◇


 倉庫の屋上。


 夜風を浴びた体だけでなく、胸の奥も少し冷えている。


 なんだよ、それ。


 お前。


 なんで、犯罪なんかしてんだよ。


 そして。


 ――そんな風に笑うキャラじゃ、なかっただろ。


 ゲームの影山は。


 もっと暗くて。

 もっと目立たなくて。


 喋り方も自信なさげだった。


 それで、空気みたいな奴だったはずなんだ。


 なのに。


 今の影山は。


 ちゃんとそこに“居場所”があるみたいな顔をしてるじゃねぇか。


「……影山、お前」


 思わず呟く。


 影山達の姿は夜の街へと消えていっている。

 既に追跡用のアイテムは使用しているので、追跡は問題ないのだが、それとは関係なく動く気にならなかった。


「……はぁ」


 俺は屋上へ座り込む。


 想像より、ずっと最悪だった。


 脅されてる訳じゃない。


 利用されてるだけでもない。


 影山は。

 あそこに馴染んでいた。


 少なくとも。

 嫌々付き合わされているようには見えなかった。


「……なんでだよ」


 ぽつりと呟く。


 ゲームでは、そんなことするキャラじゃなかったのに。


 現実では。


 こんな風になってしまうのか。


「…………」


 胸の奥が、また重くなる。


 そして。


 俺は、思ってしまう。


 ――やっぱり。


 影山がああなった原因も。


 俺のせい、なんだろうか。


読んでいただきありがとうございます。


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