第14話:光の陰キャと闇の陰キャ
毎日、20時に更新します。
教室の扉を開ける。
すると。
「げっ」
開口一番、そんな声が聞こえた。
「…………」
俺はそっと視線を向ける。
九条ミオだった。
露骨に嫌そうな顔をしている。
いやまぁ、知ってたけど。
「なんで来たのよアンタ」
「学生だからです……」
「来なくていいのに!」
「え!? す、すいません……」
朝から心が折れそうなんだが。
だが、九条はふんっと鼻を鳴らして視線を逸らした。
……まぁ、いつも通り、になるのかな?
ゲームと違うのだが、逆に安心感すら芽生えてきた。
ゲーム通りにおっとりした感じを出されても、違和感が出そうだ。
とはいえ、いつか九条もゲーム通りに戻したいなぁ。
そんなことを思いながら教室を見渡す。
そして。
「あ」
神代を見つけた。
窓際。
友人らしき女子と話していた神代が、こちらへ気づく。
すると。
ぱっと表情が少し明るくなった。
――え?
なんか今、普通に嬉しそうな顔しなかった?
(いやいやいやいや)
駄目だろそれ。
心臓に悪い。
好感度のことが頭になかったら、うっかりで惚れそうだ。
俺は視線を神代の後ろの背景に固定しながら、神代の席へ向かう。
「おはよう、ユウマ」
「……お、うぃ、うぃっすぅ」
自然と当たり前のように、呼び捨てをされたことに面食らってしまい、ちょっとどもってしまった。
こいつ、イケメンだな。
神代の友人らしき女子が、驚いたようにこちらを見ていた。
いや、その目やめてくださいよ。
俺が犯罪をしたみたいじゃないか。
「どうしたんだい?」
「いや、その……聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
神代が首を傾げる。
そして、少し考えた後。
「あぁ、昨日の話の続きかい?」
「まぁ、そんな感じ」
すると神代は、小さく頷いた。
「なら、昼休みに屋上でどうかな?」
「また屋上かぁ……」
「嫌なのかい?」
「いや、あそこ俺の場所なんだけども……」
「いや、君の場所でもないからね?」
でも、あそこが学園で一番落ち着くんだよ。
教室なんかよりだいぶ楽だ。
みんなの視線もないし。
「ふふっ、とりあえず、屋上で決まりだね」
神代が小さく笑う。
……だからその笑顔をやめてくれよ。
◇
昼休み。
結局、屋上に来てる。
やっぱり、この場所は落ち着く。
出来れば、一人で来たかったが。
「それで、聞きたいことって?」
神代がベンチに腰掛けながら聞いてくる。
俺は少し迷った後、口を開いた。
「……犯罪集団と関わってるらしい奴のことを聞きたい」
俺がそう切り出すと。
神代は少しだけ表情を曇らせた。
「……やっぱり、気にしてたんだね」
「まぁな」
そりゃ気になる。
ゲームキャラが犯罪者落ちとか、後味悪すぎるだろ。
「誰なんだ?」
俺が聞くと、神代は少し迷ったあと、小さく息を吐いた。
「……ボクも噂に聞いただけなんだけど、影山シュウトくんが、そんな人たちと一緒にいたとは聞いたよ」
「……は、影山が?」
あのキャラが犯罪者集団つるんでるの?
意外な名前が出てきたので、一瞬呆けてしまった。
――影山シュウト
背は平均で俺と同じモブ顔である。
だが、黒峰が明るい感じのモブだとしたら、影山は暗い感じのモブだ。
性格も陰気寄りで、正直そこまでの人気キャラではなかったはずだ。
入学当初の能力値なら、黒峰の次に弱かったはずだ。
ただ、存在感を薄くするユニークスキルを持っていたので、索敵や隠密系の適性だけはかなり高かった。
でも、味方からも見えなくなるせいで、範囲攻撃に巻き込まれやすいキャラだ。
なので、ソロ運用してるプレイヤーをよく見た気がする。
「いや、影山ってそんなことする感じじゃないだろ?」
そう。
影山は性格的に暗い感じで、そんな犯罪者たちと一緒にいるイメージがないのだ。
あいつ、誰かを殴れるようなタイプですらなかっただろ。
「何かの間違いじゃないか?」
神代が手を口に当てて、悩む。
「うーん、ボクもそれは思うけども、噂ではそんな感じらしいよ?それに、今日も学園には来てないしね」
「なるほど、情報的にはそこまで正確でもないのか」
俺がそう思いたくないだけかもしれんが。
やっぱり、影山が犯罪者たちとつるむのは信じられない。
クラスメイトには不良キャラがいた。
そいつが犯罪者とつるんでいると思っていたのだ。
それだったなら、俺ももっと信じられたのに。
「……ボクがあと知ってるのは去年の試験終わってから、すぐ学園に来なくなったってことかな」
神代が静かに言う。
「……それって」
神代が呆れた顔をした。
「キミ、一年の試験でクラスメイトの男子、全員叩き潰してたもんね?」
「語弊がある」
「ないよ」
「いや、正当防衛だ」
「まぁそこは置いといて」
いや、置くなよ!?
……やっぱり、やり過ぎてたのかなぁ。
「それで、学園で見なくなってダンジョンでも見なくなったんだよね」
神代はフェンス越しに近くにあるダンジョンへと視線を向ける。
「そのあと少ししてから、悪い探索者グループと関わるようになったって噂を聞いたんだ」
「悪い探索者グループ?」
「規模は小さいけど犯罪組織だね」
そこで神代は、少し声を落とした。
「元々、大きな犯罪組織があったらしいんだ。違法薬物とか、ダンジョン内での強盗とか、人身売買とかにも手を出してるような……かなり危険な組織だったみたい」
「なるほど、大きい犯罪組織かぁ」
「でも、ボクらが一年生の時にその組織は壊滅したはずなんだ」
「ほ、ほーん?」
聞いたことあるかもしれない。
「なんか、指名手配されてた幹部達が、急にボロボロの状態でダンジョン協会前に簀巻きにされて転がされてたらしいよ」
「………」
俺、知っとる。
それ。
俺だ。
犯罪者が持ってる有用なアイテムが欲しくて、前世知識を使って幹部たちをボコボコにしたやつだ。
「そのあと協会とか警察も本格的に動いて、組織自体は壊滅したんだけど……」
神代が小さく息を吐く。
「他の幹部とか、それなりの数の下っ端には逃げられてしまったらしいの」
「……え、そうなの?」
「そう。だから今、逃げた元組織の人間が小さい犯罪グループを各地で作ってるらしいんだ」
冷や汗が流れた。
え、それってもしかして……。
俺がボスとか幹部を潰したせいで、逆に小規模化して拡散した感じ!?
「ユウマ?」
「い、いや……なんでもない」
めちゃくちゃ心当たりあるんだけど!?
いや、アイテムが目当てだったけども。
一応、善行したつもりだったんだけどなぁ……。
でも確かに。
大組織が潰れた結果、統制取れなくなって小さい犯罪集団増えるとか、普通にありそうだ。
いや、てか協会や警察は何しとんねん!?
結構、お膳立てしたつもりなのだが。
「……噂通りなら、多分そういうグループと関わったんだと思う」
神代が推測を口にする。
「探索者を辞めた子とかって、そのままそっち側に流れることも多いらしいから。稼ぐ手段が他にない人もいるみたいだしね」
「………」
俺は、考えてしまった。
ゲームでは。
そんな背景、存在しない。
ただのモブっぽい男子キャラ。
ステータスは弱く、ユニークスキルもそこまでパッとしない。
クラスメイトの中では下から数えた方がいい強さだろう。
でも。
現実では。
ちゃんと人生があって。
何かのきっかけで転がり落ちていく。
「……ったく、しょうがねぇなぁ」
ぽつりと呟く。
神代は少し驚いたようにこちらを見た。
「助けるつもりなのかい?」
「あ? そんなわけないだろうが、俺が警察に突き出してやるんだよ!」
俺は視線を逸らす。
「俺が影山に引導を渡してやるんだよ!」
「ふふっ、まったく素直じゃないね」
「うるさい」
もし本当にまだ犯罪に手を染めてないなら。
まだ取り返しがつくのなら。
俺は、俺のためにゲームの外へと落ちた影山を連れ戻すつもりだった。
読んでいただきありがとうございます。
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